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101 ある悲劇のヒロイン ②

ちょっとルークが男子な回です。

「王太子殿下、失礼致します。」


パーティー会場から一旦離れ、別室にて行っていた会合を終え、再びパーティーに戻る途中、給仕の格好をしたトーマスが現れた。


「どうしたトーマス、何か会場であったか?」

「はい、ラトゥナ王国の王妃弟であり、宰相補佐でもあるクリストファー·ソドゥリー公爵令息がルーク殿と接触しました。」

「歳の離れた異母妹を連れて?」

「はい。祝いの乾杯を勧め、その際ルーク殿のグラスに媚薬を盛ったようです。」

「媚薬?給仕した者は捕まえた?」

「はい、地下牢に入れています。ダラム王国の手の者です。」

「ダラムの?····ソドゥリーとの関係は?」

「別の者が尋問中です。」

「そう。で、ルークはどうしてる?」

「媚薬に気付き、早々に話を切り上げ会場を出て、アウロラ嬢の元へ向かいました。ですが、会場を出た所で例のソドゥリー家の末の妹であるリュシェ殿に呼び止められ、どうやら媚薬の解毒剤を勧められた様です。」

「媚薬を盛ったのは彼女か?」

「話が聞こえた範囲では、彼女のグラスにも媚薬が盛られていたそうで、それがダラム王国の媚薬だと分かったそうです。以前同様のものを盛られた経験があるそうで、解毒剤は護身用で持っているようでした。」

「本当に解毒剤なのか?」

「ルーク殿も怪しんでおられました。結局受け取っていません。そのやり取りをしていた所、化粧室から戻るアウロラ嬢と合流しました。」

「だそうだ、セオドア。」

「まあ、アウロラなら大丈夫でしょう。」

「はは、早速あの薬の出番か。先程もらった、セオドアが開発し、アウロラが改良した薬。」

「はい、何故か学園在籍時代に媚薬を盛られそうになる事が多かったので。苦肉の策ですね。」

「セオドアは顔がいいからね。セオドアと関係を持とうと、高位貴族から平民まで幅広くモテていただろう?ホーヴェット家が夜会に参加しないのは、それが理由でもあるんだろう?」

「まあ、はい。アウロラが改良したのは、媚薬による心臓への負担を減らす効能をより上げるものです。グルーバー様が盛られた媚薬がかなり身体に負担になるものだと知ったからで····すみません。」

「いや、アウロラの気遣いが嬉しいよ。今日もらったこの薬は肌身離さず持っていると伝えてくれ。」


セオドアの話を聞いて、アシェルは目元を緩める。


「それでこの薬の名前はつけたのかな?高位貴族には売れそうだが。」

「あ、はい。アウロラ曰く、『賢者の雫』とか····。」

「くっ····賢者ね。それを服用したら、恐ろしく冷静になるんだろうね。ルークの反応が楽しみだ。」



「ルーク様っ。」


俺が媚薬を盛られたと聞いて慌てるアウロラは可愛い。

この場合はどうしたらいいのか、と考えあぐねているエリナ嬢を大丈夫だと目で制し、休憩室へとアウロラを誘う。

思った程の媚薬の効果は出ていない様に思う。

ただ、ただでさえ我慢してきたアウロラへの想いが成就したこの日、こんな薬を盛られて抑えられるはずもなく。

結婚前だとか、そういった考えが完全にどうでもよくなっている自分がいる。


「ルーク様、テラスへ行きましょう!」


え?テラス?

そうか·····アウロラの意外な一面を見た気がする。


「俺はどこでも·····。」


そう言って微笑めば、アウロラは顔を真っ赤にして、この場面を、ルーク様のお顔を絵に残したい····と呟いている。


「安心して下さい。私はいいものを持っていますから。」


赤らめた顔のまま、震える声で俺に告げる。

いいものって何?


テラスに着き、カーテンを引く。

こうすれば誰も入って来ない。

アウロラの方を振り向くと、アウロラは胸元から小瓶を取り出していた。


「これは兄の作った薬を改良して作った薬です。身体に負担が少ないんですよ。」


満面の笑みで話すアウロラ。


「薬って解毒剤?」

「はいっ。」

「そうか·····。」

「どうぞ早く飲まないと。」

「うん、そうだね。」


そうだよな····。


アウロラから小瓶を受け取り、一気に呷り目を伏せる。

飲んだ先からスーと熱が下がっていく。

高まっていた気持ちが落ち着いていくのが分かる。

目を開くと、目の前に目を輝かせたアウロラがいる。


可愛いな。


「どうですか?気持ちは落ち着きましたか?」

「ああ、媚薬は解毒出来たみたいだ。この即効性凄いね。」

「頑張りました。名前は『賢者の雫』です。」

「『賢者の雫』····ああ、そうだね。賢者の様に冷静になれるよ。本当に·····。」


いや、ホーヴェット家の優秀さを忘れていた。


「何かあった?」

「え?はい····身体に支障が出る程の強い媚薬を盛られた方がいて。強い媚薬は心臓に負担が掛かるんです。強い薬に強い効能は身体を壊してしまうんです。それを何とかしたくて。まだ改良の余地はあると思うんですが。」

「グルーバー公爵令息の為に?」

「はい·····色々ありました。」

「そう····。とにかく座ってゆっくり話そう。」


アウロラをテラスの長椅子に座る様に促す。

手を引き、そのまま膝の上に乗せて座った。

アウロラは恥ずかしながらも、身を委ねてくれる。


「何から話そうか····。色々な事がありすぎて何から話していいか分からないな。ただ、まずグリフォニア領で俺の命を助けてくれて有難う。アウロラがいなければ助からなかっただろう。命の恩人だ。アウロラが医療団として来ていたのを知ったのは、アウロラが帰った後だった。」

「あの·····『英雄』の称号授与おめでとうございます。褒賞は私との婚姻を望まれたと聞いたのですが、本当に私で良かったのですか?」

「勿論。どうして?」

「ルーク様を望まれる方は多いです。」

「アウロラ·····俺は正直、婚約解消をした時、情けない事にアウロラを諦めたんだ。王家の命は絶対だ。ワイアット様が勧める令嬢と婚姻するのだと思っていた。苦しかったよ。自分の力の無さを痛感した。王太子殿下から話は聞いたかな?君が王家に守られるべき存在だという事を。」

「はい。知ったのは、つい最近です。古代種の保護を安易に考えていました。」

「アウロラをグリフォニア領に連れて行けなかった理由はそれなんだ。だから心のどこかで、何者にも負けない力を手に入れたかった。グリフォニア領はその点良かった。常にダラム王国との戦闘があったからね。本気で強くなる鍛練をした。それに戦っていれば全てを忘れる事が出来たから。そしてダラム王国との戦いに勝ち、『英雄』の称号を手に入れた。その時、ワイアット様から言われたんだ。アウロラを望んでもいいのではないかと。王家に対して、ワイアット様が圧力を掛けてもいいとおっしゃってくれた。」

「ワイアット様が?」

「ああ。王家の決めた事に物を言うと言うのは、反意を示した事。王家に対しての印象は良くない。ただ今回、アウロラが誘拐され、それを俺の手で救出した事は大きかった。自ら、アウロラを困難な状況でも守れると示したようなものだから。だから、そこを突いた。結果希望が叶い、アウロラを娶る事が出来る。但し条件付きだけど。」

「条件?」

「古代種は連れていけない。代わりにアウロラを半年毎に王都に滞在させる事が決まった。」

「半年毎に?」

「ああ、子供が出来れば、その限りではないが。」

「そうなのですね。·····分かりました。それと、もう1つ聞きたい事があって·····。」

「何?」

「あの·····マーガレットさんとはどういうご関係ですか?」

「マーガレット?」

「はい。ルーク様がシルバーのペンダントをお渡しする位の方です。それに·····。」

「何?」

「あの·····毒で意識を失っていた時、口づけをされました。マーガレットさんはルーク様の事を愛していらっしゃると思います!」


言ってしまったとばかり、アウロラは手で顔を覆いう。


マーガレットが?

嘘だろ?アウロラはそれを見たのか?

はぁ、何て事だ·····。


ルークは片手で顔を覆う。


「そうか·····何て言っていいか、すまないアウロラ、そんなことをされていたとは気付かなかった。それからアウロラからもらったペンダントをマーガレットに預けた事を知ったんだね。それでアウロラはマーガレットに自身のペンダントを渡したんだ。」

「はい。」

「俺はルイーズの監視役を命ぜられていた。今後一切王家と関係を持たせない様に。マーガレットには神殿でルイーズを監視してもらう様に頼んだ。しかし結局あちらでもルイーズを信奉する輩が増え、マーガレットはルイーズを牽制していた為に、その者達と衝突してしまい、命を狙われるまでになってしまった。一番関係が悪化していた所でダラムとの本格的な開戦となった。マーガレットはその頃、食事に毒を盛られる事を恐れ、食事をまともに取らなくなっていた。それでダラムとの戦いが落ち着くまであのペンダントで確認して食べる様に勧めたんだ。勿論返してもらうのを前提で。マーガレットは勘違いしたんだな。別の方法を考えれば良かった·····。裏切られたと思った?」

「裏切りだとかは·····ただマーガレットさんがルーク様にとって、特別な存在になっているのだろうと····。マーガレットさんにペンダントを見せられ、咄嗟にそれをルーク様に返して、代わりに私の物を使う様に言って渡したのは、完全に私の嫉妬心からです。」

「嫉妬してくれたの?」

「····はい。」


アウロラの頬にそっとルークの手が伸び、優しく撫でる。

親指でアウロラの口唇をなぞる。


「俺はマーガレットに口付けられた。アウロラは誰かに口付けられた?」

「えっと·····あの·····。」

「····そうか。」


2人の間に沈黙が流れる。


「アウロラ·····上書きしていい?俺の感触を思い出して。」

「ルーク様·····。」

「アウロラ、愛している。俺の唯一だ·····。」


ルークはそう囁き、アウロラの口唇を優しく数度食む。

そしてルークの熱を絡ませる様に、深い口付けをするのだった。




「お待ち下さい。ルーク様に媚薬を盛られたのですか?」


アウロラとルークが立ち去った後、残されたエリナとリュシェは気まずい雰囲気の中、対峙していた。


「····いえ、私も盛られたのです。幸い解毒剤を持っていましたので、そちらをルーク様にも差し上げようと思い、お声がけさせて頂きました。」

「そうでしたか、失礼しました。再び婚約者になるアウロラ·ホーヴェット伯爵令嬢は、薬師でもありますのでご安心下さい。」

「そうですか。ホーヴェット家の医療団のお話は我が国にも届いておりますわ。心配には及びませんでしたね。」

「私はエリナ·ロッシュと申します。先程おりましたアウロラ·ホーヴェットとは従姉妹になります。貴方様がお気遣い下さいました事、後程お伝え致します。有難うございました。」


エリナはそう言って、美しい(カーテシー)をする。


「私はラトゥナ王国のリュシェ·ソドゥリーと申します。今回の事は色々と誤解を受けているようですので、グリフォニア様には、後日あらためてご挨拶に伺うとお伝え下さい。では失礼します。」


リュシェはそう言い、パーティー会場に戻って行った。




「エリナ、大丈夫か?」


リュシェの背中を見送っていると、給仕の格好をしたトーマスが現れ、エリナに話しかける。


「トーマス、今日はこのパーティーの給仕の仕事をしていたのね。」

「ああ、家から納品している物があるからね。確認も兼ねてだ。それで先程のご令嬢だが、何かあったのかい?」


トーマスに問われ、エリナは事の次第を話す。


「そうか、ラトゥナのね·····。それで後日挨拶に行くという事は、まだ接触を図ろうとしているのかな?」

「みたいね。何だか、ただならない感じの方だわ。

アウロラ達の障害にならなければ良いけれど····。」


エリナはリュシェのいなくなった廊下を見つめながら、そう呟いた。

読んで下さり有難うございます。


この作品がエンディングに差し掛かる中、新作の投稿を始めました。はじめ、盛り上がるまで少々読み進めて頂かなくてはなりませんが、気長に気楽に読んで頂ければと思いますので、宜しくお願いします。

「闇の聖女は愛を囁く。」

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