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家族揃っての一日(4)

「お待たせしました、パイができましたよ!」


「うっひょーほほっ!、待ってましたぁ!!」


 お父様、例の漫画で登場した青髪の人みたいだな…マッチョという点も一緒だし……


 にしてもすごいなぁ。枕二つのサイズだけどこのパイ、全体が完璧な黄金色、断面から見ると具材はマッシュポテトがベースで、クリペウスの身を刻んで牛蒡と一緒に入れたようだ……こんなの美味しいに決まってるじゃないか……!でも…こんなデッカいカニ足を食べたら…っ、流石に満腹だ…眠気も差し込んできたし…む……すやぁ……



「っ…お嬢様?」


 ベアトリスの様子に気づいたアンナは、ベアトリスの肩を掴んで食べ終わった空き殻へ倒れていく彼女を支え、丁寧に手入れを掛けた白髪が汚れてしまわないように寝付いた若君を懐に引き込んだ。


「……すみませんノーラさん、お嬢様が寝付いたようで……どこか静かな場所はありませんか?」


「ああ、あたしの部屋を使いなさい。」


「ありがとうございます。」


 キッチンの奥の入り口を通るアンナの後ろ姿を眺めて、ノーラは感慨深い顔でジークフリートの隣に座って背を向いた状態で彼に話しかけた。



「あの骸骨の様な娘がこんなに立派になるなんてね……そういえば、嬢ちゃんはあまり元気ない様だね、一番食い意地が有って騒がしい年頃なのに……」

 

「…ああ実は…体を使い荒らしたんだ。」


「体を使い荒らした?どう言うことだい。」


 ジークフリートは大きなため息をつけた。


「約一週前、俺がまだ帰りの途中の時の事だ。あの子は病院で旧エルフ王国の残党にさらわれて、三刻以上も水牢の中だったらしい……そんな事があったというのに、家に帰った後休まずトレーニングを再開したんだ。おそらく、遠出したばかりでもすぐ仕事を再開する俺を見てそれが当たり前だと……」


「ふん…まあそんなに落ち込むでない、若い子は経験が無いから知らずに無理するもんだからねぇ。次からは自分で加減する様になる、不安なら教えてやればいいのさっ。」


「ああ、そうだな…そのつもりだよ。」


 顔をできるだけ明るく見えるようにしているけど、彼の落ち込みは誰からしても一目瞭然。空気を活発させることが得意な人は居るけど、場の雰囲気は重苦しくなってしまった。



「あ、あの…領主様!」


 クレアからの突然の声出しは全員の注意を引きつけた、そのせいで緊張したか、彼女は少しどもった。


「よろしければ、一緒に来て…もらえるでしょうか?」


「?」


「少しばかり、お話がございます。」


 そしたらクレアはどこか思い切ったように、立ち上がって外へ向った。


「…なぁにぼさっとしてんだい、さっさと行きな。」


「あっ、ああ……」



 落ち込むジークフリートを見ていられないか、ノーラは立ち上がってジークフリートの背中を叩き、クレアについて行くよう伝えた。


 これ以上居ても空気を重するだけだと自覚し、ジークフリートは席から外して玄関に向かった。しかし着いたらそこではクレアの姿は見当たらず。相手が屋外に行ったかと思い、彼は深く息をつけて玄関の扉を抜け、そしてすぐそこにおどおどしているクレアの姿が居た。



「待たせてすまんな、外は寒いだろう。」


「っ……!」


「?!」


 おどおどしてるのは寒がってるかと思い、ジークフリートはコートを脱いで相手の前に差し出した。自分が落ち込んでも人のことを気に掛ける優しさが、クレアの心を打ったのか、彼女は目元と鼻先があっという間に赤くなり、ころっと跪いた。


「ごめんなさい、ごめんなさい……っ!」


 どうしたのかわからないけど、ジークフリートは迷わず腰を下ろしてコートを相手に被せて、彼女を懐に引き込みんで無言で詫びを言い続ける相手の頭を撫でた。


 一体どうして急に泣き出したんだ…?——今のジークフリートの中には困惑しかないが、長年救援につとめた故、その一連の動きほぼ反射的だった。そのまましばらくして泣き声が止んだら、くぐもった声が立った。


「……申し訳ありません、こんな迷惑を…」


「もう平気なのか?」



「…いいんです、一緒に来てもらったのに、こんな粗相をお見せして…」


「気にするな…それでぇ言いたかった事は…」


「……私のことは覚えていなくてもごもっともですけど……」


「なぁに言ってる、もちろん覚えてるさ。この前の交代宣言は感動したんだぞ?」



「え?、ええと…」


「それに、君のことはバルカンからもよく聞いてる。」


「…えっ、お父さんが?」


「ああ、討伐から戻った際は武具の整備で工房に寄るからな、色々聞いたぞ——」


 自分の父が相手と知り合いなのは知れている事、なぜなら相手の愛剣は家父の力作——もちろんその事はクレアも知っている、しかし相手の前に立つとあまりの緊張と罪悪感で頭が回らないせいか、彼女はどうしても言葉をうまく組み立てられなかった。


「頑張ったな…!」



 この言葉を聞いた途端、クレアは莫大な励ましを貰った様に目が熱くなり、体の震えは止めた。



「あの…母の仇を討っていただいたのに酷い言葉を向けて、詫びの言葉もありません、あの時の土下座、今からお返しします。」


 後半を言いながらジークフリートの懐から抜け出して、手を地面につけに行った。しかし、それは相手に腕を支えられて止められた。


「…?」


「君は父の言った通り、真面目だな……いいんだっ、大好きな親を失う痛みは、冷静でいられるもんじゃない——」



 予想外だけどあくまで理に適った返答を受けて、クレアの頭は一瞬で空っぽになった——いざとなった時ちゃんと伝えられるよう、答えられるよう、普段から頭の中で何千、何百回も予行演習した けれど、この返事だけは予想をつかなかった。



「それにあの年は、人の気遣いをする歳じゃあないだろう?」


「っ……」


「ふっ…さぁ、重い話はここまでだ、早く戻らんとメシが冷めちまうぜ。」


 相手の言葉の意味を考えて一息つくクレアの目の中には、自分を支え上げて膝についた土を落としてくれる相手の姿が映し、その顔はいつも通りの明るくて快活な笑顔だった。


「…はい」


 大好きな親を失う痛みは、冷静でいられるもんじゃない——実際にあの痛みを味わったことがあるような言い方……よくよく考えれば、英雄ジークフリートの功績は世の中で大きく、広く讃えられているけど、この人の過去に関しては噂の一つすら流伝してない。


 この人には一体、どんな過去が…——思わず自分にそう問いかけるクレアだった。



「ただいまっ、パイの振り分けは終わった?」


「おかえり♪〜二人ともいいタイミングね、ちょうど終わったとこだよ♪」


・・・・・・


 ジークフリートとクレアが外に行った後、凝った空気を解れるために、ダンは声を上げた。


「そういえばクルガさんってモンスター退治の腕もかなりっスけど、対人技術もめちゃつよなんスよね。前から気になってたんスけど、ナイトになってもいいのに、なんでハンターになったんスか?」


「っああ、ナイツスクールには入ったことあったけど、早起きしなきゃいかんとか、休日以外は禁酒とか、女と遊ぶことはいかんとか、そんな生活は性に合わなくてな。すぐやめたよ。」


「そうれはそうだけど、ナイトに成ったら収入が安定するし……」


「忘れたのか?俺は元賞金首だ、どこに行っても差別される。だから実力が物を言う仕事にしたのさ——」


 ここで一区切りして、話し手は自分のマグを口先に置いて傾けた。


 「——ルールを破った罰はそりゃあ厳しいけど、触らなければ自由だし、賞金首よりこっちの方が多少便利だろう?」


「いやっ、多少ってだけな話じゃないスけど……まあ確かに、ハンターとしての生活はかなり自由っスね。」


「だろう?毎日賞金稼ぎに襲われる生活とか人の送れるもんじゃねえ、連中は賞金のためならなんでもやるからな。」


「へえ〜具体的になにをされたんだ?」


 ゼルもこの話に興味が湧いたか、パイを食いながらクルガに問いを投げた。


「ん〜かなり昔だからハッキリ思い出せねえけど、一番よく覚えてるのは十五年ほど前、花街で遊ぶ時の事だな。まさか大金を払って指名した女の子が絡新婦ジョロウグモの異名を持つ賞金稼ぎで、危うく花街で命を落とすところだったわ。」


「相手はそんなは強いんスか?」


「ふふっ…ああ強いぜぇ?特にあの()()()はマジでヤバかった、しかも全身が硬直する時の隙を取られてな。魂が吸い出されるかと思ったぜ。」


 クルガの様子から裏の意味に気づき、既に経験済みのブレインとクラリスはニヤニヤし始め、同じくそこに気づいたダンも顔が微かに赤みが湧き出した。ターシアだけ顔色の変化は皆無であった。


「へえ〜あんたが強えって言う相手なら手合わせしてみたいもんだな〜」


 そして戦闘と鍛冶に関する事以外に一切興味を持たない鬼は普通に会話を続けた。


「ああ〜もっかいして、もっとテクニックを教わりたいもんだ。教わった技で百人斬になったからな〜」


「おお百人斬!そいつぁすげえな、どんな技なんだ?」



「…あぁっははっ…お前さんは噂通りだな〜」


 ああ言う技は流石に公では言えないし、現場にはまだ未成年な娘が居る故、クルガは話題を変えた。


「ん、噂?」


「ギルドで話題なんだぜ?、フェリウスの工房に腕が立つオニが居るってな。」


「ふう〜ん……で、どんな技だったんだ?」


「いや少しは気付けよ!、あれは戦いの話じゃなくて性の話だってことを!」


 鈍感すぎるゼルを見ていられず、ダンはクレアの様に跳ね上がってゼルの脳天に一発入れた。


「ツェ…お前傷付いた前より力増してんじゃねえの?今のは効いたな……」


「ターシアさんが勧めたリハビリ法を使ってるからな。当分は重い武器は使えないけど、そのための筋肉はがっしり付けてるんスよ?」


 そう言いながら、ダンは袖を巻き上げて、ソフトボールのサイズの力こぶを外に出した。


「へえ〜なかなかイケてるじゃないか〜」


「えっ、あの…えと…」



 思わぬ褒め言葉を受けて、ダンは慌てた。なにせ相手は服の上からでも筋肉がハッキリ見えるし、さらに男である自分も思わず見惚れるようなマンリーな顔の持ち主。カッコよさに於いて、彼の右に出る者はいない。


 そして話している間にノーラのお手伝いの女の子たちはパイを切り分け、各人の前に配った。それが終わったら、彼女らは自分にもパイを一皿盛って静かに食べ始めた。そしてちょうどこの辺りでジークフリートとクレアは中に戻ってきた。


 

「ただいまっ、パイの振り分けは終わった?」


「おかえり♪〜二人ともいいタイミングね、ちょうど終わったとこだよ♪」


「よ〜しっ、んじゃっ、久しぶりのママさんのパイをいただくぜ!」


 こうして、元気を取り戻したジークフリートは席に着き、皆と一緒にあの絶品なパイを味わって楽しんだ。クレアは外に出る前より少し気が楽になった様子だけど、噤んだまま席に戻った。



・・・・・・


 一方、帝都に居るクーゲルは今日も夢を目指し、守りたい人のために禁衛隊長と剣の稽古をつけている。


「…ふぅ、殿下の剣術は日々精進していますね。剣という武器の万能さを活かすだけでなく、相手の習慣を把握して弱点を突く——その様に意識していると感じます。そして、先ほどの反撃の試みはお見事でした。」


「はぁ…はぁ……クッ!結局ロンディアさんには勝てないじゃんか…」


 しばらくは対等に戦えたと言えど、相手が本気になる途端クーゲルは押される一方だった。なんとか一連の攻勢を防ぎ切ったが、反撃は先読みされた様に受け流され、瞬く間に剣を叩き落とされた。しかもだいぶ疲れて尻餅についたクーゲルに対し、相手はまだまだ余裕があるそうだった。


「ふふっ、そんなに急がなくても、殿下はまだまだ若いのです。それにわたくしはタツビトです、フィジカルが圧倒的不利の上でここまで戦えることは、賞賛に値ますよ。」


「んん……」


「さて、そろそろ昼食をしないとですね、お送りしましょう……殿下?」


 呼びかけに応えず、クーゲルは顔を上げてぼんやりと大空を見つめていた。考え事をしていると察して、青目黒髪の騎士は静かに芝に落ちた訓練用剣を拾って、庭の隣で手入れを掛け始めた。


 ベアトリスのやつ、今頃何をしてるんだろう。俺は少しでもあいつに近付けたのかな——前にベアトリスに会うのはもう何年前の様に感じる、今すぐ会いに行きたい。そのそわそわ感が一体なんなのかは、クーゲルにはまだ分からない。



 しばらくして息を整えたら、クーゲルは立ち上がって、禁衛隊長の付き添いで城のダイニングへ向かった。

 


「母上、カール兄上、シグマ兄上、おはよう。」


 ダイニングにはリリアン皇妃、第二及び第三皇子が居た。クーゲルが遅かったからか、三人の前の皿は大体空っぽだった。他の皇子が居ると言えど、リリアン皇妃の右側の席はまだ空いていた。


「おはようクーゲル、今日も頑張っている様じゃの〜早くこっちに掛けなさい」——来たのがクーゲルだったと見えた途端、赤髪の麗人は炎の様な眸を輝かせて、クーゲルに呼び掛けた。


「訓練熱心なのはいい事だけど、偶には休んだほうがいいぞ。」——皇妃の斜めの方の席に付いた若者もクーゲルをその山吹色の目に映し、挨拶をかけた。


「カール兄上、武芸とは音楽と同じ、一日たりとも手を抜いてはならないんですよ。」


「ははっ、確かにそうだね。」


 クーゲルが母の隣に掛けてしばらく、さきほど側門から出て行った侍女たちは彼のために用意した食事を運んで来てた。しかし料理をクーゲルの前に並ぶ間に侍女が躓いて、ほんの少しとは言えクーゲルの服にスープをこぼしてしまった。


「もっ、もっ…!申し訳ございません!」


 自らの不手際を侍女は慌て謝罪し、頭を下げて許しを請った。


「いい、どうせ訓練用の服だ。それより怪我はないか?」


「えっ?あっ、あの……怪我はしていません!、靴紐が切れただけです…!」


「…安心しろ、別に追い出すつもりはねえ。ただし二度と紐が切れそうな靴を履くな、新調してやるから名を言ってみろ。」


「あっ、えと……」


 クーゲルの語気があまり親切ではないからか、試されているのかと疑って、侍女さんは躊躇っていた。


「いいからさっさと教えろ、メシの邪魔だぞ。」


「あっその…エリザベス・マウンテンと申し上げます。」


「うん、次からは上司に報告するように…下がっていいぞ。」


 クーゲルが思ったより温和だった為、慌てていた侍女は安心し、微笑みで一礼をして他と一緒に下がって行った。侍女たちが外に出た後、クーゲルは餓狼の様に食事を平らげ始めた。



「しっかしまぁっ、下の者への態度が皇族にふさわしくなってきたじゃないか。昔ならスープをこぼした時点でブチギレだったのにね。」


「ふふっ、クーゲルが立派になってて、母上は嬉しいぞ〜」


「むっ…大した事じゃないだろうこれくらい……」


「もちろん大した事なのじゃぞ?昔のクーゲルは泣き虫だったんだもの〜」


「うぅ……」


「そう言えば、クーゲルが最後に泊まった場所はフラワル領だったか?」


「そうだけど……どうしたの?いきなり」


「ちょうと最近、フラワル領のお姫様が悪者に囚われたと聞いての。無事助かったとは言え、体調を崩してしまったらしいのじゃが……」


「ベアトリスが体を壊した!?…すまん母上兄上、俺今からあっち行く!父上の方は帰ってから話すから!」


 そう叫びながら、少年は席から飛び降りてドアを抜けて行った。


「…まさかあんなに慌てるとは、どうやら未来の大公妃は決まった様だな。」——この時、ずっと静かだったシグマは目を閉じて口角を吊り上げ、そうコメントした。


「ふふっ、好感を持ってもらえるといいのじゃが。」


 ニコニコな顔で半分まで食べた食事を見て、リリアン皇妃は立ち上がって、皇子たちの付き添いでダイニングから出て行った。



 一方、翼竜に乗ったクーゲルは胸騒ぎを抑えつつ、全速力で飛ぶ様に口笛で翼竜に指示を出して、アインハイゼへ向かうのであった。

 こんにちは、銀魚です。仕事、学校、家事などお疲れ様です、最近は元気ですか?僕の方は……迫ってくる責任に押し潰されそうです。


 一部の人にもわかるかもしれませんが、自分一人で両親を養うことはすごくキツい。その上で二人とも慢性病持ちで読み書きができないし体も既にボロボロ、再就職させるなんて非現実的だし親不孝、しかし今の僕ではそんな経済的需要を満足できる仕事なんて到底見つからない、


 ないなら作ればいいとネットはよく言うけど、そもそもうちに商売を始めるだけの資本はないし、僕は商売で儲けられるほど賢くない。ファッションセンスがないし、トレンドに鈍感で人脈もほぼゼロ。社交スキルは完全にゼロで、得意なのは妄想くらい。そんなやつが家一つが一億円以上掛かる場所で生きていくのか、考えるたびにもういっそ永遠に寝ていられるといいなと思ってしまうのです。


 とにかく、できるだけ早く更新してみます。応援をいただけると、嬉しいです。

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