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1 私の婚約者

初めての投稿です。

宜しくお願いします。

 

 星のかけらを集めた様に煌めくシャンデリア。


 耳に心地良い演奏と薔薇の甘い香り。


 若き紳士、淑女の集う舞踏会で、一際目を惹く一組のダンス。


 女性の蜂蜜色の見事なブロンドの巻き髪は、ターンする度に軽やかに舞い、水晶のような淡い水色の瞳は、一度目を合わせれば、きっと心を奪われるであろう。

 恐ろしく整った顔に透き通る様な白い肌、そして真っ赤な口唇。

口唇と同じ深紅のドレスには、金糸の刺繍がふんだんに施されており、身に付けられた髪飾りをはじめとする黄金の装飾品と相まって、彼女自身が一つの宝飾品の如く輝いていた。


 共に踊る男性も整った容姿だが、目立つ事はなく、ただ彼女を引き立てるだけの存在と化している。


 可愛らしいお姫様ではない。彼女はまさに場を支配する女王の様だった。


 人々の羨望の眼差しが彼等に注がれているその場から身を隠すように、窓際のカーテンの影から、私はそっとその様子を眺めている。

 込み上げる思いを息を止めて押し殺し、涙を流すのは今ではないとひたすら我慢し、ダンスが終わるのを必死に耐え待っている。

 そして愛しい貴方に、私の最後の姿を焼き付けて貰うその機会を、今はただ息を潜めて待っている。



  ◇◇◇



 皆様、はじめまして。私の名前はアウロラ ⋅ ホーヴェットと申します。

 私の住むローヴェル王国は、かつて隣国ダラムと戦争状態になり、特に国境での戦いは、類を見ない苛烈なもので、壊滅した村は数知れず。多数の死者と負傷者を出す結果となりました。

 その際、医師であり、薬師でもあった私の祖父をはじめとする我が一族は、多くの医師が離脱していく中、最後まで力を尽くし、勝利に貢献したそうです。

 そしてその功績を認められ、男爵位を賜り、小さな領地持ちとなりました。

 そんな家に生まれた私も、物心ついた時から、特に薬学に興味を持ち、家業を手伝いつつ、日々薬効を求め、薬草探しと調合に明け暮れております。


 子供ながら、薬学は私の恋人、なんて勘違いに浸った事もあった私が13歳になった頃。親が突然私に婚約話を持って来たのです。


 私が婚約?この歳で?

 

 確かに、王族をはじめとする高位貴族は、政略結婚のため、10にも満たない歳から婚約するのはよくある事。


 でも私ですよ?


 婚期が遅くなっても気にしない、田舎の典型的な研究バカ一家が、どんな意図があって私に政略結婚?

 もしかして、新たな研究機材製作や素材に膨大なお金がかかって、その資金調達のため、娘をどこぞの資産潤沢な家に身売りさせるのでしょうか?

 国直轄の騎士団をはじめとし、各領地お抱えの騎士団にも医薬品の販売の顧客を持つ我が家は、そこまでお金には苦労してはないと思っていたのに。

 

 そして ···

「お久しぶりですね、アウロラ嬢。」


 今日は顔合わせという事で、お相手のペータース子爵家を訪れています。

 馬車が屋敷の前に停まり降りると、私の婚約者となる予定のルーク ⋅ ペータースその人が、柔らかい微笑みを浮かべながら迎えてくれました。

 彫りが深く、目鼻立ちがはっきりしたキラキラ王子様という感じではありませんが、切れ長の涼しげな目元にエメラルドグリーンの瞳。形の良い鼻に薄い口唇。才能を見込まれ、10歳で王都の騎士団見習いとなり、日々屋外で鍛練に励んでいるとは思えない肌の白さ。そして肩下程の、癖のないストレートのプラチナブロンドを後ろで一つに結んでいるその姿は、まさにそう、美男美女が多いとされるエルフの様。エルフは約2000年程前にこの世界から姿を消したと言われていますが、彼のこの美しさはそのエルフの血を受け継いでいるのではと思う程。

 微笑む表情はどこか儚げで、これはもう一目惚れしないはずはありません。


 あっ、でも一目惚れではないですね。


 彼の父、ペータース子爵が治める領地は、我が家の隣の領地。

 私には6歳と4歳年上の兄がいるのですが、この2人の兄は時々父に連れられ、子爵領に遊びに行っていた様に思います。

 私がルーク様に会ったのは、確かルーク様が騎士見習いとして王都に発つ前の約5年前。彼が10歳で私が8歳の頃。

 その時もその美しさに見惚れてしまったのですが、今はあの頃より背はぐんと伸び、太さは感じさせず、ただその立ち姿に見てとれる筋肉の張り。


 あの腕に抱きしめられたなら ···


 やだっ、私はまだ13歳なのに何考えてるのっ。

 顔に一気に熱が集まり赤くした私を見て、彼は口元を緩めました。


「た、大変ご無沙汰致しております。本日は宜しくお願いします。」


 動揺まるわかりの挨拶にルーク様はさらに笑みを深め、そっと手を差し出しました。

 私はこわごわその手に触れると、ルーク様は優しく握り、屋敷内へと私をエスコートして下さいました。



 互いの両親とルーク様と私。美味しそうなお菓子が並べられていますが、私の脳内はそれどころではなく。

 やがて、お決まりの様に子爵夫人より、2人で庭を散策するよう提案されました。


 春先の柔らかい日差しにルーク様のプラチナブロンドが輝き、その日着ていた騎士服の白さと相まって、その存在は光に溶けてしまいそう。


 「アウロラ嬢は、とても美しくなりましたね。」


 私がルーク様との尊い空気を堪能していると、不意にそんな言葉が投げ掛けられました。


 「えっ、私がですか?」


 今日の私は、少し波打つクセの亜麻色の髪を両サイド編み込み、ベージュのリボンで後ろに纏め、後ろの髪と共にながす、いつもより手の込んだスタイル。リボンと同じベージュのドレスは、所々リボンとレースで装飾されていて、母と叔母が気合いを入れて準備してくれました。

 顔立ちはどうでしょう ···

 グレーがかった目に、まぁ色白な方でしょうか?全体的に色素が薄くぼんやりした感じと言えばいいでしょうか?


 「確かに今日はルーク様とお会いするので、気合いを込めておしゃれしてきました。」


 と、直球で返答しました。

 ルーク様は少し驚いたように目を見開いていらっしゃいましたが、その後とても嬉しそうに、微笑んで下さいました。


 「それに私以上に、その ···ルーク様は先日騎士団見習いから正式に団員になられたと伺いました。その若さで入団されるのは極わずかだと伺っております。

 それでその ···今お召しの騎士服がとてもお似合いで ···ルーク様のお美しさと相まって、もう、もう美し過ぎて ···私、倒れてしまいそうです。」


 と、拙く、まとまりなく、ただ思いをつらつら口にする私を見て、とうとうルーク様には口に手をあて、肩を震わせながら笑われてしまいました。


「貴女は美しくて、可愛らしいのですね。」


 そう返された私は、嬉しさと恥ずかしさで昇天したのでした。


 

 そんなこんなで、終始顔合わせは和やかに進み、両家は正式に婚約する事になりました。


 その日からの私の浮かれよう。


 家族は、頭の中お花畑になった私を「とうとう、薬学はそっちのけになってしまったのか」と心配していましたが、皆、私を見くびらないで欲しいですわ!

 ルーク様が騎士団に所属するという事は、ケガ、そして感染症にさらされるという事。

 愛しのルーク様が苦しむ姿を想像しただけで胸が張り裂けそう。

 その思いが加速し、これまで以上にその分野への研究意欲が掻き立てられることに。


 まずは消毒薬の開発。目指すはケガした患部を消毒しつつ止血も同時に行うもの。ただ消毒成分が強すぎると皮膚の再生が遅くなる事が分かり、より理想に近い有効的な物質を探すのに奔走しました。

 その結果、植物よりもある爬虫類が出す分泌液が皮膚再生に効果があると分かり、現在、もっぱらその物質を活用したものを開発、実用化に向け、日々研究に勤しんでいます。

 また、こんな医療道具があったらいいなと思うものを提案し、お抱えの職人達と相談の上、同時に開発している所です。


 ルーク様は、あの顔合わせの後、王都にもどり、王都にある王族や大貴族も通う、王立学園に入学されました。

 何でも学園内での第2王子の護衛になったとか。

 凄い! の一言です。


 そして、その夏の長期休暇の際、再び領地に帰省されたのを利用して、子爵領の教会で私達の婚約式を行いました。


 こうしてルーク様と私は、晴れて正式な婚約者となったのです。


 ふふふ ···本当に幸せです。





 ですがこの先、私とルーク様に婚約破棄する未来が待っていようとは、この時露ほども思っていませんでした。

 



 

 

読んで下さり、有難うございます。

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