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100/112

100 ある悲劇のヒロイン ①

「とても美しいですわね。」

「ああ。あの者はホーヴェット家の令嬢だそうだ。何でも今回の褒賞にルーク·グリフォニア公爵令息が彼女との婚姻を望んだらしい。元婚約者同士だったそうだが、彼女の事を忘れられなかったのだろうな。ローヴェルの国王からは、褒賞に望む程だから、水を差す様な事はするなと言われたが。まあ確かにあの美しさなら納得するな。月の女神のようだ。確か、アリーチェの結婚式の際のパーティーで、グルーバー公爵令息がエスコートをしていた記憶があるが。」

「まあ。高位貴族の方とのご縁が多い方なのですね。お上手なのかしら?」

「ホーヴェット家となると、医薬学の研究に熱心な家柄だろう。何でもグルーバー公爵令息の治療にあたっていたとか。見目だけではない、かなりの実力者らしい。どうだ?ルーク·グリフォニアは落とせそうか?」

「そんな言い方は止して下さい。でもそんなにあの令嬢に熱心でいらっしゃると伺うと、興味が湧きますわ。今日はお二人とも気持ちが高ぶっていらっしゃるでしょうから、私は相手にされないでしょう。ご挨拶だけさせて頂きますわ。」


2人はゆっくりルークとアウロラに近づいていく。



ルークとアウロラは結局3曲踊った。

皆から微笑ましい眼差しで見守られながら、2人は幸せを噛み締めていた。

その後、両陛下に挨拶に行く。

ルークはあらためて労いの言葉とお祝いを言われた。

アウロラも緊張しながらも、国王から婚姻を認めた話を聞き、漸くルークからのプロポーズの言葉に実感が持てるようになっていた。


「グリフォニア公爵様はお出でになっていらっしゃらないのですか?」

「いや、先程ディセック教授、ミュラー教授、そしてエイダン様と別室で話す事があると言っていた。おそらく王太子殿下やグルーバー公爵令息様も一緒だと思う。話が終われば会場に戻って来られるだろう。」

「そうなのですね。是非挨拶をさせて頂きたいです。」

「そうだね。私もアウロラと色々話したい事がある。テラスにでも行こうか。」

「はい。」


「あの、ルーク様、その前にアウロラを少し宜しいでしょうか?」


2人の後ろに控えていたエリナが声を掛ける。


「アウロラも嬉し涙で少し目元が赤くなっていますので、少し冷やさせて頂いても宜しいでしょうか?」

「エリナ、ありがとう。確かに少し目元がヒリヒリするかも。それにお化粧もきっと乱れているわ。ルーク様、少しだけ失礼しても宜しいでしょうか?」

「私も行こうか?」

「ルーク様、私がついて行きますので、どうぞこちらでお待ち下さい。必ず無事に連れて戻って参りますので。」

「エリナ嬢、すまない。ではここで待っているよ。アウロラを宜しく頼む。」

「はい、お任せ下さい。」


エリナは満面の笑顔で応える。

アウロラとエリナはそのまま化粧室へ向かった。


2人が離れると、ルークと何とかして話そうと、人々が詰めかけてきた。

ルークとダンスを望む令嬢も多く現れ、それをルークが上手く躱していた所で、ある人物に声を掛けられる。


「ルーク·グリフォニア殿。お初にお目にかかる。私はラトゥナ王国で宰相補佐をしているクリストファー·ソドゥリーと申す。ラトゥナ王国王妃の実の弟でもある。以後お見知り置きを。この度はダラム王国との戦いを勝利に導いたルーク殿に『英雄』の称号授与のお祝いを申し上げる。」

「有難うございます。」


ルークはそう言い、頭を下げる。

これが国王が話していた人物かと警戒する。

ルークにとってはアウロラを漸く手に入れる事が出来た特別な日だと言うのに、邪魔が入ったと苛立ちを覚える。


「実はルーク殿に紹介したい者がいるのだが。」


そう言ったクリストファーの後ろから進み出たのは、線の細い、波打つ金茶の髪の色の美しい女性だった。

丸みのある目に長い睫毛とそこから覗く飴色の瞳は、まるで人形の様な可愛らしさがある。


控えめな笑みで、ルークに向かい静かに美しい(カーテシー)をする。

周りで見ていた者達は「ほぅ」と思わず感嘆のため息をもらす。


「私の妹のリュシェです。歳が離れていますが、我が姉で現ラトゥナ王国の王妃の妹でもあります。本日は妹が是非ルーク殿にお礼を申し上げたいと言うので、式典に連れて来ました。」

「お礼?」


ルークは表情を一切変えず問う。


「実はリュシェは一時期ダラム王国にいたのです。その際、ダラム王国の王太子の目に留まり、側妃の1人として王太子の元に上がる事を望まれていました。ただあちらの後宮はいい噂を聞かないもので、こちらとしては人質に出すに等しい話で困っていたのです。そんな時に、こちらのローヴェル王国と開戦し、ルーク殿が王太子を討ち取られたので、当然側妃の話はなくなりました。」

「彼のお方の執心は恐ろしいものでした。私の婚約者が早世したのは、彼の方が手を回したと噂されたものです。ですから、ルーク様の今回のお働きにより、私は命を救われた様なものです。心より御礼申し上げます。」


そう言ってリュシェは再びルークに向かい(カーテシー)をする。

様子を伺っていた周りも、その話を聞きリュシェに対し、温かい眼差しを向けている。


「本当に彼方に嫁いでいたら、どんな目に会っていたか分からない所でした。我らの大事な妹をお助け下さったルーク殿に、是非妹とダンスを1曲踊って頂きたい。」


敢えて事の次第を周りに聞こえるように話すクリストファーに、ルークは違和感を覚える。

しかし皆、新たに聞こえる異国の令嬢を救った『英雄』の美談に盛り上りを見せる。


「それは私が意図して行った事ではありませんので、礼には及びません。どうぞお健やかにお過ごし下さい。」


ルークはそう言って、リュシェとのダンスを回避する。

実質ダンスを断ったルークに、クリストファーは僅かに眉をひそめる。

リュシェも一瞬驚くが、ルークの意を汲んでか微笑みで応える。


「申し訳ありません。喜びのあまり、いささか強引なお願いでしたわ。今宵はグリフォニア様にとって特別な日。邪魔する意図はございません。ですが、今後何かございましたら是非恩返しさせて頂ければと思います。これからもどうぞ宜しくお願いします。」

「そうだな。婚約者殿と仲睦まじい所失礼した。だが折角なので、祝いの乾杯を共にさせて頂こう。」


クリストファーはそう言って、近くの給仕を呼び、グラスに入ったワインを勧める。

さすがにルークもそれを断る訳にはいかず、クリストファー達とグラスを合わせ乾杯した。


1口目で感じる違和感。

毒か?

ああ、これは····。


乾杯のグラスを空けない事は不敬となるが、仕方がない。

クリストファーはグラスを空けていた。

気づいていないのだろうか?

いや、俺だけに仕掛けられたか。


「グリフォニア様·····。」


か細い声に目を向けると、リュシェが顔を青くしてルークを見ていた。


「これは····飲まれない方が····。」


周りに聞こえない様に声を落としてルークに告げる。


彼女も気づいた?

彼女も盛られたのか?


「少しリュシェ殿の口には合わない味のようだ。」


ルークはそう言い、自身のグラスと共に給仕に下げさせる。


「ルーク殿、如何した?」


グラスを空けなかったルークに、クリストファーは怪訝な表情を見せる。


「お兄様、少しこのワインの味が苦手でしたの。それをグリフォニア様が気遣って、共に残して下さったのですわ。お気になさらないで。」


リュシェはルークが不敬に見えない様に、話を合わせる。


「ソドゥリー殿、少し連れが遅いので迎えに行かせて頂きます。お祝い下さり、有難うございました。失礼致します。」


ルークはそう言い、その場を離れ、会場を出て、アウロラの元へ向かう。



あまりこの手の薬に耐性はないが·····おそらく即効性のものだろう。

媚薬か·····。

既に身体が熱くなってきているのが分かる。

ソドゥリーが仕掛けたのか?

彼女にも飲ませていたという事は、そういう関係にさせようとしてか·····。

おそらく薬の効果が出るまで話を引き延ばすつもりだったか。

薬の効果が出たとして、あの女と直ぐに関係を持つとは思えないが、どういうつもりなのか。



「グリフォニア様、お待ち下さい!」


会場を出て、化粧室の方へ向かうルークに、後ろから追って来たのだろう、リュシェが声を掛ける。


「お身体は大丈夫ですか?」


急いで追って来たのだろう、呼吸が乱れていた。


「グリフォニア様の飲み物にも何か入っていたのですよね?私のものにもです。あれはおそらくダラム王国でよく使われていた媚薬ですわ。」


ルークは立ち止まり、疑いの眼差しを向ける。


「よくご存知なのですね。」


「ラトゥナの人間を疑っていらっしゃるのですね。私も盛られましたし、同じ被害者ですわ。おそらく互いの信頼を損なわせようとする者達の仕業です。」

「貴方も媚薬を口にしたのなら、互い離れていた方がいいでしょう。」

「あ····私は大丈夫です。実は解毒剤を持っております。直ぐに飲みましたから大丈夫です。私が追って参りましたのは、その薬をお渡ししようと思い····。」


リュシェはそう言い、懐から薬の入った小瓶を取り出す。


「こちらを直ぐにお飲み下さい。でないと、もしダラム王国の媚薬なら、そのうち意識が朦朧となり、自制が効かなくなるかもしれません。」

「それも媚薬の可能性は?」

「え?」

「さらに薬を煽ったら、それこそどうなるか。誰かを襲いかねませんよ。」

「ですが、このまま放っておくのは。どうぞ私を信じて下さい。」


そう言ってリュシェは涙目になる。

ひと通りの少ない通路であるが、人の目が無いわけでもない。

見目の良い2人が話す姿は目立つ。

通りすぎる人達は、ルークとリュシェの様子に何かあったのかと勘繰っているのが分かる。

下手に会話を長引かせれば噂されてしまうだろう。

それを狙っているか?

媚薬を盛られたなら、選択肢は1つだ。



「ルーク様?」


その時、エリナを連れたアウロラが化粧室から戻って来ていた。

ルークとリュシェの話す様子に驚く。


「アウロラ·····。リュシェ殿、私の救世主が戻ったようだ。こちらで失礼する。」

「あ·····ルーク様。」


リュシェは尚も引き留めようとする。

それに構わずルークはアウロラの元へ向かう。


「ルーク様、何か大事なお話があるのでは?」

「いや······。」

「ルーク様?」


どこか妖艶な雰囲気で、且つやけに熱い眼差しでアウロラを見つめるルークに息を飲む。

目の前で立ち止まると、ルークはアウロラを優しく抱き締め、首もとに顔を埋める。


「ル·ル·ル·ルーク様?」


いきなりの抱擁で動揺するアウロラ。


「アウロラ·····どうやら薬を盛られたらしい。」

「え?ど、毒ですか?」


アウロラの背中に冷たいものが走る。


「ああ、そう····媚薬だ。」

「え?媚薬?それは····」

「そう····身体が熱い。アウロラ、助けてくれる?」


そう言ってアウロラの首もとから顔を起こしたルークの艶のある表情を見て、アウロラは昇天しそうになるのだった。



読んで下さり、有難うございます。

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