002 プロローグ②
バンルは奴隷から解放してくれたお礼に、家に招かれ食事をさせてもらっていた。その家は豪邸で、奴隷だった男の名はドゥームといい銀行員の副支店長だった。
バンルはガツガツと料理を食い、おかわりもして沢山皿が重なっている。
ぷはぁ…
「食った食った。本当に絶品だな、特にこのシチューが美味かったよ」
バンルが食べ終わったあと、ガチャガチャとドゥームの妻が皿を片付けにきた。
「フフ…満足してもらえて良かったです」
そう言ってドゥームの妻はキッチンへ大量のお皿を片付けに行った。
「なんだか悪ぃなドゥームさん、お礼といえどこんなに食っちまって」
「いえいえ!私達 家族はバンルさんのことを本当に感謝してるんです。これでもまだ感謝しきれませんよ」
「そっか。ところで、どうしてドゥームさんは奴隷として捕まってたんだ?捕まった後もこの家が襲われず、まだ無事に残ってたのが不思議なんだが…」
貧民でもなく むしろ裕福なドゥームが何故奴隷として捕まっていたのか、ドゥームがいない間もこの家が何故襲われず収入源も無しに何故無事だったのか、バンルは多々疑問に思っていた。
「さぁ?多分ですけど、私が銀行員の副支店長だから高値で売れると思ったんじゃないでしょうか?家が襲われなかったのも私が居なければ収入源がないので勝手に破綻すると思ったんでしょう。まぁ 私には2人の息子が私と同じ銀行員なので破綻せずに済んだのですが…」
(にしてはおかしい…ドゥームさんの素性を知っていて捕まえたのなら、その息子2人も奴隷にしてるはず……あそこで囚われた人の身分はバラバラだった。組織は一体何を目的に人を捕まえてるんだ……)
バンルは自分の疑問を上手く利用し、兵士と話していたある組織の情報をできるだけ聞き出そうとしていた。
「ところでバンルさんは何をなされてる方なんですか?この街の兵士ではなさそうですが…」
「ん?なんにもなされてないよ。俺はただの旅人さ」
「そうなんですか、あの地下でのバンルさんを見てこの街の兵士が助けに来てくれたのかと思いましたね。でもすぐに違うことに気づいたので、バンルさんが何者なのか凄く気になったんですよ」
「確かに 助けに来たのがただの旅人だなんて、普通は誰も思わないもんな(笑) 」
バンルがそう言った直後、クイックイっとバンルの服を小さな女の子が引っ張っている。どうやら女の子はドゥームの娘さんのようだ。
「ん?なんだい 嬢ちゃん」
「おじさんはなんで 旅をしてるの?」
「こらマリー、おじさんなんて失礼だろ」
「ハハハ、いいよいいよ。子供から見たら大人の男なんてみんな おじさんなんだから」
そう言ったバンルはマリーの方を見て、頭を撫でる。
「おじさんが旅をしてる理由はな、奴隷で苦しんでる人を助けるために旅をしてるんだ」
「どうして奴隷の人を助けるの?」
「嬢ちゃんは知りたがりだな〜。……実はな、俺も昔は奴隷だったんだよ」
「!? バンルさんが奴隷?…」
バンルの口から衝撃の言葉が出てきて、ドゥームは驚きを隠せなかった。
「今じゃ 奴隷制度は違法だが、それでも隠れて奴隷商業をする悪いヤツが沢山いるんだよ。昔の俺みたいに苦しんでる人を助けたいから旅をしてんのさ」
「おじさんはいい人なんだね!」
「そうそう。おじさんはいい人だぞ〜」
「もう充分だろマリー。ママのところに戻りなさい」
「は〜い!」
マリーは 台所で食器を洗っているドゥームの妻のところに戻っていった。
ふぅ…
「まさか バンルさんにそんな過去があったなんて……奴隷を助けるための旅、私は陰ながら応援します」
「ハハ あんがと………でもこれが大変でさぁ、俺のような一般人じゃ 情報は手に入らないし、許可がなければ立ち入り禁止でその場の調査をすることもできねーんだ。実際、ドゥームさん達が囚われてた地下を見つけるのにも3週間かかったし」
「なるほど。そういうことでしたら、アルセリアに行ってみたらいかがですか?」
「アルセリア?」
バンルの悩みを聞いたドゥームは、アルセリアという国に行ってみることを提案する。
「アルセリアは この国バルバッタの隣にある国でして、別名 冒険者の集う国と呼ばれているんです」
(ふーん、冒険者の集う国ねぇ……)
バンルはアルセリアの別名を聞いて少し興味がわく。
「その国では冒険者どうしが色々な事を共有しあっているので情報も多いですし、冒険者になれば立ち入り禁止の場所も調査をすることが許されてるんですよ」
「へぇ、そいつは確かに俺にうってつけのところだな」
「でしょう?その国でなら バンルさんの目的も沢山解決できると思います」
ドゥームの提案を聞いたバンルは椅子にかけてあったカバンを背負い立ち上がる。
「よし!んじゃあその国に行ってみるわ。飯食わせてくれてあんがとよ」
「え!今からもう行くんですか?」
「あぁ、俺はすぐ行動するタイプなんだ。それに元々あんたら助けたあと、すぐまた旅にでるつもりだったからな」
「なら少し待ってください。渡したい物があるんです」
そう言ってドゥームはバンルに渡す物を取りに行った。
(俺に渡したい物?……)
バンルは玄関の扉の前で待っている。
しばらくして別の部屋から出てきたドゥームが中に何か入った袋を2つ持ってきた。片方の袋からジャラジャラと音が聞こえる。
「これは旅の食料でパンやハムが入ってます。そしてこっちの袋には20万Gが入っています。これも私からのお礼として受け取ってください」
「は?いやいや貰えねーって。食料までならわかるが金なら報酬金を貰ってる。それに食事ってかたちでお礼をしただろ?」
「バンルさん…私は1年間 地下で奴隷の生活を送っていたんです。それっぽっちの報酬金じゃ割に合いませんよ」
「だからって…」
「いや〜私は頑固者でね…バンルさんがこれを受け取ってくれるまで、外には出しませんよ」
ドゥームの真剣な顔を見て、本気だと分かったバンルは諦め受け取ることにした。
「はぁ〜…食事だけって話だったのに……わーった、受け取るよ。ほんとに何から何まですまないな」
「それほどまでに感謝しているんですよ。それともう1つ気になっていることがあるのでお聞きしてもいいですか?」
「気になってること?……」
「兵士と話している時に言っていた、組織とは一体何ですか?」
ドゥームはバンルと兵士が話していたあの組織について気になっていた。バンルは少し黙り真剣な顔になる。
「…ドゥームさんはアルドールっていう組織を知ってるか?」
「いえ、聞いたこともありません」
「簡単に言やぁ、アルドールは奴隷をこき使う犯罪組織で、この世界各地で少数いる奴隷商人達のお偉いさんだよ。組織自体が人さらいをしてこき使ったり、奴隷商人から奴隷を買って活動してるんだ。」
ゴクッ
ドゥームが気になっていた組織が犯罪組織だということに
驚き、固唾を飲む。
「犯罪組織…ですか……」
「ぶっちゃけると、俺が旅をする理由はその組織を潰すためでもある」
「奴隷を扱う犯罪組織だからですか?」
「ん、そうなるわな。奴隷商人は組織絡み。ドゥームさん達を捕らえてたあのデブも含めてな。だから大元である組織を潰しちまえば、本当の意味で奴隷制度は完全に無くせるんだ。」
「でも犯罪組織であるならば何故兵士や冒険者、各国の騎士たちはその組織を止めるために動いていないんですか?」
「アルドールは犯罪を起こしてるくせに、あまり目立たない組織なんだよ、不思議なことにな。何が目的で奴隷を集めてんのかも知らねーし、この組織を知ってる奴は、訳ありで知ってる俺を含めてもそう多くない……あの時の兵士も俺が教えただけなんだ」
「そうなんですか。そんな組織があったなんて……教えてくださりありがとうございます」
「マジで危険な組織だから気をつけろよ。1度捕まってんだから。さてと、もう用がないなら俺はそろそろ行くぜ」
ドゥームの質問を答えたバンルはドアの取っ手に手をかける
「……バンルさん、またいつかこの街に遊びに来てください。妻のシチューをおもてなし しますよ」
「おう、わかった。またな…ドゥームさん」
そう言ってバンルは玄関のドアをガチャリと開け…冒険者の集う国『アルセリア』を目指す。