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精霊に惑う

 精霊というのはどこまでも無邪気らしい。


 一眠りする前に、ドードがどこにいるのか分かると言ったのは目の前の精霊である。


 それが。


「えっとね、分かんないや」


「分かるって言っていたじゃないか。他の精霊に聞くことはできない?」


「聞いてみたのだけれど誰も返事してくれないの。寝ちゃっているのかなあ」


 大きく背伸びをする精霊はまるで違うことを言っているように思えたけれども、どうしてだろう、伸びをする瞬間の穏やかな表情を見ていると怒るに怒れなかった。


 外は晴れこそしていないが雨は止んでいる。地面はまあ、ぬかるんでいるだろうがさして問題はなかろう。邪魔者がないのだから索敵の魔法は放ちやすい。


 多分、精霊に頼ろうとした僕が悪い。


 一眠りする直前に察知した方向へ向かって索敵の魔法を使う。魔法の滞りなく伸びてゆく感覚はとてもなめらかだった。僕はよっぽど疲れていたらしい。一休みしたのは正解だったということか。


「ねえ、何をしているの?」


「人を探しているの。さっき君が分からないって言っていた」


「ごめんね、みんなに聞いたらすぐ答えが帰ってくるはずなのだけれど。三人ぐらいが『怖いからいないところに逃げた』って返してくれただけで、他の子は何も言ってくれないの」


「君は探せないの?」


「やったことないから分からない。だっていつも聞けば教えてくれるから。だから――」


 ふいに言葉を切った精霊の子は外をじっと見つめる素振りを見せた。きっと口を結んでまっすぐ見据えている感じの様子はどこか集中しているようにも見える。


 僕の魔法には魔物が一匹引っかかっただけで目的の反応はなかった。


「あっちが騒がしいよ。悲鳴が聞こえる」


 精霊が指差すのはその子の正面、窪地を出てまっすぐの方向だった。僕の耳には何も聞こえないし、目で見たところ、動いているものは見当たらない。


 未だ成果を見せていない索敵の魔法を切り上げて精霊の指差す方へ撃ち放ってみる。程なくして数体の反応が届けられるわけだが、魔物が数匹感じ取れるだけだった。


「魔物だけ?」


「いいや! 僕の知り合いもたくさんいる!」


 どうも僕の索敵では精霊を拾うことはできないらしかった。ともかく、精霊が言っているのであれば間違いはない。魔物がなにかしているのであれば助ける理由はなかった。


 精霊の子を連れ立ってその方へ向かえば、確かに少しずつ騒がしい声が聞こえるようになった。獣じみた咆哮もあればうなり超えも、時たまヒトが自らを奮い立たせるために声を上げているようなものが耳に入ってきた。


 声はますます大きくなってくる。自然と僕は精霊の子をかばうような動きで源へと迫った。逃げ惑っている精霊の姿を見ることはできないものの、


「あ、大丈夫だった?」


だとか


「良かった怪我していない?」


と視界を流しながら声をかけているところ、精霊とすれ違っているらしい。


 樹木の間から激しく動き回る獣の姿が見えた。押したり引いたり、何かを相手にせめぎ合っている。獣が数匹。獣同士が争っていないところ、共闘している。


 誰と?


 精霊の子が別の精霊に声をかけている中、僕は獣の視線をたどった。樹が邪魔で中々線を伸ばせなくて。行けたと思ったら空中に描いた線が霧になって散ってしまう。走りながら、魔法に頼らないで探すとなれば木々が邪魔でしょうがなかった。


 索敵の魔法を放てばよいだろうけれど、距離的に魔法を使うほどでもなくて、そもそも新しい弓銃を走りながら扱うのはまだやったことがなかった。重さからして僕には満足に扱えないのは火を見るよりも明らかだった。


 立ち止まればよいのだろうけど、一刻も早くたどり着きたかった。


 もしかしたら、という思いがあったから。


 確かに魔法で検知したのは全て魔物だった。人間ではない。しかし考えてみよう、ドードは少しずつ人間を失って、魔物を得ていたではないか。僕が休んでいる間に魔物を屠り続けていたとしたら。ドードは人間を保っていられるのか?


 魔物の視線からたどる線が終点に至る。


 魔物しかいないはずのその場には双剣を携えて咆哮を上げる人間がいた。


 僕はその姿を知っている。


 僕はその顔を知っている。


 僕はその声を知っている。


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