005 最初の資格試験 ※挿絵あり
資格試験を行うバンルはステラと一緒に草原を歩いていた。
「なぁ、ステラさん」
「ステラでいいよ〜。私もさん付けしないでバンルって呼ぶから」
「わかった。なぁ、ステラ…こんなに歩くって事はどこかに向かってる途中なんだろ?いったい何の試験なん?」
質問をするのは当然だった。なぜなら集会所を出てからバンルとステラは1時間も歩いていたからだ。
「まず最初の試験は調達試験で、向かってる場所はこの先にある断崖だよ」
「最初の試験?もしかして試験って複数あんの?」
「あ、言ってなかったけ?言い忘れてごめんね〜」
「いやまぁ大丈夫。てか1時間ぐらい歩いても断崖なんて見えてこねーけど…あと距離どんくらい?」
「ん〜あと30kmぐらいかな?」
「まだまだあるなぁ…歩かないで走った方がいいんじゃない?」
バンルがそう言った直後、ステラは歩くのをやめて準備運動を始める。
「じゃあ走ろっか!私に追いつけなくても断崖はこの先まっすぐだから、ずーっと走り続ければ目的地に着くよ」
(……ん?私に追いつけなくても?)
ステラのある一言にバンルは疑問に感じた。
「じゃ、頑張って私に着いてきてね」
そう言った直後ステラはビュンッと物凄い勢いで走り、一瞬でバンルの側から消える。ステラはもう米粒ぐらいに小さく見えるほどバンルから距離が離れていた。
「はえー…あれ馬の倍ぐらいの速さじゃね?」
凄い速さで走ってるステラを見たバンルは、意外にも驚かず余裕の表情をしていた。数秒後にバンルも準備運動をし、しばらくしてからバンルも凄い速さで走り出した。
(……ん?へぇ、もう私に追いついてきた。かなり良い身体能力もってるみたい…)
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バンルとステラが走り出してから10分程で目的地に着き、2人とも汗はかいておらず息切れもしていなかった。
「とーうちゃーく!!」
「で、この断崖で何するん?」
「おっと!そうだった。んじゃ調達試験の内容を説明するね。この断崖のいくつかの穴にキーチゴの実が育ってる。その実を採ってきたらこの試験はクリアだよ」
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「キーチゴ」
4cm程度の大きさの果物で洞窟や断崖の穴に咲いている
調達難易度はD
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「制限時間とかはあんのか?」
「うん、1時間経っても採って降りてこなかったら即失格、崖から落ちちゃっても即死格だからね」
「オッケ!要するに1時間以内にキーチゴの実を取ってくればいいんだな……どれどれ」
バンルはすぐに断崖に登らず岩壁を触り始める。しばらくして今度は断崖の辺りを見始めてから登り始めた。
(すぐに登らなかったのはいい判断。崖が崩れやすかったら落ちて即失格になるし、キーチゴの場所も確認せずに登るのはバカだからね。大抵の人は何も考えずに登って時間がかかっちゃうんだけど…これなら制限時間内にクリアしそう)
15分が経過した頃、断崖を登ったバンルは半分の高さまで登っていた。バンルが登るために右腕を伸ばした瞬間、ガラッとバンルの右足を支えていた崖のデコボコが崩れる。
バンルは体勢が崩れ落ちそうになったが、左手で掴んでた崖の突起の方は崩れず、なんとか落ちずに済んだ。
(おっと…危ねー。上に登れば登るほど穴が多くなって崩れやすくなってんな)
体勢を戻し、バンルはまた登り始める。
スピードは落とさず慎重に登り、バンルはよりキーチゴの実がある穴に近づいていった。
(にしてもこんなので1時間か…案外楽勝なんだな)
ピヨピヨ…ピヨピヨ…
スムーズに崖を登っていると、どこからか小鳥の鳴き声が聞こえてきた。バンルは一旦登るのをやめて辺りを見渡す。
(あ、鳴き声の正体はこいつらか…)
右側を見ると崖の岩のデコボコに引っかかった鳥の巣と小鳥がいた。上を見るとその親鳥らしきものが飛び回っている。
(なるほど。あの上から風か何かでここまで落ちちまったのか。どうやら親鳥も小鳥達がどこにいるか気づいてねーみたいだし…)
「仕方ねぇ…お前らの母ちゃんの所まで俺が持ってってやるよ」
バンルは小鳥達がのった鳥の巣を落とさないよう利き手の右手で持つ。片手だけで親鳥の飛んでいるところまで登っていった。
崖を登り始めて25分、親鳥が飛んでいる近くの崖の穴に小鳥達がいる巣を置いた。
「もう落っこちんじゃねーぞ」
そう言ってバンルは再びキーチゴの実を採るのを再開する。
バンルが崖を登り始めて30分が経過した。
「たしか、この穴だったはず……よし!キーチゴ見っけ」
バンルは30分でキーチゴを採り、崖を降り始めた。
しばらくするとステラの視界でもバンルが降りてきてるのが
確認できた。
( うわはっや今年の受験者は凄いやつが来ちゃったなぁ)
「よいしょっと」
しばらくして降りてきたバンルは手に持ったキーチゴをステラに見せてきた。ステラはその実がキーチゴなのかを確認する。
「うん、これはキーチゴの実だね。時間も全然かかってないし文句なしのクリアだよ」
「よっしゃ!試験って意外と楽勝なんだな」
(そりゃ楽勝だろうね。だって実力がゴールドレベルなんだから。ん〜…よし!次の試験は少し難易度をあげてみるか)
「それじゃ次の試験始めよっか!」