001 プロローグ ※挿絵あり
奴隷制度………それはもう世界共通として違法となった悪風だった制度。
大昔に死神大戦という名の戦争で世界を救った大英雄、
エイブラハム王が『奴隷解放宣言』を全世界に命じ、宣言から2年後に世界共通として違法となった。
しかしある組織のせいで まだ奴隷商業を行う者達が沢山おり、100年経った今でも奴隷として生きている者が何人もいた。
……………………………
ツカ…ツカ…と歩く音が響く。
劣悪で腐臭の漂う地下室で、太った男が先頭に手枷がかかっている男女達を、縄で繋いで地下の廊下を歩いていた。
ガシャン!!
手錠がかかった男女達は、太った男に地下牢に入れられる。
「ここが今日からお前ら商品の住むところだ。
あの方達に買ってもらえるよう 精々頑張るんだな」
「……なんで…こんなことに」
「誰か助けてぇ…」
「グスッ…パパァ…ママァ…会いたいよぉ」
「フン……さて、そっちの牢にいるお前らは…」
太った男は反対側の地下牢に入っているやせ細った奴隷達に話しかける。見たところ その牢にいる奴隷達は1年以上この地下にいるみたいだ。
「もう商品としての価値はない…価値を失ったゴミは処分させてもらう」
『?!』
それを聞いた奴隷達は急に慌て始めた。
「助けてください!お願いします!!」
「売れなくてすみません!どうか処分だけは!」
「一生懸命売れるよう頑張ります!だから」
処分されないよう奴隷達は必死に許しをこう。
それを見た太った男は「ハァ…」とため息をした。
「商品のてめぇらが、ゴミになっちまった時点で用済みなんだよ!」
ガンッ!と鉄格子の音が響く
必死に許しをこう奴隷達を見た男は腹がたち、鉄格子を思いっきり蹴ったのだ。それに驚いた奴隷達は怯み、鉄格子の近くにいた女の奴隷の髪を掴む。
「キャッ!」
「ゴミは生きる価値もない。お前もそう思うだろ?」
女の奴隷は怯えて声が出ず、涙を流していた。
「あぁ……同感だな」
喋ったのはどの奴隷でもなく、太った男の後ろにいる白髪の謎の男だった。いつの間に後ろにいたのか気付かず、謎の男が声をかけてから気が付いた。
「!?誰だテメ……」
謎の男は太った男の顔面を横から思いっきり蹴りとばす。
「かはっ!…」
蹴りの勢いが強く ドゴォンと音がなるほど壁に激突し、太った男はその場で気絶し倒れ込んだ。
すると、太った男が倒れた拍子に何か金属の物が落ちる。
それは太った男が持っていた鍵だった。
「ゴミはてめぇのことだがな…」
一部始終を見ていた奴隷達は謎の男をただぽかんと口が半開きの状態で見ていた。謎の男は落ちた鍵を拾う。
「いやぁ、助けだすのが遅れてすんません。今すぐ
その手枷外して外に出しますから」
………………………………
手枷を外して外に出た奴隷達は、外で待機していた街の兵士達と奴隷達の家族と思われる人物がいた。
ある者は外の光を見て喜び、ある者は家族との再開で嬉しく泣き出していた。
「よっこいせっと」
しばらくして奴隷達を助けた謎の男が地下から出てくる。
「そんじゃあ兵士さん。こいつは縄でぐるぐるに縛っといたから、後は頼んだよ」
「情報はありましたか?」
「いんや、こいつは組織側じゃなく商人側の人間だったよ。
一応起こして色々と質問してみたけど、予想通り何にも知らなかったから暴れられる前に気絶させといた」
「そうですか…情報が無かったのは残念ですね、ですがバンルさんのおかげで事件が解決できました。ありがとうございます。こちらはその報酬金の5万Gです」
謎の男の名はバンルと言い、この事件解決の協力をしていたようだ。
兵士の男が言う情報とやらは得られなかったらしいが、バンルのおかげで事件を解決することができ、バンルに感謝して報酬金を渡した。
「ん、あんがと」
「それでは!」
報酬金を渡した兵士は縄で縛られた太った男を連行していった。それを見届けるバンルに、奴隷だった者達が近寄りお礼を言いにくる。
「見ず知らずの方、助けてくださり本当にありがとうございます!妻にも再び会わせてくれて…」
男性が妻と思われる人物の肩を借りながら歩いてきて、他の奴隷だった人達より先に話しかけてきた。
「いやーどうもどうも。実はここに助けに来る前に、精神が限界な人や生き倒れてる人がいるかもしんないと思ってね。この街には病院がないから、家に帰すのが1番だと思って、失踪者の家族や友人に手伝ってもらうよう集まってもらったんだ」
「そうだったんですか…長い間心配かけてすまなかったな」
「いいのよ…あなたが無事で何よりだわ」
「あのぅ、でもそれなら今来てる兵士達だけで十分なのでは?体力もあるしわざわざ家族を呼ぶほどでも……」
牢屋で太った男に髪を引っ張られていた女性が質問をしてくる。バンルはその女性に近づきボサボサの髪を手で器用に髪を整えながら話し出す。
「あんたら1番長いやつでも1年間囚われてたんだろ?それなら誰よりも心配をしていた家族や友人をすぐに会わせるのが俺的に正解だと思ったんだ。事実、あんたら家族の顔を見た
瞬間嬉し泣きしてたし」
バンルに髪を整えてもらっている女性や、周りにいた奴隷だった者、その家族全員が黙ってバンルの言葉を聞く。
そしてバンルは少しの間黙り、目を閉じながら喋り出す。
「………俺は人が絶望したような暗い顔なんて見たくない。
ちょっとでも俺に人助けできることがあるなら、それを全力でやるよ。もしそれで明るい笑顔をしてくれるなら、俺はそれだけで十分嬉しいから」
バンルは笑顔で答える。
まだ死んだ目をしていた女性がバンルの言葉を聞いてパァッと目がキラキラし始めた。ただ女性だけではなく、さっきまで奴隷だった者、その家族の者が笑顔で答えバンルを見て、まるで希望かのようにバンルが輝いて見えた。
「よし!キレイになった。家に帰ったらそのオレンジの髪
シャワーでちゃんと洗っとけよ」
女性の髪が整い終わり、しばらくして皆バンルにお礼を言い終えたあと、失踪者をそれぞれ家で安静にさせるようまばらに帰って行った。
「ん?あんたらは帰んないの?」
最初に話しかけてきた奴隷だった男とその妻だと思われる人物2人がまだ帰らず、バンルの方に近づいてくる。
「先ほども言いましたが、この度は助けていただきありがとうございます。妻にも再び会わせてくれたこの御恩、是非何かお礼をさせてください」
どうやらバンルにお礼をしたく、体を震わせながらもまだ帰らずにいたようだ。
「いやいやお礼なんて別にいいって…早く帰って安静にしてろよ」
「妻の私からもお願いします。私達夫婦はバンルさんのことを本当に感謝してるんです!」
「そう言われてもなぁ……俺は別に見返りを求めて助けた訳じゃないし……」
ぐぅぅぅ………
そう言った直後、バンルのお腹が鳴った。
「お腹がすいているようですね。なら食事というかたちでお礼をさせてください。妻の料理は絶品なんです」
「オーケイだ!早速あんたの家に行こうぜ。もう俺のお腹ペコペコさんだ」
食事と聞いたバンルは手のひら返しのようにすぐに納得し、バンルは奴隷だった男の家に向かうことになった。