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105 貴方のためにできること

これにて本編完結です。

「以上が報告です。」


「何て事が起こっているんだ?! 私はルークとアウロラ嬢の心暖まる結婚式を見届けに来ただけなんだけど。」

「王都にも知らせは送っていますが、何分日数がかかりますので、ディラン殿下にご采配頂きたく。」

「いや、友好国のラトゥナ王国なんだろ?難しい判断が求められる。それを私にか·····。」


王族の代表という事で、結婚式の前日に婚約者のスフィアと共にグリフォニア公爵領に着いたディランは、来て早々昨日のリュシェの事件について報告を受けていた。


「私が結婚式に参列後、王都に共に連れて行くのが良さそうだ。王都には兄上やアシェルがいる。交渉事は間違いないだろう。王都への帰りの護衛の強化を頼む。」

「承知しました。王都までの経路と宿泊先の確保を今日、先発隊を出し手配させましょう。」

「はぁ····本当に2人は色々あるよな····。」


ディランは窓から外を見下ろす。

王都からの馬車が続々と入城してくる中、一際厳重に警護されている馬車が目に入る。


「ただでさえ王都から、古代種を連れて来ているのに·····。これでは帰りの護衛はさらに大変な人数になりそうだな。」


ディランはそう言って深いため息をついた。


◇◇◇


雨が降っている。

少し霧が立ち込めたそこに、俺は茫然と立ち尽くす。

目の前には、あるお方の墓。

こんな姿を見るはずではなかったと絶望感に苛まれている。


これは誰かの記憶。

ある事をきっかけに、俺は誰かの記憶を夢で見るようになった。

そう、オーウェン王太子殿下が、髪色は違うが、アウロラにそっくりなカミーユ妃と呼ばれた人の肖像画を見せた時からだ。


夢の中の俺の名はリュド·ケアン。

今は無きラジャル王国の騎士。

その腕が認められ、王女の護衛騎士に選ばれた。


カミーユ王女。

ラジャルの至宝と言われるのは、その美しい容姿のだけではない。

身体の弱い弟に代わり、積極的に灌漑農業を推進した。

ラジャルには『テンセイバ』と呼ばれる古代種の馬がいる。

鮮やかな青色な毛色は勿論珍しく、人目を惹くが、崇められるのはそこではない。

豊穣の神と言われ、その存在は国を豊かにすると言われている。

他国の者は、ラジャルが実り豊かなのは、この『テンセイバ』のお陰だと思っている様だがそれだけではない。

王女が農業の仕組みを変えたからだ。

それを知っている者達は、王女の美しさも相まって、王女との婚姻を望む。

拒否すれば、武力を以て交戦を仕掛けてくる。

武力の弱いラジャル王国は他国に侵され始めた。

結局、不要な戦いを避け、 ローヴェル王国の庇護を得るためラジャル王国は統合される道を選んだ。

そしてラジャル王国の王子にカミーユ王女は嫁ぐ事になった。

当然俺も専属護衛としてついていく。

しかし、俺の剣術の腕はローヴェル王国のアスラン王の目に留まる。


「ラジャルの意地を見せるなら、我々と共に戦え。王女の護衛に戻るのはその後でも構わないだろう?」


拒否できる訳もなく、俺はアスラン王の遠征に同行する事になった。


「リュド、待っていますからね。気をつけて。」


カミーユ王女は跪き挨拶をする俺の頬に手をあて、そう言葉をかけた。

俺はその手に自身の手を重ね、頷いた。


戦況有利で進む中、ある日王都より、王子毒殺の報告が入る。

それも亡くなったのは1人ではないらしい。

間も無くカミーユ王女がローヴェルに嫁ぐ日程のはず。

混乱した王宮で王女は無事迎えられるだろうか?

アスラン王は知らせを受け、我々遠征部隊を残し、王都へ戻った。

俺は戦場に残された。


それからどの位経ったか。

アスラン王は退位し、ケイレグ王子が即位した。

漸く戦いは終わり、帰国が許された。

希望を聞かれ、ローヴェル王国王都のカミーユ王女の専属護衛に戻る願いを申し出た。

漸くあなたの元へ戻れる。

しかし王城に入り知ったのは、カミーユ王女の死だった。

何故王女は死んだ?

アスラン王の妃の1人が王子達を誑かし、争いをさせ死に追いやった。

更に破落戸を手引きし、王宮に混乱をもたらした。

カミーユ王女はそれに巻き込まれ大怪我を負い、出産の際に、それが原因で帰らぬ人となったと。


傍に居たら、怪我など負わせなかった。

離れるべきではなかった。


誰かが聞いた。

お前はカミーユ王女の何なのだと。

護衛騎士だという事だけでは、その感情は説明出来ないだろうと。


カミーユ王女は亡くなる前に俺に手紙を残してくれていた。

その手紙を読んで、生まれて初めて俺は号泣した。


愛という言葉を知りながら、愛が何なのかを知った瞬間だった。


あれから、どうやって生きただろう。

気がつけば、皺だらけの手に剣を持ち、最後はカミーユ王女の墓の前で事切れた気がする。


この夢は今日で終わりだろうか。

この夢の男は、俺の前世なのだろうか。

俺はあのリュドという騎士で、カミーユ王女の生まれ変わりのアウロラを無意識に求めたのだろうか。


いや、違う。

そんな記憶は無くとも、俺はアウロラに恋してた。

アウロラの、誰かの為にひたむきに力を尽くす、その姿。

そしてアウロラが最も優先しているのが、この俺の事だということに、この上ない喜びを感じた。

愛おしかった。


もし前世があって今の幸せを迎えたのなら、今日アウロラと結婚出来る俺は最高に幸せだろう。


昨日も来客とソドゥリー公爵への対応に追われ、そして寝たかと思えばこんな夢を見て。

それでもこうして朝早く目覚め、漸く白んできた空を眺めている自分は、やはりこの結婚式の日に興奮しているのだろう。

このままアウロラの部屋に行きたい衝動を抑える。

今夜は寝かせてあげられないだろうな。

気持ちを抑える自信がない。


そう言えば、ディラン殿下が、ソドゥリー公爵とリュシェ嬢を伴って王都へ帰還されるのに際して、俺が護衛に加わる事を命じようとしていたな。

俺のただならぬ空気を察して、口を閉ざされたが。

結婚式の翌日にアウロラと離されるなど酷い話だ。


そうしていると朝を知らせる鐘が鳴り響く。


アウロラとの結婚式の1日が始まった。


◇◇◇


ドレスの殆どがレースで出来ていた。

レース以外の絹の布地の部分が少なく、それがアクセントになり、細かいレース地自体の重みがアウロラの身体に沿うように馴染み、女性らしさを醸し出していた。


以前話を聞いていた、王都の若い男性デザイナーのもので、皆こっそりと、王太子妃の結婚式のドレスよりも手の込んだものではないかと評していた。


結婚式には神殿より大神官が来てくれていた。

2人を待つ大神官の両隣には、ルークの養父であるワイアット·グリフォニア公爵、逆隣にはアウロラの父のエイダン·ホーヴェット伯爵が並ぶ。

ルークとアウロラが進む絨毯の敷かれた広い道の両側に、参列客が立ち並ぶ。


ルークの家族、アウロラの家族。ディラン殿下と婚約者のスフィア。ディセック教授にミュラー教授。エリナをはじめとする叔父家族、親戚、友人達。そして離れた所にマシューとダンテの頭に乗ったムク様。


「ふふ、ムク様がモーガン様の頭の上に。あの場所がお好きなのかしら。」

「ああ、あの男によく似合っている。」


どうやらダンテはこういった外出時の、ムク様の専属護衛騎士も兼ねる事になったらしい。


ムク様はふわりと翼を広げ、どこかに飛び去った。

ダンテと数人の騎士が後を追う。


「大丈夫なのか?」


ルークが小声でアウロラに問い掛ける。


「ええ、多分呼びに行かれたのです。」

「誰を?····ああ。」


大神官や両親の前に進み、誓いの言葉を述べる。

アウロラのベールを外す。

ここで今日初めてアウロラの姿をまともに目にする。

あまりの美しさに思わず息をのむ。

そして息をのんだのはルークだけではない。

参列していた皆が、アウロラの美しさに心を奪われていた。


「ルーク様?」


動きを止めた俺を不思議に思い、アウロラが不安気に問い掛ける。


「すまない····あまりに美しくて、驚いてしまった。」


そう言うと、照れながらも嬉しそうにお礼を言いながら微笑む。

その微笑み·····なんて破壊力だ。


「アウロラ·····君にお願いがあるんだ。」

「はい、ルーク様。私に出来ることなら何でも。あっ、今すぐは無理でも出来るように努力します。」

「ふっ····そう言うのはアウロラらしいね。

アウロラ····1日、1日でいいから俺より長く生きて欲しい。もう····君がいない世界に残されたくないんだ。」

「もう?」


アウロラはルークの瞳を何かを探るように見つめる。

そしてそっと片手を伸ばし、ルークの頬に触れる。


「それが貴方のためにできることなら····。」


ルークは、はっと目を見開き、頬に触れるアウロラの手を握る。


「ずっと愛している·····アウロラ。」

「私もです、ルーク様。」


ルークはアウロラを引き寄せ口付る。


参列者から歓声が上がる。

それと同時に花びらが一斉に撒かれ、舞い上がる。る。


「ギヤアアアアアア····」


何処からか咆哮が聞こえる。

皆の視線がその方向に向く。


白い影が空に舞う。その後ろについて····竜が翔んでいた。

ムク様の白い身体が発光する。

青空に太陽がもう1つ浮かび上がったかの様だった。

そして細かい光の粒子が頭上に舞い降りる。

同じように空を翔ぶナナちゃんは、その身体の鱗を金色に変える。

黄金の竜が太陽と、ムク様の光を受けながら、キラキラと幻想的に輝く。

皆その光景に呆気にとられ、暫し言葉を失い見とれていた。


「これが古代種に愛されし乙女なんですね。」


マシューがそう呟いた先にいるアウロラは、ムク様の光の粒子を浴び、自身も輝いている様だった。


「アウロラ。」


ルークは呼びかける。


「ルーク様、ムク様とナナちゃんがこんな素敵なお祝いを下さいましたね。」

「ああ、美しい·····アウロラ、幸せになろう。」

「·····はい、ルーク様。」



後に残された記録には、『不死鳥と黄金の竜により祝福を受けた乙女は、その後も国と領地に力を尽くし、愛する者と末長く幸せに暮らした。』と記されている。



今回で本編完結となります。

初めての投稿でしたが、読んで下さり有り難うございました。

評価頂ければと思いますので、宜しくお願いします。

また、今後番外編として、2章とする程ではない長さのお話と、その後のアシェルについてそれぞれ番外編で書こうと思います。

ゆっくり投稿ですが、そちらも読んで頂ければと思いますので、宜しくお願いします。


また新作の投稿を始めています。盛り上がるまで少々読み進めて頂かなくてはなりませんが、気長に気楽に読んで頂ければと思いますので、こちらも宜しくお願いします。

「闇の聖女は愛を囁く。」

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