点と点
ーゴブリン司令室ー
グライスの建屋でダンゾウは情報を整理していた。今ある情報は余りに少ない。
敵の大将はレクサス、部隊は先の戦いで2万の兵が残っていればいい所で、本人の能力や強さは不明。
増援はノーデスト率いる部隊、凡そ1万。多くは無いが精鋭だと思われる。
こちらはボブ隊2万、ゾゾ隊1万5千、リン隊2万、スズ隊5千の総勢6万。
数では優位で守備力も高い。
しかし初陣は雑兵が多かったと言うのが本音である。ソリッドフィールドも完全では無い。
「増援の1万が精鋭だとしても少ないな。別働が居るか?王都の動きも気になる・・漁夫の利を突かれたら厳しい。」
作戦室に居るダンゾウの声だけが響く。増援隊とリン隊が接触するのは時間の問題だ。
もうじき夜明けが訪れる。リン隊に援軍を投げかけても良いが、別働がいた場合は本陣が丸裸になる。
そこへボブがやってきた。
「難しい顔をしているな。」
「あぁ、難しい局面だ。主らはこのまま森の防衛に当たってくれ。リンを信じよう。」
ボブは頷きダンゾウを安心させるように応えた。
「俺が出れば集落に被害は出まい。リンが来るまで持ちこたえてみせるさ。」
それだけ言うと、ボブは交代で寝ている自分の部隊を起こしに向かった。
1人残ったダンゾウは不敵に笑う。
「我輩の心配しすぎか。」
こうして夜明け前までにゴブリンは部隊を再度集結させた。
彼らは1人1人が思っていた。今までの生活を守りたいと。それくらいにゴブリンとサウスホープは親密な関係になっていたのだ。
ーリザードマン本陣ー
レクサスは丘から森の方を眺めていた。
「なぜ、人を背に向けて戦えるのだ?
なぜ、人の村の近くであれ程の集落を争いもなく暮らしていけたのだ?
なぜ、あれ程の個体を維持する食料を確保できた?」
レクサスの疑問の嵐は尽きない。
交流を持たない獣人は基本的に人族に対して個体数で負ける。故に今まで幾度となく人に領地を追われていたのだ。
「この矢の意味は何だ?戦友は無駄死にだったのか・・?
いや、平穏を先に崩したのは奴らだ。これは間違いない。」
だが引っ掛かっていた。何故かゴブリンが正しく、自分たちが間違っている。そんなような気にさせられるのだ。
レクサスは拳を握りしめた。
「あいつは家族思いだった。あいつは部下を顧みない事もあったが、普段は出来の悪い部下を陰ながら支援していた。」
他にも沢山の戦死者がいる。
レクサスはもう引けなくなっていた。リザードマンの平穏が脅かされるのであれば先に矛を取るしかなかった。
「シャァァァァァァァ!!居るのだろう、密偵!
次は決戦だ。人族に手を出さんから全力でかかって来いと伝えよ!!」
ガサッ
音のした方を振り向きもせず、レクサスは東の魔力の渦を一瞥すると天幕へ戻っていった。
リザードマンもリザードマンで、このままではいつ本拠地が攻められるか気が気でなかった。
上層部の老人どもは気にしていなかったが、若いリザードマンが心配していたのだ。
それを汲み取る。彼はそう言った漢であった。
ー王都騎士団団長執務室ー
「バルトフェルド団長、耳に入れたい事が。」
そう言う彼女は副団長のメアリー・カイサルである。実力とカリスマ性でここまで上り詰めた生粋の軍人である。
「珍しいな、どうした?」
彼女は軍令を崩さず報告する。
「南のサウスホープ周辺で獣人同士の争いがあったと報告が上がりました。」
それを聞いてバルトフェルドは眉をしかめた。
「獣人同士の?珍しいな。と言うか初めてじゃないか?」
それにメアリーが同意する。そして団長の意向を確認しに来たのだ。
「俺たちの出る幕じゃないな。だがサウスホープの住民はどうしている?何処から情報が上がった?」
それに回りを確認するとメアリーは告げた。
「匿名の手紙で不明ですが、恐らくあのギルドかと。ドクロに切られた鎖が巻かれたマークがありました。
サウスホープは今の所情報がありませんし、村からの受け入れ要請も・・」
「ふむ、あの村は大丈夫な気もするが、俺の方で対応する。騎士団は王都の警護を普段より厳重にしてくれ。」
メアリーは跪き一声挨拶するとその場を去った。
「何が起きている?サウスホープか・・そっちが気にかかるな。」
一抹の不安を胸に、バルトフェルドは今後の対策を練るのであった。