不穏な空気
ーゴブリン集落ー
ゴブリン達はその日勝利に湧いて豪勢な食事を摂ったのちに、束の間の休息を取っていた。
夜も更けるころ、諜報部隊からリザードマンの本陣にまだ動きがない事を知らされる。
ボブはその静けさが妙に気になった。胸騒ぎに近い何かを本能が感じ取っていたのだ。
「静かだな。ところでリンはどうした?」
声を掛けられたのはダンゾウである。彼は全ての情報を統括している。
「リンは別働で動いている。最初の進軍が脆弱だったことと、奴らの本拠地に動きがあったと連絡があった。」
それは初耳であった。
もし初戦が敗退、もしくは苦戦を強いられたら負けが確定していたようなものだ。
「ふむ、今はまだ動かなくても大丈夫か?」
それを聞いて神妙な顔つきになった。
「難しい所だ。敵の戦力がまだ把握できていない。リンならある程度は対処できると思うが、一応諜報隊から2体出している。」
暫し考えた後、ボブは考えても仕方がないと言う事に行き着き、ダンゾウに告げた。
「オレは少し休む、ユウキ様とグライス様はどうだ?」
「連絡はまだない。ユウキ様は多忙であるし、王都の奥に入っているので難易度が高いのでな。それと伝言の内容も少し変えるように指示した。
グライス様は距離があるから自然と時間がかかる。一先ずはゆるりと休むが良い。」
この翌日はユウキと諜報隊が接触し、リザードマン本隊が到着する日のことであった。
ーサウスホープ森林の東ー
ボブ達が凱旋を行い本営が賑やかだった頃、森の東では日が落ち掛け諜報隊が戻ってきた。
「リン様、帝国方面からリザードマンの大部隊を視認しました。ノーデストが指揮を取っているようです。」
ノーデスト、リザードマンで古くからその名を爆ぜる名将だ。彼が戦場に立てば全てが灰と化し何も残らないとまで言われている。
「厄介だわ。即座にダンゾウへ報告を、もう一体はあたしの所に残って頂戴。」
諜報隊は軍令をすると、即座に移動を開始した。
森を抜ける風に、リンのツインテールが揺れる。
風に砂が混じっているように感じていたが、これは遠くの行軍で巻き上げられているせいだ。
「嫌な風だわ、数も多そうね。
全軍!敵の増援を確認した!明日に会敵すると思われる、今は休息を取り士気を養え!!」
「オオォォォォ!!」
リン隊は基本的に士気が高い。
単純にリンが可愛いから男共がリンを守ろうと躍起になっているだけだが、彼女自身はそんな事には気が付かない。
今はただ静かに気配を消し、敵が来るのを待つのみである。