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世界、目標、そして迷い

リワークしたバージョンです。どうしてというと授業であげられた例からなんとなく悟ったからです。薄々気づいていたけど、この作品は僕自身を映していたんだなって、改めて実感しました。なので、これからは自分の気持ちもたくさん叩き込みます。

 闇に陥った後、どれほどの時間が経ったのかはわからない。わかるのは意識が戻った時、もうなにか心地いい温もりに包まれていた。「この森閑に身を委ねばいい」と恵は思った、しかし何者かの声が、安寧を打ち破った、


「…..ォ、オオ!…ゥラリス!やったぞ!クラリス!」


「旦那様、おめでとうございます!元気な女の子です!」


「あっ……はぁ…っ、はぁ…っ、よかった……」


「クラリス、大丈夫か?本当にもう大丈夫だよな?」


「ジークフリート、もう泣かないで、私はもう大丈夫よ、それより、この子の名を決めておくれ」


「そうか、そうだな、母親の美しさと幸福に恵まれる想いを込めて、娘の名はべアトリス!『ベアトリス・フォン・フラワル』だ!」


 何かが聞こえてくる、ベアトリス、『恵まれし者』か、いい名前だな——そう思った時、有耶無耶だった視界にいつの間にか顔に傷のあるワイルドで少し痩せた男性と高嶺の花の様な女性が映った、戸惑う間に頭の中で声が響いた…


『新たなる生を授けた、何をやるのかは、汝次第だ……』


 この前聞こえた謎の声……ダメだ、眠い——こうして、少年(少女)は又の眠りに付いた……


 時は帝国10年、少年は、伯爵の娘として転生された、付いた名は『ベアトリス』。


 うまく動けないし、すぐ眠くなる、言葉も発せないから何かあったら声を出して侍女の注意を引くことしかできない。無力だ、この体では己の力で生きることすらできない、そして何より、今の性別は『女』!俺も一応健全の男性だったんだぞ、罰ゲームかよ!


 前世で少しだけ幻想したけど、まさかこんな形でが実現するなんて……!ありがた迷惑だが、今は大人しく受け入れるしかない、もう女として生きるしかないし……今こうしている間に、姉たちはどうなっているんだろう…俺のように転生して、どこかで新生活を満喫しているだろうか?……って、答えてくれる人なんてあるはずもないが……


『否、あの者らは汝の幸せを願い、自らの魂を汝の肉体と化した』


 え?今の何?謎の声?神?ってか、『タマシをニクタイと化した』って…


『うむ、私は神だ……まだ混乱しているか、ならあの者らと吾の交渉の記憶を送ろう』


 頭が……!——激痛を伴い、強烈な雑音に遮られていた誰かの声が聞こえて来た……


『……あの子は父に似ているんです。私たちがいなくなったら、生の希望を喪って、私達を追って来るかもしれない!』


 これは姐さんの声!


『あんな兄見たくないの、アタシ達の全てを引き換えにしても構いません。もし兄が命を落としてしまったら、彼の来世を幸せで、名前通りの「恵まれた者」にしてほしいの!』


 詩羽まで!


『汝ら人間から言えば、等価交換は揺るげない法則。その願いの為に、何を支払えできると言うのだ。汝らは死者、支払えるものなど……』


『『輪廻なんて惜しくありません、恵が幸せでいられるなら、魂だって捧げます!!』』


『…わかった、ならばその願いを満たしてやろう。』


 これって……!


『これで、理解したか。』


 ……どうして……二人の幸せを見届けると、父さんと約束したのに……なんでそんな勝手なことを……!


『恵とやら、彼女らは汝に最後の言葉を残った、今から流そう。』


 今回の痛みは前回より軽いものだった、そして姉と妹の声が再び頭の中に響いた。


『恵、勝手な事をしてごめんね。でも、お父さんは君の幸せも願っているんだよ。』


『兄ちゃん、いつも私達の為に犠牲し過ぎ、文句は言わせないからね。』


『『私達はこれくらいしかできないから、自分の幸せを探してね……』』


 だからって、魂を代価にするなんて無茶苦茶な……って、おまけに女になったし…まあ今更仕方ないか……


 『おっほん!』——そう思ったら、謎の声がいきなり咳をした。


『すまない、これは私の失態のせいだ……魂を肉体の材料にするのは初めてで、性別を選ぶ時手が滑ってしまった、巻き戻れないから……外見と身体能力諸々は最高スペックに設定した、だから許してくれ……本当にすまない……』


 そうか、神にも迷惑をかけてしまったな……っておいっ!性別を選ぶやらスペックやら、キャラクター作成のかよ!


『ウッ……』


 沈黙した……どうやら、神さまは不器用だな。


。。。。。。


 あれからしばらく経った、体は順調に育ち、青年は少女として、父と母の愛情をたっぷり浴びている。


 自分が言ってもなんだけど、前世の父も、娘達に降り注ぐ愛情が半端じゃなかった。幼稚園の妹はともかく、中学生になった姉にもまだ『あ〜ん』とかいう真似をしてる程の親バカだ。それでも今の二人には及ばない……


 物音がたったらと護衛が様子を見にくる、父と母がずっと傍にいて一緒に遊んでくれる。どうしても居られない日は、人間サイズのぬいぐるみを送ってくる。おまけに二人は忙しいから、アンナさん曰く、フラワル邸倉庫のうち一つは、ぬいぐるみで埋め尽くしてるらしい…本当にお疲れ様です……


 因みに、アンナはジークフリート夫婦に拾われた、10年前の統一戦争(とういつせんそう)でできた孤児の一人、元々は母の侍女だったが、今は私の世話役


 にしても、これが大貴族の屋敷の中か。木材の香りがヤバいぞ……ベッドもなり高価そう、しかもおむつは絹、お布団は綿毛、汚れたら秒で暖まっていたものに替わる、快適だけど丁寧すぎて逆に怖い。しかも部屋全体のインテリアも上品、貴重なものが沢山だろうな…って、誰に言ってるんだろう俺……


 少女の父の名は『ジークフリート・フォン・フラワル』、10年前の統一戦争の時期、守備兵を無くした村々に侵入するモンスターを多く排除し、人々を救助してくれた英雄の一人だったと言う。内も外もワイルドな風格を持つ豪快な男、だが英雄の名と違って、何故か体はとても健康と言えない。


 母の名は「クラリス・フォン・フラワル」、旧姓は『ハルべルト』で、父に仕えている騎士家族当主の妹。一見優雅で凛々しいけど、身内の前では実は若々しい性格の持ち主。白が少しだけ青く見える白銀の若く髪を持ち、ターコイズ色の瞳で人を睨む姿はさながら堂々たる女傑……が身内モードに切り替えるとただの可愛い女子に見える。


 貴族だからってこれはないだろ…どこかおかしいぞこの育児法は、どんだけ過保護のつもりなんだ……建物の壁も分厚くてすごく丈夫そうだし、もうやりすぎじゃないのか……?

 

 少女はそんな疑問を抱くまま、初めての冬を迎えた。


 両親と侍者達の服を見る限り、天気は冷えつつある、でも流石に雪はふって来なかったようだ。でも気になる、天気が冷えてから一ヶ月後、毎日のように地鳴りが聞こえるぞ。地震が頻発なのか?外は一体どうなって……


(虎の咆哮と金属音を混ぜたような咆哮)


 なんって音だ!!まるで映画やゲームに出る怪獣じゃないか!——突然、ライオンもその程度だと思えるほど、超大音量の咆哮が少女の思考を途切れて、屋敷全体を震わせた


  この騒動を前に、アンナが当然のように怯えていない、それどころかベアトリスの注意を騒動から(うつ)す様に彼女と遊び始めた。


 異常だ、実に異常だ。でも、生まれ変わったこともまた事実、ひょっとしてここは異世界で、これは普通なのか?そんなに慣れているのか?——ベッドから持ち上げられ、高い高いの遊びと揺れ揺れをされたベアトリスの頭の中は一つしか考えていない。


  数分後、咆哮を張った物の悲鳴と雷の如く大歓声が響き渡り、対して侍女は少女の疑問に答う様に独り言した。


「流石は人々の守護者、アグレックスも敵ではありませんね、ね〜お嬢様〜♪」


 アグレックス?何その凶悪そうな発音は!?……ってか、あんな大咆哮を発せる物がこの世に居ていいのか!?


 「ほら見て〜リズ〜、あれが橋だよ〜」——二ヶ月後、段々と暖かくなっていく中、まだ赤子であるベアトリスは母に連れられ、これから暮らしていく世界を自分の目で見た。


 屋敷から連れ出されたベアトリスの目に映った初めての景色、それは湖畔からに立つ岩橋だった。


 この湖大きいな……向こう岸が見えないから四キロ以上あるのか?でもここは多分地球じゃないし……それにこの橋、水平面の向こうに伸びてる……距離は知らないけどこんなに長い岩橋はすごいな、聞いた事がないぞ……


 この時、後ろから重みのある足音が聞こえてきた。


「ただいまクラリス、リズを連れ出したか。」


「ええ、生後初めての春だし、見させないといけないと思って。」


 クラリスが後ろに向くと同時に、栗色の馬の様た生物に乗っている少女の父ジークフリートが彼女の目に映す。


(なんだこれ…、馬の姿形だけどあの胸前の穴と首から張っている薄膜、不思議だな…しかも農事用の引き馬よりも大きいぞ……)


「スタルスタッツ地方の見回りとハンターの指導お疲れ様、どうだった?」


「大事はないさ、しっかしブレインめ…、領主になるのが面倒だと言って置いて、町の首長としてはしっかりしてるんじゃないか…」


「家から追放され、数年の間平民として暮らしたとは言えど、私達兄妹も貴族だったからね。でもブレイン兄さんは幼い頃から武人性格だし、領主の務めが面倒だと思うのも仕方ないよ。」


「そうか…、まあいい。乗らない?この後建設現場の様子を見たいんだが……」


「折角だし、リズにも見せようかしら。」


「よし、そうと決まれば、手をくれ。」


 馬っぽい生物を操って横の方を向いてきたジークフリートは愛娘を抱いている愛妻に手を差し伸べ、それを握るクラリスは引き上げられて一瞬で鞍につき、ジークフリートの前についた。


 すごっ。あんなボロボロな体でよく成人女性を馬上に一引きしたな……


「ねえ見て?リズは、泣かないわね。」


「こんな高い所まで一引きされても怖くないのか?アンナからアグレックスの襲撃の時も泣かなかったと言う話を聞いたが、どうやら我が子には凄まじい胆力があるようだ〜」


 えっ、胆力って言うか……中身が俺じゃなかったら大泣きしてたはずだけど…


 その直後、父は豪快な笑い声を張りながら乗り馬を速歩で進ませ、橋の向こう側へ駆けて行った。


 しばらく経った後、ベアトリスの中に疑問が生じた。


 体感的に三十分ほど経ったけど、まだ果てが見えてこないな……この岩橋一体どこまで続くんだ?


 もうしばらく経ち、眠くなったベアトリスの注意を呼び起こしたのは大量の人音と物音、音の方向に見えるのは、地平に広がる棟と梁。


…まだまだ先なのにもう聞こえてきたのか。業者さん頑張ってるな……


「景気いいな、希望に溢れた声だ。」


「皆さんが私達を信じてくれたからこれを成し遂げました、彼らの信頼と努力あってこその光景ですね。」


「全くだ…ところで、この前言っていたハンターギルドの進み具合は如何だ?」


「順調よ、受付や集会所はまだ露天だけど、そのおかげで利用者にとっても一目瞭然。ギルド紋章の設計も決めた、剣に重ねた盾よ」


「うん、それはいい。あと、ハンターの質と量を上げたいんだが……」


「じゃあ訓練校を立とうかしら、後で案を作るわ。」


「いつも済まんな、家を放って置くばかりで…」


「いいの…人々の為に駆け回る事は貴族の義務、でしょう?」


「クラリス……ありがとう……」


 ちょっと二人!、急にイチャイチャしないでくれる?見てるこっちが恥ずかしいけど!


 熱く目を交わす二人と言う光景から注意を移す為に、幼いベアトリスはしばらく目を湖面に向き、移動の揺れに気を向き、そのまま数分ほどの時間が過ぎた。


「おっと、そろそろ着く頃だ。」


 この世界の文明が一体どんな物なのか気になっていたベアトリスは顔を前進の方向に向き、初めて人の集落を目にした。


 木と煉瓦が並行しているのか……でもよく見るとコンクリみたいな物も……この世界の文明は一体どうなってるんだ?——彼女の目に入ったのは、果てしない一片の陸で建てられている大量の建築物、そして色んな種族の者達。


 それは文字通り「種族」が違う——額に角が生えて大柄な者・背が低くてムキムキな者・長耳で体がやや長い者・爬虫類の特徴を多少持っている者・そして前世の人類とほぼそっくりな者。


 建築物も何故か色んな様式を分けている、木で作られた物、煉瓦で作られた物、両方を用いれた物、パオみたいな物。その上、類似な物には群れる傾向がある。


 ……って、なんだこの視野は…あんな遠くまで見える。これが…最高スペック?


「しかしやはり分けて…急かし過ぎたか……」


「無理もないわ、大戦終結は僅か十年前の話、その前は百年以上の乱世が続いていた。戦争の傷痕はそう簡単に掻き消せる物ではないし、親族の仇と共存する事も、そう易々と納得できる事ではないの。」


「過ぎた事はもう変えられないのに……まあ、過去に執着するのも人間らしさか……いつか、全種族が通じ合える日が来れば……」


「大丈夫、きっと通じ合えるわ、あの時のみんなのように。」


 こうしている間、橋の末が直ぐ其処まで近づいた、しかしジークフリートが馬を町から約400メートル先の場所で止まらせた。


「この距離で止まった方がいいか。……子供は六歳まで平民に見られてはいけないんだっけ?世襲貴族の礼儀ってやつは面倒だな……」


「ふふっ、そう言っている割にしっかり守っているじゃない。」


「社交場で皮肉される方がもっと面倒だからな……」


「幼い頃の私もそっち側の人間だったから、よく分かるわ。」


「……それに、俺とアンナの嬢ちゃんの様な者が二度と出ないように、奴らの手も欠かせないんだ。」


「……ええ。」


 この言い振り……俺と似た事に遭ったのか……それにアンナも同じって事は——明るく理想を語っている声でも、その言葉の狭間から漏れた渋みはベアトリスの心の奥を揺らした。


「そろそろ腹が減ってきたな、戻ろうか」


「そうね、そうしましょう。ねえ、今日だけでも……」


 そんな時、後ろから雑乱な馬の駆け音がした。


「ジークフリート様、哨戒隊からアペックス級モンスター多数接近中の報告が!」


「わかった。お前らは先に行って精鋭で陣形を作らせろう、俺も直ぐ行く。」


「はっ!」


 大駆け足で離れていく騎兵達の姿を見送る一家の主は身分を「夫」から「領主」に切り替え、空気を一転させた。


「済まん、もう行かないと。」


「ううん…大丈夫、行って。」


 妻を馬上から下ろし、ジークフリートは英雄たる凛々しさを見せ、疾風に乗って駆けて行った。彼の遠ざけていく後ろ姿を眺めるクラリスは、苦渋な顔で呟いた。


「ジークフリート……」


 婦人の声から強烈な憂慮と無力感を感じ取った。


「体はもうボロボロなのに、此の儘じゃ早死にしちょう…誰か…!」


 やっぱかなり限界だったんだな……いくら強くてもあの人は生身の人間。其れを誰が支えて、助けていけるのか——前世を思い返したベアトリスの心に皺が入った。


 真っ黒なくまに凹んだ頬、髪と肌にもつやがない。おまけに見れば分かる皮下脂肪の無さ——体は並の人より全然逞しいけどあの雰囲気…まるで虚弱状態の◯ール◯イトだ……って、なんだこの例え…詩羽のアニメ話し聞いた間に覚えちまったのか……?


 前世の事を少し振り返ったベアトリスは小さなため息をつけて、当面の目標を決めた。


 なんと言っても今の生みの親だし、少なくとも食習慣を改善させないとダメだな、……まあ、今はまだ赤ん坊だからまだ無理だけど……


「……さて、お家に戻ってご飯にしよっか、ね〜リズー♪」


 家に戻ろうと歩き出すと、いつの間にか心を「妻」から「母親」に切り替えたクラリスの笑みを目に映し、其の懐中にいるベアトリスは思わず自分に問い掛けた。


 でも……親父との約束を果たせなかった俺に、先に逝った姉妹に気遣われた俺に、生きる資格はあるのか?ないんだろう、こんな情けない者に幸せを得る資格なんて……なんでだよ……姉さん、詩羽、なんで俺を転生させるなんて勝手な事をするんだよ……そもそも幸せを探せと言われても、俺にはお前達しかいないんだ……誰か教えてくれよ、自分の幸せってなんなんだよ……

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