事の審議
「それじゃ、説明するから一度ゴブリン集落に行こう。」
皆頷くとレクサスはノーデストの方に向き直った。
「独断だが良かったか?」
するとノーデストは苦笑して両手を上げた。
「グライスが居たら全滅だったな。正直あの2人に勝てる気がしない。」
レクサスもそれに同意した。ユウキの復活後からの強さは異常だった。
しかしそれに真っ向からぶつかって良い勝負をしたグライスは、既にレクサスとノーデストを凌駕していると言っても良い。
「全軍よく戦ってくれた!これより事情を伺ってくるゆえ、しばし待たれよ。」
すると東側よりリザードマンの部隊がやってきた。ミドラスの配下たちだ。
ノーデストはそれを確認すると声を張り上げた。
「たった今終戦を迎えた。諸君らは良くやってくれた!もう良いのだ。」
それを聞いて安堵した。そしてリンに対して謝辞を述べた。
「リン殿、貴女様の部隊より受けた施しにより感銘を受けました。心より感謝致します。」
皆の頭に?マークが沢山浮かんでいた。食料を置いて行ったのはリンの部隊の独断だ。
「リン様が勝利してユウキ様が援軍に向かった後、戦意がないとの事でしたので。
遠征だと察してサウスホープから頂いた食料の一部を置いていきました。」
それを聞いてボブが反応した。
「リンは良く教育しているな。敵と言えど戦意無くば当然の事よ。」
レクサスとノーデストを含む主戦場のリザードマン達は、口をあんぐり開けて呆けていた。
だがレクサスが突然槍を放り投げて土下座をした。
「本当にすまなかった!取り返しのつかないことを!」
レクサスの下にある地面に滴が溢れた。それを見たグライスが肩に手を置き許した。
「返らない間違いもある。だが、先に進めば良い。」
力だけで無く、器の大きさでも完全に負けていた。それを確認するとユウキがパン!と手を叩いた。
「よし、手打ちだ。」
皆に?が浮かぶ。前世のしかも小さい島国の習慣など異世界にあるはずもない。
「お終いと言うことだ。詫びるならグライスと詰めてくれ。
この事件の真相を話したいから、高速移動できるネームクラスだけ来てくれ。」
それぞれが頷くと、ボブは各隊に指示を出した。
「ユウキ様、オレとリンは残って戦後処理をします。スズとゾゾは療養で、リザードマンは戦後処理を一緒に手伝って欲しい。」
レクサスは頷くとノーデストに後のことを任せた。
「ノーデスト、部隊をまとめてくれ。」
「承知した。」
こうしてユウキ、グライス、グロッサム、レクサスはグライスの建屋に疾走した。
ーグライス建屋ー
中入るとお茶と座布団が用意されていた。ダンゾウによるものだ。
「長、此度の被害は申し訳ありませんでした。」
ダンゾウが入るなり謝罪すると、グライスは一喝した。
「馬鹿野郎!この程度の被害で済んだのは、お前の知略と情報戦の賜物だろうが!!」
それを聞いてレクサスが同意した。
「見事だったぞ。早期の斥候捕捉と情報撹乱、増援の対応。その全てが厄介極まりなかった。」
敵将にも褒められ、ダンゾウは深く頭を下げて謝辞を述べた。
「レクサス殿の速さとノーデスト殿の強さ、ミドラス殿の耐力は全ての計算が狂いました。」
それを聞いてレクサスは暗い顔をした。
「ミドラスは・・やはりダメだったか?」
それにダンゾウは包み隠さず告げた。
「はい、リンが死の寸前で固有血技に目覚め、500mにも及ぶ地割れと共に亡くなりました。」
「なんと・・グライスの所は異常な強さだな。」
そこで一度話が途切れたので皆が席についた。
「まず今回の矢のことだけど、犯人は北の地の魔族が関与しているとの情報を得た。」
そこで皆がピクリと反応した。
「魔族とな?だが奴らは基本的にこちらには手を出さなかったが。」
「ノーデストに殺されかけた時に得た情報なので確証はない。けど、心当たりがあるんじゃない?」
そこで今回グライスがグロッサムの所に行っていた理由を思い出した。
「まさかあの岩か?グロッサムの所にも不穏なことがあったと聞く。」
「そう、8年前のサウスホープで鉄鉱石混じりの大岩が落ちた事件。グライスは魔法が行使された痕跡を確認したんだよね。」
「あぁ、だからサウスホープ村民を疑って戦力増強した。」
それを確認するとユウキは続けた。
「人族のよる犯行の可能性が薄いゴブリン、オークの所は警戒だけで済んだ。
でも人族の強襲から撤退したゴブリンが滞在しているタイミングで、偶然自分の集落にゴブリンの矢が射られたリザードマンは?
しかも、そのすぐ後に偶然ゴブリン達は別の地に移住したら?」
皆が一様に難しい顔をしていた。ここまで確かに筋が通っているが、何かが欠けている様な感じだ。
そこでユウキは最後のピースに成り得る推測を出した。
「そもそも何故人族は王都に近いとはいえ、ゴブリンとオークの集落を襲ったのか?」
そこで皆の皆が驚愕の表情をした。そしてグライスが叫んだ。
「まさかダルカス大森林の戦いが既に異常事態だったと?!」
ユウキは首を横に振るった。
「推測でしかない。だけどもしー」
そこで首飾りから念話が届いた。
『ユウキ・ブレイク、聞こえるか?』
(誰だ?アリサ達ではない・・緊急事態か?)
声に聞き覚えがない。ユウキはひとまず返事をする事にした。
『貴様は誰だ?なぜ首飾りを持つ?』
一拍置いて返事が来た。
『ダルメシア王国国王、ダルメシア3世だ。』
ユウキは驚愕した。アリサ達は捕らえられたのか?国王が何故首飾りを持っているんだ!?
『国王、その通信に使用しているものはどうしたのですか?』
『なに謁見中だ。一時借りているに過ぎんので安心しろ。』
それを聞いてユウキは一先ず安堵した。




