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智将達の決断

 上空に浮かぶユウキは拡声した声で告げた。


「再度告げる。この闘争は無意味だ、直ちに全軍攻撃を中止せよ。」



 静まったのを確認すると、先を続けた。


「リザードマンは魔族に嵌められた。これらを説明したいから双方円卓に着く事を望む。」


 そう言って右手を前に出すと空気を圧縮しだした。


「どうする?」



 レクサスとノーデストは大穴が空いた場所を確認すると互いに顔を見合わせて頷いた。


 また、リザードマン達はユウキの瞳が龍のそれと気がつくと、畏敬の念を込めて片膝と両手を地に付けてこうべを垂れた。



「全軍攻撃を中止せよ!」


 レクサスは指示を出すとユウキを睨みつけた。


「これで良いのであろう!!」



 ユウキは右手に集めた魔力と空気の塊に、真紅のヴェールを絡ませた。


 激しい真紅の稲妻が轟き、周囲はただそれを見守った。


「な・・なぜだ!われわー」


 ユウキから圧縮した塊が放出され、全軍の中央でそれは炸裂した。



 すると真紅に染まった一陣の風が戦場の隅々まで駆け抜けた。ゴブリン、リザードマン問わず負傷した兵士達はたちまち回復して行く。


 《龍の囁き》


「これは・・暖かい。」


「抱擁されているのか?」


「あぁ・・なんてバカな事を・・」


 兵士たちから口々に感嘆の声が上がる。それは渦となって発生源に集まるように大きな真紅の唸りが上がり、成層圏まで上昇を続けた。



 そしてユウキは首飾りを握りしめると王都で頑張る彼女達に伝えた。


『皆終わったよ・・終戦和解した。』




 ーサウスホープ森林北側ー


「あぁユウキか。もう大丈夫だな。」


 それは家路に着くグライスが《龍の囁き》を見て呟いた言葉だった。彼はもう直ぐ近くまで来ていた。


 隣を歩くオークのグロッサムも立ち昇る渦に見惚れていた。


「アレを作ったのがグライスの言う人族の友か?なんて言うか、甘ちゃんだな。」



 それを聞いてグライスは笑った。


「ガハハハ!違いない。だが、そんな奴だから今まで上手くやって来れた。

 人族の全てがあぁだと違った歴史になっただろうがな・・」



 グロッサムも過去を思い出したのか少し哀愁漂う顔になり、ただ一言漏らした。


「本当にな・・」



 そのまま渦のある方へと歩み続けた。その先には未来へと向かう希望なのか、はたまた嫌気が差す絶望なのか。


 一族を束ねる彼らには、それを確認する必要があった。




 ーダルメシア王国ー


 《龍の囁き》は遠く離れたダルメシア王国でも観測された。子供達はサウスホープ森林の方を指差し、兵士や街ゆく人々も歩みを止めて只々それに魅入っていた。


 そして見た者達は後に言う。何か癒しのような、喧騒を吹き飛ばす優しさの様なものを感じたと。



 外の異変に気が付いた4人が商業ギルドから飛び出してきた。アリサ、レナード、ルイン、ガルドだ。


 その真紅の渦が天高く舞い上がっていくのを見て口を揃えて言った。


「ユウキ・・」



 そしてアリサはガルドに向き直ると、彼に告げた。


「ユウキはやったと思います。王都は今行くべきではありません。平和の礎を見守るように裏で整えられませんか?」


 ガルドは頭では理解していたが、ここまで難色を示し続けていた。


「俺1人ではどうにも・・」


「1人じゃねぇぞ。俺たちもいる。」


 それには王都騎士団団長バルトフェルドと冒険者ギルド長のオーギスが居た。はっきり言うと彼らが揃うのは異例中の異例だった。


「騎士団は王都警護に止めてある。サウスホープの件は俺に一任されているから問題ない。

 住民の安否は確認するが、そこは優秀な部下が居る。」



 オーギスも併せて告げた。


「今獣人関連の依頼で悪質な奴以外は危険という理由でストップしている。だが、抑え込めるのも長くはねぇ。」



 ガルドはそれを聞いて安心した。この街は変わろうとしている。獣人と見れば悪即斬はもう昔の話なのだと実感した。


「これも彼の力の一端なんだろうな。」


 バルトフェルドとオーギスは同意したが、そこでレナードがある事に気がついた。


「あの、ユウキを知るなら渦を見ればわかりますが、獣人とユウキの関係は何処で?」



 するとバルトフェルドが指輪を見せてきた。


「学園長お手製だ。あいつの固有血技で作ったもので通信が出来る。多少出回っててお前らもその首飾りを持っているだろう。」



 すると3人は厳しい目でガルドを睨みつけた。一歩間違えば大惨事になる情報を他者に流していたのだ。


「君達は俺を信頼してくれた。そして信頼する人物に相談しただけたよ。」


「それでも一言言って欲しかったです。」



 ガルドは素直に頭を下げた。


「すまない。王と学園長にも通信は飛んでいるが他はいない。」


「良いです。どの道知る必要のある人物ですので。」


 この件はひとまず保留となった。



 獣人と初めて和平を結んだ村はそれ自体が異常であり、それを維持して尚も更に信頼を得ているのだ。


 切っ掛けを作った青年は、人族の街でもやはり信頼に足る働きを行ってきた。


「俺も動こう。王に謁見は可能か?」


 それにバルトフェルドは頷き、皆で白き巨城へと歩を進めた。



 この歩みは止めてはならない。


 そう示すかのように南の農村方面から優しく力強い渦が、より強く色濃くなっていった。





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