012 ミズリの貧民街 ※挿絵あり
時刻は夜の8時。ステラとの集合時間になったバンルはバーニジアの街に戻り、昨日の酒場にいた。
ゴクゴクゴク……ぶはぁ
「んで、収穫は?」
昨日と同じ席でお酒を頼んでおり、豪快に酒を飲んだバンルはステラの調査報告を聞く。
「申し訳ないけど ぜ〜ろ」
ステラは指で0の形をする。バンルと同じでデネシーの街にも何の手がかりもなかったようだ。
「フ…そうか。こっちもゼロだ」
「アハハ、そうだろうと思ったよ……」
そう言いながらステラは自分のレモンサワーを細長いスプーンで回し、氷をカランカランと鳴らす。
「どっちも手がかり無しだったんじゃあ仕方がないね、そんじゃあ とっとと明日調査する街を決めよっか」
「あー、そのことなんだが…」
バンルはポケットからグシャグシャの跡がついた地図をとりだす。その地図にひとつだけ赤ペンで丸を囲った街があった。
「俺は明日 このミズリっていう貧民街を調査してみようと思う」
(ミズリの貧民街ねぇ…)
「私はその街に手がかりはないと思ってるんだけど、バンルが言うってことは何か理由があるんでしょ?」
失踪者の兄妹と同じで ステラもこの街には手がかりは無いと思っており、バンルがこの街に決めたことに何か理由があるのではないかと思ったようだ。
「んまぁ、気になってることがあってな……実はこの貧民街の住民全員、よそ者には誰ひとり口を聞かないらしいんだ」
「へぇ…でも、貧民街の人ってそーゆうもんじゃない?毎日が苦しい生活だから人間不信になるのもおかしくないでしょ」
「そうかもしんないが、いくら貧民街の者とはいえ、誰ひとり口を聞かないってのは何か妙だ。普通 貧しい生活をしてる奴ってのは金や食料をせびるもんだろ?」
「ふーむむむ。そう言われると確かに…」
ステラは自分のレモンサワーを口につけてぶくぶくと泡立たせながら、バンルの意見を納得する。
「んま、とゆーことで俺は明日このミズリって貧民街を調査するわ」
「りょーかい。じゃあ今度は私が調査する街なんだけど、私は1番多く失踪者がでてる この王都ウェストを調べようと思う」
ステラはバンルの地図の端にあるところを指でさす。王都ウェストは住民の9割が冒険者で、貴族やこの国の精鋭騎士団がいる有名な都会の街だ。
「俺が調べる街とは真逆の街だなぁ。しかも俺らのいる場所からめっちゃ遠い…」
「うん くっそ遠い。だから本当は最後に調べるつもりだったんだけど、ここまでどの街を調査しても手がかりが無しだったのは予想外だったんだよね。だから明日は1番手がかりのある可能性が高い王都に決めたの」
「まぁ、当然の結果だわな。1年間解決できない事件なんて異常だ。すんげー遠くても1番手がかりのある街を調査するのは俺も賛成だよ」
2人とも明日調査する街に異論はなく、すんなりと決まる。バンルはこの国唯一の貧民街であるミズリの街を調査し、ステラはこの事件の失踪者が1番でている王都ウェストを調査することになった。
「よーし、それじゃ明日調査する街は決まったことだし、今日の聞き込み調査の頑張りを祝して沢山お酒を飲もうではないか! おーいテミ…」
「駄目に決まってんだろ」
カチーン
「っあ痛た!」
テミーを呼ぼうとしたステラに、バンルはデコピンで氷をはじき飛ばしステラのおでこに当てる。
「なにすんのさー」
両手で額を抑えながらステラは言う
「ステラおめー、今日の朝のこともう忘れたのか」
「はて?」
「はて?じゃねーよ。お前 昨日泥酔するまで飲みまくったせいで、二日酔いでゲロをゲロゲロ吐きまくってたじゃねーか」
「いーじゃ〜ん!明日めっちゃ遠い王都まで行くんだよ?
チョー面倒くさいんだよ?お酒飲まなきゃやってらんないって」
「黙れアル中。だったら尚更 酒なんて飲ませる訳にはいかねーんだよ。そんな遠いところ二日酔いの状態で行ったら、着く頃にはもう日が暮れてんだろ」
今朝あれだけフラフラだったステラを見て、また二日酔いになったら王都に着いて調査するのが遅くなってしまうとバンルは思ったようだ。
「ちぇ〜、バンルのケチんぼ」
「ハイハイ俺はケチです。ほら、とっとと宿に戻って寝んぞ」
「うぃー」
…………………………………………
お酒が飲めず不満なステラは、バンルと一緒に昨日 泊まった宿に戻ってきていた。バンルは自分の部屋の洗面台でシャカシャカと歯を磨いている。
(はぁ、今日は疲れた。ずっと歩きっぱなしだったからなぁ
…もし明日 1番期待の高い王都でも手がかりが無かったら)
「ガラガラ…ペッ!」
歯磨きを終えたバンルは口の中をゆすぐ。
「ネガティブなこと考えても仕方ねぇ…王都じゃなく俺が調査する貧民街で手がかりがあることを信じよう」
そう言ってバンルは電気を消し、ベッドに入って眠った。
…………………………………………
チュンチュン…
「ふぁぁ……おーい、ステラー」
時刻は朝の8時。寝癖がついてるバンルはあくびをしながら、ステラの部屋の前でステラを呼ぶ。数秒経っても返事がなくバンルは「コンコン」とノックをしてステラの部屋に入った
「まだ寝てんのかー…………あれま」
バンルの視界に入ったのは 寝ているステラの姿ではなく、きちんと片付けられた羽毛布団だった。
「……もう行ったのか」
この街バーニジアから王都までかなり遠く時間がかかるので、できるだけ朝早くに でだしたようだ。
「ん、これは…置き手紙?」
バンルはテーブルに置いてあったステラの置き手紙を見つけて手紙の内容を見る。
[今日は街に帰るのが遅くなりそうだから、夜の11時に酒場集合で。ライセンスも忘れちゃダメだよ〜]
「あいつは俺のオカンかよ(笑)」
(さてと…俺も部屋戻って準備するか)
…………………………………
部屋に戻って着替えなどの準備を終えたバンルは、革のボディバッグを持って、街で地図を見ながら貧民街に向かって歩いていた。
ギュルルルル……
まだ朝食をしてなかったバンルは周りの人に見られる程大きな腹のすいた音がなった。
「やべー腹減った……貧民街に行く前になんか朝飯 食ってくか。ん?この匂いは…」
バンルが朝食をしようと思った直後、ソーセージのいい匂いがしてくる。ソーセージの匂いの方を振り向くと、ホットドッグの店があった。
ギュル…ギュルルルル……
「あー……」
バンルはヨダレを垂らしながら、焼いてるソーセージをずーっとガン見している。
「すんませーん!粗挽きホットドッグ20個、チーズホットドッグ30個くださーい」
「あはは、お兄さん見た目の割に大食らいなんですね」
バンルが驚くような量を注文を言ったあと、横から誰かが笑いかけて話しかけてきた。
(ん?こいつ…確か昨日の)
話しかけてきた方を振り向くと、そこには昨日の黒服の青年がいた。
「あんた、昨日ニューオーリンの街で少年にアイスのお金渡した優しい兄ちゃんじゃん」
バンルは指を指して黒服の青年に言う
「あ、見てたんですか。優しいだなんて照れるな〜」
「照れることねーよ、兄ちゃんは立派だぜ。それより兄ちゃん、昨日と別の街に来てるってことは仕事か?」
「おぉ、当たり!実は俺商いをやってて、今日はお偉いさんに商品購入の手続きをしてもらいに行くんです」
「へぇ、兄ちゃん商人なのか。性格は優しいし明るい。商人の仕事は兄ちゃんにピッタリかもな」
「そうですか?まぁ、今の仕事かなり楽しいから満足してるんですよ」
「おい、お客さん。ホットドッグ合計50個できたよ」
しばらく黒服の青年と話していたら、店員がホットドッグ50個を渡しにきた。
「はえーなおっさん!そんじゃ俺も仕事があるから、じゃーな。仕事頑張れよ兄ちゃん」
「お兄さんもお仕事頑張ってください」
そう言ってバンルは黒服の青年に手を振って、50個のホットドッグを持ったまま、ミズリの貧民街まで食べ歩きながら向かって行った。
………………………………………………………
バンルはボロボロの街でホットドッグを食べている。
「ゴクン……思った以上に汚い街だな」
どうやらバンルはホットドッグを食べながら丁度ミズリの
貧民街に着いていたようだ。50個買ったはずのホットドッグはもうたったの1個になっている。もしゃもしゃと食べながら歩いていると、ボロボロの家の窓から何かがバンルを覗いていた。
「とりま外しばらく歩き回って情報がなきゃ、片っ端から家を尋ねてみるか」
そう呟いた直後「ギィ…」っと古びた扉がゆっくりと開く。その開いた家から「チャキン」と錆びたナイフがドアから少しだけ出てくる。




