第二話『妖魔降すべし』その三
警戒しながら、包囲の輪が狭まる。リンタロウはどうしようもなかった。まさか刀を抜いて手向かうわけにもいかない。おとなしく捕まるよりない。
縄を打たれることはなかったものの、厳しい包囲の中、鯨切と脇差を取り上げられてしまった。
連れて行かれたのは小さいお堂だ。中はかろうじてリンタロウがまっすぐ寝られるほどの狭さで、板敷き。窓はリンタロウでも手の届かないところに小さいのが一つ、格子がはまっている。隅にある壺のようなものは、用を足すための容器だろうか。
そこに入れられた。扉が閉じられて外から閂がかけられた。
扉には小さいくぐり戸のようなものがついているが、人間が入り込める大きさではない。何か物品をやりとりするためのものだろう。
まるきり牢屋だ。
まさかこんなことになるとは。顔には出ないが、実のところリンタロウはかなり焦っており、心中は混乱していた。
気にかかるのはピアのことだ。食い物屋に置いてきたままだ。今は先渡しした金があるからいいが、監禁が長引いた場合、また盗みを働いてしまわないだろうか。彼女自身にも金を渡しておくべきだったか。
リンタロウはお堂の中央に正座した。ぴしりと端座し、目を閉じる。意流の集中だ。混乱、焦りをそのまま認めて一つにする。
やがてリンタロウの体から力みが取れていく。それにつれて頭が冴えてきた。
ようやくここでリンタロウは思い出した。この寺に何をしに来たのか。
正座したまま声を張り上げる。
「誰かおられるか! こちらの寺にお渡しすべき物がある!」
ケガレクリスタルを持ってきたことをすっかり忘れてしまっていたのだ。
お堂の外には見張りがいるだろうと思い、しばらく待ったが、返事はなかった。なんの音も聞こえない。まるで世界から隔離されたみたいだった。
リンタロウは瞑想を再開した。事実、他に出来ることはない。
ゆっくりと時間が経っていく。何百回もの呼吸を繰り返す。
窓から漏れていた陽光はやがて力を失い、お堂の中は徐々に暗くなっていく。
とうとうほとんど暗闇となった。
日が落ちたのだ。
くぐり戸が開いて、お膳に乗せられた食事が差し入れられた。小坊主が持ってきたのだ。
リンタロウは今がチャンスと、
「門前町にピアという少女がいる。わたしの同道者だ。彼女のことを頼みたい」
ケガレクリスタルのことよりもピアのことを優先して伝えた。
小坊主からのいらえはなく、立ち去る足音だけが耳に届いた。
果たして、上の者に今のを伝えてくれるだろうか?
食事は麦飯に野菜のスープだった。量が少ないが、今の状況では食事が出るだけでも温情ということか。リンタロウは静かに食事に取りかかった。