サウスホープの意向
ーサウスホープー
長閑な農村の村長宅に1人の男がやってきた。
コンコン
扉をノックする音に村長が腰を上げた。孫でユウキ達の友人ガラスは別の農村に研修に行っている。
扉を開けるとその出で立ちに不審な空気を感じた。
「珍しいな。火急の用かい?」
村長は一目でゴブリンだと見抜き、あえてその部分には触れずに問いかけた。
「森林にリザードマンが接近して、本日平原にて戦争となりました。まだ戦は続くことが想定されますので、万が一は避難も視野に入れて頂きたい。」
それを聞いて村長は目を丸くした。
獣人同士の争いは聞いたことがなかった。更に大規模な戦争が起きたのに、距離があるとは言え気が付かなかったのだ。
「承知した。まだ協定の要請ではないと考えて良いか?」
協定の要請とは、人鬼会合で取り決められた『他部族からの侵略に対する相互支援の要請』である。
「人族はまだ動くべきではありません。間も無く王都にも知られるでしょうが、今ゴブリンに加担するのは村が危険と判断しております。」
「うむ、人的被害が及ばないよう準備する。情報の提供に感謝する。そちらの被害が最小限になる事を祈っておるよ。」
それを聞いて使者は深々と頭を下げた。
「サウスホープ村民の安寧を崩し申し訳ない。激励の言葉、しかと賜りました。」
それだけ言うと、使者は即座に村長宅を後にした。
「忙しくなるな。まずはボストン君の所に行くとしよう。」
村長はユウキの実家、ブレイク家を訪ねた。距離はさして離れておらず直ぐに家に辿り着く。
「おーい、ボストン君はおるかの?」
すると庭の方から声がかかった。
「村長、こちらにおります。」
ボストンは庭で剣の鍛錬を行なっていた。退役後もユウキに指導しつつ自分の鍛錬を欠かした事は一度もない。
「ボストン君や先程使いの者が来ての、森で闘争があったそうじゃ。
リザードマンとゴブリンが戦っており、わしらに避難も視野に入れて欲しいと要請があった。」
それを聞いてボストンは驚いた。
「何ですって?では共闘の要請はなかったのですね。直ぐに組の人を集めて退避する場所と方法を打ち合わせましょう。」
即座に対策が立てられる。やはり彼は頼りになると村長は感じていた。
それから村長の家に組の人間が集められ、会議が行われた。
「では、緊急時は必要最低限の荷物を持ち、西のガラスが世話になっているダハーカに行くとしよう。」
村長は決まった事を取りまとめると、直ぐにガラスが行っているダハーカと言う農村に手紙を出した。
王都案も出たが、人数が多くて急な受け入れが滞る心配があった。
それに察知していれば王都側から通達があるが、それがまだ無い。
「取り敢えず、今はまだこのまま村に滞在する方向で行く。
昨年の備蓄をゴブリンに渡したいが、危険を伴うので要請もしくは終戦後とする。」
彼らもまたゴブリンを大切にしていた。村民ができる事をやろうと言うことで、この会議は幕を閉じた。
第2幕が始まる前日のことであった。




