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104 ある悲劇のヒロイン ④

誤字報告有り難うございます。


ダラム王国の王太子は、ルークの手によって簡単に討ち取られていましたが、そうやって亡くなった者達にもそれぞれ物語がある、という思いで書いたエピソードです。

泣きながらリュシェが小瓶の蓋を取る。

彼女が何をするのか予想出来た。

しかし彼女の手を弾こうとするも、身体は思うように動かない。

紅茶に入れようとしなかったのは、それが必要ないから。

おそらく身体の1部にでもかかれば、皮膚から浸透していくのだろう。


避けなければ·····。


リュシェは小瓶の中身をアウロラに向かって投げかける。

アウロラは少しでも避けようと、身体を横にして倒れた。


その刹那、目の前に光が走った。


コンコーン····、と小瓶が落ちた音がして、それと同時にリュシェの叫び声が聞こえた。


直ぐにリュシェの方へ目をやると、リュシェは手首を押さえ、その場に座り込んでいた。


何が起こったの?


アウロラは状況を確認しようと震える膝を叱咤しながら立ち上がる。


リュシェの瓶を持っていた手は、刃物で斬られていた。

小瓶の飛んだ先に、短剣が落ちていた。


これは·····。


「アウロラ様、大丈夫ですか?!」


護衛が身体を支えてくれる。

他の者達も皆、駆け寄る。


「皆さん待って下さい。小瓶から毒が撒かれています!」

「毒?!」

「皮膚に付着すると毒を接種してしまうかもしれません。私の指示に従って動いて下さい!先ず、何人かで大量の水を準備して下さい。あと、直接手で触れずに物を持てる、何か挟める物と、密閉出来る入れ物を持って来て下さい!」


そうアウロラが叫ぶと、リュシェの護衛と侍女は顔を真っ青にして、思わず立ち止まる。


「リュシェ様は手に怪我を負っておられます。綺麗な水を·····来るまでに傷口を塞ぐ様に、圧迫して下さい!ガゼボの後ろから回り込んで傍に行って下さい!」


皆、アウロラの指示に従い動き出す。


「どういう事だ?」


すぐ傍で声がした。

振り向くと、リュシェに鋭い視線を送るルークが立っていた。


「ルーク様·····。」


安心して思わず涙ぐむ。


「アウロラ、大丈夫?リュシェ殿が何か仕掛けようとしていると思って、思わず短剣を投げたが、正解だったみたいだね。」


何処から投げたのだろう?

リュシェは他国の公爵令嬢だ。

傷つければ、国同士の問題に成りかねない。

しかし、確認すること無く、躊躇することもなく、ルークが短剣を投げてくれたお陰で、かろうじてアウロラに毒はかからなかった。


「ルーク様、本当に有り難うございます。あのまま毒を受けていたら·····。」

「リュシェ殿がアウロラと接触してきたと報告があった。来て良かったよ。」


護衛に代わり、ルークはアウロラを抱えるようにして抱き締める。


「何の毒か分かる?」

「リュシェ様は記憶を失う薬だと。古代種の植物の種で出来ているそうです。皮膚に付いただけでも、接種してしまうかもしれません。」

「それをアウロラにかけようとしたのか?」


ルークの温度が下がる。

リュシェの護衛達は何も言うことが出来ず、立ち尽くしている。


「公爵様に知らせて参ります。」


リュシェの護衛の1人が城内へと駆け出す。


「こちらからも付いて行ってくれ。ワイアット様にも報告を。」

「承知しました。」


そうしている内に、道具が届き小瓶はアウロラによって慎重に回収され、保管しておく様に言い、騎士に渡した。

そして液がこぼれた辺りは、大量の水で流され、害の無いように薄められた。


アウロラは座り込んでいるリュシェの元へ行き、綺麗な水で血を洗い流し、持っていた携帯ポーチの中から、ナナイロオオトカゲの粘液で作った、皮膚の保護シートを傷口に貼り、治療した。


リュシェはその間、呆然としていた。


「····アウロラ様、教えて下さい。私はどうすれば良かったのかしら?」


治療が終わる頃、リュシェはポツリとアウロラに問いかける。


「亡くなられた王太子殿下のために、自ら命を捨てるような事は、なさらない方が宜しいかと。」

「ふふ····。彼の分まで残りの人生、楽しく生きればいいとか、彼は復讐なんて望んでいないとか、そんな事、聞きたくないわ。あの方は狭量な方だもの。そんな綺麗事は望んでいないわ。」


「王太子殿下の望みははっきりしているかと。」

「何?復讐?分からないわ。」

「リュシェ様と結婚する事です。」

「はっ、何を言っているの?生きている間でも許されなかったのよ?『亡くなったからいいでしょう?』とダラム王国やラトゥナ王国に直訴でもするの? そんな現実的でない事を言わないで!」

「もう、関係ないでしょう?」

「え?」

「亡くなられた今、誰の許可が必要なのです?結婚するかは、リュシェ様次第です。」

「私次第?」

「お話をお伺いするに、ご自身の地位を確立する為に戦争を仕掛ける程、リュシェ様を妻にしたかったのでしょう。例え自分が死んだとしても、リュシェ様が他の方の妻になるのは許せないのでは?王太子殿下のお気持ちをお汲みになるのなら、王太子殿下と結婚されるべきなのです。リュシェ様を自分だけの妻にしたいと、自分だけのものにしたいと王太子殿下が望まれていると思うなら。」


「······どうやって?どうやって結婚すればいいの?」

「もうしがらみは何もないはずです。誰の許可も必要ありません。唯一、形として神殿に行き、神に結婚を誓えば宜しいのではないでしょうか?」


アウロラがそう言うと、再びリュシェの目から大粒の涙が溢れる。


「ああそうね·····そうすればいいわね。そうすれば良かったのね。····教えてくれて有り難う、アウロラ様。」


リュシェはそう言って、微笑んだ。


「地下牢に連れていけ。」


ルークの指示でリュシェは連れていかれる。



「ルーク様、リュシェ様はどうなるのでしょう?」

「ラトゥナに引き渡せば、処刑か、拷問の上流刑地に送られるか。もしくはグリフォニアが身柄を確保するならば····。」

「身柄を確保?」

「ああ、ラトゥナ王国で力のあるソドゥリー家の令嬢が罪を犯したんだ。こちらに身柄があれば、証拠隠滅も出来ず、弱みを握る事になる。ソドゥリー公爵家は、このローヴェル王国で自身の新たな権力基盤を作ろうとしていたんだ。そんな弱みを握られた家と誰が親密になろうとする?この失態をラトゥナの中で、敵対している貴族に知らせれば、ソドゥリー家はお仕舞いだ。」

「それなら·····。」

「まあ、この事は国王陛下にも伝えられる。判断はそちらに委ねる事になる。」

「そうですか·····。」


「アウロラ、どうして彼女の事を心配するの?アウロラに毒をかけようとしたんだろ?」

「確かに許せないのですが、何となく、人の恨みは、この世界に溜め込まない方がいい気がして。その気持ちが少しでも和らげば、次の悲劇は防げるのではないかと。」

「アウロラは面白い事を考えるね。そうか····。でももし、アウロラがあの記憶を失う薬を受けてしまっていたらどうする?」

「例えルーク様を忘れても、また恋する自信はあります。ただ、ルーク様との思い出が、漸く結婚までたどり着けた、これまで積み重ねてきた大事なものが、消えてしまうのが辛いです。だってここまで来るのに多くの方に支えられたんですもの。」


何かを思い出してか、涙しながら話すアウロラをルークは優しく抱き締めた。


「そう、俺たちには積み重ねてきたものがある。簡単に失う訳にはいかない。」


そう言って、アウロラの涙が収まるまで、ルークは抱き締めていたのだった。



「どういうつもりだ?ルークの側妃にする思惑で連れてきたのではなかったのか?」

「ええ、その通りです。小瓶の中身が毒など、何かの間違いでは?」


報告を受け、クリストファー·ソドゥリーはワイアットに別室に呼び出されていた。

動揺を隠そうとしているが、その顔色は蒼白だった。


「取り敢えず、リュシェをお引き渡し願いたい。自国に戻り、厳正に処罰致しますので。」

「リュシェ殿は、先の戦いでルークが討ち取ったダラム王国の王太子への恋慕を語っていたらしい。そうなると、ルークの妻になるアウロラを害する事で、復讐をしようとしていたと考えられるが?」

「それは私は知らない話だ。」

「とにかく、これはラトゥナ王国とローヴェル王国との盟約に対する反意と捉えざるを得ない。最近我がローヴェル王国内の領主達と、頻繁に接触しているのも、こういった思惑からだろうか?」

「そのようなことは!」

「はっきり申し上げると、ラトゥナ王家が、いくら王妃の実家とは言え、今回の失態を罰することなく、このまま貴殿と深い関係を持つようなら、ローヴェル王国として、ラトゥナ王国との関係を見直さざるを得ないという事だ。。ラトゥナ王国側がどんな判断をするか楽しみだ。よって、リュシェ殿の身柄はこちらで預からせてもらう。また王宮から指示があるまで、貴殿の身柄も拘束させてもらう。」

「何だと?」

「当然の判断だとおもうが?部屋へお連れしろ。」


こうして、ルークとアウロラの結婚式の2日前に、ラトゥナ王国側の使者としてグリフォニア領来ていたクリストファーとリュシェは拘束される事になった。


その後、リュシェはローヴェル王国預かりとなり、ラトゥナへ帰される事はなかった。


暫くリュシェは処分が決めるまで、グリフォニア領の地下牢に幽閉された。

そんなある日、グリフォニア領の神官がリュシェのいる地下牢に現れた。

そしてリュシェは神官から1枚の紙を渡される。


「アウロラ様から話は伺いました。あなたが望むなら、そちらにあなたの名前と、お相手の方の名前をお書き下さい。そして神に誓えば、ここローヴェル王国で、結婚した事になります。」


リュシェは手元の紙を見つめる。

そこには神殿の名で、結婚を認める内容が書かれていた。


「そうなのですね。····これで私達は漸く夫婦に。」


この時のリュシェの表情はとても柔らかで、穏やかだったそうだ。



読んで下さり有難うございます。


次回で本編完結となります。

また、今後番外編として、2章とする程ではない長さのお話と、その後のアシェルについてそれぞれ番外編で書こうと思います。

そちらも読んで頂ければと思いますので、宜しくお願いします。

また新作の投稿を始めまています。はじめ、盛り上がるまで少々読み進めて頂かなくてはなりませんが、気長に気楽に読んで頂ければと思いますので、宜しくお願いします。

「闇の聖女は愛を囁く。」

https://ncode.syosetu.com/n8936ib/

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