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鎮魂

「ユウキ、良かったのか?久しぶりの再会だったのであろう?」


 グライスはユウキの気持ちを察して気遣ってくれた。


 ユウキはあのまま居ても良かったのだ。だが彼はそうしない。それをするには今はまだ何もかもが中途半端であった。


「ありがとう。でも今はゴブリンとリザードマンが先だよ。グライスとレクサスだけでも大丈夫だけど人手が足りないはずさ。」



 ユウキはよく分かっている。


 戦場には総勢約3万もの天へ旅立った者達がいる。彼等を安息の元に返さないといけない。




 平原に辿り着くと、皆が穴を掘ったり召された者達を移動させていた。

 ここが歴史に名を刻む激戦地であったと、今更ながらに実感させられる生々しい光景であった。


「グライス、守るって難しいね・・」


「あぁ、それが分かるだけでも大したものだ。」


 漢二人は俯かない。ただ前を見て前に進むと誓った。ユウキは魔力を解放すると両手を地面についた。


「ァァァアアア!!!」


 ズズン!!


 誰も居ない場所に埋葬するための穴が幾重にも空いた。


 地に魔力を流して土を操作した。隆起させるグレイブを応用したもので、地中の密度を変更したのだ。



 大きな音に獣人達がユウキ達に気がついた。二人の哀愁漂う姿が魔力風になびかれていく。


 そんな彼等に一堂が頷くと、空いた穴に丁寧に埋葬していく。そんな彼等には流れる滴があった。



「これからまだ多くの血が流れる。もうその覚悟はできているつもり・・だ。」


「ユウキよ、ゴブリンをなぜ埋葬したのだ?」



 グライスの問いは6年前のサウスホープ森林でユウキが殺したゴブリンの事を聞いていた。


「守るために殺してしまった。でもそれはゴブリンも同じだった。ケジメもあるけど、赦してもらいたくて仕方なかったのかもしれないね・・・」



 グライスは空を仰ぎ見た。まだ龍の囁きによる残り香があり、空はピンク色に染まっていた。


「そうであったか。すまなかったなユウキよ。」



 ユウキはグライスに振り向くと笑顔で答えた。


「ごめんね、グライス。」



 グライスはユウキを見ると驚いた。そこには8歳の少年が屈託のない笑顔を自分に向けていた。


 だがそれは幻想だったように微睡(まどろ)み、14歳になろうとしている青年の姿に戻った。



 それを怪訝そうな顔をして見るユウキに一言。


「ふっ、お前は変わらないな。」


「何だよ急に。だけど来た道は間違ってないと思うよ。そしてこれからも。」



 グロッサムはそれを見て心底羨ましそうにしていた。


「オークも戦争後はここに来れば良かったな。正直お前達が羨ましいぞ。」



 それにユウキは考えもせず反射的に答える。


「来ればいいじゃない?」



 グロッサムは無骨に笑うと礼を述べた。


「感謝する。だが今のモリス森林もいい所でな、農作技術だけは受けたい。」



 これについての方法や人員の整理は大変骨が折れるので、今この時点では保留となった。


 今晩サウスホープ村民もゴブリン集落に来るので相談する事でこの話は終わった。



 そしてユウキが穴を空けてくれたおかげで作業は急速に進み、程なくして穴に置かれた遺体は全て炎魔法で火葬されると埋葬された。



「どれ、オレも少し手伝うとするか。」


 そう言ってグロッサムはグライスとユウキの戦闘で崩れた巨大な岩を持ち上げると、それを平原と森の境目に置いた。


 そこにレクサスが槍でトカゲのマークを刻みつけた。グライスがどうするか考えていると、レクサスは隣に二つの突起を付けた絵を彫った。


 ゴブリンのツノを見立てたものでパッと見て分かるものであった。


「これで良いか?」


 グライスは口元を緩めると「あぁ、素晴らしい」と述べた。



 ユウキが岩に手をついて魔力を込めた。すると岩が真紅に輝き徐々に削れていく。


 剥き出しの岩は長方形に形が整えられ、中央にはレクサスが掘ったマークが残る。その下に一言添えられていた。


『英魂は次代の架け橋へ』



 最後に魔導師部隊が水魔法によって天高く水滴を飛散された。それにより陽光から虹が掛かり戦士達の魂を誘っていく。


「彼等のためにも」


 誰が言ったでもなく、皆は静かに森へと帰って行った。



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