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次の目標は……

 重装でべロックスに乗って現れたジークフリート、その身に纏っている装備のカラースキーム、どこかで見た覚えが……あっ、アグレックスの盾鱗じゅんりんと皮じゃないか!


 板金製の籠手と脛当てに盾鱗が嵌め、肘や膝もしっかり守られて、見るからに頑丈そうな肩と上腕の装甲は何となく人を安心させる。立ち襟のように作られた喉当ては首をさらけているけど、どうせあんな化け物を相手に頭や首が被弾したら一発退場だから、多分カッコ付けるためにつけた物だろう……そこから胸、腰、そして太ももはアグレックスの皮を用いったスフトアーマーで覆っている。


 なんだろう、この微妙のバランス……四肢の防具はあんなに分厚いのに、肝心なボディーの防御は最低限の物しかいない。こんなので本当にモンスターと戦えるのか?いや、アンナは今防護無しで誘導役しているし…、戦っているわけでもないけど…きっと大丈夫……か?


 なんか心配。


 でもあの大剣、確か父の愛剣か……改めて見るとものすごいサイズだな……私には全然大した重さじゃないけど、それをオモチャのように振り回したことを母が知ったら、町から出ることを許してもらったんだし……ひょっとしてこっちの標準からして、「帝国最強」のレベルにこそ使いこなせる大剣?転生してきてから体の超パワーのせいで重さの感覚がおかしくなってしまったしな……


 でも、よく見るとあの大剣の刀身に細かい波のような紋様がほのかに見える……飾り気がなくて素朴な剣だけど、刃先が鏡のように人を映れる。剣の良し悪しにはあまり詳しくないけど、さぞ名工の傑作だろうな。


「よしっ、行って来る。」


 すると彼はべロックスを走らせて平たい空き地で降り、剣を宙に上げてアンナの方に呼びかけて待ち構えた。そしてアンナがアグレックスを誘導してきて、二人が交錯する瞬間、ジークフリートは左前へ飛び出し、アグレックスとの対決を始めた……!


 飛び込んで来るアグレックスへの第一撃は左へ躍り込みながらの斜め薙ぎ払い、全身の力を用いって大剣で円を描き、剣先でアグレックスの右腕に刻み目を入れ、そのまま地面にめり込んだ剣をレバーにして体ごと回転させながら進んで、アグレックスの進路から抜け出した。


 次に、突進を止めたアグレックスは体の向きを変えて、ジークフリートを警戒し観察をし始めた。ジークフリートの背後を取ろうとしているか、奴は横に動いてじっくり目を掛け、そしていきなり突進してジークフリートの前で急に止まり、大きく息を吸い込んだ…!


『……………!!!!』


 奴の周りの空気が揺られてる、爆発したかのようだ…!、あんな咆哮にまともに食らったのは大丈夫なのか……って、あの人、アグレックスのふところに入ってる!あそこからなら、相手の急所が突き放題…!


 惜しいことに、死角からの縦斬りをアグレックスが一歩下がって躱した。躱したそばからアグレックスは体を捻り、盾鱗に覆われた尾先をジークフリートに叩き掛けた。間一髪でガードしたけど、あまりにも大きい威力でジークフリートは空中に飛ばされてしまった。


 敵が宙を浮いているからって、アグレックスは休んだりしない。奴はジークフリートに飛び掛かって、右前足でジークフリートを叩き潰そうとしてる。もはや必中じゃないかと思った攻撃が当たる前に、ジークフリートは剣でアグレックスの前足にぶつけて、その反動で自分をさらに飛ばした。攻撃が外れたけどあの前足は大量の埃を蹴り上げた、なんてパワーしてるんだ……


 これが「帝国最強」と「アペックス級モンスター」の攻防…、もう常識ハズレとかそんなレベルじゃない、こんなのめちゃくちゃだ!しかもあのヒト、剣を肩に担いで首と肩を鳴らしてる……今の攻防にまだ余裕があるというのか?


 そこから一人一竜は再び対峙し始めた。でも今回ジークフリートは剣を構えていない。


 先に動いたのはジークフリート、しかも今度の勢いはさっきと全然違う。彼は体の重心を下げて前に駆け出し、一歩ごとに地面から土砂が浮き上がらせてる。アグレックスの頭を間合いに入れた瞬間、彼は渾身の力で相手の頭に斬りかかった、それを相手が後ろ跳びで避けたけど、この一撃で刀身の先っぽが土砂の地面に切り込んだ、


 その後、ジークフリートはためらいなく踏み込んで、勢いよく体を回しながら剣を地面から抜いて、竜頭に袈裟斬りと逆袈裟斬りを繰り出していく。アグレックスは上半身を上げてそれを避け、そして力を込めた前足でジークフリートを踏み潰そうとした、しかし、ジークフリートは竜爪りゅうそうを躱した。

 

 攻撃を躱されたアグレックスはそのまま後退し、尻尾でジークフリートをぶっ叩いてきた。あの尻尾が地面が叩かれる音はこっちにまで届いて来る、当たった感触がなかったからか、あの竜は片足を回転軸にタツマキのように回って、再び相手の方に向けた。


 一方ジークフリートはアグレックスが回転し始める前に立ち位置を変え、全身の力を溜めてアグレックスの頭が間合いに入るのを待ち構えていた。アグレックスがそれを気付く瞬間はもう手遅れ、ジークフリートの渾身の一振りは相手を一刀両断する勢いを纏って命中する!


「……!!」


 凄まじい一撃を喰らって盾鱗に刻み目がついたアグレックスは悲鳴をあげて後ろに下がった、しかしその後奴は体当たりで反撃してきた、それを躱したジークフリートは構えて振り向いてくるはずのアグレックスの竜頭に二発目を叩き込もうと力を溜めていくが、アグレックスは振り向かなかった、奴はさらに数歩進んで、そしてこの前よりも大きな一息を取り込んで上半身を上げた。


 …まさかあいつ…、又さっきの大咆哮を出そうと……!


 次の瞬間、常識は再び覆された。ジークフリートは大剣を盾にした儘吹き飛ばされて、地面にぶつけながら、それとほぼ同時に雷鳴のような轟音が伝わってきた。


「ウソ…」


 煙が散った後、そこに在るのは地面に張り付いたジークフリートの姿だった。


「…んな……そ…んな……」


 転生されても、家族を失うことは避けられないのか……?どうして…どうして…どうして?…どうしてそんな事ばかりおしつけるの……っ!


「…大丈夫よリズ、パパはあんな攻撃で手を上げるような人じゃないわ。」


 私のパニックを払うように母は後ろから私に抱きつけ、頭を撫でだ。頭を撫でられると湧き出そうとした涙はゆっくり収まった、でもわからない。一番心配する人は彼女であるはずなのに、その手先の動きに緊張が感じない、どうしてそんなに落ち着いでいられる…?

 

 そしたら、ジークフリートが何ともなかったように立ち上がった。


「あれが噂の『轟嵐激震砲(ごうらんげきしんほう)』……」


 …え?


「ほらリズ、パパは大丈夫でしょう?」


 ちゃんと立ててる、倒れそうな様子もない……大したダメージはない?……しかもストレッチしてる……もう…余裕ぶらないでよ、一体何がしたいんだよあの人……


「…さて、両方ともそろそろ本気を出す頃合いね。」


「……!!」


 目を咆哮の音の方に移ると見た……皮の赤みが増えたアグレックスの姿が。


「アグレックスが血色に塗れる時、即ち『轟震竜』が本領を発揮する時…」


 アンナの囁きが終わったとたん、アグレックスは怒涛の進撃を始めた。開幕は空中に飛んでから竜爪に体重を全部乗せる一撃、これに大気を切断する様な引っ掻きがついていき、時に飛び上がって尻尾を叩きつけ、その後一連の踏み付けで地面に深い凹みを残していく。あの暴走ぶりは宛ら怒り狂った地獄の鬼神。


 一方、ジークフリートは無駄のない動きで鬼神の攻撃を躱していく。豹のような速さで間合いから離脱し、蝶々のような躍りで攻撃を悉く躱す、先ほどモンスターと力を張り合う姿とはまるで別人。アグレックスのテンポに合わせて野性と力を溢れる舞踏を組み上げた彼の姿はまるで熟練な踊り手。


 攻撃が当たらない一方のアグレックスは体を上げて、ちょっと時間をかけて息を吸った、つまり……


 思った通り、奴はアンナが「轟嵐激震砲」と呼ぶ技をジークフリートに放った。しかも今度の威力は前の一発よりも凶悪。あまりに激しい震盪で地面の雑草ですら狂風に引き抜かれ、巻き上げられた砂塵さじんと砕石はまるで砲弾が爆発する光景。そんな埃が落ち着いていく中、ジークフリートが居たところに巨大な弾痕の様な穴が現れた。


「うまく躱したようね……リズ、パパはあそこよ、ちゃんと見えてる?」


「はい……」


 ジークフリートはあの穴の横にいて、淀みのない動きでまたアグレックスの連続攻撃を捌き始めた。まるで恐怖と疲労を知らない様な姿を見て、私の胸中に薄々とある問題があげた。


「あの…軍の方々は、あんなモンスターと戦っていたんですね……怖くないのでしょうか。」


「…そうね、戦う理由は人によるものよ、金銭、地位、名声、力量…それらを追い求む人はたくさんいるけど、怖くないわけがないわ……でもね、最後まで逃げずに強敵に立ち向かえるのは、守りたいものがある人々なのっ。」


 そうか……そういえば、前世の十五歳だった頃、姉妹を守るとテロリストの前で叫んだな。結局誰も守れなくて、あまつさえ亡くなった二人に考えを完全に読まれて、二人の魂を引き換えに神から新生を与えてもらった。情けない男だな……くふっ、結局前世も今世も守られる側、か……


『……!!』


 ボーっとしている間に、アグレックスとジークフリートの戦いは白熱化の状態に入った。一発一発の踏みつけと共に、あの辺りの地面は目に見える速さで凹んでいく。怒りでワレを忘れた竜と闘志が高まる英雄、熾烈なデッドヒートを前に、守備軍の陣列の方から雄叫びが届いてきた。


「助太刀サンジョー!!」「ハンター隊、全速ゼンシーン!!」「領主さまぁー!、お助けしまぁす!!!」


 目をそっちに向くと、べロックスが曳く戦車の隊列は守備軍の陣列から抜け出して、一人一竜のほうに駆けて行くところが見た。


 あの戦車は私が監製した物。外見は六つの車輪がついた蓋なしの箱馬車で、中央に多連装バリスタ、両側には通常のバリスタで武装している。それ以外に簡単なサスペンション機構が付いていて、通常の馬車より何倍も安定になっている。とは言え、あの武装ではアペックス級モンスターの相手にはならないはず、じゃなきゃ騎士が支援を求めに来ない。それに他よりハッキリ聞こえてくる三つの声が気になる。


 集中して見ると声の主の姿が見えてきくる……クルガに、ダン、それにクレアも?他にも見覚えのある顔が十数人……って、私の騎士団の候補メンバーたちじゃないか!なんでいきなり……


「九式連装バリスタ、狙え!…放てぇえー!!」


 クルガの号令と共に多連装バリスタの弦は解き放たれて、右側からアグレックスに当ててその足止めを行い始めた。それと同時に、ダンと他のメンバーたちは通常のバリスタの照準を合わせ始めた。


 一方、ジークフリートはアグレックスの注意がそちらに引き付かれている隙に突いて、左側から一連の斬撃でアグレックスの右前足に猛獣の掻き傷のような切り傷を刻み込んだ。


 反撃しよう体を上げて前足に力を込めるアグレックスの脇と腕にロープが付いてる槍が数本当たって突き刺した。そしたら、アグレックスは曳かれたて前に倒れ、身動きができなくなった。


「拘束成功!!やっちまえぇ!」


 この隙を突いてジークフリートはアグレックスの頭に飛びかかって、剣先をアグレックスの首に突き込み、全力で刀身を引き上げて、それをほぼ両断した。首を斬られたアグレックスは其の儘静まっていき、残るのは赤みが少しずつ退いていく竜の遺体と剣を高く空に指している英雄の姿。


 この瞬間、周りから歓声と雄叫びが湧き出して、辺りの守備軍たちが一気に沸き立った。


「オォォォ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」


 …すごい熱気、戦争を勝てたみたいだな……いや、彼らにとってこれも戦争か。愛する者を守るための、それと同時に、泣かせないための戦争。今でも毎年のように死傷者が少なからず出ている、とは言えその報告を読むと分かるのは、死者は老人や身寄りの無い者ばかりで、その日しんがりを担ったのこと。これは戦友の間の「暗黙の合意」のようなものなのか……


 そんなんじゃダメの気がする、みんなで生きて戻らなきゃ意味ないじゃないのか……夢物語だけど、犠牲を覚悟する必要のない世界を作れるなら……そのためにはまず人類とモンスターの争いを鎮ませる方法を探り出すべきだ。現代文明のように他の生き物を絶滅に押し寄せるようなことはしたくない、モンスターと人類の均衡点を探してみたい。その為にはまずモンスターの生態について、もっと詳しく調査する必要がある。


「おーいっ、リズ〜〜!見たか?、パパカッコよかったかぁ〜?」


 いつの間にか、血に塗れた父はもうバルフェングに乗って戻ってきて、私をバルフェングの背中から持ち上げた。ハンターたちの戦車も遠くから寄って来ている。


「…はい、とってもカッコよかったです。」


「ははははっ、そうだろうそうだろう、パパカッコいいだろう〜」


「…あのね、どうして一発目の『轟嵐激震砲』を避けなかったの?リズが泣きかけたのよ?どう償うつもり?それにあなた今血塗れでしょう?リズのお洋服が血で汚れたじゃない、もう…!」


「あ…えと……すまない、えと……」


 妻の圧でジークフリートが舌を巻くあいだに、戦車に乗っているハンター衆も寄ってきた。


「領主さまお戻りになったんですね、みなさんきっと喜びま……す?」


 クレアが見たのは逆立ちしている父と私を懐に持って圧をばらまいている母、そしてアインとヴィアをなだめすかしているアンナの姿でした。


「あの……、お取り組み中でした…?」


 クラリスの圧で怖気付いているからか、クレアの声は普段より小さく、肩もかたくなって、ちょっと不自然な身振りになっている。


「いえ、そんなことないわよ、ジークフリートに何か用かしら。」


「いえいえ、特にありませんのですけれど……ちょっと気になることがございまして…」


 そう言いながら彼女は横目で逆立ちしているジークフリートをチラッと見た。やはり気になるか,まぁ強敵を倒したばかりで疲れているはずの領主が逆立ちしているところを見せられたら、それでは当然気になるよな。


「あははは……気にするな、これは我が子を泣かせかけた罰だ、何かあれば言ってみるといい。」


「…あっ、はい…」


 血塗れで逆立ちしていても楽々と笑っているマッチョの姿は流石に衝撃的ですよね…、向こうに居た頃でもそういうのは普通ありえないし……


「あの…!、みなさんの代わりに領主様への感謝を伝えたいんです…!」


 うちの父に感謝か…


「いつでも人々のために奔走するその姿、皆さんはそれがとても巍然で心強いと思っています、だから領主様が体を崩してしまったの噂が浮き上がった時みんな悟ったんです、「領主様に依存しすぎた」と……」


 「依存」か……思い返してみれば、私も姉妹に依存し過ぎていた……かもな。


「ジークフリート様にはこれからも休んでほしいんです、これからアインハイゼを…フラワル領を守ることは新世代のハンターと軍の皆さんにお任せてください。もう、か弱くて哀れで、無力な者でい続けたくありません、大事なものは自分達の力で守りたいのです。」


 声が少し震えているように聞こえるけど、クレアの目からも、その後ろにいるハンターたちからも、何やら強い意志が感じられる。


「そうか…その決意、俺に伝わった。 さっきのサポート、あれは絶妙だった。これからもあのような連携ができれば、安心して人々の安全を君たちに任せられそうだな。」


「彼らを甘く見ないで、なんせ去年の獣潮から街を守ったのは他ではなく、アインハイゼのハンターと兵士たちだからね。貴方が一人で背負っていた理想を新たな世代に託してやりなさい、きっと大丈夫だから。」


 「託す」……そっか、今彼らはジークフリートの理想を受け継げようとしている。そして、「俺」は…「恵」は、姉妹の願いを託された。…もしかすると、二人は私は彼女たちに依存し過ぎたことが知ってるから、あの時自分の存在を消して、私に「縛りのない自由な人生を送らせたい」という願望を託したかもな。


「うん、そうだな。…皆にこう伝えてくれ、『俺の理想を託そう、自分達の力で切り開いてみろ。当然、助太刀が要るなら呼べ、遠慮は無用だぞ。』とな。」


「…はい!、今すぐ行きます!」


 クレアの晴れぶりと同じように、今私の中はこれまでにないほどスッキリした。なぜかというと、なんとなくやるべきことが分かってきた……それは自分の気持ちを大切にすること、とても単純だけど、人として必要だったんだ。


「よし、これから帰って風呂に入るとしよう、いつまでも血塗れのままでは、我が子に抱きつくことすらできんからな〜あはぁっははははぁ〜〜」


「そうね、では戻りましょう、私たちのいえへっ。」

現時点での作中トップクラスの戦力の張り合い、如何でしたでしょうか?砲弾のような威力を持つ空気砲、ロマンティクだと思いませんか?「めちゃくちゃなもの書き出してしまったな〜」なんて笑。次の話も楽しみにしていてくれると嬉しいです、それではさよなら。

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