背を預ける相棒
ユウキは不審に思い、路地裏に行き紙を確認した。
そこには他人が読んでも差し支えない内容で、驚愕の事態が示されていた。
“サウスホープ森林に危機。
トカゲの大群が森林を食い荒らし、長は他領地にて旧友に会いて群は壊滅の兆し有り。
五体の叡智を持ってしても危ぶまれる。”
ザワッとした感触がユウキの背中を駆け抜けた。
サウスホープ森林は、ゴブリン集落を指す。
トカゲの大群は恐らく獣人リザードマンだ。グライスは不在で残る族長5体では太刀打ちできる戦力にない事を示唆していた。
だがしかし、ここで自分が出て行って良いものなのかユウキは悩んでいた。
大々的な戦闘となれば人の目につく。
そこに参戦したら必ず王都に知られることとなる。そうしたらユウキは人族の輪から外れる可能性があった。
(どうすれば・・どの程度の規模でどの程度の危機かこれだけじゃ・・・)
ユウキは首飾りに手を当ててアリサに告げた。
『アリサ、リザードマンがサウスホープ森林に攻めてきたとの情報が入った。』
すぐに返事が来る。
『何ですって!?危機的状況なの?』
アリサもユウキが考えている事を聞いてきた。
『分からない。手紙には壊滅の兆し有りと書いてあるから危ないとは思う。』
『ユウキ・・冷静だけど、もしかして悩んでいる?』
『・・・分からない。分からないんだアリサ。皆を守りたい気持ちと、ゴブリンを守りたい気持ちのどちらも大切で・・』
『はぁ〜、ユウキは考え過ぎよ。それに貴方は1人で戦うつもりなの?だとしたら大馬鹿者よ。』
すると一部始終を聞いていたレナードが会話に入ってきた。
『こっちの方は僕たちに任せて、行っておいで。』
『だけど、もし俺の行動で周りの人間が拘束されたら?もし、サウスホープが焼き払われたら?』
『君の気持ちは分かるよ。僕もドールガルス城塞都市の民と城塞どちらが大切かずっと悩んでいたからね。』
レナードが言うのは市民を護るか、王都を守る砦を守るか、同じ守るでも意味が違う。
『でも今は余り心配していない。』
『なぜ?それは大切な者だろう。』
『分からないかい?ユウキとアリサ、君達に出会った試験の日から無くなったんだ。』
『だってね、1人じゃ無理でも背中を預ける相棒が出来たから。』
『・・・ありがとう。俺はどうかしていた。
アリサとレナードはガルドさんに相談してくれ。裏方で動いてもらうように呼びかけるんだ。』
『ふふ、らしくなってきたわね!』
『了解!王都側は抑え込めるか分からないけどやってみる。ガルドさんには何処まで?』
『全部だ。彼を信用する。今から手紙をギルドの受付に渡して、レナード達が来る事を伝えてから向かう。
それとルインに渡すものをギルドに預けるから、同行させてくれ。』
そう言いながらユウキはナックルを装備して自前で風を纏い、全速力で商業ギルドに疾走した。
ものの数秒でギルドに着いてドアを勢いよく開けると、受付嬢のサニーさんに手紙と首飾りを出した。
「サニーさんにユウキです。ガルドさんにこの後面会希望です。
それとガルドさんに手紙を渡して、首飾りはルインに渡すように言ってください。」
一気にまくし立てるが流石は商業ギルドの受付嬢。一言一句記憶していた。
笑顔で「はい、ガルドに伝えておきます。」とだけ答えた。
それを笑顔で頷くと、入ってきた扉から勢いよく出ると、真剣な顔になり風の補助を受けて一気に跳躍した。
そのまま屋根を蹴って飛びながら城壁を飛び越え、南にあるサウスホープに向けて飛んで行った。