表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/71

振り上げられる

 僕のひどい喘ぎだけが聞こえる。建物の窓から明かりが見えるから人の営みはあるが、けれどもそこから聞こえるだろう音は聞こえなかった。


 一体どれだけの時間を走ったのか。突然仲間に武器を振り上げられたのが始まりだった。ベッドで横になって休んでいたところ、突然入ってきたリーダーが殺しにかかってきたのだ。


 リーダー、ドード。


 彼にシーツを投げつけて、それから全力だった。一階の酒場を兼ねたスペースに他の仲間もいた気がしたが、助けを求める余裕もなかった。


 石畳のちょっとした段差によろけた。勢いを殺しきれず、地面に体をしたたか打ち付けた。石畳で手のひらが削られてじんじん痛む。他にも擦ったところがあるらしい。全身を巡る痛みに目をつむってしまう。


 痛みに体が支配されてしまいそう。このままうずくまってしまいそう――


 脈打つ痛みの合間に目を開く。僕に迫ってくる光景に痛みが吹き飛んでしまった。


 ドードだけが迫ってきていると思っていた。けれども、人、人、人、人――数人というレベルではなかった。まるで大量の魔物が襲いかかってきているかのような。ドード、メイフェル、グコール、トバス。僕の仲間、仲間と言っていいのか、彼らの後ろに何十人もの知らない人が武器を掲げていた。中にはクワや包丁といったものを手にしている人もいる。


 年齢、性別もバラバラ。


 街にいる人々が一斉に僕へ敵意を向けている。


「ノグリ!」


 ドードの叫びにも似た呼び声に体が跳ねた。いつまでの転がっているわけにはいかなかった。追いつかれたら殺される、間違いなかった。


 向かうべきところはどこにもなかった。強いて言えば、『ここ』からなるべく離れなければならなかった。無数の人の群れ。そのシルエット、それから離れなければならなかった。


「ノグリ、イノセンタをよこせ!」


 ドードの声に応えることなく、僕はひたすらに駆けた。石畳が途切れても、獣道が途切れても。誰も立ち入らない森の中を走った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ