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馬車の中での吐き出し

 昨夜放り出されたフランシスが護衛二人を連れて街から出て行ったからか、アクトレスとアクタも残りの護衛に荷物をまとめらせて領地へ帰還することとなり、今、主人と客家族の女主人たちは別れの挨拶をしてる。


「では改めて、昨夜のことは大変失礼しました。愚弟のことはわたくしがきちんと言いつけておきますね。」


「お任せします……にしても、昔と全く変わらないね、彼。」


「ええ、本当に困った弟です……まあっ、多少は苦労しますけど、エルフが滅びることより、後始末をされる方がマシですが。」


 滅びるって、そんなことよく笑顔で言えるな……自分もエルフなのに……


「そうですね、フランシスが反旗を掲げなかったら、エルフの国ではなく、エルフという種族自体が歴史になるのですから。」


「ふふっ、クラリス様も昔と同じ、おっかないことを平然と言いますよね……それではジークフリート様、体はお大事に。」


「ああ、ありがとう。」


「クラリス様も、お元気でっ。」


「お二人も。」


 双方が別れの挨拶を交わした後、アクトレスとアクタはグリンウッド家のバ車に乗って、べロックスに乗った護衛の六人の包囲の中で遠ざけて行った。なんだかバ車の方から視線が感じるな……あのヘンタイ、また荷物箱に隠れてたりしないよな?……まあいまとなったらもうどうでもいいけど……んー体動かすとすぐ眠気がさすな……部屋に戻るか。


「リズぅ〜、どこに行くの?、私たちも出かけるよ。」


「え?……今からなの?」


「そう、今からだ。」


 二人ともにやにやしてなに…?あっ、蹄と車輪の音が聞こえてきた……でもなんかいつもより静かな気がするし、音の特徴も……あっ、あれって……!


「新型サスペンション…?でもっ、部品の製造が困難だからまだ三台しか作れてないはずなんじゃ……」


「もちろんサプライズだよ。リズのために取っておく様に工房のかたに伝えたの。」


「……!」


 思わず一息つけた……気持ちは嬉しいけど、私、こんなサプライズをもらっていい事したんだっけ……?


「どうして…こんなことするの…?」


「リズったらどうしてそんなこと聞くの?こんなの普通じゃない、むしろこれまでこんな事もできなくてごめんね。」


 普通……そっか、普通だったのか…、前世ではこんな覚えはなかったけどな……まあ、亡き父は一会社の社長をやっていたけど、金の使い方はまったく無駄がないからな……


「それに、よっぽどな理由がないと、毎日自分を本漬けにするほど本が大好きなリズが毎週工房に行くわけないもの……」


「あ……」


 …言われてみれば、バ車の改良を申し出る前の私は毎日何時間かかって本を読んでいた。もちろんバ車の乗り心地は最悪だと思っているけど、そんな考え、表に出した覚えはないのに……なんかぽかぽかするな。


「今日は全部パパとママに任せて、リズは楽しんでくれればいいからな〜」


 そう言いながら、私は父に抱き上げられて、その腕に掛けた。


「っん……まるで羽じゃないか。体を育ってる最中だっ、ちゃんと食事をらないといかんぞ。よし、今日はいいとこに連れてやるからな〜」


 普段から食事をきちんとってるつもりだったけど、ここ二日だけは幾ら食べても足りないような気がするがな……この体は一体どうなってるんだろう……まあ、それはいいとして…子供らしい返事は……


「むっ…毎日ちゃんと三食食べてるもん……パパこそ、倒れて休養に行く前までは三食をきちんと食べてないじゃないか、あんなに言っていたのに……ふぅ〜んだ!」


「!!……ふ…ふはっはっはっはっ〜……」


 えっ、何がそんなに可笑しいんだ?


「ふふふっ……パパにそんなこと言う資格はなかったもんね〜〜」


「ええ、全く…奥様のおっしゃる通りです……んぷっ」


「——はっはっはっ…、ああ〜、そうだな、パパが悪かった。これからリズの言う事はなぁ〜んでも聞いてやるから、許してくれよ、なっ?」


 …なんか聞き覚えのある言葉…たしか昔にも……あぁっ!そういえば、父さんもそうだった!、っていうか、こっちも父だった…っ……まあ、彼のせいだとかは1ミリも思ってないけど、ここは詩羽の真似をしてみるか。


「うん、じゃあベアトリスはパパのこと、許してあげるっ。」


「あっははっ、ありがとーリズぅ〜。さて、そろそろ行くか。ふふふっ……リズが設計した装置か〜、試すのが待ちきれねえぜ〜」


 サスペンションの効果に期待してるようだけど、正直不安があるな……ゼルとクレア達の腕は信用してるんだけど、テストランを行わないと一眼では見いだせない問題があってもおかしくない……


「すごい装置なんだよ、乗り心地を良くしただけじゃない。この装置があれば、凸凹のある道でも車軸を壊す心配なく飛ばしていける、なんせこれをつけたバ車は道路の外でも多少走れるんだもの。」


「うんっ!、まさに行商の福音だな。これでいためやすい品物でも安心してバ車に積んでいけるし、足がそんなに早くないモンスターの襲撃に遭った時も逃げ切れるかもしれない。こいつは手柄だぞ〜」


 そんなにテンション上がって恥ずかしいな……もとから懸架装置の発明者は私なんかじゃないし、ほんとにすごいのは、あの装置を人の手で作り出したフェリウス工房の人たちの方だし。


「にしても、新型は車体をかなり下げったな……下縁と地面の距離は旧式の三分の一くらいか?これで階段がなくても楽に登れるな〜」


 高度を下げたのは、バネをつけた後でも安定にコーナーを曲がれるため。車は重心があまりに高いと倒れやすい、一般の車よりトラックの転倒事故が断然多いするのもそのためだ。馬車に合うフレームを作り出すには、工房の人たちにもかなり苦労させちゃったなぁ…後でちゃんと礼を言わないと……


 そういえばシゲじいと丸山、そして佐藤……花沢オートの職員たちにも悪かったな……シゲ爺が居るから会社がバラバラになるまでは行かないはずだけど、突然社長が自殺してしまったんだ、職員たちは絶対にショックを受けるな。


「——い、おーい、リズ、リズ。」


「あっ……ごめんパパ、ちょっと考え事してたの。」


「そうか、大丈夫なんだよな。」


「何がですか?」


「ぷふっ……リズは赤ちゃんの頃から前触れなくボーッとしちゃう子なんだよね〜乳を吸ってる最中にボーッとしたこともあったし。」


 ちょっと待った、なんでこんな時にそんなこと言い出すの……!


「あっはっはっはっ、それ覚えてる、頬何回も突っついても反応がなかった話だろう?あれはかわいかっドゥオッ!?」


 こんどはなに?!


「どうしたの?乗った途端に飛びおりて…」


「いや……なんていうか……体を乗せると車体がちょっと傾いたんだ。こんなことが起きるとは思わなかったからビックリしちまったよ。」


 …そんなに叫んで、一時はどうなるかと思ったわ……でも車体が傾いたってことは、このサスペンション機構もちゃんと機能しているってことだな、よかった。バネが硬すぎて弾みがないなら無駄なんだからな。


「おっ、お……離れた途端に元に戻るぞ…まるで生きている様だな……それに、車輪が六つあるし、作りも見たことないな……外側を包んでるこれは……モルナブアの皮か。これはなんのためなんだ?」


「バ車で遊ばないで。ほら行くわよ。」


「え?、クラリス?今日はどうしたんだ?いつもより気が早いじゃないか。」


「この前リズが一緒にお買い物したいって言ったでしょう?今日はちょうどいい機会かな〜と思ってね、まずはお肉類の仕入れにハンターギルドの卸売市場を一回りするの。獣潮の時期だから量はもちろん、品揃えも豊富よ。」


 なるほど、道理でグランドスクエアの市場に鮮肉を扱うお店が見つからないわけだ。ハンターのギルドが扱ってるんだな。


「そうか、確かに、この時期ならモンスターはいつもより脂が乗ってるし味がいい、その上この季節でしか顔を出さないやつもいる。運がいいなら見つかるかもしんねぇな〜、でも、一つ聞きたい——」


「せっかくだし,騎士と侍者の衆にも誘って行ったほうが楽しいと思わないか?」


「騎士団の者と屋敷で働いてる者には一日休んでと言っておいたよ。人手不足でみんなただでさえ忙しいのに、ここ数日予想外の仕事をたくさん回したんだもの。彼らにはせっかくのお休みです、邪魔にならないように出かけるの。」


 あれは昨日の話、私の部屋で仕事をしていた母は当日最後のタスクを文官に渡す前に、次の日はフラワル邸で働く者全員の休日にするようにと伝えた。あの文官、すごく嬉しそうな顔してたな…


「なるほど、それはよかった、お前は昔から思いやりのある人だな〜、よしっ、早速行こうか!…って、お前が乗る時はほぼ傾かないんだな。」


「そうかしら、もしかしたらこのバ車はあなたのことが嫌いかもね。」


「え?」


「くふふっ…冗談よ、早く乗りなさい。アンナ、車を出して。」


「かしこまりました。」


 わたしを抱えている父が慌ててバ車に登って私を座らせた後、アンナはドアを閉じて操縦席に登り、そして手綱の音と共に、バ車は動き始めた。


 娘の開発成果を試すことでテンション上がっているからか、父はいつもより言葉かずが増えて何分間も話し続けていた。内容はここ一年間の見聞——昔より笑ってる人の数が増えたとか、身分を気づかれて囲まれてたこととか、訓練してる姿を子供が真似していたとか、他にも色々——、対して静かに彼の話に耳を傾ける母の雰囲気は今までにないくらい軽くて、楽しそうだった。

 

「——にしてもこれはすごいな、船に乗る時よりは揺れるけど、旧式の様な激しい振動はいない。しかも本来がたっとするところも車体がちょっち揺れた感じだけで済ましてる。まるで揺籠だ、な?」


「ええ、たしかにそうね。正直驚いたわ。工房の方からは『路面から伝わる振動を弱め、遮断する装置だ』と聞いたけど、ここまで快適になるなんてね。」


 私も同じことを思ってる——戦車ほどじゃないけど、思ったより効果が良くて正直ビックリした——、ゼルは私が思ったより気が通ってるかも……いや当然か、彼は好奇心が強いし頭も冴えてる。監製してる間に車体を下げる理由やサスペンションの原理についても色々説明してあげたし、彼は前から独特な武器や兵器を作るのが趣味だし、このセッティングもきっと彼が自力で探り出したんだろうな。


「旦那様、奥様、そろそろ街に着きます。」


「なに?もう着くたのか…!」


そう言いながら父はバ車の門を開いて、体を外に出して、それから目を丸くした。


「はっ、速い……しかもこれは、緊急時にべロックスで通る抜け道……バ車がこんな安定にこの荒々しい道を走れるなんて……はははっ、こんな装置がもっと早く現れたら、もっと人を助けられたかもな……」


「ジークフリート、そんな考えしちゃダメっ。」


「ああ、わかってる、ちょっと心に感じただけだ……」


 父の目つき、なんかいつもと違う……あっ……!


「ありがとう、ベアトリス……本当に、ご苦労だったな……」


 頭を撫でる手つきも、いつもの荒々しい愛情表現と違う……ゆるっとしていて、あったかくて、やさしい手つき……なんだろう、すごくほっとする……


「ジークフリート、頭は程々にね。リズの髪が乱れるから。」


「ああ、すまん、そうだったな。うちのの髪は量が多いし、一本一本柔らかくてさらさらなんだよな……ずっと外を駆け回って、話に聞かないで、辛い思いさせて本当にごめんな…俺は、父親失格だ。たははっ…」


 そっか……父は妻と娘を置き飾りにして、長年外を駆け回ることに罪悪感を覚えてたのね……


「ジークフリート、そんなこと言わないで。それを言うなら私だって母親失格よ。」


「っあ……」


「娘の体調を把握してないミスを犯すなんて、私も反省しないといけないわ……家に戻った日で医者を呼んで診断しておくべきだったのに、私よりも鋭い判断力を見せられてつい安心してしまって……」


「クラリス……」


 二人とも、責任感が強い人なんだものな……上位者の責任を大事に見て果たすし、さらに領民以外のためにも精を尽くしているから、多少家族のことを疎かにしたのも仕方ないことだと私は思う。かの世界一の大富豪だって、あらゆる事を完璧にカバーできてない。


 私も二人と似た立場に立ってたから、その気持ちはなんとなくわかる——『責任を果たせなかった』……でも、少なくとも私が倒れたことは周りの人の責任じゃない——私が何も考えずに、体を酷使していたからなんだ。


 水を漕げて浮かぶこと自体がかなり体力を消耗することなのに、私はそれを何時間もしていた。冬で水温も低いし、普通の子供だったらとっくに体力を尽きて溺れ死にしてたはずだ、大量の熱量を奪われたことは明白じゃないか…自分でも自分に呆れるよ、前世は筋トレしてたのにこんなことも忘れるなんて。


「…リス……ベアトリス…!」


「……あっ、どうしたの?」


 またボーッとしちゃった……こっちに話しかけてたのか。


「ベアトリス、今までごめんね……パパとママのこと、許してくれる?」


 二人とも、いつの間にか腰を下ろして私のことを仰視する体勢に…、なぜか胸が塞がる感じするし、この乞ってるような表情……ここはハッキリ言っておかないと…


「…パパとママは悪くありません。」


「え?」


「此度の出来事で、私は自分の未熟さを痛感しました。なので、今後は同じ過ちを繰り返さぬよう、何かをする前はよく考えるようにしたいと思います。まずは,私を助けに出た人々への返礼をしようと思います、最初の返礼はお母様へのです。」


 そう言って、私は席から降りて母の頬に唇をつけ、そのまま彼女の太ももにかけて、母のことを抱きしめた。


「助けに来てくれて、ありがと、ママ。」


 この行動は予想つかなかったからか、二人はぎこちなく笑って、互いに目を合わせた。


「…ほんと、ベアトリスは貴方によく似てるわね。特に、強がりなところっ。」


「それを言うなら。お前の思いやりのいいところにもそっくりじゃないか。」


 そんなこと思わせるつもりなかったけど、そっか、似てるか……あの不器用な神様もきちんと考えて生まれる家を選んでくれたのかな。まっ、今はそんなこと考えても意味ないか……さて、今日は騎士、文官、そして侍者たちへのお礼を買っちゃおうか。みんな普段から苦労してるし、助けてもらったお返しもまだだしな……


「…ス、ベアトリス、何か考え事してるの?」


「えっ?ああ…みんなへのお礼、何しにしたほうがいいかなって……」


「ふふっ、そっか。」


 いったいなんだろう……母が笑い出すと胸の塞がりが消えた、かわりに新しいパンツを履いたばかりの正月元旦の朝のような爽やかな気分だ…ってなんでそんな喩えするんだろう私……


『旦那様、いつもの入り口で駐車するのですね?』


「ああ、頼んだ」


「かしこまりました、それでは少々お待ちください。」


 アンナの挨拶を受け答えてる間に父と母は席に戻り、私も当然のように母に抱えられてその太ももに座ることになった。そのあと揺れの幅も少しずつ減っていき、やがて揺れは完全に止め、外から血の匂いが入って来たのである……

生活や仕事諸々お疲れ様、銀魚です。モチベの維持ってやっぱ難しいですよね……特に、壁にぶつかった時はどうしても逃げたくなる、その上現代の娯楽はいくらでもありますし、一度娯楽の方に行ったら一日の時間があっという間に持て行かれますよね……とにかく、次の話を書きにいきます、ではまた。

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