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22 王妃の学園視察

「王国の母なる月、王妃陛下にご挨拶申し上げます。」

「出迎え有難う、シャーロット、スフィア。我が息子達の姿が見えない様だけど?」

「はい、只今サミュエル殿下は3年生の剣術の授業の為、鍛練場にてお待ちになっておられます。」

「そう、楽しみね。確か女子生徒も剣術を習うのでしたね。」

「はい。長剣は無理でも自分の身を守れるように、短剣の使い方と護身術を学びます。」

「見学するのが楽しみだわ。早速参りましょう。」


ローヴェル王国王妃、クロエ·セラ·ローヴェルは第2王子サミュエル殿下と第3王子ディラン殿下の実母である。

きっちりと結われた銀髪にグレーの瞳。チャコールグレーに銀糸の刺繍が施されたワンピースの落ち着いた装いは、今回の訪問が公式なものというより、お忍びに近い形のものだいう事を示していた。

前例の無い突然の王妃訪問に案内役の学園長をはじめ教師陣は戸惑いを見せる中、2人の王子の婚約者であるシャーロットとスフィアも案内に加わり、視察は始まった。




「王妃陛下、ようこそ学園へ。」


鍛練場では、サミュエル殿下が鍛練服を身に纏い王妃を迎えた。


「普段騎士団の者と手合わせするのとは違い、一般生徒の中にも腕の立つ者がいるかもしれません。将来力になりそうな有望な人材を見つけるのも役割だと思い励みなさい。ペータース卿も宜しくね。」

「承知しました。」


王妃はここで同行する教師から有望な生徒数人の紹介を受ける。

平民から貴族まで階級関係なく声を掛ける王妃に、皆心が沸き立った様子だった。




続いて2年生の歴史の授業を見学する。

そこでは第3王子のディランが王妃を迎えた。


「ディラン、今日の『貿易の発展と歴史的背景』というテーマは、なかなか興味深いものだったわ。特にダラム王国とラバン王国の関係は今まさに必要な知識の1つだわ。あなたも今後外交に携わる事になるでしょう。生徒の中には、実家が商会で国とは違った角度で他国と付き合い方を学んでいる者もいるでしょう。学園にいる間は、幅広い身分の者達の意見を充分聞いて、今後に活かせるようになさい。」

「はい、承知しております。」


それからここでも教師より数人の優秀な生徒の紹介を受ける。


「まぁ、エリーサお久しぶりね。お父上が外交官だけあって、先ほどの講義での意見、なかなか無い視点で興味深かったわ。それにあなたの声楽の評判も私の耳に届いているのよ。今度王宮で茶会を催す際は是非披露して頂きたいわ。」

「大変光栄にございます。喜んでお承り致します。」


その時、王妃を囲む人だかりを掻き分け1人の生徒が前に出る。


「王妃陛下、私からも有能な生徒を紹介したいのですが。」

「いいわディラン、どなたかしら?」

「彼女はルイーズ·オヴァフ男爵令嬢です。成績も優秀で、特に歴史の知識が豊富です。」

「ルイーズ·オヴァフと申します。王妃陛下、お会い出来て光栄です。」

「まぁ、とても美しい方ね。それで何か専門的知識でもおありなのかしら?」

「はい、彼女は200年前の歴史に精通しています。」

「200年前?限定的なのね。そう、まぁいいわ。これからも励みなさい。」

「有難うございます。」


「では1年生の教室へご案内致します。」


シャーロットはスフィアに目配せし移動を促す。

ディランは何か言いたげだったが、王妃もそれに同意する様に頷いたので、それに従う。


「200年前ね·······。」

「何かお気になさる事でも?」

「いえ、大丈夫よ。」


シャーロットとスフィアは王妃の様子に気になりながらも1年生の教室へ向かった。




1年生は生物学が行われていた。

主に各国の王族が保護しているとされる古代種についてだった。

アウロラにとっては大変興味深い内容だ。


もしかしてムク様が言っていたスヴェナカエルは、全滅する前に数体王家に保護され、生き延びていた?

私達が温室で植物を育てる様に、国がスヴェナカエルを利用目的で飼育していたのだとしたら····やはり今回の毒による侵攻は国家的戦略で間違いないだろう。


アウロラは独自の見解をメモに取りまとめる。


「アウロラ様。」

「はい。」


ペンを片手に振り向くとそこには2年生のスフィアの姿が。


「スフィア様失礼しました。ごきげんよ·····う?」


!!!


スフィアの向こうに立つ人物を見て、勢いよく立ち上がる。


「申し訳ございません!失礼しました!」

「ノートにまとめている所、お邪魔したわね。あなたがアウロラ·ホーヴェットさんね。」

「は、はい!お、王妃陛下、大変ご無礼致しました。」


そう言って、深く頭を下げる。


「研究棟で活躍しているそうね。さすがホーヴェット家ね。それにあなたが提出した論文も読みました。とても素晴らしい成果だわ。今、研究棟の者達が国のために昼夜問わず取り組んでくれている事は知っています。あなたも学園の勉強と研究棟での研究とで忙しいでしょうが頑張ってね。」

「王妃陛下···有難うございます。」


こんな高貴なお方にお言葉を頂けるなんて、嬉しい。

思わずうるうるしてしまう·····

シャーロット様もスフィア様も優しく見守って下さっている。


「そうだわ、近々王太子が戻ります。時間を作って、王太子と共にゆっくりお話を伺いたいものだわ。シャーロット、スフィアもあなた達も宜しいわね?」

「「はい、王妃陛下。」」

「有難うございます。た、大変光栄に存じます。」

「ふふふ、本当にこんなに可愛らしい方があの論文を書いたなんて驚きだわ。これからもこの国の力になってね。」

「はい、そのお言葉心にしかと刻みます。」


「あなたは婚約者はもういるの?」

「はい?婚約者ですか?」

「王妃陛下、アウロラ·ホーヴェット様の婚約者はルーク·ペータース卿ですわ。」

「まぁ、ペータース卿なの?」

「はい。」

「まぁ、文武両極の組み合わせね。婚約者がいなければ、と思ったのだけど残念だわ。」


な、何が残念なのでしょう·····


王妃陛下はアウロラをじっと見つめ、一歩近づくと人差し指で眼鏡にコツっと触れる。


「ペータース卿に眼鏡を取っていいか聞いてご覧なさい。」


そう言って、クスッといたずらっぽく微笑んだ。


ひっ?!


「王妃陛下、アウロラ様が固まってしまいましたわ。続きは今度お茶会の時にでも。」

「そうね。あなた達の王子妃教育の日にでも予定を組みましょう。」

「承知しました。」

「ではアウロラさん、またお会いしましょう。」


そう言って、王妃陛下は立ち去られた。


その後、そのままあっさり王妃は学園を後にした。



◇◇◇


「エマ。」

「はい、王妃陛下。」

「急ぎ国王陛下にお会いしたいとお伝えして。」

「かしこまりました。学園で何かございましたか?」

「ええ、もしかしたら困った事になるかもしれないわ。」

「左様でございましたか。先触れを急がせます。」

「お願いね。」


そう言った王妃の表情は厳しかった。

その理由は後に分かる事になる。

読んで下さり有難うございます。

また、ブックマークして下さった皆様、何時も有難うございます。

次回は王太子の登場です。

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