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守りの一矢

 あたかも別人の体の中に入って無理やり体を動かそうとしているような不自由さだった。ひどい疲労感と頭痛が未だに僕を蝕んでいた。魔法の矢はすでに断ち切ったからひどくなることはない。けれども、遅かった。


 僕は駆け出したかった。野営の道具なんて放り捨てるつもりでエフミシアさんの反応があった方へ。弱い反応は魔法の使い過ぎか、あるいはひどい怪我か。矢がエフミシアさんを見つけるまでの時間を考えると、すぐに到着できる距離ではなかった。


 絶好調の僕がずっと走り続けたところで間に合うかさえ判断できない。


 間に合う、何に?


 ああ、動け! 僕の体!


「行けよ、立ち上がれよ!」


 嫌な想像が浮かびそうになるのを声で制した。痛みにうずくまっている場合ではない! エフミシアさんが大変なことになっているのを知っているのは僕だけだ。エフミシアさんの居場所に見当がついているのも僕だけだ。


 ヒペオの瘴気の中に突っ込む方法があるのも、多分、僕だけだ。


 体を無理にでも奮い立たせる。地面に腕を突き立てた。


 ―――!


 幻聴が叫んでいる気がした。言葉にならない声。しかし僕は知っている。何かが起きた。幻聴が僕に何かを教えようとしたところで僕は分かっている。エフミシアさんだ。


 もう一方の腕を突き立てる。体を持ち上げて、足を突き立てる。もう一方も突き立てる。


 あとはエフミシアさんの元へ駆けてゆくだけである。


 ―――!


 主の見えない声はまだ絶叫している。知っているから騒がなくて良い。それとも、まともに動けない僕を非難しているのか? だとすればもう大丈夫、僕は走れる。


 心の中で反論して走り始めたが、その一歩目でよろめいてしまった。危うくつまづいて再び倒れるところだった。


 こんなところで倒れている場合ではない。この瞬間もエフミシアさんの状況は悪くなっているに違いない。


 休んでいる暇もない。たどり着けば淀みの炎がある。それまでの辛抱である。


 そうして距離を進む。


 途中、休憩がてら歩いて索敵の矢を放てば、着実に近づいているのが分かった。しかし、同時に、考えたくない事実もまた近づいてきていた。魔力の反応が少しずつ弱くなっている感じがした。移動している様子もない。


 索敵の魔力の中で消滅した魔力の反応を思い出す。


 そんな結果を僕は求めていない。僕はエフミシアさんを守りたい。


 僕はエフミシアさんのいる方向へ弓銃を向けた。狙いはエフミシアさん――の少し手前。地面に刺さるようなイメージで。弦や矢も、青白いいつものそれではない。白く輝く炎をまとわせた。矢には爆発寸前まで魔力を溜め込ませて。少しでも長い間、エフミシアさんを『守れるよう』にするための策だ。


 僕には弓銃がある。重そのものの能力と、今の僕の力があればできることだった。


 放つ矢は風切り音というよりも、轟音といったほうが正しいか。蓄積した魔力のせいかもしれない。


 とにかく、守りの矢は放たれた。索敵の矢を放って様子を確かめれば、思っていたよりも右にずれていたが、魔力から感じ取れる分には問題なさそうだった。


 エフミシアさんの反応はまだ消えていない。


 大丈夫、まだ、やれる。


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