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13 花まつり

王都の花まつりは教会が中心となって執り行われる。

点在する各教会前の広場はダンス会場になり、街全体に花の装飾が施され、花をモチーフにしたアクセサリーやお菓子等の屋台も出され、街は大変な賑わいを見せる。

花の香り立つ中、特に女性は目一杯着飾り、パートナーと共に踊る姿はとても華やかで美しい。


この日ルークとアウロラは、王都でも中心地より離れた小さな教会の広場を訪れていた。

エリナは一緒に楽しみたかったと残念がっていたが、なるべく知っている人間に会いたくないというルークと、人目を気にせずにルークと過ごしたいというアウロラはこの場所を選んだ。


今日のアウロラは、型はシンプルだが、袖と裾にレースがふんだんにあしらわれた薄紫色のドレスで、脚さばきがいい様に丈は少しだけ短めだ。

髪にはルークからの贈り物の髪飾りと、ドレスと同じ薄紫色の花が飾られている。

ルークはアウロラに合わせて、薄いグレーの上下に胸元には薄紫色の生花を着け、上着の袖口は少し折り曲げる事でカジュアルさを出している。


当然今日のアウロラは真面目コーデではない為、本人達は気付いていないが、ルークとアウロラ二人の美しさは周囲の視線を全て奪う程目立っていた。


婚約式以来のダンスに緊張しながらも、楽しげに、幸せそうに踊る二人を祝福するかの様に、建物の上階のベランダからは花びらが撒かれ、その光景は幻想的だった。


暫く踊った二人は休憩の為広場を離れ、用意されているテラスに腰を下ろす。

軽く摘まめるものでお腹を満たし、ゆっくりと紅茶を楽しむ。


「明日の晩、王宮では舞踏会が開かれるんですよね。ルーク様は行かれるのですか?」

「基本招待されているのは伯爵以上だからね。殿下の護衛も王宮内の近衛騎士がするから僕は不要なんだ。王宮の舞踏会よりアウロラといる方が何倍もいいよ。」


そう言いルークは優しく微笑む。


あぁ···ルーク様が神々しい····。


何時もの様にうっとりとルークを見つめるアウロラに手を伸ばし、ルークは愛しげに頬を撫でる。そうするとすぐ真っ赤になるアウロラをルークもまた可愛いと思っていた。


ルークとぼんやり街の賑わう様子を眺める。

皆笑顔で楽しげな様子を見ると、こちらも幸せな気分になる。


一方で、最近起こっている毒での被害を思い出す。

こんな穏やかな平和も、井戸に毒をばらまかれれば一変する。

例え兵が侵攻して来なくても多くの死者を生み、国に大打撃が与えられるだろう。


そしてそれは身近な人達も危険に晒されている事に変わりはない。

何よりルークが苦しめられる事もあると考えると落ち着いてなどいられない。


「ルーク様。」

「ん?」


アウロラはルークに研究棟で聞いた毒の被害とこれから起こるかも知れない被害についての不安を話した。

ルークは少し眉をよせ、真剣に聞いてくれる。


「この花まつりが開催されるにあたって、治安維持強化の通達があったんだ。例年に比べ人員も増やされているしね。僕も明日は東地区の警備を担当する事になってる。井戸に毒薬は最悪だな。」

「今研究棟では、『ソナ村』で使われた毒の解明と対策が検討されています。いずれ騎士団に何かしら通達があるかもしれませんがその前にルーク様には急ごしらえですがこちらを。」


私はドレスに付けたポケットから薄い巾着を取り出す。


「これには銀で作ったペンダントと活性炭の錠剤が入っています。銀はヒ素の毒に反応するので、飲み物、食べ物を確認する時に使って下さい。もし飲んでしまったりして身体に毒の反応が出たら、1時間以内に吐き出して下さい。出来れば水を飲んで何度も。活性炭は胃の中の毒物を吸着させ、外に排出してくれるので、ある程度吐いたら飲んで下さい。

『ソナ村』の毒は動物の毒で、その動物の種類はまだ特定されていません。取り敢えず今のところ毒と思われる症状になったら、同じやり方で対処して頂くしかなくて。」


なかなか調査か進展していない事に項垂れる。

研究棟で確認されている動植物の毒素には該当しなかったらしい。

未だ確認に至っていない動物···もしかしたら古代種なのではないかと言われている。


ルークは巾着を受け取り中身を確認する。

中には楕円形の銀のプレートがトップのペンダントが入っている。


「ペンダントにした方がすぐ確認したい時に使いやすいかと思って。汗などでも変色するかもしれないので、服の上か服と服の間に着けて頂いた方がいいです。」


元々、領地での毒による中毒の治療をしたこともあって、いずれ色々解毒薬が準備出来たら一緒に渡すつもりで作っていたものだった。


こんなに早く渡すことになるなんて思わなかった。


「アウロラも持ってるの?」

「あ、はい。何時もこっそり長めのチェーンを付けて身につけてます。」


言いながら、胸元からチェーンを引き出して見せた。

ルークはそれを見とめると目元を緩め「おそろいだね。」と言って微笑んだ。

それだけでアウロラの体温は急上昇する。


「アウロラ本当に有難う。大事にするし、毒の件も気を付けるよ。」


まだまだ準備不足だけど、取り敢えず渡す事が出来て良かった。


「活性炭は特に外で活動される騎士団の皆様には、準備が出来次第なるべく早く携帯して頂こうという事になっている様です。」


とにかく現場で動く方々の安全を確保する事が重要だ。

各部隊には活性炭をはじめ数種類の解毒薬は常備されている。

しかしアウロラは活性炭をどうしてもルークに携帯して欲しかった。

今日渡す事が出来てほっとする。



広場ではまだまだ笑顔でダンスを楽しむカップル達が沢山いる。

アウロラはそれを見ながら、もう一つルークに伝えたい事を頭の中でまとめていた。


先日のルイーズ·オヴァフ男爵令嬢のあのアウロラを見る目。

彼女のあの目から察するに、一連の彼女の行動は間違いなく天然ではなく計算されたものだろう。

ルイーズが多くの男性と関係を持とうとするのは何故なのか?

彼女の家の爵位では王子妃にはなれない。

伯爵以上の家に養女として入れば可能かもしれないが、殿下方が積極的に動いてくれない限りそれは無理だろう。

ならば愛妾として王宮に上がるかといった所。

しかし何か落ち度があればそれも難しくなる。

ルイーズが色んな男性に手を出しすぎて、彼女の本意が何なのかいまいち分からない。

しかしアウロラが敵認定されたのなら、恐らくルークに手を出してくるはず。


ルイーズ様の容姿は確かに美しい。

でも高位の令嬢の皆様もルイーズ様程ではなくても皆さん美しく魅力的だと思う。

では何故男性はルイーズ様に惹かれるのか。


私が毎晩寝る前に考えて導きだした結論はこれ。


彼女が男性にしていること···つまり貴族女性として忌避されている事···女性からの男性への接触行動ではないかしら。


例え婚約者だとしても、身体への接触は手に触れる等最低限にとどめたものに限る事が貴族女性としての常識。(まぁ、人目のない所では男性からある程度何かしらがあるかもしれないけど)


しかしルイーズ様は彼女の方からさりげなく身体に触れたり、もしくは囁く程の距離に近づいていってる。


高位令嬢の皆様の一線を引いた、凛としたオーラ。

それは何者にも触れさせない防御壁の様なもの。

本来貴族女性として美徳とされるものがルイーズ様にはない。

他を圧倒する美しさがあっても、触れられる距離に彼女の方から近づいていく。

そして彼女が選んだ相手には、触れる事、触れられる事を許容している節があるわ。


殿下をはじめ彼女に傾倒している皆様は、それに引っ掛かってしまっているのではないかしら。


そして彼女の新しいターゲットがルーク様に及ぶなら、私にも考えがあるわ!


「あの、ルーク様。今日はもう一つ聞いて頂きたい事があるんです。」

「うん、何?」


呆れられるかもしれない···。

でも伝えるのと伝えないのとでは違う気がする。

何より私が手を打つ前に、先制攻撃を受ける訳にはいかないわ。


「ルイーズ·オヴァフ男爵令嬢の事ですが···」


私は入学してからの目撃談やスフィア様からの呼び出し、その時スフィア様に提案した件。

そして先日のエリーサ様とルイーズ様との攻防とシャーロット様とスフィア様が介入して治められた事等全て話した。

ルーク様は特に殿下方の話を聞く時はこめかみを押さえていた。


「なるほど、薬草園の時以外でもそんな事が。アウロラも大変だったね。」


ルーク様は私に労いの微笑みを向けてくれる。


「はい、それでどうやら、私ルイーズ様から敵認定されてしまったみたいで。あの時のルイーズ様の私を見る目を思い出すと今でも鳥肌が立ちます。」


まさにあの時の私は、蛇に睨まれた蛙状態だった。


「それであの···最近ルイーズ様から何かされたりしていませんか?」

「あぁ、何となく立ち位置が近くになっている様な気がするな。不快だから離れるけど。彼女の変な甘い匂いが元々苦手なんだ。」


甘い香り?

それに何?すり寄って来てるの?!

早くも行動に移してきてるなら間違いない。

ルーク様に響いてないのが幸いだわ。


「分かりました。あの、それでルーク様、私なりに短い期間ですが、彼女の事を分析してみました。」

「へぇ、聞かせて。」


真剣な私とは違い、ルーク様は何だか楽しそう?


「貴族たるもの、異性に軽々しく接する行動をしないというのが当たり前に周知されている事です。まして婚約者のいる相手にそういった接触をする事は、貴族、平民に関わらず無作法というものです。ですから皆節度をもって一歩引いて、特に高位の方々は少し冷たく見える位に振る舞うのが私達の当たり前なんです。

でも一方で、殿下方のご婚約者のシャーロット·ジェンセン公爵令嬢様やスフィア·ミュランダン侯爵令嬢様のような美しい方々を前にして、年頃の殿下方は、本当は心の中で触れたいと思っているはずです。でも実際はなかなか出来ない。そんな男性の欲求をルイーズ様は利用している気がします。

触れても構わないといった振る舞いや仕草、他の令嬢とは違い彼女の方から接してきたりする事で、彼女を意識させるよう誘導していると思うんです。

まさに自然界の動物が異性に行う行為そのものです。

それで段々殿下方をはじめとする皆様の中に、彼女に対する特別感と親近感が生まれていると思うんです。

ただ皆様、それが自分に対してだけだと思っている節がありますが。」

「はは··確かに生き物の本能をくすぐってるみたいだね。」

「そうなんです。年頃の男性方は彼女の虜になってしまうでしょう。ですから···」


私は姿勢を正してルーク様に向き合う。


「もしルーク様が本能的に何かを求めるなら、是非遠慮なさらず私に求めて下さいね。私の防御壁などルーク様の前ではシルクのカーテン並みの柔らかさですから。」

「くっ···シルクのカーテンか···アウロラ上手い例えだね。」


ルーク様のツボにはまった様で、肩で笑っていらっしゃいます。

でも私は本気なのです。


私は意を決してルーク様の手を取る。


「ルーク様の欲求は全て私にぶつけて下さい。」


両手に力を込めてぎゅっと握る。


ルーク様は空いている方の手で私の頬を包んでくれる。


「アウロラ···すごいこと言ってるけど本気にしちゃうよ。」

「私は何時だって本気ですわ。他に何か私に問題があれば必ず直しますから。こんな攻撃で負けてルーク様を奪われるのは嫌なんです。」


私は更にルーク様を握る手に力を込める。


呆れられるだろうか。

執着されていると引かれるだろうか。

ルーク様·····


「泣かないで、アウロラ。僕は殿下方とは違う。大丈夫だから。

僕がどれだけアウロラが大切で、愛してるか知らないだろう?」


愛してる···

あぁ、愛してるって言ってくれた···


アウロラはいつの間にか泣いていた事に気付く。

ルークの言葉を聞いて、更に涙が溢れてくる。


「そんなに心配なら···あぁ、そうだな、アウロラの提案を快く受けるよ。」


そう言ってルークは、片手でアウロラの頭を自分の肩に寄せる。


「僕の欲求はアウロラだけに受けとめてもらうから。」


ルークはそうアウロラの耳元でそっと囁いた。


これはーー!


完全に意識が昇天したアウロラの頭をルークは優しく撫でる。


「因みにアウロラの欲求は、僕だけが受けとめるから。」


!!!


あぁ、私は完全にルーク様に攻略されてる···


神様どうかお願いします。

私からルーク様を奪われませんように···


ルークに抱きしめられながら、そう願うアウロラだった。






読んで下さり有難うございます。

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