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前提が前提たる瞬間

 新新市街は索敵魔法を放つには向いていない。人が多すぎるからだ。人が多いということは索敵の網に引っかかる存在も多いうというわけで、尋常でない情報が僕を攻撃してくる。もっと能力のある人であればたやすく処理できるのだろうけれども、僕にはあいにく、そこまでの力はない。


 けれども、策はある。ここまで人に溢れるヒペオでも、索敵の魔法を放ったとしても、情報量をさほど増やさないで済む方法がある。


 高さだ。


 高い場所から先的の矢と網を打ち出せば、存在を検知する魔力はドラコの頭上を飛んでゆく。触れることがなければ僕のもとに集められることもない。膜がたゆまないように注意する必要があるけれども、この点について我ながら十分に扱える。矢は手足のように動かせる。


 新新市街の中で高い建物は数が限られている。警察団の詰め所、治療院、ロジ主任に連れられて訪れた学者のお宅。学者さんの家がこのあたりでは一番高いが、大して親交がないのに足を踏み入れるというのもあまりよろしくない。何より、警察団員であることを利用できる場所のほうが好都合である。


 だから、休みの身でありながら、僕は詰め所の屋上にいた。街全体と瘴気の監視のための空間は、まさに索敵の矢を放つのにうってつけだった。旧市街の方向へ遮るものがないのもちょうどよかった。


 僕は白い矢をつがえる。眩しい輝きの矢は四本。距離が距離だ。何せ新新市街から新市街を超えて旧市街へいたろうというのだから。長距離にも耐えられるだけの矢を生成しなければならなかった。


 ドードは旧市街にいる。証拠はどこにもないけれど、僕にはそのような気がしてならなかった。新新市街にいるメイフェル、瘴気の中で魔物になったグコール。一行は少なくともこのあたりにいる。もしかしたら眼下の人混みに交ざっているかもしれない。


 ドラコの場所に人間が入りこんでいるから探すのではない。人間を探すつもりもなかった。ドードを見つけたかった。


 お前はあの日のことを覚えているか?


 問いたださなければならない。僕を殺そうとしたのはドードの意思なのか。それとも別の何かが起きているのか。話してくれるだろうか。そもそも、話せるのだろうか。場所が場所だから、人でなくなっていることもありえる。むしろ人の姿を保っている可能性のほうが低い。


 一瞬で彼方に消えゆく矢を見送りながらドードを想像する。仲間は散り散り、一人さまよっている彼はどこに。もしかしたら、旧市街の中心にたどり着いているかもしれない。


 最も旧市街に入り込んだ存在がドラコではなく人間だった、という想像をしてみる。だから何だ、という話であるが。人間はヒペオに幻想を抱いているに過ぎない。聖地なんて言い出したのはどこのどいつだ? 伝承の話だったか? 神話の話だったか?


 ………


 あれ――考えてみたら、ヒペオが聖地だなんて話し、どこにあった? ヒペオが聖地と考えられている点を僕は理解しているつもりだし、その理解には根拠があると思っていた。しかしどうだろう、いざ根拠となる物語はどこにあるのかと言うと、全く答えを得ることができないのである。


 索敵の矢があらぬ方向へ向かってしまい、慌てて補正する。


 僕はどこでヒペオが聖地であることを聞いたのか。ヒペオが聖地なんて呼ばれるほどの神聖さを持っていないことは千も承知だが、けれども、ヒペオが聖地と考えられている前提だった。前提はどこかで前提とならなければならない。前提が前提となる前の拠り所はどこかにあるはずにもかかわらず、思い出せない。


 矢の制御が難しくなってくる。予想だにしない方向からの攻撃に僕の集中力は途切れてしまいそうだった。新市街の詰め所にいる警察団員四名を見つけたところで、旧市街どころか危険地帯にまだたどり着いていない。まだ集中力を書くことは許されないのに。


 索敵の膜に魔物らしき存在が引っかかるだけで頭がずきりと痛む。ただでさえ今回の索敵は負荷が高い。にもかかわらず気を散らしているものだから、体に余計な負荷がかかってしまった。


 僕が見なければならないのはドードだ。ドードでないものは何であれ棚に上げるなり横に置くなりすべきなのだ。僕は器用な人間ではない、あれこれ考えながら索敵の魔法を操るとか、索敵の魔法を操る片手間に全く関係のない考え事ができる性質ではないのだ。


 しかし。


「ノグリくん、休みなのに詰め所で何をしているのかしら」


 見知った声が体に入り込んでいよいよ集中力にトドメを指してきた。索敵の矢と膜とのつながりを見失ってしまった。かなりの距離を進めていたから、そろそろ標的の区域だったはずなのに。


 一つ文句を言ってやろうと思い立ちつつ振り返る。


 ロジ主任のそばに、以前に会った学者が立っていた。


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