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ヒペオの境界線

 ようやく治療院を出ることができて見た景色は、とても発展した町並みだった。きれいに整備された石畳はその文様が美しかった。それでいてガタガタした感じも少なかった。道の両側には建物が並んでいて、住居らしい扉と店とが混在しているようだった。


 しかし、ここはヒペオで、危険地帯だと聞かされてきた。だからもっとヒトの営みがないものだと思っていたけれども、それなりに生活が垣間見える。こう見るだけでは、ヒペオが危険な場所だとは思えなかった。


 病院そばに『警察団』と銘打たれた箱馬車が停まっていた。出入り口のそばに佇むのは先に退院したエフミシアさんだった。しっかりと人の足で立っていた。


「しかし、とても整えられた場所ですね。本当にここがヒペオなのですか」


 馬車に乗り込んでから僕はエフミシアさんに問いかければ、外を見て黙り込んでしまった。ただ単に街のことを聞いただけなのに、どうして言葉に窮することがあるのであろう。僕の言葉がよっぽど見当違いで呆れてしまったのか。


 ややあってから、エフミシアさんが口を開いた。


「そうですね、ここしか見ていないと、ノグリさんの言った感想になるかもしれませんね」


「僕、何か変な発言をしましたか?」


「そうではありません。ちゃんと街を紹介していないのですからしょうがないです。ここは新々市街と呼ばれる地域です。十数年前にできた街なのです」


「新々市街? 新市街ではなく?」


「はい、ここは新々市街です。これから向かう先が新市街です。私達の部隊の拠点はまだ新市街にありますので。これからのことはそこで話があるはずです」


 何だか引っかかる言い回しだった。『まだ』市街地にあるというのはどうも、この先短いのか、いい加減移すべきなのに残っているのか・とにかく良い印象がなかった。


「まるで拠点がそこにあるのが不思議、という言い方ですね」


「あたりを見れば分かりますよ」


 エフミシアさんの言葉に促されるまま外を見たら、僕が知っているヒペオはなくなっていた。


 ヒトの営みを感じる建物は激減し、代わりに空き地や空き家になっているところが大部分を占めていた。馬車が進めば進むほどその傾向は顕著だった。また、建物の大半は見るからにヒトの手が入っていない、朽ちるに任せたような有様である。事実、崩壊している建物がいくつもあった。


「何なのですか、ここは」


「ここが新市街です。ヒペオの瘴気が強くなった結果、人々はこの街を放棄するしかなかったのです」


「そんな場所に警察団の拠点があるのですか」


 まさに危険地帯ではないか。


「はい、言うなればこの街の最終防衛線です。私達は瘴気との境界線を監視するには危険を侵さなければなりません」


 話しをしている間にも景色はより悲惨なものへと変わってゆく。いよいよまともな建物は存在しなくなり、建物ではなく残骸とするほうが正しい状態だった。


 更に奇妙なのは、草木がほぼ生えていないのである。土はむき出して、樹が生えているように見えているものは立ち枯れていたり、生きているのか怪しいぐらいに細い幹が土に刺さっているだけだったりしているだけだった。誰がどう見ようとも異常な光景だった。


 瓦礫に隠れるような形で魔物が伏せの姿勢をしていた。


 普通でない光景が車窓を流れること数分、馬車が停まったところにはまともな建物が立っていた。外から見た感じ、三階建ての建物のように見えた。建物の説明をする標識のたぐいは一切ない。荒廃した土地にぽつんと立っているのにとても違和感があった。


 エフミシアさんが『まだ』と言った意味が何となく分かる。たしかにこれは『まだ』と言いたくなる。


 僕たちを運んだ馬車は、僕たちを下ろすなりすぐ来た道を戻っていってしまった。そう言えば、この拠点に馬車が見当たらなかった。


「このあたりは危険なので、馬を置くことができません。そのため、新々市街の方の警察団に置いてあります」


 僕の視線に気づいたエフミシアさんが説明をしてくれたが、つまりは陸の孤島に置いてけぼり、ということでしかなかった。


 人間である僕がこんな危険地帯のキワまで来て、本当に大丈夫なのだろうか。


 建物の中に入ると、外の雰囲気とは一変した。どこかで談笑する女性たちの声、カードゲームやボードゲーム、ゲームの類で盛り上がる声。楽器のなめらかで陽気なメロディ。


 のどかなのだ。ほのぼのしているのだ。


「ようしイチ抜け!」


 ゲームに興じるロジ主任の声が、建物内に響き渡るのだった。


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