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遍在にして常在の障礙(その2)

思い返せばもう三ヶ月ほど過ぎました、更新も段々遅くなっちゃって、本当にすみません……まだ覚えている方がいるなら、今度の内容で楽しめるといいなと思ってます。活動報告にも言いましたが、スクリプト書きを始めて、バイトも中止になりました、更新の頻度を引き上げればいいなと思ってます。それでは今回もどうぞ。

 「……過激論者への対策はある?」


 過激論者と言う言葉が耳に入れた途端、ダンとクレアは表情を引き締まり、沈黙に陥った。二人はそこまで考えていなかった。


「その様子では対策は練っていないようですね……()の種族にもその類の者はある。言い換えれば、彼らは他の種族を勝たせない——ただの小細工ならまだしも、最悪暴徒とモンスターを(けしか)けて襲撃を起こし、アインハイゼを挟撃するわよ。」


 戦後、異なる信念でも容認できることを示すために、戦争に積極的ではなかった貴族達は政治主張を分かず、引き続き貴族の地位(ちい)を保障される。皇帝と四公が定めた憲法を違反しない限り、高度の自治権を持ち合わせている。


 そんな貴族達の中に親族が戦争で不帰の者が多い。既に理性をつけた成人はまだしも、少年だった者は過激傾向(かげきけいこう)を拾いしかねない。終戦後(しゅうせんご)16年の今、アインハイゼを往来(おうらい)する行商の噂によると、その権力を利用し秘密裏に私刑を行う者が多い。


「六年前の冬に突如現れ、アインハイゼの建設現場を襲ったアグレックスと言うモンスターは知ってますか?南方雪原の王者アグレックス、過去の研究によれば季節が変わっても生息地を変えないモンスターの一種です、普通はアインハイゼの辺りには見えないはず……つまり、あの事件が人為である可能性は極めて高い。」


 険しい可能性を導き出したクラリスは眉をひそめ,領主名代としての考えを明かした。


「大会自体は素晴らしい提案です、むしろその類のイベントを開催する計画は前からずっと描いていた……しかし、今はそれを執り行う時ではありません、ジークフリート様は静養しないといけません。市民と兵士達の精神的支柱が揺れる今、アインハイゼはその最も脆弱な時期を迎えている、こんなタイミングで暴動が起きたら、街が崩れるかも知れないわよ。」


「当日アインハイゼに来るようにブレイン様を呼びつけばいけるのでは……」


「兄上が鎮守するスタウスタッツはフラワル領の中でも随一の地位を持つ要地、帝国全体の鋼鉄、貴金属、宝石など鉱物資源の内、八分の一以上がそこの()です。蒸気船で例えるなら、アインハイゼはフラワル領の蒸気機関で、スタウスタッツが木炭……新イベント一つの為、わざわざそんな要地から離れてアインハイゼに戻る事にどんな意味があるのか,わかる?……」


 説得されたダンは考えし始めた、誰がアインハイゼの精神支柱を一任できるのか。そしてまっすぐ頭に浮かんだ者は誰でもなく、机の向こうに座っている令嬢——ベアトリス。しかしベアトリスならできると確信し、一瞬この考えを口にしようとした彼は、すぐこれが不妥当だと気付いた。


(って、バカか俺は!……いくらお嬢に親譲りのカリスマ性と頭脳があるからって、いくら立派に十二人の指揮が熟せるからって、子供に軍の指揮を取らせるとか冗談にも程がある!)


 『トン!』


 この場にいる者みんな、いきなり額を卓に叩きつけたダンの行動に一跳ねした。


 「申し訳ありません、貴重なお時間を頂いたのにこんな考えが足りない話を申し出て。別の方法を探ってみる、失礼しました!奥様、お嬢様!」


 そう言いながらダンが席を外し、平伏しようとしていた。しかし幼い令嬢の声が彼を止めた。


「待って。」


 会話を始めさせるアイスブレイクの後ずっと話を傍聴していたベアトリスが二人に呼び止めて、彼女の意見を述べた。


「問題を早く解決したいのはわかります、でもこんな問題は独力でなんとかできる事ではありません、どんな人でも同じです、だから……」


 ベアトリスの言葉が最後の一藁(ひとわら)だったのか。ダンの額に血管が浮かび、歯を剥き出し、拳を握り締め、顔まで歪んで、涙を垂れ始めた。激昂で気が狂ったか、彼は突如にベアトリスの(えり)を掴もうとした。


「だからっ……!?」


「ちょっ!……って……え!?」


 クレアは目の前の光景を信じられなかった、……彼女が見たのは、巻きスカートの生地の隙間を大きく張らせ足を出して、流れるようにダンの腕と肩を掴んで、稲妻の如く速さでダンを地面に押さえつけた。


「えっ、えー!?、アンナ……さん?」


 驚愕の視線を浴びたアンナは、ついさっきまで微笑みでハーブティーを淹れてくれた温厚な侍女とは思えない声で低語した。


「言動を慎みなさい、言い訳に応じてこの程度では濟まないわよ。」


「ケッ!……結局みんな同じかよ!人の行動を否定して置きながら自分が何もしないで見て見ぬふりして何もしない、一体何様のつもりなんだよ!」


 ダンの訴えに対して、アンナはその肩を外す勢いでさらに力を入れて、ダンを苦しませた。一方、娘を庇う為に抱き着けた屋敷の女主人が声を上げて止めに入った。


「アンナ、もういいから放してあげて、これ以上やったら彼の肩が外れるわよ。」


「……はい。」


 命を受けたアンナはダンを放し、再び侍女として隣についた。地面に張り付いていたダンもクレアに()かされ地面に平伏し、クラリスが下す裁きを待った。


「……ダン・ギニウス、乱暴は感心できません、況して相手は子供、その所行に与えする罰はお分かりですか?」


 再び威圧を放ち始めたクラリスの姿を前に、クレアは思わず焦り、早口で謝罪し始めた。クラリスの逆鱗を触れたダンを救う為……


「申し訳ありません、申し訳ありません、申し訳ありません、夫人、後できっちり締めますからどうか、いや私を代わりに……」


「でもアンナ、肩を外すのはやり過ぎよ、後で謹慎(きんしん)処分です。ギニウスくんはこれで納得できるかしらっ。」


 本来覚悟をできたダンはこれで意表を突かれた、まさかクラリスが下す判決が、意外と寛大だった。疑惑しながら、(おもて)もあげず、戦々兢々と問い掛けた。


「……どうして懲罰を下さないんですか?」


 ダンの質問、それは同時にクレアの質問でもあった、その質問を前に、クラリスはいきなり表情と威圧を緩んだ。


「……本当は重罰に処したいんですが、未遂で厳しい罰は出せませんし、教訓も十分だと思うんですが……腕外されないと納得できないなら、喜んで外しますが?」


 そう言ってアンナをチラッと見たクラリスを見る二人は理解した、この御仁は感情で判断を乱す人間ではない。なにしろ、我が子の安全を前に理知を保てる母親は早々に会えない。


「ほら、時間がもったいないから、早く話を再開しようかしら。」


「……その前に唐突なんですけど、クラリス様とお嬢様に知らすべき話があります。」


 何も言わず、クラリスが首肯けて、クレアがその話を語り始めた。


 ダンはその家族と一緒に南方雪原に立つ軍事都市ブランカイズから逃げ出した逃亡者だったことを始めに。彼の父がエルフを憎む若い子爵から家族を守る為、囮になって生死不明になった一件。


 逃げ出した後、一家が偶然でバルカンとその一家に会い、あの時まだ流浪鍛治師をやっていた彼に引き取らせ、その後数年大陸各地を巡って、やがてフラワル領に(とど)まったと言う話。


 家族を守るため、肉体を鍛え、武芸を磨き、どんな苦痛も耐えてきた。十七歳でまだろくな教育を受けなかった彼は、アインハイゼでハンター試験を受けて史上最年少合格者になって、ハンター活動を始めた。


 実力主義の鍛冶工房フェリウスの偏見付き喧嘩日常を始めに、ハンター仕事の行き先で見える異種族の間に起こる社交排斥、種族で待遇を決める街、下水道清掃の依頼で発見した殴り(あと)だらけの当地の劣勢種族の人の遺体……


 隣で待機しているアンナを含め、皆静かにそれを聞いていた。


「……これで全部です。」


 一時、部屋の中に呼吸音しかいなかった、しかしそのしじまが打破されるまで、長くなかった。


「人間、エルフ、鬼、ドワーフ、竜人、文明あればみんな同じく、経験で世界観(せかいかん)を築く者。莫大な時間をかけて積み重ねた経験による認識を塗り替える事は至難の業です。百年以上続いた乱世から統一戦争、若君(わかぎみ)達の一斉政変(いっせいせいへん)から万国帰一(ばんこくきいつ)(やいば)を向き合う敵から共存共栄、この一連の変化は一般人にとって、早すぎます。物覚えが利く頃からの教育、戦争で失った親族の怨み、環境の急変による不慣れ……これら全てが共存を(さまた)げる因子です。」


 聞かせ相手ダンとクレアは呆然と固まった、しかし六歳児にして異常すぎの分析を口にする令嬢は彼の驚きに構わず話を続けていった。


「ダンさん、偏見を正すことは素敵な考えです、ですがさっき言ったように、それを成し遂げるには一人二人の努力では足りません。」


「そうね〜ならギニウスくんはどうすればいい?」


 クラリスに問われると同時に何か思い出したように、ベアトリスがその頭を下げて自嘲の様に顔を緩み、そして息を吸いながらまた頭を上げた。


「理想への道を一人で押し通す……それは、想像を絶する苦痛を前にする茨の道です。でもあなたは独りではありません……あなた自身はそう思わないかもしれませんが、クレアさんを見てください。」


 頭を幼馴染に向けたダンは、自分が目にした光景を疑わした……それはいつの間にか涙を垂れたクレア。共に過ごした十年、怒る姿も、笑う姿も、悩む姿も、不満の姿も見てきた、しかし泣き顔だけ、今になって初めてだ……なぜ今?彼はそう考えた。


「なんでいつもいつも助けを求まらないのよ……だって一応一つ年上の姉さんじゃん、どうして頼らないのよ……面倒を見てあげる為にハンターになったのに、人に言われてようやく気づくのかよ、バカっ……」


 思い返せば確かに理屈に通らない所があった——クレアはアインハイゼ一の鍛冶屋の後継ぎ、先は明るいし金にも困らない。普通、そんな人がハンターになって命を賭ける理由がないはず。


 体は鍛えたとは言え、彼女は今年の試練を受けた者の中、二番目の若者であり女性、パワーはギリギリ合格ラインに足しているだけ。


 判断力と分析力共に優れて、チームの司令塔としては飛び切りだが、決してハンターとしての才能が大きいわけではない。そんな彼女がなぜそれでも尚、ハンターになったのか……


「それに私達は親友でしょう?、どうして私に頼ろうとしないのよ、……奥様の逆鱗を触れてあんな酷い(こと)言って……追及されたら命を張ってあんたを庇う覚悟をしたのよ?、このバカ……」


 先程のダンの言葉、他の人が何もやっていないと非難した、しかしそれは本当なのか……少なくともフラワル家にとって、それは決して真実ではない。


 人々の生命(せいめい)を守る為、自分の人生を捧げたジークフリートに・領民の福祉(ふくし)の為、愛娘に構える時間をも放って領主名代として奮闘してきたクラリス・ハンターに基本原則を伝える為に、自ら試練に飛び込んで危険を冒すベアトリス・その中の誰に言っても情理に合わない。


「すまない、考えが足りなかった……それと、ありがとう、隣にいてくれて。」


 ダンがそう言った途端、クレアの目が丸くなり、歪んだ表情とさらに湧き出す涙を(おび)て、体をダンの胸に押し込んで泣き喚いた。


 この場面で抱きつけられたダンは色んな理由で慌ててはいるが、傍観者(ぼうかんしゃ)たちはちっとも気にしていない。むしろこの光景を前に、彼女達は只々口角を吊り上げ、無言で暖かな一時を見守ってた。


「二人ともいい所なのに悪いですが……そろそろ本題に戻ろうかしらっ。」


 数分後、クラリスが二人に声をかけ、二人が立ち直るまで待ち、再び話題を進ませた。


「ギニウス君の行為は予想外でしたが、こうして偏見を消そうと思う人が出てくるのは予想の内です、そのための最初の一手の準備は遠にできています……しかし理想な人材が足りない為、ずっと放置していたのですが……実現の日は目に見える様ね。」


 ダンとクレアの好奇心はすぐ此に釣られた。


「「それはどう言う話ですか?」」


「それは後のお楽しみです、今は工房の問題を解決しよう。」


 二人の疑問に答えず、クラリスは引き続き自分の意見を述べた。


「鍛治大会に関しては……形式を変える必要がある——先程言っていた過激分子を誤魔化す為に、露骨な競い方にしてはいけません。そうですね……困難な課題を出して、その要求に沿った作品を提出させて、ハンター達がそれを使って実技テスト、バルカン先生が武器の状態について評価するのはどうかしらっ。」


 そしてらクラリスが一時止まり、優雅な姿勢で茶を啜って隙間を置き、その後話を続いた。


「外人から見ればただの鍛造講評会(こうひょうかい)でも、工房フェリウスの宣伝にはなるし、参加者の視点から事の意味も異なる。潜在客の客観意見に師匠の評価、一学徒にとってそう(やす)々と会えるチャンスではありません、……偏見が消せるかどうかは、彼ら次第です・信じてみますか?彼らの腕と共に過ごしてきた青春をっ。」


 ダンとクレアは知っている、おそらく此はクラリスが容認できる成功率の最も高い作戦でしょう。だから二人はためらわずこの提案を受け入れ、一つ頼みをした……


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


 面会の後数日、アインハイゼの街道にフェリウスレビューと呼ぶイベントの情報が漂った。街に行き来する人々にそれぞれの感想があるが、そのうち大多数に共通点がある。


 それは『家族友人に教えて一緒に観にいく』——それも当然だ、フェリウスと言えばアインハイゼ(いち)の武具工房の名、その親方であるバルカン・フェリウスは凄腕の元流浪鍛冶師。


 当領領主ジークフリートの愛剣と騎士団団長ブレインの愛弓、そしてアジリス試練に使われる武具一部も彼の作品。前者は勿論、後者も一級品ばかり。その工房はアインハイゼの鍛冶業界の約三分の一を担う、正に強豪。そんな工房の初イベントを見逃したら、後悔するかもしれない。


 フラワル家の客室にて、フラワル嬢は今、紅藤色のセッコクランに纏われた空色の大剣の紋章を飾った外套を着た二人と話をしている。


「さすがお嬢様です!グランドスクエアへの道辺に布告欄(ふこくらん)を立てて詳細を載せた紙をそこに置くなんて。知らない間にこの事がアインハイゼ以外の街まで届いたようで、今大通りの旅館はほぼ全部満員だそうですよ!」


「それにあの木のキューブ、活字って言うスか?あんなものを思いつけるなんて天才的すぎス!これなら少しだけ訓練すれば字が読める人も自分でものを書けるし、もっと多くの人が進路を選べそうだ。お嬢の知恵は奥様にも遅れを取らない気がするス!」


「伯爵様が人々の生命を守り、奥様が民衆に富裕をもたらした……そんな二人の血を引き継ぐお嬢様、今でもこんなに素敵なのに、十年後どうなっちょうのかな……」


 興奮で話しが止まらない子供の様な二人を前に、ベアトリスの様子はそれに苦手な大人に見える。苦悩までは言えないが、顔に掛けている苦笑(くしょう)からこれを予想していなかった事が見える。


「そう、ですか……役に立ったようで何よりでしゅっ……です。」


「プッフッ……」


 小声だが、噴き出しを聞こえた幼い伯爵令嬢は振り返って、むずかしい顔で失笑した専属侍女を睨んだ。しかしベアトリスの視界に入る前に、アンナも侍女たる姿勢を見せ、緩んだ顔で立ち直った。


「ゴッホン!まあ、これもダンさんとクレアさんの努力と信用あってこその成功ですねっ。」


「とんでもないス!お嬢のアイデアがあるから事が思ったよりずっとうまく進めたんスよ。候補として受け入れてくれて、自由行動させるのも感謝しきれないスよ。」


 クレアも口角を吊り上げて彼の言葉に頷けた。


「奥様とお嬢様の寛大さには本当に感謝しています……候補にしてくれるだけでもありがたいのに、給料があんなに豊富で休暇もあるとか、本当に騎士をやっているのか疑っちゃいます……」


 クーゲル皇子の捜索行動から帰還の後、ベアトリスが家で母と自我に向き合う間に、行動に参加したハンター全員、ベアトリスに今後の人生を差し上げると決意した。ダンとクレアが騎士候補になったと言う宣告を始めに、あの時の(ほか)10人もクラリスに請願した。


 彼らのこの行動にもちゃんと理由がある——思わず引き込まれるカリスマ性・獣潮を前に動揺しない冷静な頭脳・炎帝と対峙し生還した勇気と実力・高価品を惜しまず分ける破天荒ぶり・今はまだ子供だけど、このお方について命の果てまで尽くしても悪くない——それが彼らの考えだ。


「それにしても今日、奥様いないね……やっぱり領主名代は忙しいんですね……」


「お母様なら、お父様を送りに出かけてますよ。今頃戻る途中のはずです」


「なるほど、……じゃあ此から工房に戻って開催の準備をします、次は会場でお会いましょう!」


 燃え上がる炎の如く髪を躍らせ、爽やかな草原の如く目を輝かせ、少年は歩みを大きく、力強く踏み出し、門を抜き理想へ駆けて行った。


「こらダン!……すみません、あれからずっとああですよ……しょうがない人なんですから……」


「いいんです、彼にとってそれほど大きな意味があるんでしょう。」


 二人共穏やかな笑みでダンが押し開けて未だ閉まっていない扉を眺めた。


 続いて、秋の栗のような茶髪を持ちながら、夏の大空みたいな眸を持つ少女も焦らずおっとり立ち上がって、ベアトリスに退席の挨拶をした。


「レビューの会場でお会いしましょう、私も此で失礼いたします。」


「ええ、頑張ってね♪」


 きちんと退出の礼を済ましたあと、クレアも瞬く間にでダンの跡を追って行った。


 クレアが門を抜けた後、アンナが肩の力を抜いだベアトリスに寄って、抱き上げた。


「やっと終わった……」


「宣誓儀式と代表面会、お疲れ様です、お嬢様。……元気そうですねっ、ハンターの皆さん。」


「元気すぎるよ……まさかあの状況からいきなり騎士に成りたいと希望してくるなんて……私が騎士団を統率できる(うつわ)に見えるの?……あと恥ずかしいからおろして?」


「それはどうですかね〜」


 侍女の懐中で肩の続きに体の力を抜いたベアトリスの目に苦悩と疲弊が映している。


「何よ……じゃあアンナは私のことをどう思ってる訳?あと下ろしてってば……」


 そう問われたアンナは暖かな微笑みをつけて、片目を瞑った。


「それは……抱き上げたら顔が赤くなっちゃう可愛い()ですかね。」


「……揶揄わないでよ……あと下ろして?」


「あらっ、揶揄っていませんよ?フフッ♪」


「……(おろ)さないならこのまま寝るわよ?」


「はいはいっ、後は私に任せて〜お嬢様は良い夢を見てください♪」


「もう……知らない。」


 こうして(よる)が深まり、丸一日精神を引き締まっていた幼い令嬢があくびをつけて、嬉しそうな顔をする侍女の懐中でぐっすり眠りについた……


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


 翌朝、(そう)々に起きたダンとクレアは期待と昂りに満ちた笑顔で鍛冶大会を開くと発想した時積むっていた鋼の置き場に向かって行った。


「親方さんに頼んだのは正解だったぜ〜、俺達じゃあ良い鋼を調達するどころか、鋼を買うこと自体できないもんな〜」


「フラワル夫人が提出した法律があるからね〜鋼鉄の製造と売出し、買取り、武器製造、鉄製品製造はそれぞれの要求をクリアしないと免許をもらえない、免許の偽造を発見されたら全財産没収と十年以上の強制労働。賄賂も効かない、だってこの類のことに関わる人は金に困らないし、不良品を使ったことがある者か、そのせいで亡くなった者の遺族か、不良品の存在を最も許せない人達だ——そのおかげでアインハイゼの武具や鉄製品に不良品がほとんど出ないわ。」


「そんなことあったのか……」


「それだけじゃないわよ?アインハイゼを貿易都市と決めて、五年に一度挙行する最高議会で同等価値の食糧を国から兌換できる『貨幣』の発行、そしてその基礎として国営の食糧買い取り制度を皇帝陛下に提案して、帝国の(いしずえ)を立てたの。貨幣がなかったら、ゼルの様な人材は集まらないし、蒸気船みたいな発明はありゃし……」


 そろそろ着く頃と下意識に頭を前に振り向いて積み上げた鋼を見ようとしたダンとクレアは、目の前の(から)々の空き地に一瞬目がくれた。


「「って—!、鋼材が消えた—!」」


 ダンとクレアの叫びが工房を響き渡り、朝っぱらから鉄をトントン打っている鬼を引き寄せた。


「なんだあんたらか……どうしたんだ?」


「「ここに置いた鋼材が!、ない!」」


「落ち着けよ……ここの材料なら昨日俺が実験に使ったぞ、まあ、どれも使い物にならないから溶かして親方に渡したよ、なんか微妙な顔で見られたけど……」


「「またおまえの実験か—い!!」」

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