勝利の凱旋
「全軍、一時撤退せよ!」
ドドン!ドドン!ドドン!
リザードマンから撤退の太鼓が鳴らされる。
ボブ隊から少し離れた所で突然竜巻が発生した。リザードマンは撤退で懸命に走っていたため、気付くのに遅れる。
ズオォォォ!!
3個の竜巻は一つになり、巨大な竜巻を形成して大きくリザードマン達を飲み込んでいく。
スズの魔法部隊が森から追撃を仕掛けたのだ。
「風を逆に流せ!」
リザードマンの待機していた魔導師部隊が竜巻を消しにかかった。
程なくしてリザードマンの魔導師部隊の成果もあり竜巻が消え失せると、満身創痍と言った様子で起き上がれる者は立ち、自陣へ向けて歩き出す。
「守備の時間は終わりだ!偃月のまま突進し森へ帰還せよ!!」
オオオオオオオ!!
ボブ隊が守備を解き、∧型の陣のままにリザードマンへ襲いかかった。
「ひ!わぁああああ!逃げろー!」
兵士の1人が大きく声を張り上げた。それに釣られるように皆戦意を喪失させて逃げ惑う。
「くそ!誰だ今のは!」
ダンゾウがリザードマンに紛れ込み、不安を煽るように言ったのだ。
リザードマンは陣など御構い無しに、只々自陣へ向けて逃げ出した。
それを見たボブ隊はボブリザードを見つけると、巻き込むようにして大きく弧を描き、森へと撤退していく。
ボブリザードマンは戦場に当初五体いたが、残り一体にまで数を減らしていた。
初戦は完全にリザードマンの敗北である。
森へと帰還したボブ隊は歓声の渦に巻き込まれた。
ボブは盾を上に掲げると、それに答えるように勝鬨を挙げた。
「ガァァァァァァ!!先ずは我々の勝利である!
皆の強さはこれで証明された。後は蜥蜴を踏み潰すのみである!!」
ワァァァァァ!!
ボブ隊、ゾゾ隊、スズ隊は皆で勝鬨を挙げた。
初戦はゴブリンの勝利で幕を引き、ゴブリンもダンゾウ隊を残して集落に帰還する事にした。
そして司令のあるグライス建屋に向かうと、ダンゾウが珍しく笑みを浮かべていた。
「ボブ、ゾゾ、スズ、素晴らしかったぞ。」
それを聞いてボブはダンゾウにふっと笑った。
「主も見事な撹乱であった。蜥蜴どもは蜘蛛の子を散らすように逃げていったぞ。」
暫しゴブリンの集落は歓喜に沸いていた。まだこれは序章であるのだが、彼らはまだ知らない。
しかし今は休息をとる事か大事であった。
ーリザードマン陣地ー
「大変申し訳ありません。とんだ失態を・・」
リザードマン大将レクサスは報告を聞いていた。
「敵の守備隊における防御壁は槍を通さず、突貫にも動じませんでした。また弓隊と魔導師部隊がおり矢に風を纏わせております。」
静かに聞いていたレクサスは、ただ一言述べた。
「御苦労。しかと兵士を休ませろ。」
これにボブリザードは面食らった。最悪はこの首が飛ぶことも覚悟していたようだ。
「何を呆けておる。敵の戦力把握が甘かったのは貴様の責任ではない。
むしろ戦力を炙り出して帰還したことは喜ばしいことだ。」
それを聞いてボブリザードは感無量となり、涙を流す。
「次こそはあの鬼どもを駆逐してご覧に入れます!」
「うむ、しかしもう暫し動けん。もうすぐ到着するはずだから貴様らは休め。」
ボブリザードは熟孝したのち、ある事に思い至った。東の本土に居るリザードマン達のことを。
「もしやあの方達が到着されるので?」
レクサスはニヤリと笑い頷いた。
「そうだ。ノーデスト達が到着すればあんな防御壁意味を成さん。」
「おお!では我々は仰せの通りに!」
こうしてボブリザードは天幕を後にした。
「しかしグライスが居ないのに、彼奴らの部隊まで必要になるとはな。鬼どももやりおるわ。」
彼のつぶやきは誰にも聞こえなかった。
レクサスは静かになった天幕で次の作戦を考える事に没頭した。