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捜し物は…

ごきげんよう、また自分です。前回は歴史的なものについて少し語りましたが、今回からは、その他世界観情報も少しずつ墨を入れていきます、この異世界の全貌と後に出るベアトリスの活躍を楽しみにしていてくださいね(笑)。まぁそう言いても、次回は、心理活動を書いていく予定ですので、物語のペースが早すぎにならないように、ブレーキをかけるつもりです。また、読み甲斐があると感じて下さった読者さんも、周りにこんな感じの物語に興味を持てそうな方があるなら、是非拙筆を気軽に宣伝してください、はい。それでは、本文へどうぞ。

 「なぁ、ベアトリス」


 あれから一ヶ月が過ぎた。今、ベアトリスとクーゲルは邸内の空き地で、べロックスと狼型のモンスターにブラシで当てている。


 べロックスはこの世界の乗り馬、体格は前世のサラブレッドの倍。普段は収めるけど首に排熱用の薄膜がある故、その速度と耐久力も前世の馬と段違いで、時速百三十キロで一時間も走れる素晴らしい脚力とスタミナの持ち主である。


「何?」


「なんで皆、俺の手助けを拒むんだ?」


 クーゲルは大人しくなったが、身分を顧みない行動が多過ぎる、


「殿下は仮にも皇子ですわよ?雑用を任せられて噂になったらどうするつもりなんですか?」


「それは…っすまない、考えてなかった…でもここの役人たちは俺の噂をしてないし…」


「はぁ…」——ベアトリスは額を撫でため息をつけ、そして真顔で原因をクーゲルに説明し始めた


「ここはフラワル邸、殿下の噂をする命知らずはないと思いますけど、でも帝城では事が異なります。万が一、殿下が雑用を任されたことを言い訳に騒ぎを起こす貴族が出たらどうなるか、考えたことあるの?殿下が大人しくなっていただければ幸いですっ」


「あっ、っああ…」


「そう言えば、どうして殿下はいきなり手伝いを申し出したのです?」


「それは…っその…」


 人に笑顔を向けるところを見ると妙にうずうずする…自分が自分じゃないような…——この妙な感覚の正体は嫉妬、恋をした者であればみんな知ってる感覚。とは言えクーゲルはまだ恋を知らないので、変な感じだとしか言えないし、相手に変だと思われたくもないから正直に言えないのである。


 こうして空気が固まる中、スカートに血がついたアンナは慌てて駆けて来た。


「大変ですお嬢様!旦那様が血を吐いて…!」


「何ですって?今どこですか!?」


「寝室で横になってもらいました、奥様も居ます、お嬢様も急いでください!」


「すぐ行くわ!」


 屋敷へ駆けつけるベアトリスを見て、クーゲルは何かを決意した。


。。。。。。


「休んで休んでってあれほど言ったのに…!」


「すまない、俺が悪かったから、泣かないでくれ…」


 ジークフリートの寝室内、クラリスの目尻は心配の涙で赤くなり、対するジークフリートの顔は妻を泣かせた罪悪感で重苦しい。妻の頭を胸に引き込んで落ち着かせるところに、娘も扉をノックせずにパッと開けて駆けて来た。


「お父様ぁ!!」


 一緒に六年の時を送り、大切にしてくれた人に、昔の自分のように見える人に、感情の一つもない訳が無い。本当の家族とはまだ程遠いが、ベアトリスは既に相手を義父ちちと見做している。


「っああ、リズか、大丈夫だ、これしきすぐなおお゛ほっ!お゛ほっおほっ…」


「もういいジークフリート、先生が安静にしなさいって言ったでしょう。」


 娘を安心させるために起きようとしたが、体を上げ始めた途端から咳が停めらず、クラリスに押されて再び体を枕の背凭れにかけた。


「十六年で上げた成果はもう十分です、だから…もう休んでっ。」


 クラリスの言う通り、ここ三年でモンスター絡みの死傷者は統一戦争以前の3%未満になったしその殆どがハンターと守備兵、平民はもうモンスターの脅威に晒されていないと言ってもいい。戦後十六年間、各地で情報を統合するギルドを設け、軍とハンターの教官を務め、厄介なモンスターを討伐してきたジークフリートは紛れもなく英雄だ。


「理想のために死ぬ男の妻になっても、私は気にしないのっ…でもベルハイストのみんなはどうするの?父を一度失った彼らに、もう一度父を失う痛みを味わせるの…?ベアトリスに、彼らと同じ痛みを味わせたいの…?」


 嗚咽し始めたクラリスの感情に共鳴し、孤児だった侍者たちも涙をこぼした。クラリスは愛する夫を、彼らは義父を失う不安を抱いてここに。そんな中、決定的な一手を出したのはやはり英雄の娘


「お父様…っお願いです、どうか元気になってください…」——簡単な一言だけど、前世と今世の父への思いを詰め込んだ一言。


『旦那様、どうかお嬢様の願いを叶ってください!乞うしてお願いいたします!』——ベアトリスの言葉に深く動かされたように、アンナを含むベルハイスト達は一斉に跪いて頭をゆかにつけた


「ァ…」


 ベアトリスとこの場に居る全ての人の顔を見て、ジークフリートは息を大きく吸って、ゆっくりと吐けた。


「…わかった、一年間仕事から引いてじっくり休んでおくよ、子供達の初めてのわがままだからな…あはっ…」


「あなた……」「お父様…!」『旦那様…!』


 ジークフリートがきちんとした休養すると保証した後、みんなの顔はやっと解れるのだった。


 これで悪化を止められたらいいけど…食生活を改善したらよくなるかな…——ベアトリスが考えている中、又して慌てな声が立てた。


「一大事です領主様!殿下がべロックスに乗ってウーノス火山へ向かったとのことが!」——この報告が入って来たと共に、暖かくなって来た空気は今度凍り付いたように一瞬固まって、そして一瞬で爆発した。


「なんですってぇ?!」「何っ!」『えぇー?!』


 大人しくしてって言ったばかりなのにぃ…!あのバカ皇子、単身でエイペックス級モンスターの縄張りに行って何をしにぃ——みんなが一斉に悲鳴をあげる中、沈黙するベアトリスの中の怒りの炎はボウボウ燃え上がる


「急いで捜索隊を組まないと!……ッン、ッグゥ…!」


「待ちなさい、あなたは安静しないと!」


「しかし!」


 っんん…落ち着け私、怒っても事態は良くならない…——体調を顧みずに起きようとする父を見て、ベアトリスも一旦頭に登ってくる血を抑え、状況を分析し始めた


 何をしに行ったかは分からないけど、仮にも自力で全国を巡った者だから優秀なサバイバリストに違いない…あっそうだ、目撃は何時の事か聞いてみないと


「目撃したのは何時?殿下は全速力で走っていたの?」


「?」「リズ?」


 両親の疑惑の目に構わず、ベアトリスは入り口に立った騎士に問いかけた


「え?っえと……」——そんな事を聞かれるのを思い寄らなかったからか、騎士は少し考えた


「これは北関ほくかんの望遠台からの大至急の報告で、自分は報告を聞い途端すぐに駆けつけました、しかし殿下の速さまでは…」


「充分、待ってて」——騎士の言葉を情報に、ベアトリスは脳裏で計算し始めた


 北の関からベロっクスを全速力で走らせるなら十分内で屋敷に着く、最後にあいつを見たのは二十五分ほど前、屋敷の正門からここに着くまでの時間を考えると…あのバカは多分うちのべロックスを全速力で走らせている。


 そうなればウーノス火山に着くには二十分はかからないから、今頃あいつは火山周辺についたか。あの辺りは緑が多いから、もう火山をひっくり返すしかない…となれば人がたくさん必要だな、しかもエイペックス級モンスターの領地で捜索と自衛ができる者と来るとハンターしかない。捜索が長引く事を想定して物資もちゃんと支度しないと……よしっ——こうして、ベアトリスは胸の中で大体の計画を立てた。


「お父様、私に行かせて」


『お嬢様?!』「リズ?!」——ベアトリスの言葉を聞いて役人達もクラリスも茫然し、そして驚愕で又の悲鳴を上げた


「安心してください、まだ改善の余地がありますけど、計画は既に立てています——」


 そして少女は人手の募集、食料の調達、追跡の方法、準備の時間、モンスターへの対処、捜索隊の規模などもろもろ、自分の計画について詳しく説明した、


「ッァ……」


 これはまるでクラリスだな…報告が来たばかりなのに、もうそこまで捜索計画を立てたなんて…力だけではなく知恵もここまで…ふふっ、心配する必要はないな


「わかった、吉報を待っている」


「ジークフリート?!、何言っているのかわかってるの?!本当にアングホークスと遭遇したらどうするの?!」


「安心しろ、ハンターが居るし、最悪は一時撤退するだけの事だ。それに、アングホークスなんてリズが弓を使えば直ぐ落ちると思うぞ」


「今年の初夏の出来事だ。リズが武器庫に入るところを偶然見て珍しいと思ってな、覗いてみたら俺の対モンスター用両手剣を片手で振り回す姿を見たんだ……仰天したよ、きっと叔父おじに似たのだろうな」


「兄様に?…もしかしてリズ、この前アンナが手を傷ついた後全然抱き付いて来ないのも…これに関わるの?」


「……言わなくてごめんなさい、如何説明すればいいかわからなくて」


「…なぁんだ、リズはママを傷むのが怖かったのね…安心したわ…わかった、でも行くなら、一つ約束よ?」


「はい」


「この前の競技場での一言、ちゃんと実践しなさい。」


 母の信用に対し当然、ベアトリスの答えは一つだけ


「必ず身の安全を最優先にします」


 こうしてクーゲル捜索行動隊の隊長はベアトリスに定めた。


 

 そして一時間後、彼女はハンターのギルドに訪れ、受付で依頼登録の手続きを行い始めた。


「依頼内容は依頼人の護衛と重要人物の捜索ですね、目標地点がウーノス火山ですと、難易度は第一級になりますね。でしたら、報酬は3600ルズがよろしいでしょう。」


 ウーノス火山はアングイスと言う種類の飛竜の縄張り、普段はメス個体であるアングティグアだけだが、今は子供が孵化中だから、普段他の場所で彷徨く特に危険のオス個体、アングホークスも出没する。その他にも火山を生息地にする獰猛なモンスターが生息する、故に難易度第一級


「急ぎの仕事ですので、5400まで上げましょう、食事もこちらが引き受けます。出立は明後日、参加者全員に同じ額を払いますので、できるだけ多くの人員を集めるようにお願いしますね」


「はい、畏まりました」


 この世界の流通貨幣はルズと呼ばれる金貨。10ルズがあれば、一般の宿屋で食付き一泊できる。ベアトリスが出す報酬は5400ルズ、一人で庶民生活を送るなら1年以上持てる額だし、第一級の依頼にしても相当高値


「良い知らせを待ってます」



「オオッ、お嬢じゃないすか!初めましてっス!」


 依頼登録を終わらせた後、ベアトリスが出口の方に向いてギルドから去ろうと歩み始める直前、陽気な男の声が彼女の注意を引いて止まらせた。


 この声は確かアジリスの模擬戦試験の時に……


「ダン・ギニウス、ですか?」


「オッ、名前を覚えてくれたんスか、光栄ス!」——嬉しいからか、爽やかな笑顔を放つ赤髪翠瞳の男子はギルドの二階から飛び降りた。


 この青年は先日の模擬実戦をクリアしたメンバーの一人、数年ぶりの一発クリアを成し遂げたスーパールーキー。一季節も掛からず第一級の依頼を受けられるようになったという滅多に無い人材。


「こらダン、失礼でしょう!すみません、うちのバカがこんなんで…」——そしたら、慌てる茶髪藍瞳の女子も階段をたどってぱたぱたと降りてきた。


 クレア・フェリウス——武器職人の娘、チームの指揮係。ダンより一つ歳上で彼の幼馴染でもある。前回の試験に参加したフィジカルの原因で惜しく失敗、今回は見事雪辱してハンターデビュー、実力はまだズバイ級だけど指揮塔としての実力が際立っている。


「硬いことはいいわ、今は重要人物の捜索隊メンバーを募集しに来たので、加勢してもらえると助かります。」


「お嬢の頼みなら、喜んで引き受けるぜ。今こそお嬢への恩返しの時スね!」


「っええ、お嬢様の捜索隊、加勢させていただきます!」


「ありがとう…恩返し?」


「お嬢の教えのおかげで、今年の新米ハンター二十七名まだ一人も殉職してないっス。先輩がたも出来の良い後輩が増えてお嬢に感謝してるっスから、他に用事がないならきっと来てくれるっスよ!」


「っああ……」


 まさか安全第一がまだ常識になってないなんて、十六年前までのこの世界は一体——常識を述べただけなのに大きな収穫へ繋がったと言われたこの状況を前に、ベアトリスは改めて此処は異世界だと思い知らされた。


「二人ともありがとう、では失礼します、出立は明後日の四刻(午前八時相当)、集合地点は北関所の前、しっかり準備する様お伝えてください。」


「おまかせくださいっす!」「はい!」


。。。。。。


 町で二人が知らせを広げるために走って、その知らせを聞いて捜索隊に加わるハンターたちは道具を調達し準備し始めた。一方屋敷に戻ったベアトリスは先ず厩舎を訪れ、管理員に何かを言いつけて引き返し、父の寝室へ向かった。


「お父様、お母様、失礼します。」


「ベアトリス、入っておいで〜」


 ベアトリスが父の部屋に入る頃、時はちょうど九刻(午後六時相当)、中の二人は夕食をしている。


「具合はどうかしら?」


「ギルドで依頼を出す時、今年の新米ハンター首席が人集めの手伝いをすると申し出ました。向かい先の情報も共有したから、きっと有能者を揃ってくれるでしょう。あと、追跡と戦力としてバルフェングを何体か連れて行くつもりですので、厩舎に行って来ました。」


「そっか、ならよかった」


「ははっ、それでこそ俺たちの娘じゃないか。」


「ふっ、違いないっ」——本来ベアトリスは助言を求めに来ると思っていたけど、堂々と成果を報告する姿を見て、娘への評価を大きく上げた。しかしそれと同時に、彼女の心の中は苦い——自分の子に何かを背負わなくていい生活を送らせると決めたのに、まさか自ら背負うことを選ぶなんて…



 一方、ウーノス火山、何処かの火山洞窟の暗闇の中で……


「クソッ、母上とベアトリスの笑顔を見る前に死んでたまるか…!待ってろ、絶対にこれを持ち出して、フラワル伯を元気にしてやるからな……!」



 翌日、いつも通りにアンナに装いを手伝ったもらった後、ベアトリスは馬車を乗り街で一番有名の鍛冶工房に向かうのであった。アインハイゼ南部の大通り、鍛冶工房フェラリウスの門前にアンナは馬車を止まらせた。


「よしよしっ、お疲れさまぁ…」


「あぁれっ、お嬢じゃないスか。おはよっスゥ〜!」——ベアトリスがベロックスにおやつをあげて褒美する間、大通りの北の方からダンが走って来た。


「ヤァ〜元気そうだね。」


 別にイケメンとは言えないけど、この男が居ればなんだか気が楽だな


「ふぅ…お嬢も武器の支度を?」——相手の前に立ち止まり、青年は白いハンカチで汗を拭き取って、ピカピカな白い歯を剥き出す笑顔で相手に話しかけた。


「ええ、家の備蓄は殆ど予備の物なので、万が一モンスターが襲ってきたら心細いですから」


「はぁ……でもお嬢は護衛される側なんスよね、わざわざ武器なんて持たなくてもイッツゥ…ッ!」


「だ〜か〜ら〜お嬢様に失礼ですって昨日言ったばかりじゃない?立ち話してないでお嬢様を中に案内しなさいよ」


 ダンが後頭を抱えて腰を落とすと共に、手刀しゅとうを揚げたクレアがその後ろから現れた。


「フェリウスさん、ごきげんよう。」


「あっ、はい!こんにちは、お嬢様。」


「お気軽に良いのです、名前でお呼びしてよいかしら。」


「もちろん問題ありません!むしろ大歓迎です!……ハッ!」


「プッ……」「ハァッ!あんた笑ったわね?!」


 はしゃぐ二人を傍観しているベアトリスとアンナも仲睦まじい幼馴染同士の戯れ付きを堪能し、指で口を隠し肩を震えた。


「はいはいそこまで〜」


「時間が惜しいから、早速工房に入りましょう?」


「ういっす!」「はい!」


 そう答えてベアトリスに向いた二人は同時に何かを見えた


「あれっ、お嬢、泣いてたスか?」


「大丈夫ですか?目元が赤いですよ?」


 っあれ、いつの間に涙が…——姉妹達の


「大丈夫です、これは二人が面白いから……つい」


「「アハハハァ……」」


 すると四人は鍛冶工房の中へ進み、四壁の中一つ殆ど入り口として空いた大きくて高い建築物を見た、その中に溶錬炉(ようれんろ)、蒸気機関、アンビルがわりの鉄製ワークベンチ、金槌諸々の設備が出揃えているこの光景に、見ているベアトリスは頭の中でさすが工房…と黙念した。

 

 そしてこの耳が痛いほどの噪音の中、迫力満点の男声が上がった。


「何の用だ!環境が環境だから大声で頼むぞ!」


「オオ、親方!武器を修理に来たっス!ついでに対エイペックス級用の武器も頼む!」


「修繕のものはそこら辺に置いとけ!武器の事はクレアに聞いたから!値段は貼ってあるから金を置いて取ってけ!」


 へえ、話が早いな…にしても、全員凄まじい集中だな、どうりで激しい競争の中から頭一つ抜け出すわけだ——ダンと話し合う声は工房の中からであるが、中で働いている鍛冶師たちは誰も頭を上げてなく目の前の仕事に全神経を集中しているのである。


「お父さん、お嬢様が来たんですからもっと丁寧に話しなさい!」


「バカヤロウ!ここじゃあ親方って……へっ!あの方が!?テメェらぁ!一旦止まれぇい!」


『オッ、オオ……』


 えっ、何?なんで私だと聞いて直ぐ停めるの?


 数秒内、鉄打ちの音は消え、蒸気機関の稼働音だけが残った、続いて一人の逞ましい男が工房の奥から出て来て、ベアトリスの前で跪いた、


「お嬢様、ようこそ鍛冶工房フェリウスへ、(わたくし)は『バルカン・フェリウス』と言う。私共の工房にお越していただき、誠に有り難く存じます。今日はどんな御用件で?」


 っえ?——つい数秒前までド迫力で叫んでた男が、自分の前に跪き、礼を重ねる言葉で最初に聞いた一言をするこの状況……


「お父さん、いきなりそんな丁寧にされたらお嬢様も混乱します……もっと普通に喋りなさいよ、ほら見て、この顔を……」


 それは脳内で築いたばかりの職人像が破滅し、呆然としたベアトリスだった。


「アアッ……すまない、実は先日のアジリスの一件、お嬢様がお使いになった盾とランスは俺の作品だ。あの時俺も娘の試練を見に行ったが、まさか盾にあんな使い方があったとは……ゾクゾクしたぜ。」


「ッアア……手に馴染む素晴らしい盾でした、お陰で思ったより楽です。」


「クゥウウッ!その一言であと三十年がやれる気がしますぜ!」


 感動で涙を落とすバルカンを、クレアは嬉しそうな微笑みで見守っていた。鍛治師である父の感動を、娘である彼女にも少し共感できるようであった。


「感動しているところすみませんが、武器が欲しいです。最悪、アングホークスとアングティグアと同時対峙する事になるかもしれませんので、そのレベルの業物(わざもの)が欲しい……あと、(なまくら)でも良いのでできるだけ丈夫で重いものを。」


「ここに鈍はないが、鈍器が欲しいなら、こちらへお越しくだせぇ。」


 この世界の武器は2種類に分かれる、対人用と対モンスター用、後者はサイズ、切れ味、耐久度などの分野で前者より大いに優る、だが重さで一般人は持ち上げることすら難しい。バルカンの工房が打っているのは大体後者につくもの、


「こちらです、これらが俺たちの作品だ、好きに選んでくれ。」


「では、遠慮なく……」


 ベアトリスはそこに並ぶ武器を一つずつ観察し、バランスとハンドルを確認していった、


「どうですか?お嬢様?」「シッ!」


「え?何?」


「あの動きを見ろ。バランスとハンドル諸々確認している、まるで百戦錬磨の戦士だ……本当に六歳なのか……」


「そう言えば、さっきダンと戯れついた時も、お姉さんみたいな言葉遣い取られて……ちょっと違和感あるよな、私たちの方が年上なのに……」


「そうスよね……」


「お嬢様は昔からあの様なんです。」


『ッオオ!』


 いきなり話に入ったアンナの存在に驚いた3人は思わず叫んだ、対してアンナは暖かい目でベアトリスを見ながら、話を続けた。


「お嬢様は赤子の時から奇妙な子でした、私が見てきた何の赤子よりずっと大人しいし。家族の思い出で涙を溢れる時も、いつも悲しそうで優しい表情を晒して、涙を拭ってくれました……」


「あの……話の途中で失礼ですけど、アンナさんの家族って……」


「十六年前、()くなりました。」


「すみません……」


「良いのです、私にはお嬢様がいますから、もう乗り越えました。」


 亡くなった家族たちも勿論掛け替えの無い存在。でもお嬢様からは、未来への憧れを頂いた。あの様な惨劇を経験した私の心を、お嬢様が救ってくれた。でも……一体どんな殿方が、お嬢様に抱き締め合える幸せをあげられるんのか…


 この考えは数年後、アンナから直接ベアトリスに伝えた。その時のベアトリスは微妙な顔で笑っていたが、それは後話。


「バルカンさん、これは誰の作品ですか?」


「…っぁ…!」


 武器を持ち上げたベアトリスに緊張するアンナだったが、誰もその異常を気づかなかった。


「アア、これは…ウチの一番弟子が作った品だな、この変な外見はアイツだけだろう。オイ、ゼル!テメェの武器が選ばれたぞ!出てお嬢様に説明しろ!」


 選ばれた品は頭を上下一つずつ持っている槌矛、あるゲームに出る双頭錘と呼ぶ奇妙な武器と似ている、


「オオ!ついに理解できる客が出たか!」


 パタパタ走ってきたのは一人の大男、身長は190センチありそうだが、筋肉のせいで、全体的に太く見える圧迫感が強い大男だ、因みに、額に角が生えている。


「俺は鬼自治領からきた交流生のゼル・ギガントだ。よろしく頼むぜ、御客人……って、なんであんな幼子が、俺の作品を持ち上げられるんだ……?」


『アッ……』


 この時ようやく、ベアトリスが自分より重い武器を楽々持ち歩いているたと言う異常に気づいたみんな、そしてベアトリス自身も何か悟ったよに固まった、対して、アンナは額を撫でるだけであった、


「あまりにも当たり前な顔で……気づかなかったス……」


「言われ見れば確かに、アジリスの時も混乱で気づかなかったけど、これらは六歳で持てる武器じゃなかった……」


「まあ!些細なことは気にしない、気にしない!それより説明をっ!」


「ッオッ、オオ…えっと…どっから始めようか……そうだ、重い物を振り回す時、握力が足りないと、その物は飛んで行くんだろう?このハンマーはその現象を活用しようと言う設計でな……」


 要するに頭が二つある故、普段はバランス性抜群で扱いやすいハンマーだけど、二つの頭を片方にセットしてバランス性を捨てることでより重い攻撃を繰り出せることね——ゼルの説明が終えたあと、ベアトリスはそれを購入し、他にも投げ槍を何本か買い取った、


「また明日スゥ〜」



 武器の支度を終え、ベアトリスはフェリウス工房から離れ、今度は市場へ向かった、普段は侍女や執事に行かせてもらうし、今までベアトリスは市場へ行ったことない。


 依頼中の食事を担当する以上、市場で仕入れをしないといけないし、食に拘る日本人として、やはりどんな食材があるか確かめてみたい……


 この世界の植物は地球と限りなく似ている、だがらベアトリスが食べてきた食べ物は地球のものと大差ない、だが幾つかの材料は相当高価らしい。


 蒸気機関があるが、汽車の(よう)な大量で長距離の輸送手段はない、なぜなら、一部のモンスターは前世のグレートマイグレーションの様に、季節(ごと)に生息地域を切り替える、一年の内二回も全壊する鉄道を修理できるほどの富、資源、そして人力を、今の帝国は持ち合わせていない。


 古代コンクリートで道を作り馬車を走らせるか、または運河を作り蒸気船を辿らせるか。この二つが現在採用される主の交通と輸送手段、アインハイゼが貿易都市たる理由もここの水路は全国各地へと繋ぐからである。



「お嬢様、一人で行かないでください。」


「アッ、ごめんねアンナ、初めての市場だからちょっとわくわくしてて……」


 市場に着いたベアトリスは期待で待ちきれず馬車から飛び降り、軽々なステップを運びながら店の方へ向かって行った、それを見るアンナもべロックスたちを落ち着かせ、後を追った。


「お嬢様は食べ物と関わる時に限って子供らしいんですから……ほら、掴んでください。」


「うん」


 市場を巡る中、ベアトリスは大人しくアンナの袖を掴んで歩く、その画像は宛ら本物の家族…


「アンナ、初日の分だけでもミルクを用意しよう?捜索は体力仕事だし、みんなの体力を確保したいわ。」


「そう、ですか…承知しました。」


 そしたら二人は市場を回って食材を選び、代金を支払い、運搬の人手を雇い、受け取り先を教えた。捜索隊関連の全般を済ましたあと、二人は屋敷に戻り翌日の為に早く眠りに着くのであった。

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