基礎鍛錬
家に帰ると昼下がりであった。
「「ただいまー!」」
親子揃って母(妻)に帰宅を告げる。
奥から出てきたリースは少し忙しそうだ。
「あらお帰りなさい。今ちょっと手が離せなくて・・・」
「お母さん手伝おうか?」
ユウキが聞くとリースが慌てたように返す。
「ダメダメ!あなたは主役なんだから!
後で呼ぶからお外で遊んでらっしゃい。」
忙しいのは誕生会の準備だったようだ。
ボストンは自室から出てくると、鞘に入った二本のショートソードを背負ってきた。
「それなら丁度いい。一緒に庭に出よう。」
庭に出た2人は椅子に腰かけた。
「ユウキ、村長の家で言ったようにこれから12歳まで鍛錬と警護仕事を手伝ってもらう。」
「うん、聞いていたよ。」
「勝手に決めて恨んでいないか・・?
昔な・・俺には力が足りず守れなかったモノがある。あの辛さはユウキには味わって欲しくない。」
それを聞いてユウキは胸が締め付けられた。
「ぼく・・・は・・お父さん、教えて。
助けた方が死んじゃったら、助けられた人はどんな・・・きもち・・?」
ユウキは瞳から流れる涙もそのままに、真っ直ぐ父を見る。
完全に予想外だった。しかし何年も自問自答した内容と同じだった。
「優し過ぎれば辛い思いをすると思う。
だがな、2人とも過去を悔やんでも帰らない。」
そして両手を広げて空を見ながら、父は宣言するように言う。
「未来の為に自分も含めて守りきれる力を求めれば良い!」
ユウキは目指す方向に間違いがないと確信した。
そしてジアスでの父がこの人で良かったと心の底から感じた。
故に出てくる答えは一つ。
「お父さん・・・最高にカッコいいよ・・!」
それを聞いて満足したボストンはユウキをみた。
(ん?ユウキの髪が少し赤いような・・気のせいか)
「さて毎日やる基礎鍛錬にこいつを使う。」
そう言うとショートソードを出して、ユウキに手渡した。
「重たいか?」
受け取ったユウキは剣の重さに驚いた。
前世を含めて鋼鉄製の剣など持ったこともない。
農具と違って重心が先端に無いため、遠心力も上手く扱えない。
「何これ難しい・・上手く振れない。」
「身体の重心をもっと低くして、脇を締めるんだ。」
言われた通りにすると、剣との一体感を感じた。
そして上段に構えて一気に振り下ろした。
ヒュン!ガキン!!
見事に地面に刺さった。
(うーん、早く動けないし合わないかも。)
それから基礎的な動きなどを教わり、毎日素振り1000本を約束させられた。
程なくして、リースの声が聞こえてきた。
「2人とも〜!出来たわよ!」
そう言うリースは腰に手を当て、やり遂げだ表情をしている。
「「いま行く(よー)!」」
2人は声を揃えて言うと、ショートソードを鞘に収めリースの元へ向かった。
居間に入ったユウキは驚いた。
麦で作られた装飾用のリースは物凄く綺麗だった。
それが所々にあり、ハートの葉を付けた芋づるが部屋を一周している。
そしてテーブルにはパンケーキである。
材料は全てこの土地の物を使っている。
「こんな・・すごい。 凄い!凄い!!
お母さん大好き!」
こうして親子団欒でユウキの誕生会を終えた。
ユウキは最高の幸せを感じていた。
この後はお父さんの畑仕事を手伝い、1日を終えた。
その日の晩、寝床についたユウキは声に気がついた。
父と母の声である。
「あの子には12歳から王都学園に行ってもらおうと思う。」
「岩の話を聞いてそうなる気がしたわ。でもお金をどうしたら・・」
「畑仕事の一部をユウキに任せようと思う。その間に俺は数日不定期に家を空ける。」
「それは・・危険はないのよね?」
「ない仕事を選ぶつもりだ。リースは家とユウキを頼む。帰れる場所を守ってくれ。」
「分かったわ。」
それを聞いたユウキは、そっと瞼を閉じ早めに就寝した。