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栗とチューラント鉄と

 自らを燃やしてみる、という馬鹿極まりない考えは正解だったようで。朝に来てくれたエフミシアさんにお願いして試してみたところ、蛇の脚は現れなかった。


 ロジ主任に瘴気が体から抜けたたことを伝えれば。


「治療院の話では、治療院で三日は過ごしたそうじゃないか。エフミシアに護送されている間も三日。六日かかって瘴気が許容できる程度になったというのに、今回は一晩だって? いやいや、冗談も程々にしような?」


「試してみたことがありまして、それをやってみたらうまくできました」


「君は昨日不思議な炎に包まれていたが、そのこと?」


 詰め所に一つ残った明かりはロジ主任だったらしい。


「はい、理由は分かりませんが。燃やしたらなくなりました」


 面白いことは全く口にしていないつもりだったのだが、ロジ主任は大笑いだった。横で聞いていたエフミシアさんは顔を青くしていたが。


「そんな頭のおかしい君には新しい仕事をしてもらおう。とりあえず治療院に戻って検査してもらえ。それから、君に会ってもらいたい人物がいる。今朝がた連絡をもらってね。君が相手をするのが最適だと思ったのだよ」


 というわけで一人馬車に揺られることとなった。治療院での検査は健康そのもの。治療院への移動に使った箱馬車でそのままロジ主任の言う相手の元へ移動することになった。


 エフミシアさんはいない。ロジ主任が仕事を頼みたいとのことで別行動だ。


 馬車の中、僕は自分の体を見下ろした。エフミシアさんと同じ服装だった。これがロジ主任の部隊で制式の服装だった。どうして測ってもいないのに体にあった服を渡されたのかは考えないでおく。


 首にかけられた鎖を服の中から引き出す。一枚の金属プレートには僕の名前と出身地、部隊名が刻まれている。ロジ主任があの時夜なべをしていた原因がこれだと言っていた。


 制服と認識票。ロジ主任の部隊に入ったのだという実感がようやく湧いてきた。


 目的の場所までは二日だった。御者に話を聞けば、人間の領域に近い街の一つということだった。名前はチューラント。人間が侵入してくるようになってきているらしく、衝突が何度か起きているらしい。なので最近はピリピリした雰囲気だという。


 街へ入るのに検問を二つ通らなければならなかった。ごく普通の道に突如設けられたと思しき検問所。看板が建てられていて、警察団の制服を身につけていた。それから、街に入る直前には、詰め所付きの検問所である。前者は御者の言っていた話を受けて設定されたものらしい、僕や御者と情報共有をするだけで通してくれた。


 一方で街直前のところでは身分を改めさせられた。実際に街の中に入るためには身分を示さなければならないという。人間との衝突が増えてからの措置だそうで、平時はやはり行っていないとか。ただ、こちらの検問は厳しいらしい。僕は警察団の識別票ですぐ終わったが、隣で検問を受けていた商人らしき人物は顔に汗をだらだら流しながらまくしたてていた。


 街の中は木造の建物が目立ったが、特徴的なのはたくさんの金属部品が使われているところだった。建物の木材と木材の境目に金属板が打ち付けてあったり、屋根も金属板のようだった。軒先にぶら下がる看板も金属。ただどれも、表面を塗装しているような感じはなくて、無骨な印象が強い。


 街の所々から金属を叩く甲高い音や、水が一気に蒸発する音を耳にした。


 その中である看板が揺れていた。僕は御者に頼んで一旦停めてもらい、店の中に入ってゆく。


 『デュード金物武器店』と看板に銘打たれた店の中には、炒め鍋や包丁と行った調理器具から、ナタやツルハシ、クワといった農具が並んでいた。金槌、のこぎり、釘なども。その一角には剣や斧、小刀などの武具が並んでいた。


 僕の武器は壊れてしまった。流石に武器もなしに戦闘ができるとは思っていない。新しい武器が必要だった。


 店の奥からは削る音が聞こえる。


 武器が並んでいる一角に立ち、一通り見てみるが、弓銃が並べられている気配がなかった。弓はあったが、あまりしっくりこない。もしや他の場所に置かれているかも知れないと思って、店の中の一通りを見て回ってみたが、それらしい姿のものさえなかった。


 店の奥を見やると、片隅の木箱の中に見覚えのある形状の木材が目に入った。同時に、帳場に男が立っているのが見えた。


 いつの間に。


「兄ちゃん、俺の店で探しものか?」


「その木箱に入っているものって何ですか」


「ああこれか、だいぶ前に作ってはみたのだがな」


 髭面。頭のてっぺんだけがツルツルで側頭部はふさふさ。その男が髪を揺らしながら持ち出したのは僕が求めていたものだった。ただ、僕が持っていたものとは二周りは大きくて、両手でないと扱えないぐらいの大きさだった。一方、ちゃんと引き金も用意されていた。


「知り合いから教わって見様見真似で作ってみたのだが、誰にも見向きされなくてな。すっかり弦も傷んじまった。せっかくモノはよいものを使ってみたのに」


 店主が弦を軽く引っ張れば、確かに切れてしまった。しかし僕には関係のないこと。


 店主に頼んで持たせてもらえば、なるほど、見た目通り以前の弓銃よりも重たい。しかし両手で構えてみれば、格段に姿勢が楽だった。銃床が大きくなったからだろうか。


「もしかして気に入ってくれたか? 弓と金具はこの街自慢の鉄だし、木のところはヒペオの栗の木だ。頑丈さならどこにも負けないぞ。あいにく、弦は弓のやつしかないから、兄ちゃんの方で調整してもらわないとだめだが。俺は金属と武器なら誰の引けも取らないが、紐を作るのは得意じゃない」


「そこは大丈夫です」


 僕は試しに魔力を込めてみる。まずは肩慣らしのつもりで、ほんの少しだけ。本格的に魔力を込めて弦を張ってみて――


 そのイメージで力を込めていったら、どうしてだろう、肩慣らしの時点で弦が張れたのだ。魔力の流れ方がすさまじく速い。試しに引き金を引いてみれば、グラグラしてまともに動かせなかった。仕方なく以前の弓銃のやり方で力を込めれば、弦が風を切った。


「こいつは、なんてこった」


 店主はどこか驚いているように見えたが、僕は全く気に留めていなかった。これは欲しい。引き金のところをなんとかしてもらえれば十二分だった。


「店主さん、これは――」


 値段を尋ねようとした瞬間、致命的なことを思い出してしまう。


「僕、こっちのお金、ないです……」


「こっちのお金? どういうことだ」


「ちょっと事情があって、今、人間のお金しか持っていなくて」


「何? それは本当か?」


 ああ、きっと僕は怒られるのだ。払う金がないのに品定めをしているのだから、責められても仕方がなかった。これ以上持っていても悪い意味に考えられそうだから、弓銃を置いて退散しよう。


 そう考えていたら、弓銃を置いた途端、手を握られてしまった。


「そいつはこっちも願ったりだ」


 おっさんが満面の笑みを浮かべている。


「実はな、人間のいる方でしか取れない材料っていうのもあるから、そういう物資は取引しなきゃならねえ。当然その時は人間の金でやり取りだ。なんとかやってきてはいるが、常に人間の金は足りてねえときた。いいぞ、ウチは人間の金でも売ってやる」


「であれば、弦は取り外しちゃってください。あと、引き金はグラグラなので、ちゃんと引けるようにいじってもらえますか」


「兄ちゃんのやり方に合わせれば良いな。分かった。夕方までには仕上げてやる。今まで売れ残っていたやつだ、四千でどうだ。これでも半額以下だぞ」


 手持ちの半分の金額を言い渡されて、ちょっと嫌そうな顔をしてみたら、更にに千もまけてくれた。半額以下の金額から更に下がると言うなら文句はない。その場でお金を払って店をあとにした。


 さて、本題のロジ主任からの依頼である。馬車に乗り込んでから程なくして警察団の事務所に到着した。武器屋から見えるところにあって、そのまま歩いていっても良かったかも、と少しばかりの反省だった。


 出入り口に入ったすぐの受付に話をしたら、すぐに案内のドラコがやってきた。


「ご足労してもらったのは、相手が人間でして。その、人を探しに来た、と。警戒されているのでしょう、それ以外のことを喋ってくれず、処理に困っていたのです。ロジ主任からは、その手の専門家、と伺っていますが」


 留置場までの移動の間、ドラコから事情を聞いた。人間ということで頭にまず浮かんだのが、ドードと同じような考えを持った人物だった。当たり障りのないそれっぽい理由としては人探しは分かりやすい。人間とドラコはその領域が隣り合っているとは言え、山を挟んでいるのだ。気軽に来られるような場所じゃない。


 留置場への扉が開かれ、ドラコのあとに続いた。


 一箇所だけ使用されている檻を見て、僕は言葉を失った。


「ノグリ……? あなたノグリよね?」


「……トバス」


 パーティメンバーがそこにいた。


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