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パーティは崩壊した

 メイフェルの絶叫は周りを騒がせる。


 深夜の詰め所で暗闇の中。


 突然破られる静寂。


 棟続きになっている宿舎にもその絶叫は轟くわけで。


 叫び声に追随する足音が迫り来るのは当然の成り行きだった。着の身着のまま、手には各々の業物を手に。彼らの前にはカード遊びに興じる当直と、身柄を拘束された女性が檻の中で泣いていて、その前には人間の警察団員が薄明かりに照らされている。ちょうど顔に影が落ちる。


 後に聞けば、どう考えたとしても僕のことが悪者に見えたらしい。なぜなのか。


 とにかく。警察団のヒトとしては関係があるかもしれないけれども、あくまで元パーティとしての話をするつもりだったし、おおっぴらに見られている中で話をするものでなかった。反射的に『出動』した面々には頭を下げて戻ってもらった。


 僕が団員の相手をしている間、トバスがメイフェルをなだめてくれていたらしい。振り返ればトバスがメイフェルを抱きしめていた。体全身でメイフェルを包み込む。どこかで見た光景に思えた。


 しかし、なだめられている? メイフェルはトバスの中でも泣きじゃくっていた。叫びこそしないからなだめられているように見えるが、話ができるような状態ではなかった。


「ねえ、ノグリ。ノグリのことだから冗談で言うことじゃないとは分かっているけれど、さっきのは本当?」


「うん、僕だって信じたくはなかったけれども、本当だよ。状況的に、エフミシアさんを瀕死に追いやった張本人で、瘴気にやられて魔物になってしまった」


「前にノグリが言っていた瘴気。じゃあグコールは踏み入れちゃいけないところに?」


「だから、僕が倒した」


「殺してしまったと?」


「その言い方はしないで。ああなってはどうしようもなかった。僕には魔物を人間に戻す方法なんて知らない」


「ごめん。嫌なこと言った」


 それっきり言葉は生み出されなかった。メイフェルの鼻をすする音だけが放たれては消えていった。当然のことだろう、知っている人間が死んだと知らせた本人がその人間を導いたというのだから。


 二人に伝えなければという気持ちだけは強くはっきりしていたのに、いざ告げてしまったらその先に何を言葉すればよいのか見当がつかなくなってしまった。すっかり迷子である。


 気になって振り返ってみれば、当直の二人がいなくなっていた。カードがなくなっているところ、席を外してくれたらしかった。気を利かせてしまったらしかった。


「あたしのせいだ」


 メイフェルが嗚咽の合間に漏らした。


「あたしのせいだ」


「あたしが……グコールのことを……悪く言ったから……」


「だから、ドードが……グコールを、殺そうとして……」


「グコールは帰ってこなくて」


「そしたら、死んじゃった」


 言葉を紡いている間に感情がぶり返してしまったらしい。再び大泣きに戻ってしまった。とめどなく溢れる涙はどこに蓄えられていたのか。


 ドード、グコールをも殺そうとしたのか。


 メイフェルの証言に僕とトバスが顔を見合わせた。メイフェルは覚えていた。グコールがドードによって殺されそうになっていたこと。じゃあ僕のことはどうなのだ? 僕がドードに殺されかけたことを彼女は覚えているのか。メイフェルだって一緒になって僕を追い回してきたぞ?


 食堂での口ぶりからすると、望みは薄い。けれども僕は問いかけずにはいられない衝動に駆られた。僕のパーティからの離脱を象徴するキーワードを言われてしまえば、確かめてしまいたくなる。曖昧にはしておきたくない。僕を襲った事件の後ろにいる何かが、グコールにも目をつけた可能性だってある。


 僕の考えを読み取ったのか、トバスは首を横に振った。


「今日はもう止めておこう? ノグリの聞きたいことは何となく分かるけれど」


「はっきりさせておかないと僕の気がすまないよ」


「それでも、だよ。こんなメイフェル見たことある? 口が悪くて自分の気持に正直になれないメイフェルがだよ、こんな顔をグシャグシャにして気持ちを表に出している。おかしくなっている」


「僕はメイフェルにも殺されそうになった。覚えているか、覚えていないか、それだけでも」


「メイフェルは逃げないよ、大丈夫。そもそも、今それを知って何ができる? 私もノグリのあの日には『間違った記憶』がある。多分それはメイフェルも一緒よ。でも分かったところで『なぜ』『誰が』なんてたどり着けないでしょう?」


「もしかしたらもっと多くのことに気づいているかもしれないじゃないか」


「なおさら今じゃないほうがいいよ。明日、明後日、それは分からないけれど、落ち着いた状態でちゃんと聞こう。ノグリ、あなたも疲れているのよ。危ない場所を歩き回って、難しいこともした。落ち着いて考えられなくなって、急ごうとしている」


 トバスがおもむろに僕の頭に手を載せてきた。


 髪の毛越しにトバスの感触が伝わってくる。


 トバスの温度が伝わってくる。


 僕とトバスとがひと続きになったような感覚。


 なで下ろされるトバスの手に耳が触れた。


「大丈夫。焦らなくても。先に部屋で休んでいて。私はメイフェルを休ませてから戻るから。ね?」


「分かった。待っている」


「待っていなくて大丈夫。ちゃんと休んでね」


 トバスの言葉も体にしみ込んでくる。首元に残る手の温かさはそれ以上に僕の体にしみ込んでくる。僕の考えている以上に彼女が正しいことを言っている。従いたい気持ちになる。抗えないこの思いは心地よかった。


 事実、僕は自身で思っているよりも疲れているのであろう。詰め所でカードを再開している宿直に声をかけてから宿舎に戻れば、すぐに何もできなくなるぐらいの眠気が襲ってきた。あまりにも睡魔が強すぎて、ベッドで横になったところで逆に寝付けないぐらいである。


 目をつぶって全てを任せる。トバスに任せる。


 眠りの海に沈むまで、僕は何となく寂しい気持ちに包まれていた。


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