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同僚の目

 治療院のヒトによれば、僕はひどい栄養失調状態と過労に陥っていたらしい。どうやって測っているのか分からないけれども、『少しばかり』魔力がおかしいことになっていたとも言っていた。とは言えしばらく安静にしていれば体調は元に戻るとも。


 というわけで、僕は退院の運びとなった。退院が決まったことをトバスに伝えれば、どうやらその日は食堂での仕事と時間帯が重なってしまっていたようで、付き添えないことを残念そうにしていた。


 で、退院当日。一人で宿舎に戻るつもりだった僕の前にいたのは。


「やあ、ようやくまともな顔になった」


 出入り口で手を上げるのはロジ主任だった。僕が目を覚ましてから一度も顔を合わせていなかった。しかしどうしてだろう、ロジ主任の顔には疲れの色が見えていた。目の下のくまが隠しきれていない様子である。


 僕が戦線離脱している間に何があったのか。


 けれども、ロジ主任はさも調子が良いような雰囲気で僕を迎えて、それから一緒になって治療院を出たのである。


「戻ってきてすぐに君は倒れてしまったからな。誰も成し遂げられなかった仕事をしてくれた。感謝するよ」


「僕はただ危険地帯に入る人間を追いかけていただけですが。結局僕の仲間を殺してしまいましたし」


「その言い方からすると、ノグリくんは自分がやったことをあまり理解していないようだ。ヒペオは瘴気から解放されたのだよ」


「解放されたって、瘴気がこちら側に来なくなったということでしょうか」


「来なくなった? そんな程度の話じゃないのだよこれが。なくなった――なくなったのだよ」


 ふと人混みの中から宙に高く飛び上がる子供の姿が目に入った。無邪気そうな純粋な笑顔をしながら人混みを飛び跳ねて移動している様子。僕と目が合うなり、ブンブンと手を大きく振ってきた。


 あんな子供、会ったことがあったろうか? 疑問に思いつつも手を振り返していたら。


「どうして手を振っている? 話を聞いている?」


 怒られてしまった。


「聞いていますよ。なくなったって何がなくなったのです」


「やっぱりちゃんと聞いていないじゃないか。瘴気だよ。瘴気がなくなったのだよ。観測担当が瘴気の気配を全く感じないって話になって、調査に出させたのだよ。第一陣は新市街から旧市街方面にかなり進んでもなんともなかったって。今は第二陣がもっと奥に進められるか調べている」


 いや、ロジ主任の話を聞いていられる状況ではなかった。


 ヒトの体を通り抜ける子供の集団が道を駆けていた。手のひら大の子供が顔の周りを飛び回っている。いかにも知識を蓄えた風の老人がどこからともなく建物の屋根の上に立っていて、かと思えば一瞬で地面に降り立っている。


 このような状況で話を聞いていられるか?


 森の中で幾度となく会話した精霊の子が建物を飛び越えていった。


「ええと、瘴気がなくなったという話は理解できましたが、この状況は何ですか?」


「別に瘴気がなくなったからと言ってなんともないぞ。せいぜいお祭り騒ぎになろうとしている警察団の連中ぐらいだぞ」


「そうではなくて。ロジ主任には見えていないのですか?」


 ロジ主任の頭上に小さな精霊が腰を下ろした。多少なりとも違和感を感じても良さそうなものだが、ロジ主任は全く反応していない。頭上の精霊は腰まで伸びた髪に手ぐしをかけていた。さも当然かのような、落ち着いた様子でいるように見えた。そうあることが当然であるかのような。


「見えていない?」


「あちらこちらに精霊がいるのですが」


「精霊? 精霊って言うと、おとぎ話とかに出てくる連中のことかい」


「そうです。まさに今、ロジ主任の頭の上に座っているのですが」


「何だって?」


 まるで虫を払うようにするロジ主任。しかしその手は精霊を捉えることなく、頭のてっぺんをかすめるだけだった。対する精霊は平手の一撃が来る前に難を逃れて中空でぷんすか怒っている。居心地が良かった分、追い払われたことへの不満が強いのだろうか。


 と思ってロジ主任の少し上のあたりを眺めていたら小さい精霊と目が合う。わざとらしささえある怒りっぷりが一点、恥ずかしそうに笑みかけたかと思えば僕の方へ飛んでくる。あざといと言うか、媚びを売っているというか。終いには肩に腰掛けて僕の方を凝視してくる。


「何もないが」


「今は僕の肩に乗っています。そうですか、見えていないということですか」


「待て、じゃあ何か? ここには精霊がたくさんいるというのか?」


「はい。旧市外の方で見たことのある子もいました。多分、瘴気が出なくなった代わりに、精霊が流れてきたのだと」


 ロジ主任はふいに立ち止まった。眉間にシワを寄せてどこを見ているのか分からなかった。ややあってから全くの別方向に体を向けて歩き始めた。


 僕は一瞬置いてけぼりを食らってしまう。後を追いかけるべくロジ主任についていこうと急に動いてしまえば、肩の精霊が体勢を崩してしまった。しがみつく形で辛うじて落下を免れたけれども、僕のことをぽかすか叩いてきた。大した刺激にもならなかったが。


 ロジ主任の向かう先には詰め所はなかった。


「どこへ向かうのですか」


「あたしの頭では考えても何も進まない。知っていそうなヒトのところに向かうだけだ」


「治療院からは当面は安静にしろと言われているのですが」


「おしゃべりぐらい良いだろう。な?」


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