表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/71

学びを極める

 こちらの事情を全く理解していないロジ主任の笑みは僕を逆なでしてきた。ただでさえ一つ言ってやろうと思っているのだ、その表情は僕の火に油を注ぐのである。


「大事なところだったのに。どうして声なんてかけるのですか。おかげでイチからやり直さなければならないじゃないですか」


「ノグリくんこそ、どうして職場で街を見下ろしている? 休めと言ったはずにもかかわらず、どうして職場にいるのかしら。私の指示が聞けないとでも?」


「これは僕のパーティの問題です。仕事とは関係ないです。僕はドードを見つけ出さなければ」


「どうして見つけないといけないと考えている」


「ドードはパーティのリーダーです。今までの仲間の話を聞いているとどうもおかしいのです。だから最後の一人を見つけて確かめなければなりません」


「なら、私達の目的も同じかもしれないね」


 ロジ主任は手を一つ叩いた。ことのほか大きな音があたりを一閃する。何もかも刈り取られたかのよう、僕の索敵魔法のかすかな残滓さえも吹き飛んでしまった。


 ロジ主任の言葉は何となく紐付かない。僕の目的とロジ主任の目的は一致する想像がつかなかった。人間を探す意味では同じかもしれないけれど、規模が違う。僕はたった一人を狙っている。ロジ主任はもっとたくさんの存在を狙っている。違うからこそ、僕は休みを良いことに探索の魔法を放っているというのに。


「誰がヒペオを聖地だと言った?」


「どうして、そこに」


「ディルフィールはいろんなことに詳しい学者さんだからね。調べれば調べるほどに違和感が出てきたのだそうだよ。舞台になるのはいくつもの文献にあるけれども、聖地と言っているものは見当たらなかったって」


「ロジの言ったとおりです。更に情報が必要で、取り急ぎ現地人のあなたに話を聞いてみようと思っていたのですが、運が良かったみたいですね」


 学者さんはロジ主任を置いて僕の元へとつかつか迫ってきた。同時に手を伸ばしてきて握手を求めてくる。求めるがままディルフィールさんの手を握り返した。


 どうしてだろう、手が震えている気がした。


「さて、まずはヒペオが聖地であるという話ですが、ヒペオが聖地として認識されているのはどうしてでしょうか。難しく考えなくて良いです、直感で良いです」


「それは何と言うか、そういうものだと。仕事の斡旋所にもそういった掲示がされていることもありました」


「では、聖地となった根拠はお分かりですか」


「それが、全然思い当たるフシがなくて。よくよく考えてみたら、昔話だとかおとぎ話だとか、そういった話で読んだり聞いたりした覚えが全くないのですよね。もちろん、僕が知らないだけかもしれませんが」


「十八人目ですね」


「十八?」


「ええ、ロジに頼んで、捕まえた人間たちに片っ端から話を聞いているのです。そうしたら皆が皆、同じようなことを言うものですから面白くて面白くて」


「そうなのですか」


「ええ、まるで同じように書き写されたようでした。ヒペオは聖地、でもその由来は全く分からず。中にはひどくうろたえて泣いちゃう子もいたし、激高する子もいたから楽しかったわね」


「楽しむ状況ですかそれ」


「ノグリくん、こいつは変人だから気にしないで」


 ロジ主任は出入り口近くの壁に寄りかかっているところ、学者さんを連れてきているだけらしかった。ロジ主任の目線は僕よりも学者さんに注がれている。以前の感じでは信頼しあった友人という感じだったが、流石に詰め所では部外者扱いなのだろうか。


「で、だ。私の関心は新しいところに向き始めているのです。みんなが一様に同じ話をしているということは、どこかに源があるはずです。ここで不思議なことが一つありましてね」


「それがドードと関係しているのですか」


「直接は関係していないです。ただ、私の見立てを補強するためには必要です。彼らの言葉には、大きく二種類の系統がありました。一つは、本当に分かっていない状態。言われて初めて気づいたような方々です。もう一方は、街に源があった、とする人たち」


「街に?」


「ほら、仕事の斡旋所にあったと、まさに今言ったじゃありませんか」


「確かにそうですね。え、それじゃあ、斡旋所に掲示がない場所もあるというのですか」


「斡旋所に限った話ではありません。もちろん斡旋所に、と話していた人間もいましたが、配布物として受け取った人、教育として身につけた人も」


 当たり前だと思っていたことがドラゴンの手によって崩れていった。僕自身、どこから聖地の話が始まったのか分からなくなっていたが、しかし、その話そのものは当たり前だとまだ思っていた。当たり前のように語られているけれど、語られていることはどこから来るのであろう、という程度だった。


 でも、目の前に示されたのは、語られていることすら当たり前ではないということ。それすら崩れてしまったら、もはやどうしてヒペオが聖地だと信じてきたのか訳が分からなかった。


 どうしてヒペオを聖地としようとする?


「おそらくは答えの見当はついていますが、念の為確認をしたいのです。だから確かめてもらいたいのです。あなたのパーティの面々は、リーダーさんはどこでその知識を得て、どうしてかの地を目指すのか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ