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家族揃っての一日(2)

「リズがいいって言うなら、頼んだぞブレイン。」


「ああ、もちろんさ、リズは俺たちのお宝だからな」


 そしたらお父様とおじさまは拳を合わせた。この時、冬の優しい日光が斜め上から差し込んで、私もぽかぽかな気分になった。


「……おっと、この日差しは…もう少しで昼飯の時間だな。せっかくだし昼飯は港で食おうぜ?今はちょうど『あれ』がアインハイゼを通りすがる時期だからな!」


「へえ〜、まだ覚えてるんだ。よし、じゃあまずは…っ!こいつをギルドに預かってくるわ、馬車の場所教えてくれ。」


 お母様が馬車の場所を教えた後、ブレインおじさまはアングレックスを引いて先に進んだ。みんな自発的に道を開けているがおじさまの姿は少しずつ人混みに遮られ、そのあと見えるのはアングレックスの巨体だけとなり、私たちも店主と挨拶をして馬車の場所に戻って行った。


『ねぇねぇ、さっきの兵隊さん、いけると思う?』


『多分ダメだと思うよ、いくらベテラン兵士でも片腕はちょっとね……』


『それはそうだけど、ちょっと気の毒だよね…』


 通りすがりの人たち、誰の噂話してるんだろう…て なんなのこの状況、人が多すぎて馬車の屋根しか見えない。何がどうしてるんだ?


「あれっ、なんでうちの馬車が囲まれてるんだ……?」


「アンナァ〜 聞こえるかぁー!」


「っ…!旦那様、ようやくお戻りに…!」


 顔を赤くしているアンナの姿が人混みから抜け出し、救世主を見た様な顔の彼女の後ろに一人の男が追ってきた。周りの人に止められたけどすごい勢いだな、三人がかりでも止め切れない、しかも目を丸くして本命とか真なる愛とか叫んでるし、こりゃどうりでアンナがお父様の後ろに隠れるわけだ……


 んん…この状況既視感が湧くな、どっかで見たことある様な……失敗を責めない上にカバーしてくれたことをきっかけに姉さんに惚れた新人サラリーマン?そてとも、テーピングしながら笑顔で励ます詩羽を自分のことが好きって勘違いした野球部の男子?いやどっちも違うな……


「放してくれ!あの子は俺のミセス・ライトなんだ…!」


 おっ、三人に掴まれたのに力ずくで抜け出した、さすが言うベテラン兵士ってとこか。


「おいおい落ち着け、人が怖がってるだろう……って、君は確か六年前の…元気そうじゃないか。」


「えっ……?あっ、これは領主様!」


 突っ込んで来る男はお父様の顔を見た途端、驚いた顔で引き下がった。まあお父様が街で顔を出すのは聞いたことないからそりゃこうなるよな。にしても、この時期に軽装備着てるってことはこの人、見回り役かな…しかも、右腕がない。


「君ね、街中で思いを押しかけるのはどうかしてると思わないか?人目に見られると相手がプレッシャー感じるだろう。」


「それは……おっしゃる通りです。でも、このチャンスを掴み取らないと絶対に後悔すると思って!」


 そして彼はアンナと付き合いたい理由を述べた。結論から言うと偶々会った侍女さんに冗談の口で励まして貰えないかな〜と聞いてみたら笑顔で『頑張ってくださいね』と言われて、彼は思わずアンナを本命と見た。


 いやちょっと待って、これって『励ましてくれた女の子のことを思わず好きになった』というパターン……?


「腕を無くす前、自分は女性の中では人気が高いし彼女もあった。けど片腕になった途端、周りの女性からは遠ざけられ、彼女にもいきなり振られて悔しかったんです……でも、今はもう大丈夫です、アンナさんの笑顔が救ってくれましたから…!」


 なんなんだこの甘酸っぱいセリフ〜まったく、詩羽が思い出すな……にしても、身体からだが残欠した者は街中ではあまり見かけないな。映画やドラマの中で描かれた戦後の光景と全く違う。戦後17年とは言え、負傷者の数は軽く二十万超えてるから多少は見えると思ったけど、重傷者が案外少ないのかしら……


 いや、普通 剣では四肢を切り落とすのはかなりの達人じゃないと無理か。それに、仮に四肢を切り落とされた人があったとしても、この世界の「敵の首は手柄」という価値観からすると、腕や足を切られて戦闘力を失った人はその場で命を奪われるのだろう……


「あっ、あの……」


「アンナさん?」


 あっ、またあれこれ考え始めちゃった、こっちに来てから頻繁だな……さてアンナさん、この人に応えるのか?


「お気持ちはありがたいのですが、お応えはできません。」


 ……やっぱりか。


「そう…ですか、残念です……」


 一瞬で萎えた……好きな人なかったからよく分かんないけど、姉と妹は月四回以上告られたことあるから、こうして告白を拒絶する現場に居るのも偶にあった。『花沢姉妹に告って断れた人の会』の様な変な組織まであるし、憂えるべきか喜ぶべきか……まあ今はもう関係ないか。


「でも、理由は決してお体の残欠ではありません。」




「私には、幸せを見届けたい御方おかたがいますから。」


  姉と妹もいつもこれと同じ理由で相手を断っていた。まったく、アンナさんまで二人とそっくり。前世も今世もこれ、ほんとなんでなの……


「そうでしたか……」


 案外あっさりした顔だな。でも諦めたと言うより、アンナの言ったことをよく理解した上で落ち着ついた感じ…だな。


「なら待つよ、応えられるまで待ちます。」


「……たとえそれが一生でも…ですか?」


 一生?そんなことあり得るわけ……いやあるかも、私結婚するつもりないし。この世界は向こうと違って、『自分の家があってこそ幸せ』が主流の論調、もしアンナもそう思ってるのなら彼女は本当に一生独身するかも…よし、後できちんと言わないと……!


「……はい、一生かけても待ちます。」


 わあ……こういう約束はドラマやアニメにしかいないと思ったけど、まあ向こうの物の見方が現実的だからだよな。どんな誓いを立っても結局、人は飯を食べないと生きていけないものだからな。こんな誓いできる人には羨ましいよ…って、あれ、お巡りさんどこ行った?


「行っちまったか……悪くない男だと思うんだけどな……」


「兵士は待遇がいいから、金目当てに近づく女があってもおかしくないからね……そこは彼の経験不足が問題だけど、いい男なのは間違いないわ。」


 考えているうちに行っちゃったか……まあ、とりあえずこれでひとまず落着か。さて、おじさまもそろそろ来る頃かな——


「おおっ、どうしたんだ?馬車の外で突っ立ってて、俺のこと待ってたのか?」


 あっ、思ってみれば。


「ん?アンナの嬢ちゃん具合悪いのか?顔が赤いぞ。」


「いっ、いえ、大したことではありません。それより、そろそろお嬢様がお腹をすかされますので、これからお食事の場所へ行かれた方がよろしいかと。」


『グ〜〜ゥ』


 ……ハァッズッ……!よりにもよってこんな時にお腹が鳴るなんて……!


「あははっ、さっすがアンナ。腹が減る時間までわかるんだねえ〜よーしっ、なら無駄話はやめよう、さっさと馬車に乗ろうか!」


 馬車に乗って次の場所へ向かう途中、ブレインおじ様が話しかけてきた。


「そういえばリズ、お魚介は好きかい?」


「はい、好きですよ。」


 嘘はついていない。実際、前世でも魚介類はわりと好きの方だ。魚介の多くは良質なタンパク質と、脳や内臓に良い脂肪酸の宝庫、日常のタンパク質源には適してるし味もいい。季節ごとに品種、オス、メスにも味の差と値段の差があると言った欠点はあるけど、頭を回して工夫を入れれば簡単に克服できるから、一般家庭には最良のタンパク質源だと思っている。


「へえ〜じゃあどんなのが好きなんだい?」


「ええと、特に好きなものはありません……でも、ぷりっとした食感の物があったら、試してみたいわ。」


 特に好きなのはないけど、どうしても一つ選ばないといけないのならエビだな。味自体はもちろん好きだし、姉と妹の好物でもあったから。でも、この世界に来てからエビっぽい物は一度も食べたことがない、もう一生食べられないかもな……


「なるほど、ぷりっとか……ふふ〜ん。妹よ、こりゃあ『あれ』だな。」


 えっ?


「ええ、ぷりっとした食感のお魚介といえば、『あれ』ね!」


「たはっはっはっ、どうやらみんな同じものを思いついた様だな〜 よーし、そうと決まれば…アンナ、東の港に行ってくれ!」


『かしこまりました。』


 三人ともニヤニヤしててなんなの、食べてみたい物があると言われるのがそんなに楽しいのか?


 体感で10分ほど経ったあと風の音が強くなって来て、それとほぼ同時にルーバーを親たちが閉めた。外は見えないけど、ひとけはだんだんと濃くなり、そして薄くなって行った。もうしばらくしたらバ車は停め、扉は再び開かれた。


 不快な匂いを消してくれる肩掛けのおかげか、氷で漁船が出れないからか、魚介の生臭さはしない。でもここは港だとわかる。淡水湖だから潮の香りはしないし、湖面が凍ってるから波の音は聞こえるわけないけど、今はなぜか…聞こえる。赤ん坊の時期は春で橋の上にいたことあるけど、あの時は聞こえたんだっけ……いや、なんか…耳が良くなってる?気のせいかな……


「よ〜しゃ!そんじゃあ、『あれ』を釣りに行くぞ!」


「おー!」「お〜♪」


 馬車から降りて走り出したおじさまの後をうちの親二人もついて行ったけど、『あれ』ってなんなんだろう……にしても、こっちの世界の生き物はみんな不思議なんだよな……


 アグレックスはもちろん、べロックスはチータより疾く走れるし持久力も段違い。バルフェングは一見そんなに強く見えないけど、実は自分より五、六倍大きい相手を単体で狩ることができる。穿竜木せんりゅうもくのような強靭な樹なら向こうにもあるけど、樹液が洗剤として使える樹は聞いたことないよね……


「…お嬢様?」


「え?ああごめんなさい、なにか言ったかしら。」


「勝手なことですけれど、しばらく待つことになりそうですし、ドアとルーバーを閉じた方がよろしいかと。」


 頷けた後、することがないから私はルーバーを閉めていくアンナの装いを観察した。


 こんな氷点下の中でもアンナの見た目は夏とあまり変わらない、冬服だからとうぜん布地は厚くて暖かい物だけど、スリットスカートだけは変わってない。足を包むのは膝までのブーツだけ。動きやすさを考慮したのかも知れないけど、見るからに寒そう……


「アンナさん、中に入りませんか?外は寒いですし、少しでも体を温めたません?」


「…いいんです、お気持ちさえあれば寒くありません。このくらいはもう慣れてますから。」


「でも…」



「ふふっ、ご心配なさらず。それではごゆっくり休んでください。」


 あっ、閉じちゃった。


 …………


 前にこうしてつくねんとするのは久しぶりだな……たしか妹の高校卒業祝いにハワイに行く時の事だっけ。船釣りの後に姉と妹が二人で風呂入る時、ベッドに座ってボーッとしてたな。あの時 風呂くらいなんで30分かかるのとか思ってたけど、女になった今は納得した。


 まずは洗髪に手間がかかること——髪の毛が長いと選べる髪型は増えるけど、その分洗髪を怠ってはいけない。特に髪の密度が並の二、三倍になってる私は髪を全部濡らすだけで骨が折れる。アンナが手伝ってくれるけど、洗髪は速くても一時間くらいかかってしまう。


 次にはお湯に浸かる時の心地よさ——ここが向こうよりだいぶ寒いからか、お湯に浸かる時の心地よさが本当にたまらない。男だった時はちょっと長く浸かると暑くてしょうがないけど、今なら一日中お湯に浸かりたいくらいだ。


 …………


 にしても、お父様たち遅いな……『あれ』を釣りに行くぞって言ったけど、そもそも『あれ』がなんなのかもわかんないんだよなぁ、アンナに聞いてみればよかった……あっ、三人分の足音、しかも中に一人のが特に重い…


『よっしゃあ!大漁だぜ!』


『これでみんなで食べ放題できるね!』


『おかえりなさいませ。』


 お父様たちが戻ってきたようだ、足音が重いな…『あれ』を担いでるのか。しかも『大漁』…どうやら『あれ』は複数体あるみたいだ。


『見張りお疲れ様、次はマム・ノラんとこの店だ、場所はわかるか?』


『はい、おまかせを』


 会話が進む間、馬車がちょっと沈んだのを感じた、何か重いものが載ったのかな。


 まだ考えている間にお父様、お母様、そして叔父様が中に入ってきた。お父様と叔父様の袖が湿気てる。何か濡れたものを持ち上げていた様な痕跡だな……


「またせたなリズ、もう少しの辛抱だぞ〜」


「ふふっ、きっとびっくりするわよ〜」


「うんうん!」


 なんか私よりそっちの方がだいぶテンション上がってるけど、それだけ『あれ』がおいしいのか。親の顔を見る限り、『あれ』の味はアグレックスにも負けないみたいだ。まあ表情を根拠にするのはなんだけど……


 アンナがサスペンション付きの操縦に上達し始めたからか、新たに加えた重みで馬車の重量がそのサスペンションに適した荷重に達しているからか、今の乗り心地は家庭用の自動車に近い。でも、もしアンナの上達が原因だったら彼女は運転の天才だな。


 そう思いながら、私は思わず一人になる時だけ現れる前世のクセをした。


「リズ?床が寒いの?」


 あっ、やばっ……!うっかり足を組んちゃった!


「その座り方……」


 ああ、ダメだ。バレる、男だったことがバレる。バッカじゃないの俺、よりにもよってこんな時に気を緩めてしまった……!


「なんだか若い頃のパパに似てるね!」


 ……えっ?お母様?


「あっははっ、やっぱリズは俺に似てるなぁ。床が寒いのはわかるけど、この座り方は他の人に見せてはいけないからな、分かったか?」


 頭撫でられた、これは…セーフ……か?


「そうだよリズ、こんな体勢は他人に見せちゃダメなんだからね。」


「……はい、分かりました。」


 ここで私は動揺を表に出さない様に極力抑えて、ソファーに乗った足を下げて両足をくっつけた。


「にしても懐かしいね…ジークフリート、もう一度やっていいかしら。」


「えっ、今?座席が汚れるから後でいいか……?」


「ふふっ、なら今はお預けで。今宵はいやでもやってもらおうかしら。」


「え……勘弁してくれ……」


 …一時はどうなるかと思ったわ、ちょっと変な話になってる気がするけど……


「妹よ、そういう話は俺とリズ抜きの場所でした方がいいと思わないか?」


「安心して。兄上ならともかく、リズが聞き分けるわけないでしょう?」


「それはそうだけど……」


 ごめん、そう言われたらなんとなく聞き分けた…てかこんな天女の様な人からのああいう要求を聞き入れないとか、普通ありえるの?お母様に夫がいなかったら自薦する列がアインハイゼを何周も回りそうなのに、お父様はすごいなぁ、いろいろと……


「もう何年も我慢してるんだから、今宵は逃さないからね♪」


 それを言う時のお母様の笑顔から見ると、夜になったらお父様は酷い目に遭うな。まあ、本当に酷い目なのかは保留するけど……


 もうしばらくして、馬車はゆっくりと止まり、そしてドアは開かれた。外に立ってるのは食事どころにはやや小さく見える一軒の建物。中は人なさそうだし、看板もこっちの言語で『腹拵えする場所』って書いてるだけ、なかなか個性的だな。


「さてリズ、腹拵えしに行くぞ!」

生活 お仕事 いろいろお疲れ様です、銀魚です。展開を考えながら書くのはやっぱり良くないです、しっかり計画を立てないとあれこれ変えようとして、無駄に時間を持て逝かれますよね……それに、休息が足りないからか僕自身の集中力も足りてなくて、連続で45分間書くのが限界でした。これからは休息をしっかり取って励んでいくつもりです、それではまた次回に。

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