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深まる謎

 国王との会話を終えたユウキは、グライス、グロッサム、レクサスの顔を見た。


 一つ頷くと、彼等の顔には安堵の表情が浮かばれた。ひとつ間違えば即戦争の交渉を行なっていたのだ。


 そして何よりその交渉を取りまとめた1人の青年は、凄まじい胆力であると国王を含めた皆が感じ取っていた。



「この一年でユウキは信頼に足る何かを成し遂げていたのであろうな。でなければ・・それほどまでに人族と我々の溝は深いものであった。」


 だが一重に安心もできない。会場は王都の本拠地であるため、相手も警戒するし獣人もまた警戒する。


「まだここからだね。明日の朝8時に王都との通達があった。」


 それに頷きレクサスが立ち上がった。


「ではリザードマン達に説明してくるゆえ、今日は失礼する。」



 そう言って建屋を出ようとするレクサスに向かって、ユウキは一声投げかけた。


「今晩はここで夜会だよ。」


 レクサスは立ち止まった。そして振り向く彼の顔には驚愕の表情が現れていた。


「我らの所業を許すと言うのか?」


「何度も言わせるな。ゴブリンはリザードマンを友として最高のもてなしを図ろう。」


 答えたのはグライスだった。

 彼はもう後を引かない。だが受け止めてくれたユウキには感謝していた。



「オレもお前の様な勇猛さと仁義を合わせ持った将を目指す事にする。」


 それだけ言うとレクサスはリザードマンがいる戦場跡地の平原に向けて疾走して行った。



「さてグロッサム、改めて俺はグライスの親友でゴブリンの友であるユウキ・ブレイクだ。

 先程の話で気になる点があるんだけど教えてもらえるかな?」


 先程の話でと言うのは王との話でオークにも何かしらの脅威があったと言う点だ。


「ふむ、グライスの古い友でグロッサムだ。まずは俺たちと昔の話をしよう。

 オークはそう多くはない。獣人の中でも巨大で繁殖力はあるが、いつも食料の関係から多くは大人になれない。」



 オーク族は非常に食欲が旺盛でその巨体を維持するのに対して、コンスタントに食料を得る手段を持たないのだ。


「我々は30年ほど前からグライスと共に王都の南、丁度サウスホープと王都の中間に位置するダルカス大森林に少し離れて共存していた。

 だが、知ると思うが16年前にダルカス大森林の討滅戦が勃発した。」



 それを鎮痛な面持ちでグライスとグロッサムは佇んでいた。過去を思い出したのであろう。


「討滅戦の少し前にある人族の女が森に迷い込んできた。勿論我々と闘争となったが、奴はこう言ったんだ。」


『じきに王都がここに攻め寄せる。避難せよ!』


「何か必死で恐ろしく強かった。若くはないが剣の才能もあり、ずっと一人で闘っておった。」



 それを聞いてユウキがグライスを見た。


「あの時のお前を思い出すな。だが奴とユウキとの違いは円卓ではなく、そこで撤退したんだよ。」


「なるほど、その女性の特徴は分かる?」


「まずこのグロッサムを相手に単騎で渡り合った。その時点で只者ではないが、身なりは漆黒のローブで身軽であった。

 斬り合った時に腕が露出したが、そこから鎖の絵が見えたのを今でも覚えている。」



 漆黒のローブに身軽で腕には鎖の絵。2つの意味合いを浮かべるが、強さを考慮するとその絵の全体像が見えれば恐らくは・・・


「それは王都の暗部、闇ギルドに関連する人物だ。全体が見えればドクロに切られた鎖が巻きついた絵になるはずだ。

 だがギルドは王国の直営・・やはり王の命令と家臣の間で揺れていた何かがあるね。」



 それを聞いてグライスとグロッサムは驚愕した。国の裏を知るユウキはもはや一般人ではない。


「お前はこの一年で何処まで深く入れたのだ?」


 ユウキは両手を挙げてなんて事は無く答えた。


「ちょっと学園長に気に入られて、担任が騎士団団長で、商業、闇、冒険者ギルド長にコネクションを持って恩を売っただけさ。」


 十分過ぎた。



 よもやこれで獣人三種族と繋がりを持つのだから、国王とて無視できたものではない。


「話を戻すが、その忠告を受けてダルカス大森林でオレ達とグライスは別々の方向に撤退する戦略をとった。

 オークは西の聖都側、ゴブリンは東の帝国側だ。」



 そこはグライスから聞いている。だがこの先に何かがある。


「ねぇ、王都軍は何処まで追撃したの?」



 グロッサムは考えるそぶりを見せると、難しい顔をした。


「追撃は無かった。」


「えっ?グライスとグロッサムが暴れたのはあると思うけど、おかしいよね?

 攻撃を仕掛けた側が討滅戦で追撃なしって。」


「ゴブリン側も同じだ。二手に分かれた事でオーク側に行ったと思っていた。」



 いよいよきな臭くなってきた。


 王都は損害あれど追撃の一切を行わなかった。領外に追い出すにせよ、普通は関所や国境まで追撃を行うはずだ。



 あれこれと意見を交わしていても一進一退であった。そこでユウキはあることを思い出した。


「そうだ。人族の当事者にも話を聞こう!」


 グライスがそれに手を叩くと、ダンゾウに指示を出して出かける準備に取り掛かった。


 グロッサムだけ何のことかサッパリと言った状況であった。それを見たユウキが説明した。



「俺の父さんが元下級騎士で、当時グライスと殺りあったんだ。」



 それを聞いてグロッサムは半ば呆れていた。如何にして6年前に彼等は共存に至ったのか?


 知れば知るほど謎が深まるばかりであった。




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