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迷子ふたり

 ゆらゆらと腰を振る炎を少し眺めて、それから精霊の子は外に飛び出していった。雨の中に飛び出してゆくなり体の周りに白い火の玉がいくつも現れる。


 その姿で雨の中に飛び出すが、貫頭衣が濡れる様子は全くなかった。体の周りに漂っていただけの火の玉が頭上に集まって目まぐるしく回っていた。ぐるぐる回って雨粒を防いでいるらしい。


 僕が使う淀みの炎とまるっきり同じような炎。僕の周りに現れるのを見たことがある。しかし、頭の上に炎を集めるなんて発想はなかったし、それ以前に思いのまま動かせるとも考えたこともなかった。何かに反応して勝手に火花が散っているような感覚だった。


「じゃあね!」


 手をブンブンと大きく振って、かと思えば踵を返して走り去ってゆく姿は無邪気以外の何物でもなかった。子供って元気だなあと素直に思えてしまう。樹木と樹木をやめかけている樹木と樹木をやめた何かの間をかけてゆく姿を、その姿が見えなくなってもなおぼうっと眺めていた。


 ハッとしたときには一層雨脚が強くなったように耳で感じられた。けれども次の瞬間にはすっかり集中力を切らしていたことに気づくのである。


 索敵の矢も網も感じ取れなくなってしまっていた。


 長いこと索敵の魔法を維持し続けていたためだろう、妙に体がふわふわとする。足元がおぼつかなくて、まるでずっとたちくらみにあっているかのよう。危うく焚き火へ突っ込みそうになったからのけぞったつもりが尻もちをついた。火に飛び込むよりは尻を痛める方がいくぶんかマシだった。


 雨に打たれながら魔法を使いながらの行進は想像以上に体にはこたえていたらしい。けれども困った。悠長に立ち止まるわけにはいかないのだ。僕は火に当たりながらお尻から響く痛みが収まるのを待っている間でも、アレはずっと動き続けているに違いなかった。


 現実問題、目の前の本降りの中にこれから飛び込む勇気と気概があるか。


 僕もあの精霊のように炎を操ることができれば雨を気にする必要はなくなる。とは言え、ずっと移動しっぱなしで体は疲れている。このまま進んだところで動けなくなってしまうことは避けたいけれど、しかしアレが動き続けていると想像したら。


 留まるのが怖い。


 しかし、座り込んでしまったところで立ち上がれる気がしなかった。どうしようと炎を眺めていれば、次第に体全体が心地よい感覚に包まれてゆくのである。一切の嫌な感覚がなかった、聞こえる音だって、忌々しく思えるはずの雨音さえも。


 で、気がついたら。


 先程雨の中を飛び出していった子供が火で遊んでいた。遊んでいるのか? 体の周りに浮かぶ火の玉を焚き火の中に投げ込んでいるのだ。


「何しているの」


 気の向いた言葉もなく、僕が口にできたのはそれだけだった。


「なんか怖いのがいたから戻ってきちゃった。おじさんみたいなのが魔物と戦っていた」


「それってこの近く?」


「近く、ではないけれど、うんと遠いわけではないよ」


「まだ移動していた? ここから離れているようだった?」


「分からない。森を抜けたらそこで人間みたいなのと魔物が暴れていたから飛んで逃げてきたのだもの」


「その人間ってどんな感じだった? 顔つきとか、服装とか」


「よく見ていないから分からない。両手に剣を握っていた」


「そっか。ありがとう」


 ドードは双剣使いである。精霊の目にした人間が双剣使いだというのであれば、それがドードである証の一つになる。魔法に乗せて届けられるドードの後悔、双剣使いの存在。僕の中ではほぼ間違いない。


 ドードだ。剣を振り回す人間こそがドードに違いない。


「剣のおじさんを倒すの?」


「倒さないといけないだろうね」


「願ったりだね。精霊たちも怖いの。追い出してくれるならうれしいよ」


「迷惑しているの?」


「だって怖いもの。みんな言っているよ。久々に人間なんてものを見たけれど、あんな獣のようなものじゃないはずだって。アレは人間の皮をかぶった化物だって。不気味なの」


「久々にってことは、前にも見たことがあるのかい」


「もともとここは精霊たちと人間たちが暮らしていた温かい場所だったの。それがね、いつの間にか人間がいなくなったの。でね、急に剣のおじさんがさまようようになって」


「じゃあ、何処にそいつがいるか精霊は分かる? もし教えてくれるなら助かるのだけれど」


「うん、今どこにいるか教えてほしいの?」


「いや、少し休憩したい。だからその時に教えてくれると」


「じゃあ僕も一緒にお休みする」


 精霊の子供はすると火の横でごろり横になった。頭の下にあるのは白い炎の塊だった。一瞬のうちに枕へと姿を変えたのであろう。あっという間に寝息を立て始めるところ、本当に無邪気な雰囲気だった。


ともかく、精霊たちの強力を得られたのは幸いだった。休憩した後に索敵をせずともドードを見逃さなくて済む。力の温存は大事だ。


 精霊と出会うことはドラコと出会うに比べれば全く怖くなかった。それどころかさも当たり前のように思えてしまっている。おそらくは、僕と同じように白い炎を操っている存在だったから親近感を覚えているのかもしれない。怖さを感じなかったし、口ぶりの柔らかさに恐怖なんて感じなかった。


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