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16 ある見習い騎士のひとりごと(ダンテ視点)

「私どうやらルーク様の婚約者の方に嫌われてるみたい。」


期末テストが終わり、サミュエル殿下から命じられルイーズを寮へ送り届ける途中、ルイーズはそう呟いた。


「ペータースに婚約者がいるのか?」

「ええ、新入生で研究棟に研究生として出入りしている方らしいですわ。」


研究棟区域は特別な許可証がないと入る事が出来ず、且つそこの研究生となると相当優秀でなければならない。


「顔を会わせる度にものすごく睨んでくるの。私はそんなつもりはないのですけど、ルーク様の側に立つことも気に入らないみたいで。」


それしきの事で睨み付けるなど、典型的な性悪女だな。

サミュエル殿下をはじめその周りの人間も、ルイーズと話をする親しい仲になっているが、この2年間ルーク·ペータースが彼女と親しげにしているのを見たことがない。

しかし女というものは、あらぬ妄想を抱き嫉妬する生きものだ。

またいつもの様に勘違いして、ルイーズに辛くあたっているのだろう。


「機会があれば一言注意しておこう。」

「ふふ··ダンテ様有難う。私が気が小さいばかりにあなたには頼ってばかりだわ。」


ルイーズが頬を染め微笑む。


あぁ、サミュエル殿下が目をかけるのも分かるな。

これ程美しい女性はそういないだろう。



そうして夏休みを迎えた頃、騎士団に研究棟から護衛の依頼が入った。

なんでも古代種を王都郊外に連れ出すとか。

古代種は、その身に不思議な力を宿すと言われている。


ルイーズの話を聞いてから、ペータースの婚約者の事を少し調べてみた。

名前はアウロラ·ホーヴェット男爵令嬢。

あの医療、薬学で有名なホーヴェット家の娘らしい。

そして古代種に深く関わった研究をしているとか。

今回の件でも同行してくるに違いない。

まだ見習いということで、サミュエル殿下の公務には同行出来なかったのは遺憾だが丁度いい。

この機に接触して、一言いってやろう。


そして団長に願い出て、同行を許可された。


◇◇◇


当日、馬車に乗せる荷物を運んでいると、少し離れた場所にいる色白の女が目に入った。きっちりした三つ編みで茶色の幅の広い縁の眼鏡をかけた、いかにも真面目そうな感じの女だ。

その女がこちらに視線を向けた際、俺とバッチリ目が合った。

小動物の様に強ばった表情を浮かべ、目をそらす。

あいつがアウロラ·ホーヴェットだろう。

確かに地味な女だから、ペータースの様な男でも捨てられないようにと必死なのだろう。

あんな男に執着しているからといって、ルイーズを巻き込むな。


俺は隙を見て接触を図ろうとするが、なかなか近づけない。

噂の通り、研究員としては優秀なのだろう。

それにあれが古代種だろうか。

大きい白いカラスの様な鳥を肩に乗せている。

おまけに遠目だから定かではないが、まさか会話しているのか?

そうならなるほど、警戒心が強いと言われる古代種の世話など、重要な役割を果たしているらしい。


その後、何かしら動きがあり、場は一気に動き出した。

数名の研究員とそれを護衛する騎士数名が森の奥へ入って行き、 残った者達は休憩するため移動する事になった。


周囲の安全確認作業を終え報告に戻ると、先輩騎士が少し場を離れるからと代わりに護衛を任されたのがアウロラ·ホーヴェットのいる場所だった。


丁度いい機会が来た。

アウロラ·ホーヴェットに近づき様子を窺う。


顔立ちは悪くないが、あの眼鏡はないな。

ペータースの奴は何も言わないのか?


彼女の斜め後ろに立ち、容姿を確認していると、向こうもこちらの視線に気付いたのだろう、振り向き会釈してきた。


「お前はルイーズ·オヴァフ男爵令嬢に会うたび睨み付けているらしいな。ルイーズは別にペータースなど相手にしていない。不快な事はやめろ。」


そう告げれば、さすがにいきなりであったためか固まっていた。


少し威嚇し過ぎたかな?


彼女は暫し考えた後、なかなか長い言い訳をしてきた。

言ってきた事を頭の中で反芻する。

確かに筋は通っていて、嘘をついている様には見えない。


必死だな。


そうだ面白いことを教えてやろうと思い、奴が『冥府の使徒』と呼ばれていることを教えてやった。

万が一、ペータースもルイーズに心を寄せているならば、アウロラ·ホーヴェットがルイーズに不遜な態度をとっている事を知れば、冷酷な扱いをするかもしれない。

そこまで丁寧に忠告してやれば、さすがに怯えて態度を改めるだろうと思っていた。


が、反応は全く違っていた。

『冥府の使徒』という異名に食いつく食いつく。

今までの警戒していた表情は何処へやら。

何やら脳内妄想を展開しているらしく、聞こえてくる呟きから察するに、どうやら自分を魔女に例え、冥府の使徒の傍らでそれを支える魔女という設定で喜んでいるらしい。


いや、喜ばせる為に言ったんじゃないんだがな。


しかしその時にアウロラ·ホーヴェットが見せる微笑みが何とも幸せそうで、思わず見とれてしまった。


その後、古代種であろう白いカラスから言葉を発しながら威嚇され、人も集まって来たところでやむ無くその場を離れた。

先輩騎士から小言を言われたが、さして気にすることはない。


◇◇◇


「ダンテ様、先日護衛の任務でルーク様の婚約者の方にお会いになったのですか?」

「ああ、さすが研究棟に出入りしているだけあって地味な女だった。まあ、話す機会があったから、ルイーズについての事は一言注意しておいた。」

「まぁ、私、そんなつもりありませんでしたのに。でも有難うございます。嬉しいですわ。それにしてもダンテ様に言われては、あちらの方はさぞ怯えていらっしゃったのでは?」


怯える?

あぁ···はは。寧ろ最後は満面の笑顔だったがな。


「あの女の事は気にすることはない。頭の中がペータースの事で一杯なお花畑なだけで無害だ。まぁ、ペータースの事は心から想っている風ではあったから、ルイーズも何とも想っていないペータースの事は放って、距離を置いている方がいい。ああいう拗らせ女から、変に親しい関係だと思われると面倒だからな。」

「え?···あ、はい。」


そう言えば、俺はあの女に名乗ってなかったな。

俺が国内有数の伯爵家の人間で、且つサミュエル殿下の側近になる者だと分かれば、どんな反応をするだろうか。

慌てて不敬が無かったか焦った顔して、また長々と謝罪してくるのだろうな。

それかペータースの恥ずかしい事やら至らない事があったら教えてやり、「慰めてやれ。」の一言でも言ってやれば、「慰めて、支えるのは自分の役目」と嬉々としてあいつの元に飛んで行くに違いない。

そして教えてやった俺に感謝するだろう。


しかし、ペータースか。

以前サミュエル殿下が刺客と野獣に襲われた時、誰よりも敵を倒したあいつは本当に恐ろしい奴だった。

俺は庇われながらも、自分の事で精一杯だったが、あいつは刺客を盾にしながら野獣を倒す。

型にはまった剣技じゃない。

生き残る為にどんな手を使ってでも目の前の敵を倒すやり方。

一体どんな訓練をしてきたんだ?

化け物だな。

あんな奴の婚約者にさせられているアウロラ·ホーヴェットに同情すら感じるが、本人のあのペータースを慕う心からの微笑み。

ちょっと羨ましくも感じるな。


婚約者か···

そう言えば俺の婚約者のクレアはどんな風に笑っていただろう。

クレアもあの女の様に俺を慕っているのだろうか?

ルイーズとあの女の微笑みは思い出せるのに、

クレアがどんな風に笑うのか思い出せない。


久しぶりに声をかけるのも悪くないな。



◇◇◇


久しぶりに王都のホーヴェットの屋敷に戻ったアウロラ。


「お嬢様、お帰りなさいませ。」

「オーソンさん、ただいま帰りました。」

「夏休みだと言うのに、お忙しい様で。夜にはエイダン様とセオドア様もお帰りになられます。」

「そうなのですね、良かった。お元気か心配でしたから。」


「お嬢様、何かいい事がございましたか?」

「ふふ、分かります?」

「ええ、何やら楽しそうですね。」

「ふふ、実はルーク様が異名をお持ちなのを伺って。」

「ほぅ、異名とは?」

「なんと『冥府の使徒』と呼ばれていらっしゃるそうなの。」

「『冥府の使徒』ですか?それはそれは」

「暗い闇夜が広がる世界に一つ輝く光が···それは闇を身に纏い現れる冥府の使徒たるルーク様···そして付き従う魔女である私···素敵でしょう?」


「·····ちょっと何言ってるか分かりませんな。」


そう呟くオーソンであった。

読んで下さり有難うございます。

また、ブックマークして下さった皆様、有難うございます。これから辛いこともあるアウロラをどうぞ見守っていて下さいね。

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