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14 アウロラの夏休み ①

『ソナ村』での毒症状の被害は、アウロラの周囲を騒がしくさせていた。

やがて、特国境沿いの領地を訪れた旅人にも、ちらほら同様の症状が現れ、倒れる者が出てきたのである。


古代歴史研究棟では、エルフの残した古文書から、『ソナ村』で見つかった毒袋を持つ生物の記録がないか確認する解読作業が急ぎ行われ、生物研究棟では、国内外の毒を持つ生物の確認作業と古代種についての情報収集、そして医·薬学研究棟では、あらゆる毒を想定して多種にわたる解毒薬と活性炭の製造が日夜問わず続けられていた。


アウロラもナナちゃんとムク様古代種のお世話に加え、放課後解毒薬の製造のお手伝いする毎日をおくっていた。

事が起これば、最前線で動くことになるだろうルークの事を考えると、多少過酷な毎日でも苦になる事はなく頑張ることが出来た。


そのルークも、不測の事態に対処する訓練や城内外の警備に忙しいらしく、学期末テストを迎える頃になっても、特にルイーズとの不快な噂を耳にする事もなかった。


そのルイーズについて、エリナ達と過ごすお昼休みに聞く所によると、マイケル·マーフィー伯爵令息がエリーサを弾劾し、その場をシャーロット公爵令嬢とスフィア侯爵令嬢が収めて以降、両殿下とダンテがこれまで以上にルイーズを擁護する様に張り付いているらしく、そんなルイーズが女王然としていて、見ていて不快なのだとか。


アウロラにしてみれば、国が脅威にさらされている中、そんな事ばかりに意識を向けてくだらないと一蹴してしまう所、ルイーズがルークに絡むようになってきたと聞けば心がざわつく。


「ルーク様は相手にしてないみたいよ。ただ以前とは違って誰でもって感じじゃなくて、ターゲットをある程度絞ってきてるわね。」


と言うのはエリナ談である。


エリナ達には私がルイーズ様に睨まれている事も伝えているから、休み時間は私を一人にしないよう誰かが側についていてくれる。

本当に感謝するばかりだわ。


◇◇◇


やがて1学期の期末テストを控え、研究棟への作業を休み、2週間はテスト前勉強に集中させてもらった。

お陰で成績は学年3位とかなり上位の結果を残す事が出来た。


そしてアウロラは、王都にて初めての夏休みを迎えた。


◇◇◇


学園の夏休みの課題は、休み明けに再度1学期の復習テストを行うため、各自苦手科目の復習を行うというざっくりしたものと、学園の方針が各自の専門的知識と技術の習得という事もあって、休み期間中に短い論文をまとめ、提出するという2つである。

これがなかなか大変らしい。

アウロラとしては、既に入学前に王宮に1つ論文を提出していることもあり、さほど書くことに苦痛はない。

寧ろ日々研究で書くネタは沢山持っている。


それはそんな心に少し余裕を持って始まった夏休みの初日の事だった。



その日もアウロラはいつもの様に早朝から研究棟に来て、ナナイロオオトカゲのナナちゃんとハッコウカラスのムク様のお世話をしている。

相変わらずこの古代種2体のアウロラへの溺愛っぷりは凄まじく、朝からべったりである。


「アウロラ、お主今日から夏休みなのであろう?」

「ムク様よくご存知ですね。」


現在アウロラはムク様の爪のお手入れ中である。

因みにナナちゃんは持参したクッションの上で惰眠中である。


「それなら一緒に山に遊びに行かないか?」


渋い紳士な美声でデートのお誘いである。

目を瞑っているナナちゃんがピクリと反応する。


「ムク様を外にお連れするには色々許可が必要みたいですね···。それに私達だけでは行けませんよ、きっと。私はともかくムク様に何かあっては大変ですから。誰かと一緒に、と言っても今、研究棟の皆さんはとても忙しくて···。」


今回毒の特定に時間がかかっているのは、その症状が特殊だからだ。


始めは緩やかに風邪に似た症状が出て、そのうち高熱が出る。

2日程熱に苦しんだ後、突然熱が下がるのだが、その際皆、一旦昏睡状態に陥るのである。

3日程で目を覚ませばいいが、そうでない者は徐々に呼吸が浅くなり、気が付けば呼吸と心臓停止で死に至るのである。

毒というより、何かの病原体に犯されている様である。

この原因とされる、動物の毒袋を井戸で見つけられたのは幸運だったと言える。


「毒に悩んでいるのであろう?話していたその毒袋を見せてみよ。」

「ええ?!本当ですか?じ、じぁ今から借りて来ますね。」

「いや、我も共に行こう。どうせ持ち出しも難しいであろうからな。」


いえいえ、ムク様が温室から出るのも難しいはずですが···。

とにかくムク様が関心をもってくれただけでも有難いわ。


「ムク様、このまま何処かに行ってしまわないで下さいね。」


本来こんな所に閉じ込められているのは、ムク様にとって不本意なはず。

それが分かっていてこの様に言って、ムク様に不快に思われても仕方がない。


「大丈夫。アウロラが困る事はせぬ。心配するな。それに今はアウロラが居るからな。ここに居ることをそれなりに気に入っておる。」


肩に乗っているムク様は片方の羽を広げ、器用にアウロラの頭を優しく撫でる。


こうしてアウロラは肩にムク様、クッションを敷いた籠にナナちゃんを乗せ、生物学棟の研究室に向かった。



「しかし無防備ですね。肩にハッコウカラス、籠にナナイロオオトカゲと古代種2匹連れ歩くなんて。」


ミュラー教授の研究室に行くと、マシューさんと同じ研究助手でマシューさんの双子のレベッカさんが目を真ん丸にし驚いていた。


化粧っ気のないレベッカさんは、髪の長いマシューさんそのままの感じで、2人が同じ顔して驚いているのを見ると何だか微笑ましい。


「ハッコウカラスが温室から出てるわ。」


やはりムク様が温室から出るのは久しぶりらしい。

まぁ普段から人目につくことがなかなかない存在だったからだが。


「ハハ···アウロラ嬢が学園を卒業してホーヴェット領へ帰ったら、この古代種達も一緒に付いて行ってしまいそうだね。」

「僕もそんな気がします。」


すかさずマシューさんが応える。


「それでどうしたのかな?」


ミュラー教授は疲れていらっしゃるだろうに、ニコニコ顔で尋ねてくれる。


「はい、あのムク様が例の毒袋を見てみたいと言われてまして。もしかしてムク様なら何かご存知ではないかと。」


私はムク様と普段から人と同じ様に会話をしているのを、特に気にした事はない。

しかし他の研究員の皆様は古代種であろうが、私が動物と普通に会話している姿に違和感があるのだろう。

一瞬無言で固まっていた。


「とりあえず見せてみよ。」


「声、渋っ···」


レベッカさんが思わず呟く。


そうですよね。この美声、ちょっと反則ですよね。


ミュラー教授は顎に手をあて少し考えた後、マシューさんに毒袋を保管庫から持って来るよう指示した。

マシューさんは慌ててガラスケースに入った毒袋を出して来てくれた。


「持って行かないでね。」


ミュラー教授はムク様に一言そう告げる。


ムク様はケースが置かれたテーブルに乗り、毒袋をじっと見つめる。


「厄介な奴だな。」


ムク様は一言呟くとアウロラの肩に再び飛び乗る。


「ムク様、何か分かったのですか?」

「あぁ、2つ向こうの国の火山湖に生息する黄色いカエルだ。ラバンの息子が絶滅させたはずだが。」


子供の握りこぶし程の大きさの毒袋は確かにほのかに黄色っぽい色をしている。


「あれは水の中に毒を吐き、魚を痺れさせ食べる。陸に上がれば舌で上手に毒を飛ばし、小動物を麻痺させ捕食する。人が毒を飲めば、おそらく始めは咳が出てやがて熱も出はじめる。その後昏睡状態になり、再び目覚めれば助かるが、目覚めなければゆっくり身体の機能が失われ死を迎える。」


「確かに報告書にあった『ソナ村』の村人と同じ症状だ。」


ミュラー教授は目を閉じ考える。


「2つ向こうの国は確かにラバン王国ですね。そこにある有名な火山と言えば···スヴェナ火山ですかね?」


マシューさんが呟く。


「そんな毒のあるカエルなんて聞いた事がないわ。」


レベッカさんは訝しげだ。


「スヴェナカエル。大きさは人の頭部程、身体は鮮やかな黄色。最後に確認されたのは300年程前か。」


ミュラー教授がムク様に確認する様に呟く。


「あやつらはスヴェナ湖以外では生きていけないからな。300年前に噴火したスヴェナ火山の溶岩が湖に流れ込み、湖の大半は埋まってしまった。それを機にラバンの息子が残った水辺も土で埋め、さらに火を放ち一帯を焼きつくした。その時にカエルも死んだ。」

「ではこの毒袋の種はスヴェナ湖以外の場所で生き残っていたのかもしれませんね。」

「あれの毒は、あの湖の水に溶け込んでいる火山灰によるものだからな。それに噴火で他の場所に降り注いだとしても、あのような毒を作り出す生き物は他にいなかったはずだ。」


「ではあれはもしかして、カエルが自分の中に取り込んでしまった毒素を排出する為に出来た毒袋なんですか?」

「ハハハ、アウロラは賢いな。その通りだ。」

「その毒は人の手でも作り出す事は出来るのですか?」

「まぁ、今の人間には無理だろうな。あのカエルが身体の中に取り込むことで出来る毒だからな。現にこうして毒袋がある訳だから、奴は生き残っていたと考えるのが妥当だろうな。」

「ラバンの方々はどのように対処していたのでしょう?」

「そうだろう、そうだろう?そう言う話しになるだろう?」


途端にご機嫌なムク様である。


「だから山へ行こうと言っているのだ。」

「え?もしかしてムク様、あの毒に効く薬草をご存知なのですか?」

「おぼろげな記憶だからな。見れば思い出すだろう。だからアウロラ、山へ行こうではないか。」


何とも楽しげなムク様である。


「行きます!ミュラー教授、是非許可をお願いします!」


周りは皆、置いてけぼりで盛り上がる1羽と1人に呆然とする。


結局、新たな手掛かりの可能性有りと判断され、私はムク様と共に山へ薬草採取へ行く外出許可を得る事になった。

ただ古代種な上、人間と意志疎通の出来る希少種なムク様との外出は、外敵からその身を守る必要がある為、ピクニック感覚の外出ではなく、騎士団の護衛付きの大掛かりなものになってしまった。


そして同行する騎士の中に、もしかしたらルーク様がという期待とは裏腹に、その中に居たのは、騎士見習いとして席を置くダンテ·モーガン伯爵令息だった。







読んで下さり有難うございます。

またブックマークをして下さった皆様、いつも有難うございます。

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