010 失踪事件について ※挿絵あり
「まず、この失踪事件は1年間解決できていないんだ」
「1年間?!」
失踪事件が1年間解決できていないという真実にバンルは驚 く。
(それだけ長い期間の事件なのか…だけど人が30人も姿を消して1年間解決できてないなら、それはもう…)
「もう殺されてるんじゃないか…って思うよね」
「!!……違うのか?」
「全員とは言いきれないけど、失踪された人達はまだ生きているよ」
「……分かる理由があるんだな」
「うん、実は失踪者の中には冒険者も何人かいてね、私達冒険者はこの仮登録の紙で生死を確認できるんだ」
ステラはポケットから折りたたまれた自分の仮登録の紙を取り出す。その紙の1番下に『生存』と書かれた文字が青色に光っていた。
「それで失踪した冒険者全員の紙を見たところ、紙は全部『生存』の文字になっていた…ということだな?」
「ご名答!失踪した冒険者全員がまだ生きているのなら他に失踪した一般人も生きてる可能性は高い」
(1年間殺されてなく、全員生きている可能性が高いとなるとやっぱり…)
「……失踪した人達は奴隷にされてるかもな」
「私もそう思う」
バンルとステラは今回の事件を違法である奴隷商業と関係があると考えていた。
「ちなみに生存確認以外で、手がかりはあるのか?」
バンルがそれを言った瞬間、ステラはポリポリと頭をかきはじめる。
「んー……えーっと、実は」
ステラの様子を見て瞬時に理解し、バンルは嫌な顔をする。
「おいおい……まさか ないのか?」
「………他の街は…まだわからないけど」
ステラは目を横にそらし、お酒をちょびちょびと飲みながら答える。
遠回しにこの街には手がかりが無いと言ってるのが分かった
「っかぁー……マジかぁ」
バンルは頭をわしゃわしゃとかく。
(この街にはもう手がかりがないってことね……ゴールドのステラが手がかりを見つけられないなんて、こりゃ相当厄介な事件だぞ)
「…まぁ、だから私達ができることは」
「聞き込み調査だけ…ってことか」
「あんま情報多くなくてごめんね。…今日はもう夜遅いし、
聞き込みは明日からにしよう」
「はぁ……そだな。それにこんな時間じゃあ、どの街行っても人は寝てるだろうし」
「うん。あーそれと、明日聞き込みをする前に集会所に来てね。バンルの冒険者カードを渡さなきゃいけないんだ」
「了解、一旦集会所に行ってから調査だな。そんじゃ明日から一緒に頑張ろう」
バンルはビールが入ったグラスをステラの方に向ける。
それを見たステラは自分のグラスを持ち「カン」ッと乾杯をした。
「うん。頑張ろうね」
乾杯した2人はお酒をゴクゴクと飲む。失踪事件の話は終わり、再び飲み会を再開した。
……………
しばらくして飲み会は終わり、ガラスの扉を開け、酔っ払いながら2人は外に出た。
「あはははは!いやー飲んら飲んら あはははは!」
ステラは顔が真っ赤になっており、酔っ払って完全にベロベロになっていた。呂律も全然回っていない。
「おい、しっかり立てって!ステラお前飲みすぎなんだよ」
(まさかステラが超がつくほどのアル中だったとは)
「ところれさぁ、バンルは今日泊まる宿はあんのー?」
「あーヤベ、忘れてた どうしよ」
「あはは やっぱり!なら私がいつも泊まってる宿屋に泊まる?あの目の前にあるやつ」
泥酔しているステラが指さしたのは、酒場の反対側にある建物だった。
「そーだな。もう暗いし、集会所にも近いからここにするわ」
「そんじゃ決定ね。さっさと受付済ませに行こう!」
そう言ってステラはバンルの肩を組んだ。だが2人の身長差は20cmも離れているので、バンルは中腰になりながら宿屋の方まで歩く。
……………
「それでは1800Gになります」
「ほいよ」
酔っ払って眠っているステラが長椅子で横になっている
間にバンルは宿の受付を済ませてお金を払っていた。
「…ステラが酔っ払って帰ってくるのは、久しぶりに見ました」
受付の男性が横になっているステラの方を見て、バンルに
話かける。バンルは受付の男性が言った言葉を不思議に思った。
「…久しぶりに見たってどゆこと?」
「ここ1ヶ月の彼女は、いつも疲れた顔をして帰ってきてたんですよ。だからあんな風に酔っ払ったステラを見れて、少しホッとしました」
(そうか、1ヶ月間ね。その1ヶ月間…ステラはずっと失踪事件の調査をしていたのか)
そう思った直後、バンルは何故か難しい顔をする。料金を払ったバンルはステラを起こして2階に上がりそれぞれの部屋の前に立つ。
「ふあぁぁ……そんじゃまた明日ねー」
「おう、二日酔いで吐かないよう気をつけろよ」
そう言って2人はそれぞれの部屋に入る。バンルはベットに倒れこみ、あお向けになって事件のことを考えていた。
(ステラは1ヶ月間、失踪者の生存確認と聞き込み調査をしていた……多分だが この街以外にも何個か調査してたんだろう。それなのに手がかり1つ見つからないなんて…)
しばらくしてバンルは開いてる窓の方に視線を向け、夜空の星を見る。
「…この事件、もしかすると組織の人間が絡んでそうだな」
バンルは ぼそっと独り言をし、ゆっくりと目を閉じて眠った。




