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17 ある護衛騎士の懸念① (ルーク視点)

学園が夏休みの間サミュエル殿下が行う公務の一つに、王都にある大神殿にて執り行われる奉拝の儀がある。

これは新年に行われるものとは別で、その日はローヴェル王国初代女王セラ·ローヴェルが創造神パパドプリョスよりこの地を治める様命じられた日とされ、主に次世代の代表の王太子殿下主宰で行われる儀式である。

しかし現在王太子殿下は長期の外遊中である為、今年は王位継承権第2位のサミュエル·ドゥラ·セラ·ローヴェル殿下が執り行うことになっている。

そしてこの奉拝の儀の際、貴族達は大神殿に寄付するのが慣わしで、ここに集まった寄付金は王国内全ての神殿に分配されることになっている。


この儀式を10日後に控えたある日の早朝、ルークはサミュエル殿下に私服での警護を命じられ呼び出された。

そこには王宮内外で常に付き従ういつもの壮年の騎士の姿はなく、正騎士は自分一人だけ、あとは学園で見掛ける5名の見習い騎士だけだった。

この面子で外出するという事は、殿下が知られたくない私的なものなのだろう。

そうは言っても、離れた所から陛下直属の『影』や騎士に見守られているのだが。


「殿下、今回はどういったご用件でしょう?」

「今から『タレッタ』という村に行く。」

「王都を出て北西の小さな村ですね。ロッシ卿がおられない様ですが。それに10日後奉拝の儀がありますが、宜しいのですか?」

「ああ、今日中に戻る。」


各々馬に乗り王城を跡にすると、学園の近くでルイーズ·オヴァフを伴ったダンテ·モーガンと落ち合った。

どうやら今日は逢瀬に付き合わされるらしい。


「サミュエル様、今日は有難うございます。」


ルイーズ·オヴァフは花開く様に微笑みながらサミュエル殿下を迎える。


「いや、暫く自由な時間が取れなくなるからな。」


そう言って殿下はルイーズを自分の馬に同乗させる。


「やはり高いですね。」

「速く駈けるが大丈夫か?」

「ええ、馬は一人で乗れないこともないんですが、サミュエル殿下と共になら安心ですわ。」


ルイーズの微笑みに殿下は目元を和らげる。


◇◇◇


サミュエル殿下が向かったのは、『タレッタ村』にある小さな神殿だった。

話を聞くに、オヴァフ男爵の愛人となったルイーズの母親が身籠った後、この『タレッタ村』でルイーズを出産し、親子共々この神殿に身を寄せていたらしい。

ほどなくしてルイーズの母親が亡くなり、5年前男爵がルイーズを迎えにくるまでここで育てられていたのだとか。

今回の訪問は5年ぶりの母親の墓参りだと思われるが、どうやらそれだけではないらしい。


「ルイーズなの?あの頃も可愛らしかったけれど、なんて美しくなって。」

「アンナ様お久しぶりですわ。」


突然の訪問だったのだろう。驚きながらも40代位の女性神官とこの神殿に預けられている子供達が共に出迎えてくれた。

さらに、伴った男性がこの国の第2王子だと分かると、皆倒れんばかりに驚いていた。


それからルイーズが持ってきていたお菓子を子供達に配り、警備に集中する自分を除く、来ていた面々が子供の遊び相手をするといった、ただ ただ賑やかな時間が過ぎていった。


暫くすると、サミュエル殿下とルイーズがアンナ神官と年老いた下男のジョンとで、この神殿の運営資金の事で話をしはじめた。

自分も護衛として殿下の側に立ちながら話を聞く。


「アンナ様、私がいた頃より子供の数が増えている様だわ。神殿も至る所が傷んでいますし。運営資金は充分届いてますの?」

「野菜は裏で育てていますし、鶏も飼っています。肉はたまにこのジョンが山で狩ったりして調達してくれますので、食べ物は何とか大丈夫です。大神殿からの資金は主に子供達の衣料だったり、学校へ通う子供の授業料に充てられています。」

「この神殿に直接の寄付は?」

「ルイーズも知っているでしょう?ここは小さな村ですし、村が経営している旅人向けの宿があるだけで、皆余裕がある訳ではないわ。」

「私が男爵家に引き取られたと言っても、何の力にもなれなくて、本当にごめんなさい。」

「でもこの様に殿下が足をお運び下さるきっかけを作ってくれたのですもの。生きている内に王族の方と言葉を交わせるなど、これ以上無いほど栄誉な事です。」

「アンナ様···」


涙ぐむルイーズの肩をサミュエル殿下は優しく抱く。

そして徐に腰のベルトから小さな短剣を取り出しアンナ神官に差し出す。


「これは···」


「この飾り短剣は普段お守りとして持っているものだ。鞘と柄は金で出来ている。宝石もいくつか装飾されている。運営が苦しくなったら、ばらして売ればそれなりの金になるだろう。受け取るがいい。」


「そ、そんな恐れ多い。このような貴重なお品物、私共には身に余ります。」


「サミュエル様、宜しいのですか?」

「ああ、こんなことしか出来ないが、ここにいる子供達へでもあるが、亡きルイーズの母親も神殿が荒れては安らかに眠ることなど出来ないだろう。」

「サミュエル様···有難うございます。ご恩は一生忘れません。」


さらに涙するルイーズを見て、殿下も満足そうだった。


「えー、何?アンナ神官、殿下から何かもらったの?」


様子を窺っていた子供達が集まってくる。


「みんな、殿下から宝石のついた短剣をいただいたのよ。」


ルイーズは満面の笑みで応える。


「えー、すごい!!見せて見せて!」


子供達が見ようと短剣に群がる。


「アンナ様、サミュエル様の言う通り売るのもいいですけど、折角ですから殿下から短剣を下賜頂いた事を吹聴ふれば、この神殿も特別視されて、寄付も集まりやすくなるのではないかしら。」

「ルイーズ、でもそんな事をすれば···」

「わーい!すごいすごい!みんなに自慢しようよ。殿下から黄金の短剣もらったって!」


アンナ神官が何か言いかけるも、ルイーズの言葉を受けて子供達が興奮してはしゃぎ、かき消されてしまった。


危険だな。


「殿下、あまり公にしない方が宜しいかと。」


殿下に小声でそう伝えるが、殿下は何も言うなと軽く手を挙げ言葉を制された。


神殿を離れる時まで、皆沸き立った状態でサミュエル殿下とルイーズを見送っていた。


去り際、アンナ神官と下男のジョンに声をかける。


「殿下はあのようにおっしゃられたが、短剣を下賜された事は、吹聴しない方がいいでしょう。あらぬ輩から狙われる危険があります。」


そう伝えれば2人とも思う所があったのだろう。深く頷いていた。


◇◇◇


「サミュエル様、今日は本当に有難うございました。今日の事でサミュエル様のお優しさや素晴らしさが知れ渡ればいいのに。」


夕方遅く『タレッタ村』から戻り、ルイーズをダンテに任せ寮付近で別れる際、ルイーズはそう殿下に呟いていた。

サミュエル殿下はルイーズの頭を優しく撫で、「ルイーズがそう思っていてくれたらいいよ。」と満足げに応えていた。


本日の事はそのまま第2騎士団長に報告した。団長は苦い顔をしつつも、すぐ近衛騎士団長と協議し、村近くの街に在駐している騎士に定期的に見廻りさせる手配をしてくれた。


◇◇◇


そして迎えた奉拝の儀の日。

サミュエル殿下は不在の王太子殿下の代わりを立派に務められた。

第2王位継承者の姿に王都の民をはじめ、国中より参じた各神殿の代表者も感嘆の声をあげていた。


「本日は大役のお務めお疲れ様でございました。大変ご立派でした。殿下のお姿に民は皆、国の安泰を確信しております。」


儀式が終わった後、共にこの儀式を取り仕切っていた老齢の大神官がサミュエル殿下に賛辞を述べていた。


「ああ大神官、そなたも国中の神殿の代表者の取り纏め、寄付金分配の采配ご苦労である。」

「勿体ないお言葉でございます。今回参じる事が出来ない者もおりました事は、誠に残念ではありますが。」

「そうか。」


「···実は殿下に大変心苦しい事ではありますが、一つご報告がございます。」

「いかがした?」


「殿下は先日『タレッタ』という村の神殿をご訪問され、そこで暮らす子供達を想い短剣を下賜して下されたとか。」

「ああ、近しい者があの村の出身であった為、立ち寄ったまでだ。」

「はい、あのような小さな村にも殿下のお心をお砕き下さり、誠に感謝申し上げるばかりでございます。」

「その事が何か問題でも?」

「いえ、ただ2日前、短剣目当てに賊が押し入った様で。」

「なに?」

「何分あのような小さな村、治安も村人の自警団が守る程度の場所です。短剣が下賜された事を何処ぞで聞いた賊が押し入るには容易かった様で。」

「それでどうなったのだ!」

「話によると、賊が押し入った際、短剣はすぐさま賊に差し出したそうですが、子供達を守ろうとした下男は刺し殺され、神官も顔から胸にかけて斬りつけられ負傷。何とか命は取り留めたものの、予断を許さない状態が続いているとか。」


「···なんと言う事だ···。して子供達は?」

「怪我はさほどありませんが、目の前の惨劇に心深く傷ついている様で。取り敢えず近くの街の神殿で預かっております。」

「そうか···」


「折角、下賜して下さった短剣を奪われたました事、心よりお詫び申し上げます。」


大神官は深々と頭を下げた。


「そんな事はどうでもよい!!····そうか···あぁ、私が余計な事をしたのだな。」


サミュエル殿下はショックのあまり項垂れてしまった。


あぁ、懸念していた事が起こってしまった····。


大神官は後処理があるらしく、殿下に一礼してその場を後にした。

暫く立ち尽くす殿下。


「サミュエル殿下。」

「あの時ルークが言おうとしたのは、こういう事を懸念したからか?」

「·····差し出がましい事だとは思いますが、帰り間際、神官と下男には注意し、王城に戻り次第団長に相談し、定期的に街より騎士が見廻る様手配していましたが、隙をつかれた様です。」

「は!良いことをしたと思い上がっていたのは私だけか?」


「···殿下、これより『タレッタ村』へ現状確認に向かう事と極秘で神官に治療を行う為人間を一人連れて行きたいので、殿下の許可を頂きたいのですが。」

「許す。すまぬ、ルーク。」

「それと、この事は私が戻るまで、オヴァフ男爵令嬢には内密にお願いします。」

「分かった。」


サミュエル殿下の顔は辛さを滲ませていた。


◇◇◇


「サミュエル殿下の命を受けて伺っている。至急ディセック教授に取り次ぎをお願いしたい。」

「ペータース卿珍しいですね。ディセック教授ですか?どの様なご用件か伺っても?」


「非公式の任務ですが研究員を一人、アウロラ·ホーヴェットを数日お借りしたい。」

読んで下さり有難うございます。

また、ブックマークして下さっている皆様、いつも有難うございます。

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