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仲間に殺されかけた僕、逃げ延びた敵国で世界を守ります  作者: 衣谷一
瘴気編 - ドラゴンの国
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寝床の温かさ

僕は、僕たちは『ドラゴン』を倒すことを目指していた。


 ドラゴンとは異形だ。多くは人の姿をしているが、人ならざる姿になって人を襲うのだ。はじめから人の姿をしていないものもいるらしいが、そういうのはドラゴンの中でも強い個体だと。


 僕が昔から聞いているおとぎ話だと、人の姿を騙って近づいてきて、隙を見せた瞬間に異形の姿になって食べてしまうのだとか。他には、ドラゴンの血が体に入ってしまうと同じくドラゴンになってしまう、とか。人がドラゴンを倒すときは、人間の姿の時を倒すかあるいは異形となったときに変異しきれなかった人間の箇所を攻撃すればよい、なんていう攻略法も噂されていた。


 そんな危険な存在を倒そうとするのは、僕たちがつける仕事の中で一番稼げるから。


 僕たちは孤児院で育った。いかんせん学が足りない。読み書きはそれなりにできるけれど、それだけ。あとは体を張って地道にお金を稼いでいくしかなかった。もちろんそれだけでも食べていくだけの仕事はありつけるけれども、傭兵業に比べれば大した額ではなかった。


 傭兵業であれば、依頼を読むだけの力と戦う力があればやっていける。中には依頼主に気に入られて雇い上げてもったり、王国の騎士として召し上げられることもある。そうなればもっと生活が楽になる。そういう意味では、稼げる上に最も出世できるかもしれないのが傭兵業、いわゆる冒険者というやつだった。


 僕たちが冒険者になってから数年。ドラゴンを倒すという目標は未だ達成できないけれども、みんなの持ち味を活かしてなんとか頑張ってきた。大変なときも苦しいときもあったけれども、互いに励まして乗り越えてきた。そして久しぶりに大きな仕事を成し遂げたのが数週間前。


「せっかくだから一度ドラゴンの領土に近い街を目指さないか?」


というドードの、ほとんど観光な提案にみんな賛成したのだ。


 なのに、あんなことになった。


 ふいに意識がズキズキと痛む右手に引っ張られた。途端にいろんな感覚やら記憶やらが蘇ってきて、最後に覚えているのは参道か山肌の分別さえつかないところに這いつくばっている光景だった。寒くて、痛くて、息が苦しくて。


 でも今はどうだろう、痛みは確かにあるけれども、少し丸みを帯びた感じ。寒さはなくてむしろ温かい。素肌に触れる感触の心地よさ。


 目を開ければ、視界のほとんどを埋め尽くすのは見知らぬ顔だった。


 叫ぶことができないほどに全身がこわばった。ただただ体がびっくりするばかりだった。


 目の前のは何だ? 


 山肌はどこに行った?


 何が起きた?


 突然の状況に全く頭が追いついていなかった。


「あのう、大丈夫、ですか?」


 その人――彼女の声がすっと体に染み入ると、不思議と体の緊張が溶けてゆく。全身に広がった声が手足に跳ね返って心に集まってくる。先程までのパニックはまるで嘘のようだった。知っている人ではないにもかかわらず、どこか出会った、何かしらの関わりのある人に思えるのだ。


「え、えっと、どうしてこんな状況に」


「私が山から帰ってきていたところで見つけたのです。見えるところ怪我だらけ、意識もなかった様子だったので、申し訳ないですが私の家に連れてきてしまいました」


「じゃあ、ここはあなたの?」


「はい、すみません、大きな家ではないので窮屈ですが」


「そんなことないです、とっても立派な部屋です」


「そんなことないです、街のハズレに自分で作った粗末なものですから」


「すごいです、こんな建物を作れるなんて」


 彼女が僕の肩に手を添えた。殊の外手が大きくて、それでいて力強かった。重みがあるとは異なる、腕と手とで生み出す圧が想像していたよりも強いのだった。


 ドードに肩を叩かれるよりも強かった。


「ちょっと落ち着きましょうか。私はエフミシア、あなたの名前を教えてください」


「僕はノグリって言います。実は人に襲われていて逃げてきたのです。必死に逃げて来て、多分どこかで倒れたのでしょう。気づいたらここにいました」


「人に襲われた? それは大変なことを。でもどうして、人のいる場所になんて行ったのですか。そんな危ない場所に行く理由なんてないでしょうに」


「危ない場所に? そんなことないですよ。確かに敵の領土に一番近いから最前線になっていますが、ドラゴンに襲撃されたような雰囲気はなかったですし」


「そりゃあ、守ることはしても人間の場所を奪うような理由ありませんからねえ。だから分からないのですよ、わざわざ人の街に降りるなんて」


「え?」


「……え?」


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