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家族揃っての一日(3)

「ママさん!俺だ!見に来たぞ!」


 何回も来たかのように、お父様は大声で挨拶しながら建物の門をパッと開いた。門の中に小さい部屋があり、その奥にはもう一つの扉がある。


『そんな大声出すんじゃないよバカタレ!来たのならさっさと入りな!』


 ど迫力な女声だな……しかもバカタレって、英雄であるお父様のことをそう呼ぶとかすごいな……


「ごめんごめん、久しぶりに来たからきちんと挨拶しないとって思ってさぁ〜」


「ふん、まったく、なにが挨拶だよ。飯食ってるわかいしがびっくりしたじゃないかバカタレ、あとであんたがおごってあげな!」


「ああ、そうするよ!」


 奥の扉を抜くて見えダイニングエリアは簡単な机と原木の椅子があって、座席も狭い空間にしては多めに見える。インテリアは外のちょっと雑なイメージと違って、ほとんど木でできてるけど込められた工夫はハッキリ見えて、温もりを保つためにかなりのこだわりを詰めた感じがする。キッチンの向こうに木炭を燃やす暖炉が置かれて、窓も低いと高い位置にあるもの二種類がある。いや窓と言うより、通気孔かな…


「それで?倒れた後はどうしたんだい?、一年間も来てないからくたばったかと思ったぞ……って、あんたその手に抱えてる女の子、ひょっとして娘かい?噂は聞いたけど、やっぱりかわいいわね〜クラリスちゃんとそっくりで、あんたとは大違いねっ。」


「あっははは……」


 ダイニングの奥に鉄板、石窯、土鍋が揃った立派なオープンキッチンがあり、その中に一人の逞しい女性が立っている。しらがが混ざった茶髪で、髪型は短めの下ポニテ、目は青色で目尻はちょっと垂れてる。厳しい顔をしているけど、雰囲気はなんとなくやさしく見える。ここの店主かな。


「お邪魔します、ノーラさん。お元気そうでよかったです。」


「邪魔なんてそんなことないよ、クラリスちゃんも元気そうでなりよりだわ。大変でしょう。こんな別嬪さんを家にほったらかして、二十年近くあちこち飛び回って、仕事まで妻に押し付ける男が夫だなんて。」


「くふっ、最初はちょっとね。今はもう平気だわ、それにちょうどお仕置きするって決めたところから、夜が楽しみにしてるのっ。」


「へえ〜そりゃいいわねえ〜悪い男はちゃんと懲らしめてあげないと。おいあんた、逃げようとしてんじゃないよ〜逃げたらこのあたしがぶん殴ってやるからねぇ!」


「はい…」


 なんかめちゃくちゃ馴染んでる、詩羽が好きそうな、ファンタジーモノに出てくる食堂のおばさんみたいだな……お父様とお母様にこんな友人があるんだ……


「俺のこと無視すかぁママさん、悲しいな……」


「見えてるよブレイン、大事な妹が領主と領主夫人の仕事を兼任して大変だってのに見て見ぬ振りしやがって、あたしにそんなやつにあげる飯はないよ!」


「あ……」


 辛辣だな……でも間違ってないと思う。向こうに居た時、一回だけ過労で倒れたことがある。あれは十七歳——高校三年生だった頃のこと、学業と会社と家事と武道をむりやり並行する結果、ある日の夕食を用意してる間に気を失って丸三日間病院のベッドに寝込んだ。


 気を取り戻した後も体調を取り戻すまで家で丸一週間休みをさせられ、その間姉と妹は二人揃って休みを取って世話をした。不慣れながらも頑張って面倒を見ようとする二人の姿を思い出すと心が暖かくなる。なによりあれから二人は家事を分担する様になって、私は二度と過労にならなかった。


「……な?リズ?」


 ……あっ、聴いてなかった……どうしよう、何言えばいいんだろう……そんな頼み事してるような目で見られても用件わからないし……


「こらブレイン、姪っ子にプレッシャー掛けてんじゃないよ!」


「いや、そんなつもりじゃ……」


「ふふふふっ……」


 何が起こったかわからないけど、今のお母様は母に叱られた兄を笑い物にする妹みたいだな……いや『みたい』じゃなくて二人は間違いなく兄妹か。子供の頃を思い出すな、母さんに叱られるところを詩羽に見られるといつも笑われる。


「あの……」


「はわっ!はっ……アンナちゃんだったのかい、驚かさないでよ、心臓に悪いから……しかし子供は育つねぇ、十一歳だった頃はあんなに痩せてたのに、今はすっかり別嬪さんになったじゃない。彼氏はいるのかい?」


「すみませんママさん。しかしお嬢様がそろそろお腹を空かされるので、よろしければお話は昼食しながらでもよろしいでしょうか…」


「ああ〜ごめんね。あたしたら年取って口数が多くなちゃったようだね。で、今日は何を頼むんだい?先に言っとくけど、冬だから魚介は無理だからね。」


「それがね〜ママさん。今日は港から『クリペウス』をって来たから、調理を頼みたいんだっ!」


 そう言いながら、お父様は私をお母様に渡して、うきうきな顔で前に出た。ていうか、こんな若々しい口調もできたんだな、お父様は……


「クリペウス?随分懐かしいやつだねぇ、でもそんなもの、凍ってる湖から取れるわけないじゃないか。」


「まあまあ〜まずは外に行って見ようぜ?」


「ふん、無駄足使わせたら承知しないからね!」


 言葉は相変わらず厳しいけど、お父様の付き添いで外へ行ったママさんの顔は微かに和らげた。


「さて、今日も適当に座ろうか、そう言えばさっきママさん子供が飯食ってるって言ったな。こんな場所に来る子供は……おっ、居た。」


 隅に四人、暖炉の後ろにあったから見えなかったか。フード被って顔隠してるけどこの目なら見分けくらい楽……て、え?


「お、おはようございまぁス」


 ダン、それにクレアとゼル、ターシアまで居るじゃないか。これはひょっとして…前にダンが言った良い店っていうのは、此処ここだったのか!


「こ、こんにちは…」


 もう隠せないと分かったからか、四人はフードを外して顔を出した。


「ここ…お気に入りだったん…ですね。」


 クレア、緊張しすぎて言葉が上手くできないじゃないか。まあ、昼ごはん食べてるところに領内の三大権力者がいきなり勢揃いで現れると、そりゃそうなるよね。向こうで言えば『最近見つけた良い飲み屋で同僚と飲んでるところ、まさかの社長一家が登場した』ってところか。


「あらあらリズのお友達じゃない、それにターシア先生も居るだなんて、どうやら縁があるようね♪」


「…!」


「恐れ入ります。」


 冷や汗かいて慌てるクレアに対して、ターシアさんは立派だなぁ、さすが四百年近く生きて来た人。そういえば向こうに居た頃もこんなことあったような……確か姉妹のストレス解消に飲みに行く時のことだったか、立場も似てるし。


「おはよう奥さん、この前渡した新型の具合はどうだった?」


「とても上出来よ、いままでにない快適さだわ。」


「それはよかった。正直 嬢ちゃん抜きで作るのが難しくてあんまり自信なかったんだがっ、奥さんがそう言うのなら安心したぜイタッ!」


 ぶん殴った!クレアがゼルの脳天ぶん殴った!うわぁ…、どっちも痛そう……


「っ……あんたね!奥様相手に何ため口してんのよ!」


「はあ?気にしてるように見えるかよ!てか人が話してる時に殴んじゃねえよ、舌噛んだらどうすんだよ!」


「問題はそこではありません!身分の差くらい弁えなさいよ!」


 なんか、前より口が悪くなってるような……そう言えばクレア、この前一緒に食事する時はグリンウッド家の人たちも居たから結局お父様に詫びることはできなかったよね、今日で伝えられるといいんだけど……


「あははっ、賑やかだねぇ。皿はあまり進んでないようだし、これから一緒にどうだい?」


「え?あっ、あのっ……はい、光栄です……!」


 顔が赤いな……まあ、こっちの価値観からすると鍛えられた筋肉はカッコよさその物だし、ブレイン叔父様の顔は現代人の私から見てもトップ・スタークラスだ。例えるなら、ニコラ・コスター=ヴァルダウの顔をアーノルド・シュワルツェネッガーの肉体に載せたってところか。にしても、合成ステロイドのない世界でこんな筋肉量は不思議だな…叔父様に比べるとお父様も一回り細く見える……って……


 …………


 あれっ、なんか静かなだ……いや、みんな私のことじーっと見つめてる。変な体勢取ってないのに……?


「ええと……何か顔についてるんですか?」


 そう聞かれて、一番熱い目で見つめていたお母様は笑い出した。


「ふふっ、それはね、ボーっとしてるリズがかわいくてかわいくてみんなついつい見つめちゃうから♪」


「うっ……揶揄わないでよママ……」


 『かわいい』なんて、ちょっと複雑だな……もう七年もったんだから女になったことはとっくに受け入れたと思っただけど、まだまだみたいだな……


「あらっ、恥ずかしがってるの?ふふっ、これからたくさんの人達がリズのことを褒めて来るんだから、今のうちに慣れようね〜」


 それは…とても慣れる気になれない……でも、お母様の顔とスタイルと神様が言った『最高スペック』から察するに、この先私は少なくともお母様と同等な美人に成長する。そうなったら男だけではなく女の目まで引き付けてしまう可能性はあるか。


 ちょっと不安だな……いくら前世で美女にそれなりの耐性を得たとは言え、本当にお母様のような満月の輝きにも勝る美貌の持ち主になったら、鏡を直視できなくなるかもしれないし……


「こんな寒天下でよくあれだけ取って来たわねぇ」


「どうだ?すごいだろう?」


 あっ、いつの間にお父様とママさんが戻って来た…しかも尻尾のあるタラバガニのような奴を一匹ずつ担いで……あれが『クリペウス』か、全長は人と同じくらいで思ったより断然デカい、強いて言えば伊勢エビに似てるな。触角は二本あってすごく長く、足は十本でうち前の四本ははさみ、特に一番前の二本が発達してる。


「調子に乗るんじゃないよバカタレ!わかいしにもオゴんな、あたしも一匹もらうからね。」


「もちろんさ。そんじゃあ頼んだぜ、ママさん。」


「ふんっ、さっさとクラリスちゃんのところに行きな。」


「御意!」


 来るの疾ッ!にしてもママさん、あれを全部一人で調理するのか…?——そう思ってたら、ママさんは厨房の裏に入って、若い女の子を数人連れ出した。


「よーし、今日は大仕事だっ、しっかりやりな!」


『はいっ!』


 六人とも十代のようだな、一番年上は十七歳に見えて、一番年下は、十四歳……か?


「あれっ、ライヤちゃんとダイヤちゃんがいない……ああ、そういえばあの二人はもう十八歳超えたか、いい男見つかって幸せになれるといいな……」


 ちょっとお父様、そんなこと言いながら私を見るのはやめて。困る、本当に困るから……!


「手紙で教えたつもりだったけど、二人はハンターギルドの受付嬢を志望したわよ?今頃ギルドで見習いしてるだけど、仕事を探しに行く時見かけなかったかしら。」


「え?そうだったのか。」


「今の二人はハンターの間ですっかり人気者になってるわ、ダンくんは知ってるでしょう?」


「……え?あっ、ああはっ、ブライヤさんとダイヤさんなら知ってるっス。約半年前からの受付見習いで、大人しくて器用で世話好きだから、今はとても有名です。」


「そうか、このあと二人のところに案内してもらえると嬉しいんだが、構わないか?やりそこねた成人祝いを補いたくて。」


「!…喜んで!領主様が成人祝いをしてくれることを知ったら、二人はきっと喜ぶっス!」


 成人祝い?お父様はそんなこともやってたのか、まだまだ父のことを知れていないな……そう言えば母のこともまだまだ謎だらけだ。


 よくよく見ると、母の美貌は七年前私が生まれたばかりの頃と全く変わってない、二十五歳あたりで成長が止まったかのように見える。


 それに、真剣になるとお母様は常にその貫禄で場を主導する。相手の方が身分高いとしても変わらないし、暴力や脅迫によるものでもない。たとえ相手がフランシスのような個性の塊やお父様のような将軍の器でもお母様に逆らえない。エルフ王国の残党に拉致された事とグリンウッド家の人たちがお母様と話したことから察するに、エルフ王国の覆滅はお母様に深く関わっているそうだし……


 叔父様は合成ステロイドを使わずに最高のボディービルダーの体付き、お母様はモンスターを統べるし体の協調性も人間離れ、しかも他人が普通に年を取っていく中 二人だけほとんど変わってない。白髪に関する記載が見つからないし、私は一体何に転生したのか……


「よ〜し、出来上がったよ〜!にしても、やっぱり釣り立ての物は段違いねぇ〜味見する時は思わずびっくりしたわ。」


 あっ、いつの間にか料理ができてるか……って、あれは……!


「蒸したクリペウスの足と定番の具沢山スープです、胴体と尻尾の身を入れたパイもすぐ焼き上がりますので、ごゆっくり召し上がりを。」


「ああ、ありがとなミントちゃん。」


 挨拶しながら食べ物を丁寧に配っていく子はミント色の目と髪を持って、さっき出て来た女の子の一人で一番年上に見える子。背はクレアより頭半分こくらい低いけど、雰囲気はクレアより大人っぽい。


「ほらリズ、クリペウスの足はこう食べるんだよ〜早く試してみて〜」


 あっ、また脳内で独り言しちゃった……ナイフとフォークで食べるか……前世ではカニの足を便利に食べるために造られた食器があるけど、このサイズの足だとそんな小さいフォークはもういらないか。


 にしても、なんでだろうな……前世ではあまり考え事しないのに、どうしてこっちに来たらあれこれ考え始めたのだか……て!見た目もそうだけど、これほぼタラバガニの足じゃない?ちょうど良い火の通り具合だからまだ弾みがちょっと残ってて、噛むとカニの二、三倍の旨味が一気に湧き出る。足がこれなら、尻尾入りパイへの期待が高まって来たかも…


「どう?おいしいでしょう?」


「…うん!」


「ふふっ、よかった。」


 スープの具材はハム、松茸(松茸)とたけのこ……どれも尋常な食材だけどそれぞれに適した処理を施されて食材本来の味わいが楽しめる。何よりスープ自体が水のように澄んでいて味が極めて濃厚で全くしつこくない、どう思っても宮廷料理クラスだ、こんな料理を店に出すノーラさんは一体……


「どうだい、美味しい?」


「!」


 びっくりした、舌噛むところだったわ……どうしよう、子供らしく返事をした方がいいかな、それとも……いや、普段どおりにすれば良いんだ。落ち着くけ、美味しいと答えばいい。


「えっと……すごく美味しい です。」


「どうしたんだい?、堅苦しいじゃない、あたしが怖いのかい?」


 違うって言いたいけど、納得いける言い訳が思いつかない……!正体について考えてましたとか言える訳ないし……


「すみませんノーラさん、リズは初対面の人に話しかけられることに慣れてなくて。リズ、この人はノーラ、パパがまだ若い頃に世話をしてくれた人なんだよ。」


 本当に世話をしてたんだ……おっと、紹介してもらったんだ、ちゃんと挨拶しないと……!


「こんにちは、ベアトリスと言います、呼びづらいのでしたらリズとお呼びください。」


「まあ、そんなことないわよベアトリスちゃん、よろしくね。」


「こちらこそよろしくお願いします……!」


 名前で呼ばれるのはなんか久しぶりだな……他に名前で呼んでくる者はたしか第四皇子だけだっけ、あいつ今どうなってるんだろう……むっ、この甘い香りは…!


「おっ、そろそろ焼き上がるみたいだな。ママさんのパイは久しぶりだな、楽しみだぜ〜。」


「……」


 お父様だけでなくみんなパイを楽しみにしてるけど、クレアだけムズムズしてる……そういえば、お父様に謝りたかったって言ったな、クレアは……

こんにちは、銀魚です。今回の話はいかがでしたか?、本来一ヶ月前にアップできたんですけど、またゲームにハマりました、面目ないです……それと遅れましたが、二週前にコロナに罹ってしまい、一昨日ようやくラピッドテスト陰性になりました。最初はちょっとした風邪だと思うんですけど、ウィルスが本気になった後はめちゃくちゃ苦しいです、みなさんも体調には必ず気をつけてくださいね。

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