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なんとなく、母と共感した

 グリンウッド公がいきなり「改良型馬車の発明者と話したい」と申し出た次の日、母はそのために時間を捻出し、アンナと私を連れて面客室へ向かった。


「…おやおや、『女王様』とベアトリスちゃん、あとは……アンナのお嬢さん、でしたか。こんにちは、今日はいい天気ではありませんか?」


 扉を開いて入ってみたら、彼はちゃんと服に入ってそこで待っていた。昨日の馬車の中にあった二人の服と同じ系統の物で、見たところその服の生地は棉製と革製の二つ;頭から垂れる金髪は髪紐でめた。上半身にはルーズカットのシャツ、革の青黒アームガードの上に精美な飛鳥の刻み込みが付いている。下半身は白茶色ジョッパーと青黒いブーツを履いっていて、特に足が昨日より細く見える。何より腰布が全てを纏め上げて、弛みを中和した。


 昨日の夜もそうだったけど、この人はちゃんと服着れるんだな……最初からそうすればよかったのに。でも、なんていうか……服がきちんとしていればモノスゴイ色男なのに、最初から変な意味でド派手な登場されたら、もうマイナスの目でしか見えないよな…関わる気もないけど。


 私たちが彼の向こうのソファーに就けて、新しく入ってくる人がいないところを見た彼は、母に問いかけた。


「おかしいね〜改良型馬車の発明者と話したいと申し出たはずなんですが……うん、さては、発明者が『女王様』という事でしたのかな?」


「それは違いますわ、改良型の発明者は、この子です。」


 すると、こうの目から驚きの様子が見えた、でも、それはすぐ抑えられて、あっという間に彼は落ち着きを取り戻せた。


「それは何かの冗談かな?」


「私がそんな冗談をする様な人に見えたのかしら?」


 すると彼は少し考え後に、私に話しかけた。


「ベアトリスちゃん、お幾つかな?」


「七です。」


「そうか、ちょうど可愛らしい歳だな…馬車の改良は本当に、君の発想なのかい?」


「はい。」


「本当の本当?」


「本当の本当ですよ?」


 声の調子は優しくなっているけど、やっぱりあやしい目でみまれるよな……まあ、疑われてもしょうが無い、馬車を改良するとか七歳児がする様な事じゃないしな。…あれっ、意外とあっさりした顔に戻った。


「そうか…じゃあ、どう言う原理なのか、聞かせてくれないかな?」


 前世は自動車業社の社長だけど、私のクルマ知識は本物のプロに比べては赤子みたいなもんだ。うまく説明できる自信はないけど、こうなったらもうやるしかないな。


「…分かりました、頑張ってみます。」


「ああ、ゆっくりにしていてくれ。」


 緊張を解れるため、私は深呼吸をつけて、そして語り始めた。


「ご存知の通り、帝国の馬車は『車体に固定した車軸に自由に回せる車輪を装着する』という仕組みになっています。この構造の利点は三つ有ります;一つ、小回りが効くこと、二つ、コーナを回る時の車輪の損耗を抑えられること、三つ、車輪の入れ替えが便利ということ。利点はこんなにあるんですが、一つだけ、どう仕様もない欠点があります;それは、高速で走らせる時の激しい振動。これは車軸が固定されたから、凸凹に当たる衝撃は其の儘車体に伝わるからです。ここまで問題はありませんか?」


「う〜うん、どうぞ、話を続けてください。」


 まあ、相手も馬車を乗っている人だから、あの揺れの辛さは知っているだろうな。


「馬車を乗ってる時、わたくしは思ったんです、『もしも車軸が動けるなら、この振動は解決できるんじゃないか』って。しかし衝撃をどうにかしないと、結果は同じです、だから『衝撃を弱める物』が必要となります。アンナさん、例のものをフランシス様に。」


「はい…こちらでございます。」


 アンナが持ってきたのはショックアブソーバーではなく、ポーゴースティックだ。さすがに余ったアブソーバーはいないし、これでなんとか……


「これは……最近噂になっているアインハイゼから輸出した玩具か……来る途中に、子供と大人がこれでピョンピョン跳ねて楽しむ姿が見えましたが……なるほど、これが衝撃を吸収するカラクリですか?」


 正解までは行ってないけどけど、頭の回転が速くて助かった。


「それは答えのほんの一部です、試しにそれに乗ってみてください。あっ、あまり力を入れないでください、ちょっと跳ねればで原因が見えるはずです。」


「そうですか、えっと…確かこうでしたね……おっ?お〜おっ?これは思ったより難しいですね。」


 ポーゴースティックで跳ね始めた相手を見て、私も次の展開の仕方を考えし始めた。


 バネだけでは車用ショックアブソーバーにはならない、戦車のショックアブソーバーならバネだけだけど、それが成り立つためには厳しい条件がある。それは戦車の重量ーー五十トンもの重さがあれば、バネのリバウンドで車体が跳ね上がる事も考えられない。それに対して荷車は一トンを超える物ですら希少だから、たくさんの荷物を積んだらいいとして、空っぽの儘でスピードを上げたら、車体のピョンピョンが止まらなくなって、確実に事故になる。


「なるほど、振動を和らげるためにつけた物なのに、跳ね返りのが早すぎて逆に車体を跳ね上がらせたら本末転倒、というワケですか……つまり、本物のカラクリはこれをさらに改良した物、ですよね?」


 よし、うまく行けたようね。


「仰る通りです。そこで私は反作用を用いれてみると決めました…」


「少し待ってほしい。」


「はい…なんでしょう…」


「お伺いたいのですが…『ハンサヨウ』とは?」


 あっ、この世界にそういう名詞はまだいないのを忘れてた……本漬けでも見当たらなかったし、「誰々さんの論文で見かけた」と言っても嘘だとすぐバレるし、なにか良い言い訳は……あっ、そうだ。


「そうですね……泳ぐ時は、手足が水中にいるとを振り回すのが普段より難しくなるでしょう?」


「うむ、たしかにそうなるね。」


「あれは水が同じ力で、あなたの手足を押し返しているからです。」


「ほう……?」


「其の儘漕げ続けば、貴方は水を後方に押すと同時に、水は貴方を前方へ押すのです。この過程の中で、貴方を前へ押した力が『反作用』と言います。」


「ん……済まない、もっと分かりやすい説明してくれるかな?それに、衝撃を吸収することと水の中で前へ進むことの関係が見えませんが……」


 こっちはダメか……仕方ない、えっと……そうだ。


「蒸気船はご存知ですよね?」


「ああ〜あれは知っている。」


「あれが止めようとする時、スクリューは止まる、そうですよね?」


「うむ、確かにそうですね。」


「なら、スクリューを止まらせた蒸気船がおそくなる理由はご存知でしょうか。」


「…なるほど…つまり『動く物件はやがて止まる』ということですね?」


 うん、原理まではわからない様だけど、よくここまで理解したわね……変人かもしれないけど、ちょっと見直した。


「はい、これを展開して説明すると長くなりますので、結論から言うと、『水を切り開けて進むのは力が掛かる故、船体が保有する力が尽きたら、船は止まる』と言うことです。問題はありませんか?」


「…うむ、では元の話を続けてくれ。」


「はい、先ほどの話は……あっ、『反作用』を用いれる話でしたね。わかりやすく言いますと、鉄の筒の中で、船を止まらせる現象を再現するんです。もちろん小さい船を作って入れるのではなく、もっと別の物です。開発にちょっとした困難に遭いましたが、解決法には辿り着きました。」


「ほう……」


 ショックアブソーバーを作るためには密閉性を提供する合成ゴムが必要だった、でもこの世界では合成ゴムは存在しない。これに気付いた時は焦ったけど、まさかゴムの役割を務められる素材はいた。それはゼルが私からゴムの性質を聞いて思い付いた『モルナブアの弾力靱皮(だんりょくじんひ)』と言うモンスター素材で、去年クレアが来た時に着用していたショールもその素材でできているという。


「ただ、それ一つでは馬車は安定に走れません。もう一つの構造が必要…それは車体を車輪の上に浮かばせるための構造です。」


 懸架装置の話だけど、名詞はやめることにした、一々解説するのは長くなる。


「へえ〜浮かばせるのですね。」


「浮かばせると言って、実はそこの玩具と似たものを用いれるのです。」


「ふん……それでは本末転倒になるのでは?」


 うん、考えればこの問題は浮かぶよな、サスペンションを開発してた時、私も同じこと考えた。でも答えは相変わらずバネにあった。


「そう言う問題はありますよね、ではここで次の装置です、アンナさん?」


「はい、こちらです」


 アンナから渡したのはこの前のバネをちょっとアレンジした物、両端に円環をつけた物で、馬車の改良のために、ゼルに依頼して作らせた品物の一つです。


「こちらをご覧ください。」


 そう言った後に、私はバネの両端につけた円環を、このバネを引き伸ばし、そして片手をはなしたら、バネは元通りになった。


「…なるほど……『浮き上がった車輪を押し返すではなく引き戻す』ですか…実に面白い発想です。」


 おお……実物も見てないのに直ぐ理解したのは凄い。初対面で裸は結構マイナスだったけど、話してみると確かに優秀だな。


「原理はもうお分かりの様ですね、ではこの辺で失礼してよろしいでしょうか。」


「待ってほしい、行かれる前に一つ聞きたいのですが…」


「なんでしょう。」


 相手の顔は相変わらず緩々、まるで笑顔の仮面が被った様で、意図が読めない。


「…お嬢ちゃん、ウチに来ませんか?何をしたくても構わないし、美味しい果物とスイーツも食べ放題、どうかな?」


 …え?『何をたくしても構わない』、『果物とスイーツ食べ放題』…って、これ何の誘いなのよ…


「…何のことです?」


「もちろん婚約の申し出だよ〜君ほどの才媛は是非とも、フラワル家と我がグリンウッド家の友好関係を固めるために、我が子の婚約者にしてほしいのですが……『女王様』は認めてくれないようですね。」


「…当たり前です。」


 声の方に向けると、母は穏やかに微笑んでいるけど、コメカミに血管が浮き出している、ブチギレだ…!


「ジークフリートが爵位を授かれた時に、宣言したはずです…吾が子に政治婚約など申し込もうとする者は、容赦なく滅ぼすと…もうお忘れですか?」


 いきなりめっちゃ物騒な話が出てきた……て言うか、うちに公爵家をも滅ぼす力が有るのか……いや待てよ?、モンスターを号令する能力があれば、公爵家どころか、帝国自体を潰すこともありえそう……


「…あ〜ははは……、『女王様』は本当にお厳しいですね〜もちろん忘れてはいませんよ。先ほどの話は無かった事にしましょう…これから僕は街を回って参りますから、また今宵にね〜」


 人を怒らせたのに何なのよその態度…図々しい奴め……ていうか、エルフは十歳でヒトの一歳に等しいんんだっけ……婚約を結んだって、そっちが適齢になる前に私が先に歳をとって死ぬんじゃないか……


 グリンウッド公が会客室から出て行ったら、お母様は大きなため息をつけ、いつもの暖かい目で私に話しかけた。


「ごめんねリズ、いきなり難しい事して驚いた?」


 確かに驚いたところはあるけど、それ以上に…


「ん〜、ベアトリスは嬉しいです。」


「…え?」


 私が断ればよかったことなのに、母はあんなに怒ってくれた。相手を嫌っているのも理由の一つだったかも知れないけど、それだけではない。


「ママは、家が争いの渦に巻き込まれない様に、あの様な事を言ったのでしょう?」


 それを聞いた母は一瞬固まって、次に涙がほろほろと落ちてきて、嬉しそうな、辛そうな顔でこう言った。


「…もう…、リズは悟りが良すぎよ…そんな事、気付かなくてよかったのに……」


 六年前、社交季節で帝城に赴く時、母は一回だけ自分が貴族の出身だった事に言及した……きっと、散々に遭ってようやく争いの渦から抜け出せた母には、娘が沼に引き込まれるだけは絶対に嫌なんだ。


 二度も矛盾と暴力の渦に巻き込まれ、家族を亡くす事に経験した私には、その辛さが嫌ほど分かっている。


「ママの娘だから…分かるんです。」


 其の儘抱き締められた母は目を大きく広げ、収まっていた涙もまた湧き出そうとした。涙を流したせいで目元は少し赤いけど、それは母の傾国な美色びしょくに可憐さを加え、思わず見惚れてしまう。


 昔から領主代理の仕事で忙しい母には、ここまで近くからじっと見る機会はあまり無かった。夜咄よばなしする時もいつも太ももにつくだけで、こうして真正面から見つめるのは記憶にいなかった。


 そう…私は初めて、この世界での生みの親をじっくり見入り、感じた。


 白玉の様な透き通る肌に、練糸の様なしなやかな髪。美玉の如く光彩を放つひとみに、高嶺の如く聳立する美鼻。少し開いた唇は豊満で、血色が湧く耳でさえも愛らしく見える。そして何より、駄肉の欠片もなく、洗練された体つき。


 欠点らしい欠点すらいない。たった一つのほくろでさえも目尻の斜め下にいて、美人ほくろとしてその魅力をより引き立たせただけ……こんな人が私の親だったんだ…もはや神の偏りにしか言い様がない……ん?神?


 そして、私が離そうとしていたら、今度は母の方から抱きつけ、私の顔を彼女の胸に埋め込まれた。


「ふ…もう…、最近のリズは可愛過ぎです、そんな子にはお仕置きしないとね…」


 声づかいが完全に柔らかくなってる、これが「嬉しみが溢れた」という事かもな……、でも今はいい、なぜなら私は別の事に気を取られて、今の顔を保つだけで精一杯になっている。そしてその「別の事」とは、母のスタイルの良さのことだ!


 七年間女の子として育てられて、実際も女の子ではあるけど、一応男としての人生のほうが長い私には、そっちに意識しないのが無理だ……前世では姉妹に引っ張られて、カラオケ、ショッピング、温泉や海水浴とかに行く時には、左右から腕が抱えられたのも、背後から押しつけられたのもあるけど、顔が胸に埋められるのはさすがにない!


 さいわいなことに、母は肌を見せる服を好まないし、今もきちんと包んている、だから息苦しいまでは行ってない、でもやっぱり当て続けるのはハズい、超絶ハズい、もはや別の意味で牢になってる……


「おおっ、リズをそんなに可愛がって、何か嬉しいことでもあったのか?クラリス?」


 あれっ、その声って……


「何でもないわ、おかえりっ。」


「ああ、ただいま。」


 母は声の方に向かなかったけど、手は緩めて、そのおかげで私は頭を回って声の主を見れる様になった。そして私はそれにビックリした、なぜなら、その姿はもう一年前とは程遠い、あの顔立ちじゃなきゃ完全に別人に見誤るくらい…いや、母と周りの人たちからするなら、「元に戻った」と言った方が正しいかも知れない。


「おかえりなさいませ、旦那様。」


「アンナも元気にしている様だな。」


「おかげさまで。」


 そう、フラワル領領主にして、平民からの伯爵、人道じんどうを歩く英雄、そして私の父ーージークフリート・フォン・フラワルは、ついに一年の休養期を終えて、この街に…、この家に帰って来た!

昨日でアップしたかったけど、ちょっと声に出して読んでみたら息が全然足りなくて、「これはダメだなw」と思って、ちょっと書き直してみました。

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