死の旋風《デスゲイル》
リンはミドラスを殴った直後に吐血した。
(意味がわからない・・あいつは何もしてない。)
ダメージは深刻だった。
ストロングは強靭な肉体強化を行う。しかしそれさえも無視したダメージをリンは負っていた。
対してミドラスも血を吐きながら起き上がり、ニヤリと笑いながらリンに告げた。
「ゲホッ、何て力だい。でも効いただろう?」
リンには理解できなかった。
この状態で物理的なダメージを負ったのは、グライスとストロング同士の稽古をした時だけだ。
リンはそこに活路が有るかもしれないと考え、ミドラスに聞いてみた。
「あなたもストロングを使えるの?あたしにダメージを負わせるなんてそれ位じゃないと・・」
ミドラスはニヤニヤを崩さず、隠そうともせずに答えた。
「残念ハズレ。私のダメージを貴方に反射しただけよ。固有血技の《ソーンスキン》よ。」
(ちっ・・ちょっと厳しいな。)
そこで後方にいたゴブリンが寄るとリンにヒールをかけた。
「ありがとう助かるわ。でも危ないから下がってて。」
それだけ言うとリンは精神統一した。ユウキが開発したストロングはもう一つある。
「はあぁぁぁぁぁぁ!!アッー!!!」
リンから強烈な殺意が周囲を覆い、突風が辺りにいたリザードマンをなぎ倒した。
《ストロング・極》
ストロングが欠陥なのは、産み出す魔力が最大で吸収が最小だからだ。
真・ストロングは吸収量をそのままに、産出量を減らしているため長期間使用できる。
そしてこのストロング・極は、産出量と吸収量を最大値にまで引き上げるため、短期決戦用に置かれた。
「あたしが骨の一片も残らず蹴散らしてやる。」
「はっ!小鬼如きが自分の攻撃で死ね!」
ミドラスは防御壁を張り槍を構えると、防御姿勢をとった。
《ソーンスキン》は防御した分も含んで反射する。つまり守備が高ければ相手は自滅する。
リンはバンッと地面を勢いよく蹴ると、ミドラスの後方からバックスイングを放ち吹き飛ばした。
ベキャッと嫌な音を響くと、リンは思いっきり地面を踏みつけて地割れを発生させた。
ユウキの得意技の一つ《アーススパイク》だ。だが規模が凄まじい。
リンはダッシュすると、吹き飛ばされたミドラスの頭を掴み地面に叩きつけながらスパイクに向かって投げつけた。
グサグサ・・
ミドラスは串刺しになり、リンが吐血して倒れた。
辺りは静まりかえり、皆双方を見ていた。
そして先に起き上がったのは、ミドラスだった。
「・・あはは、ははははは!防御壁でスパイクが塞がなかったら死んでたね!」
よく見るとアーススパイクはギリギリで塞き止められていた。
ミドラスはリンに駆け寄ると足で転がし、仰向けにさせて腹を踏みつけた。
「げふっ」
「私の耐力を誤ったね。さっきのはヤバかったけど、もう仕舞いだねぇ。」
薄れゆく意識の中、リンは最愛の人を思い浮かべていた。
(あぁ、ユウキ様・・あなたのグライス様との武勇は伺いました。あたしはそうなれないのかな・・)
『リンは俺の後を追え』
ユウキの言葉が頭に響いた。
(そうだ、成れないんじゃ・・ない・・)
「成るんだ・・あたしもユウキ様のように!!」
ブワッと突風が舞い踊った。
そしてリンは自分の腹に置かれたミドラスの脚を掴み、砕いた。
バキボキ!
「ぎぃやぁぁぁぁ!!」
リンはそのまま起き上がると、一陣の風が戦場を駆け抜けた。
緩りと流れる風が辺り一体を舐め尽くす。それを浴びた敵は自分の喉元を掴まれるような感覚に陥った。
オオオオオオオォォ・・・
ストロングを極めた先に辿り着いたリンの境地。
固有血技、《デスゲイル》に目覚めた瞬間であった。
「よくも私の足を!この小娘が!」
ブチ切れたミドラスがリンの変化に気付かない。
いや、本能が危険過ぎると判断すると見えなくなる。それに近い状態であった。
「オバさん、うるさいから黙っててくれない?」
すると周りに流れた風がリンの右腕に収束されていく。
ァァァアアア!!と奇声を上げながらミドラスは槍をリンに向けて投擲した。
が、それがリンに届くことはなかった。
リンの手前で圧縮された風に押し留められた。静かに近づくとリンは妖艶に舌舐めずりをした後、一気に右腕をミドラスに打ち付けた。
ズガガガガン!ビシビシビシッ!!
強烈な一撃が地を裂き、蜘蛛の巣状に巨大な亀裂を発生させた。
それは余りにも巨大で直径500mにも及んだ。
着弾点のミドラスは跡形もなく砕け散っていた。
ソーンスキンの反射は時差があり、死後にまで適用されなかった。つまり反射する前に殺してしまったのだ。
そして周囲に死の旋風を漂わせると、リンは上から見下げるようにニヤリと告げた。
「まだあたしにオイタされたい子はいるかしら?」
恐怖、恍惚とした表情のリンに対してリザードマンはこれ以外の感情を失った。
方々一斉に槍を投げ捨てて跪き、リンに向かって告げた。
「「我等の敗北にございます!」」
そこで「ふっ」と笑うとリンは力尽きて後ろ向きにに倒れた。
ぽす。
リンの身体は倒れる前に何者かに支えられ、薄れる意識の中でその顔を見た。
最愛の人、ユウキ・ブレイクであった。
「リン、もう大丈夫。凄く強くなったね。」
それを聞いて胸がドキドキした。
先程の自分を見てくれていたこと、ここに来てくれたこと。色んなことが嬉しくて嬉しくて仕方が無かった。
「わぁ、ユウキ様来てくれたんだ・・やっぱり大好き・・」
抱き留められるリンはとても幸せそうな顔で眠りについた。