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手引き

 ユウキはピクリとも動かなかった。この時完全に意識を飛ばしていた。


 魔力障壁も封じられ、純粋に爆炎に晒されたのだ。だが生まれつき耐久力の高かったユウキは粉微塵になる事だけは避けられた。


 しかし外傷は酷く各所に火傷を負い、爆風による傷が至るところに発生した。



 それを見たノーデストは呻いた。


「うーむ、なんたる強靭な肉体だ。あれで死んでいなければよもや人では無いぞ。」


「だがやったな!ーはっ!」



 それを言ったところでレクサスは今更気がついた。相手は十代半ばの人族の青年である事に。


 名のある獣人二体と数十体のリザードマンが瀕死の重傷を負ってやっと倒したのだ。



 ユウキは動かない。だがこの異常な強さを持つ人族の生死を確認する必要があった。ノーデストはゆっくりと慎重にユウキの元へと歩み寄った。



 そこで回復したリンが戦場に戻ってきた。


 飛ばされたのがユウキだと気がついたのはすぐ後のことだったが、あの程度で死ぬはずは無いと思っていた。しかし一向に動く気配がない。


 リンは自然と体が動いていた。ユウキの元へと最速で疾走したのだ。


「ユウキ様!!」



 ノーデストは途中でリンが駆け寄って行くのを確認したが、今際の際を無碍にするほど無粋ではなかった。


 リンはユウキの所に辿り着くと、両肩に手をつき声をかけるが返答はない。


「ユウキ様!起きて!おきてぇ・・うぅ・・」


 一向に起きないユウキにリンが抱きつき涙を流した。するとユウキに変化が訪れた。



 ユウキの体から真紅の魔力が漏れ出して全身を覆いだした。それはユウキを守るようにしてしているようで、全身の外傷を癒始めた。



「何だこれは!」


 リンは泣いている事も忘れて周囲を見回すと、片手で魔力を受けるように掌を持ち上げた。


「暖かい。それにとっても優しい・・」



 癒しはリンにも及びリンが回復しきれていない傷を癒して行く。


 ユウキはそこで意識を覚醒させた。むくりと起き上がり自分の体を確認していた。


「本当に何ともない・・それに何だろう、この感じ。」



 そしてユウキはリンを優しく包容し、耳元で優しく囁いた。


「ごめんね、もう大丈夫。」


「ユウキ様!心配しました・・」




 そこでノーデストの驚く顔が見えた。遠くではゴブリンとリザードマンの闘争が続けられている。


 ユウキはノーデストに向かって一言告げた。


「あれはヤバイ、本気で死んだと思ったぞ。」



 口をパクパクさせてノーデストは何も返せなかった。そんなノーデストを尻目にユウキは両手を握り締めると魔力を込めた。


(恐ろしく魔力が上がっている。黒龍のくれた魔力が今になって馴染んだのか。)



 突如としてユウキの周りに突風が吹き荒むと、真紅の瞳に周囲では雷光が瞬いた。


 胸を拘束する炎の楔は健在だ。



「な・・あ・・!何故魔力が!」



 ユウキは胸を縛る炎を見るとそれを掴んだ。


「これか?ここに綻びがあるぞ?」


 パキン!と乾いた音がして無残に砕け散った。



 そしてリンを片腕で抱いたまま魔力を一気に高め、風魔法で上空へ浮かんだ。



 右手を前に突き出すと、高速で風が収縮されて強力な魔力で圧縮していく。


 レクサスとノーデストは只々それを見ているしかなかった。そして魔力で拡声してユウキは告げた。



「おい、全軍直ちに攻撃を中止しろ!」


 だが勧告を聞く者はいなかった。ユウキは右手のそれを誰もいない土地に向かって放った。


 スーッ・・・ズガァァァァン!!バリバリバリ!!


《龍の息吹》


 圧縮された空気は魔力によって膨張され、真紅の雷光が瞬いて円形状のドームを形成し、驚いた鳥や蝙蝠が惑う様に飛んで行いった。


 暫くして落ち着くと、平原の一部が抉り取られて川から水が流れ込んでいる。


 そこには直径2kmの大穴が空いていた。



「これで俺の話は聞けるか?」



 それにリザードマン達は武器を落として応えた。ゴブリン達も呆然として上空のユウキを眺めていた。






 ーユウキの意識ー


(ここはどこだ?)


 ノーデストに吹き飛ばされたユウキが気絶していた時の話である。そして何もない荒野に自分は立っていた。


 そこには光の粒が集まった何かがあった。


「久しいの。」



 声が聞こえた。初老のようなどこか遠い昔に聞いた記憶があるが思い出せない。


「ヌシは特殊な力を一部も使えておらんぞ?もっと深淵を見よ。それは良いとして、ここで終わられては困る。」



 記憶を辿るがやはり思い出せない。そこでユウキはやっと理性が戻ってきた。


「ここは何処でお前は誰だ?」



「誰でも良い。」


 声の主はピシリと言うと言葉を続けた。


「リザードマンは謀略に嵌められた。北の地におる魔族によってな。

 人族は良い方向に行っておるがな。」



 どうやら自分と世界の事を知っている様だ。


 ユウキは大事な何かが抜け落ちたような、手の届かない所が痒い。そんな気持ち悪さがあった。


「魔族?何故獣人を脅かす?理由が分からないな。」



 ユウキの質問に満足したように声が返ってきた。


「うむ、混沌を望む者もおるが、本質はもっと別のところにあると考えた方が良い。」



 それだけ言うと、今の状況を整理してくれた。


「一先ずはリザードマンをどうするかは自由だ。傷はもう癒えているはずだ、龍の血によってな。」



 すると声の主は強烈に発光した。ユウキは眩しくて手で目を隠すと声の主が告げた。


「時間だ。ゆめゆめ神託を忘れるな。」


「待て、まだ話が!」


 そこで光に包まれて再度暗闇に戻った。




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