逆鱗
ノーデストの元にレクサスがやってきた。
「森の後方部隊は沈黙した。こちらも上々なようだな。」
レクサスを一瞥するとノーデストは口角を上げた。
「当たり前よ。この程度でやられては帝国と戦う事も叶わん。・・だが、グライス一座もまた戦士達よ。」
それにレクサスは同意する。自身が戦場に立って戦って分かったが、グライス一座は通常のゴブリン集落とはかけ離れた強さと信念を持っていた。
それは素晴らしい物だと分かるし、羨ましい物でもあった。
「そう言えばミドラスはどうした?」
ノーデストと一緒に来てリンとぶつかった増援の事だ。
「あやつは潜伏していた別働隊とやりあっている。もう直ぐ来る頃だと思うが・・」
その時、戦場のリザードマン部隊が吹き飛んだ。
否、正確には飛来してきた何かが地面に激突して吹き飛んだのだ。
「まだ魔道士がいたか!ーん?人族だと?」
レクサスが叫ぶと飛来した主が声を上げた。
「ボブ、大丈夫か?ゾゾとスズとダンゾウは無事か?」
それはリザードマンを完全に無視した発言であった。そして最初に心配したのはゴブリンの事であった。
「人族がノコノコと何しに来た!王国の者か?」
それを無視してボブと会話を続ける。
「ユウキ様・・ゾゾとスズは恐らくそこのレクサスに・・ダンゾウは総司令で前線におりませぬ。」
それを聞いてボブにポーチから薬品を飲ませた。するとある程度のダメージは回復したようである。
「ゾゾとスズにも直ぐにこれを飲ませるんだ。」
そう言って近くにいたゴブリンに薬品を渡した。もう一度言おう。リザードマンを完全無視である。
「貴様!俺を愚弄するか!」
「うるさい黙れ。」
ユウキは黒い瞳のまま、レクサスを睨みつけた。
だが魔力を解放していないのでレクサスには魔力のない人族が珍入してきたと捉えていた。
「ゴブリンの矢如きで何故ここまでした?謀略の意図は感じなかったのか?
グライス達がそう言うことをしないと、何故思わなかった?」
レクサスは面食らった。何故人族の青年が矢のことを知っている?
「本当に貴様は何者だ?何故知っている?」
「俺はゴブリンの友であり、グライスと深い友情を結ぶ者だ。矢のことはお前らの別働隊から聞いた。」
それまで静観していたノーデストが突然地面を踏みつけた。
「聞いただと!ミドラスはどうしたと言うのだ!まさか貴様が・・いや魔力もない奴に負ける程弱者ではない。」
ユウキは呆れていた。どこも彼処も魔力魔力と鬱陶しい。魔力しか見ないから、話し合いも出来ないんだ。
「魔力は関係ないだろう。リザードマンならリンが死闘の末に勝利した。」
するとゴブリン勢から感嘆の声が上がった。
「おぉ、リン様が!」
だがリザードマンは納得しない。
当然だが、ミドラスは敵が強ければ自滅に追い込む能力なのだから、倒す方法が通常は思いつかない。
「ミドラスが?馬鹿な・・そんな虚言に惑わされるか!!」
するとレクサスは槍を突き立て全軍に発令した。
「リザードの戦士よ!大義と優位は我等にあり!そこの人族諸共森を一掃せよ!!」
「「オオオオオオオォォ!!」」
凄まじい気概と共に攻撃を開始した直後のことだった。
ダァァァァン!!ゴゴゴゴゴ!!
ユウキが力一杯地面を踏みつけると、蜘蛛の巣状に亀裂が生じて大地が揺れる。
それに足を取られてリザードマン達はタタラを踏んだ。
一括。
「話はまだ終わってねぇよ。」
それまでなるべく静観していたノーデストが動いた。
体格に似合わず俊敏に動くと、ユウキに急接近した。そのまま手を前に出すと強烈に発光する。
ピカピカ・・ズガァァァァン!!
凄まじい黒煙を上げて皆が沈黙した。
「御託が過ぎるぞグライスの友の人族よ。よもや聴こえる肉体は無いだろうがな。」
すると黒煙を見ていたノーデストに、真紅の眼光が二つ輝いているのが見えた。
ゾクッ!
ノーデストは今まで感じたことのない恐怖を感じた。心臓を鷲掴みにされた様に硬直して動けない。
「アッ・・なん・・・?」
チリチリと音を当てて雷光が瞬いた瞬間、煙の中でノーデストは喉首を掴まれた。
その瞬間、爆心地を中心に空気が渦巻き黒煙を全て消し飛ばされて2人が露わになった。
「固有血技か?稚拙だな。残念ながらお前より爆炎の扱いに長けた人物を知っているぞ。」
未だかつてコンタクト・バーストを無傷で防がれた事はなかった。
それを知っているリザードマン達は驚愕の表情をしていた。
「ボブをやったのはお前だな。」
ノーデストは喉を押さえられていて答えられない。
「アガッ」
ユウキは倒れたままのボブを一瞥すると、真紅の瞳でノーデストを睨みつけて殺気を込めると告げた。
「死ぬ準備はいいか?浅薄な爬虫類共が。」