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生きとし生ける者の思い

 ドドドドド・・


 岩が崩れて静かになりゴブリンとリザードマンが見守る中突如として瓦礫の隙間から真紅の輝きが漏れると、何かが吹き飛んで行った。


 それを追うようにもう一つが飛び出すと、空中で打ち合う激しい打撃音が響き渡った。



 ダダダダダッ!



「なぜオレが居ない時に!オレの家族は!!」


 ユウキはグライスの怒りの声を拳で受け取った。


 グライスが更に魔力を上げる。ユウキも合わせて魔力を引き上げた。



 真紅と青の魔力が高ぶり空の色を変えていき、地はその魔力の大きさに地響きが発生し、空気がビリビリと震える。


 そして2人は同時に動いた。


「なぜだぁぁぁぁ!!」


「全てを受け止めてやる!!」



 ズダァァァァァン!!


 2人の魔力を込めた全力の拳同士がぶつかった。衝撃波で近くの木々が吹き飛び、2人を境に地面が割れた。


 ユウキはグライスを蹴り上げると、返しで脳天に踵落としを見舞った。


 《ダブルドローイング》だ。だが、踵落としに合わせて強力な魔力と圧縮空気を仕込んでいた。


 《烈風華》


 バァァァァァン!!


 打撃点には巨大な真紅の薔薇が咲き誇った。だがここで終わらない。


 下からは《グレイヴ》によって地面が隆起し、グライスは挟み込まれる形になり、グレイブを破壊しながら大きな窪みを作って沈黙した。


 5年前にグライス戦でユウキが最後に見舞った技、《アースシザー》を使った連撃であった。




 ユウキは蹴り下げた姿勢のままグライスを確認した。


 下ではグライスが動いており特段問題はなさそうだが、《ストロング・極》の効果は切れたようだ。



 グライスの元に寄ると、《龍の息吹》を使用した。先ほどより小規模な物だ。


 真紅の魔力が流れていきグライスを包み込むと、グライスは顔に手を当てた。


「ユウキ・・オレは・・オレは・・グウゥゥ・・・」


 誰もがその光景を見守っていた。ネームドクラスの漢が泣いているのだ。



「グライス、死んだ者は帰ってこない。俺にはそれが痛いほど分かるんだ。」


 ユウキの真紅の瞳から一雫の涙がこぼれた。


 そしてグライスの顔を覆った手を握ると続けた。



「残された者も死んだ者も伝えたい事が沢山あって、伝えられなくて・・だからやらなくちゃいけない。」



 ユウキは自分に言い聞かせるように言う。


「この世界から共に哀しみを無くそう。それが分かるグライスは最高の親友だ。」


 グライスは涙が流れるままに立ち上がると、ユウキの手を握り返して固く握り合った。



「共に生を全うするまで応えよう。」



 それを見ていたリザードマンとゴブリン達は自然と跪いていた。


「我等も手伝おう。」


 そう言うのはレクサスだ。彼は2人に歩み寄ると手の上に自分の手を合わせた。



「うーむ、グライスの友よ。何故そこまで人族にありて我等との平穏を望む?」


 ボブオークのグロッサムが問いを発した。


 彼もまたグライスと共に人族に土地を追われ、同胞を失っている。



「俺は過去に悔やんでも悔やみ切れない過ちを犯した。どうしようもない状況だったが、未だに割り切れていない・・」


 ユウキはそう言って空を見上げた。


「思いに種族は関係あるの?」



 グロッサムだけでなく皆が目を見開いた。グライスでさえその過去を知らない。


 グロッサムは「ふっ」と不敵に笑うと近づき、手を添えた。



「オークの総意ではないがこのグロッサム、力の限りを尽くそう。」


 この日、闘争から始まった二つの獣人と、グライスの友オーク族は硬い絆で結ばれるようになった。





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